梁(はり)の曲げに関して最も基本となる、たわみ曲線の微分方程式の導出過程を解説します。
たわみ曲線の微分方程式は、曲げモーメント$M$とはりのたわみ曲線 $v(x)$ の関係を表したものです。
このこの方程式を計算することで、梁のたわみ曲線を計算できます。
オイラー・ベルヌーイの仮定
まずは、梁の曲げについて前提となる知識と仮定について解説します。
「梁(はり)」とは?
そもそも、梁とはどんな部材のことを言うのでしょうか?
材料力学では、軸線に対し垂直な荷重を受ける棒状の部材を「梁(はり)」と呼びます。
似たものに棒と呼ばれる部材がありますが、くわしくはこちらで解説しています。
梁に荷重が作用すると、梁はたわみ(撓み)ます。
また、このとき、梁の内部には曲げ応力と呼ばれる垂直応力が発生します。
オイラー・ベルヌーイの仮定とは?
具体例について考えます。次のように梁に荷重をかけた状況を考えます。
また、材料力学では、梁の曲げに関して次のような重要な仮定をします。
この仮定をオイラー・ベルヌーイの仮定といいます。
図では $\RM{CAE}, \RM{DBF}$ が横断面に当たります。
オイラー・ベルヌーイの仮定より、これらの横断面が常に軸線に対して直交すると考えることができます。
※ オイラー・ベルヌーイの仮定は、はりの曲げが小さい場合に成り立ちます。
中立面とは?
最後に中立面について解説します。
先程の図から、はりが曲がっているとき、$\RM{CD}$側は縮み、$\RM{EF}$ 側は伸びていることが分かります。
片方が縮み、もう片方が伸びているということは、その間のどこかに伸びも縮みもしていない面があるはずです。
このように、伸縮しない面を中立面と呼びます。
今の場合、軸線上にある $\RM{AB}$ が中立面に相当します。
※ 軸線と中立面が一致することを後ほど示します。
ひずみ・曲げ応力の計算
梁のひずみ
それでは、梁のひずみについて計算していきます。
今、梁が曲率半径 $R$ の円弧状に沿って、中立面$\RM{AB}$ が変形していると仮定します。
$\RM{AB}$ は中立面のため、変形後も長さは $\diff x$ のままであることがポイントになります。
なお、曲率半径を使って、$\diff x = R \diff \phi$ とできることも後ほど利用します。
さて、$\RM{AB}$ から $s$ だけ離れた $\RM{EF}$ でのひずみ $\varepsilon_x$ について考えると、
\begin{eqnarray}
\varepsilon_x &=& \ff{(R+s)\diff \phi \,-\, \diff x}{\diff x} \\[6pt]
&=& \ff{(R+s)\diff \phi \,-\, R\,\diff \phi}{R\,\diff \phi} \\
&=& \ff{s}{R} \EE
\end{eqnarray}
とでき、
また、縦方向下向きに $y$ 軸を取っても、縦方向のある位置 $y$ での $x$ 軸方向のひずみ $\varepsilon_x$ は、
\begin{eqnarray}
\varepsilon_x &=& \ff{y}{R} \EE
\end{eqnarray}
とも表せます。
曲げ応力の計算
次に、梁に作用する曲げ応力について考えます。
梁に作用する曲げ応力 $\sigma_x$ はフックの法則より、次のように表せます。
となります。
式(1)より、梁内部での曲げ応力の分布は図のように表せることが分かります。
ポイントは、中立面 $\RM{AB}$ より上側では圧縮応力が働き、下側では引張応力が働いていることです。
そして、はりの表面で曲げ応力が最大になることが分かります。
断面二次モーメントの導入
曲げ応力は曲率半径による表式ではなく、断面二次モーメントによる表式の方が便利です。
そのため、断面二次モーメントによる曲げ応力の表式の導出過程を解説します。
中立面が軸線と一致することの証明
手始めに、中立面が軸線と一致することを証明します。
この証明には、梁が $x$ 軸方向に並進運動していないことを利用します。
また、中立面より上での力の合計を $P_1$、下での力の合計を $P_2$ とします。
曲げ応力を $\sigma_x$ として、その位置の奥行方向の長さを掛けた、微小な面積$\diff A$を$\sigma_x$ に掛けると力を求められます。
そして、$\sigma_x \, \diff A$ を積分することで横断面全体に作用する力を求められます。
つまり、中立面の上下に働く力$P_1, P_2$は次のように表せます。
\begin{eqnarray}
P_1 &=& \int \sigma_x \,\diff A_1 \EE
P_2 &=& \int \sigma_x \,\diff A_2 \EE
\end{eqnarray}
さて、$x$軸方向には並進運動をしないので、
$$ P_1 + P_2 = 0 $$
という釣り合い式が成立します。
式を変形すると、
\begin{split}
&P_1 + P_2 = 0 \EE
&\int \sigma_x \,\diff A_1 + \int \sigma_x \,\diff A_2 = 0 \EE
&\int \sigma_x \diff A = 0 \EE
&\therefore\,\,\ff{E}{R}\int y \,\diff A = 0
\end{split}
$\DL{\int y\, \diff A = 0}$となることから、
$y$ 軸の原点が軸線上にあることが言えます。(軸線の上下で面積が同じため)
$y$ 軸の原点を中立面に置いていたことから、中立面は軸線と一致することが示されました。
断面二次モーメントとは?
