モーメントと角運動量|定義と応用【外積が使われる理由】【力学基礎】

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モーメントとは物体を回転させる勢いを定量的に表したものです。

モーメントの大きさは力の大きさと、支点から力の作用点までの距離の積として表されることは、高校物理でも学びました。

高校物理では、モーメントの大きさのみを考えましたが、大学物理では、モーメントの大きさに加えて、回転方向の情報を加えます。

これにより、モーメントは大きさと回転方向の情報を含んだベクトルとして表現されることになります。

今回は、ベクトル量としてのモーメントについて、定義と計算方法について解説します。

また、モーメントに関連して角運動量についても解説します。

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モーメントとは?

モーメントとは、回転の勢いを表す物理量です。

モーメントを考える必要性について解説します。

まず、最も基本的な力学である、質点の力学での物体が静止する条件(釣り合う条件)について考えます。(質点とは、大きさを無視して点として近似できるような物体のことです)

さて、質点に対して左右から逆向きで、等しい大きさの力が作用する場合、力は釣り合い、質点は静止します。

質点の釣り合い

このとき、

\begin{eqnarray}
-\B{F}_1 + \B{F}_2 = \B{0}
\end{eqnarray}

の関係式が成立します。(右向きを正とします)

モーメントを考える理由

では、質点よりも現実的な状況を考えましょう。

すなわち、大きさを持つ物体についての釣り合いを考えましょう。

重さを無視できる棒を考え、平行移動しないように中央の一点を糸で吊るします。

※ 糸が吊るされている位置を支点と呼び、力が作用する位置を作用点と呼びます。

天秤の模式図

このとき、棒の左右に$\B{F}_1$と$\B{F}_2$の力を加えた時何が起きるでしょうか?

ただし、$\B{F}_1 = \B{F}_2$ とします。

モーメントの模式図

質点の力学の釣り合いでの延長線上で考えると、$\B{F}_1 + \B{F}_2 \,- \B{N} = 0 $となるため、直感的には静止するだろうと予想できます。(糸は切れていないため、張力の大きさは$F_1 + F_2$となります)

しかしながら、実際に実験してみると棒は静止せず、反時計回りに回転します。($l_1 > l_2$のため)

力は釣り合っているのに、棒が回転する結果になったことは不思議ですが、さらに実験を続けて棒が静止する条件を探ってみましょう。

さて、実験の結果、$l_2 = l_1$となる位置でピタリと静止することが分かりました。

モーメントの釣り合い

さらに、詳しく実験を行うと$l_2 = 2l_1$、$F_2 = \DL{\ff{F_1}{2}}$の関係になるとき、静止することも分かります。

モーメントが釣り合う例

これ以外にも、力の大きさと支点からの距離を様々に変えて実験を行うと、$F_1\,l_1 = F_2\,l_2$の関係が成立するとき、棒は回転せず静止することが判明します。

このように、力の大きさと支点からの距離との積は物理的に重要な意味を持つようなので、モーメントと呼ぶことにしましょう。

質点の力学との違いは、物体の大きさを考慮することでした。

物体の大きさを考慮するために、モーメントが現れるのです。

ひとまずモーメントの大きさについて次のように定義しておきましょう。

モーメントの大きさ

モーメントの大きさ=「支点から作用点までの距離」×「力の大きさ」

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モーメントと外積

モーメントは質点の力学での釣り合いから発展して、大きさのある物体の釣り合いについて考えたときに現れる物理量でした。

さて、モーメントが釣り合っていないとき、支点を中心として物体は回転し始めます。

このことから、物体の回転方向も重要な情報となることが分かります。

そのため、モーメントの大きさに加え、その回転方向も同時に表現したくなります。

さて、二つの情報を一つにまとめる便利な数学的表現がありました。

その表現とは、ベクトルです。

結論から先に述べると、モーメント$\B{N}$を次のように支点から作用点までベクトル$\B{r}$と、力$\B{F}$との外積として表します。

\begin{split}
\B{N} = \B{r}\times\B{F}
\end{split}

したがって、モーメントはベクトル量となるのです。

なぜ外積を使うのか?

なぜ、モーメントを表すために外積が用いられるのでしょうか?

その理由について考えてみましょう。

まずは、外積について復習します。

二つのベクトル$\B{A} = A_x \B{i} + A_y \B{j} + A_z \B{k}, \,\, \B{B} = B_x \B{i} + B_y \B{j} + B_z \B{k} $があったとき、外積を次のように定義します。

外積の定義

\begin{eqnarray}
\B{A}\times\B{B} &=&
\begin{vmatrix}
A_y & A_z \\
B_y & B_z
\end{vmatrix}
\B{i} \,-\,
\begin{vmatrix}
A_x & A_z \\
B_x & B_z
\end{vmatrix}
\B{j} +
\begin{vmatrix}
A_x & A_y \\
B_x & B