次に、はりに働く曲げモーメント$M$ の大きさについて計算します。
モーメントは、作用点までの距離とその荷重の積として計算できるため、
梁全体に作用する曲げモーメントは、
\begin{eqnarray}
M &=& y_1 P_1 + y_2 P_2 \EE
&=& y_1\int \sigma_x \,\diff A_1 + y_2\int \sigma_x \,\diff A_2 \EE
&=& \int y \sigma_x \,\diff A \EE
&=& \ff{E}{R}\int y^2 \,\diff A
\end{eqnarray}
と計算できます。
ここで、断面二次モーメント $I$ を次のように定義します。
すると、先程の式を次のように表せます。
\begin{eqnarray}
M &=& \ff{E}{R}I \tag{2}
\end{eqnarray}
さらに、式(1)から曲げ応力は、
\begin{eqnarray}
M &=& \ff{\sigma_x}{y}I \EE
\therefore \sigma_x &=& \ff{M}{I}y \tag{3}
\end{eqnarray}
となります。
曲げ応力を曲率半径を使わず表すことに成功しました。
たわみ曲線の微分方程式
荷重を受ける梁は、一般には円弧状ではなく曲線状になるはずです。
一般的な場合の梁の曲げで成立する、曲げモーメントとたわみ曲線の関係について考えます。
たわみ曲線とは?
湾曲後の梁の軸線は曲線となります。この曲線をたわみ曲線と呼びます。
梁が下の図のように変形しているとき、その微小部分を拡大すると次のようになります。
たわみ曲線から微小区間を切り出すと、その微小区間は円弧と近似できます。
また、この円弧の半径を曲率半径と呼びます。
それでは、微小区間での幾何学的関係から微分方程式を導出しましょう。
最初に各変数が表す意味について解説します。
たわみ曲線の接線と $x$ 軸の成す角を $\theta$(シータ)、曲率半径を $R$、円弧 $\stackrel{\huge\frown}{\RM{AB}}$ の角を $\diff \phi$(ファイ)、たわみ曲線を $v(x)$ とします。
このとき、円弧$\stackrel{\huge\frown}{\RM{AB}}$ は次のように表せます。
\begin{eqnarray}
\stackrel{\huge\frown}{\RM{AB}} &=& \diff s = R\,\diff \phi \EE
\end{eqnarray}
また、幾何学的関係から次のような関係を導けます。
\begin{eqnarray}
\diff \phi &=& |\diff \theta| \EE
\end{eqnarray}
図より $\theta + \diff \theta < \theta$ であることが分かるため、$\diff \theta < 0$であると言えます。
従って、
\begin{eqnarray}
\diff \phi &=& -\diff \theta \EE
\end{eqnarray}
という関係が導けます。
以上より、円弧の長さ $\diff s$ と $\diff \theta$ の間に次のような関係があることが分かります。
\begin{split}
\diff s &= R\diff \phi = -R\diff \theta \EE
&\therefore\,\, \ff{1}{R} = -\ff{\diff \theta}{\diff s}
\end{split}
たわみ曲線の微分方程式の導出
準備ができたので、たわみ曲線の微分方程式を導出していきます。
今、たわみ角 $\theta$ が微小であるとすると、
\begin{eqnarray}
\theta \NEQ \tan \theta = \ff{\diff v}{\diff x} \EE
\end{eqnarray}
と近似できます。
また、$\diff s \NEQ \diff x$と近似できます。
これらを先程の式に代入して、
\begin{eqnarray}
\therefore \ff{1}{R} &=& -\ff{\diff \theta}{\diff s} \EE
&=& -\ff{\diff}{\diff x}\left ( \ff{\diff v}{\diff x} \right ) \EE
&=& -\ff{\diff^2 v}{\diff x^2} \tag{4}
\end{eqnarray}
と導けます。
式(2)より、曲率半径$R$と曲げモーメント$M$、ヤング率$E$、断面二次モーメント$I$の間には、
\begin{eqnarray}
\ff{1}{R} &=& \ff{M}{EI}
\end{eqnarray}
このような関係が成り立つことが分かります。
以上、式(4)にこれらの式を代入して整理すると、次のようなたわみ曲線の微分方程式が導出できます。
たわみの微分方程式を1回積分するとたわみ角$\theta (x)$が、二回積分するとたわみ曲線$v(x)$が計算できます。
たわみ曲線の微分方程式を利用する例題は、以下の記事で詳しく取り上げています。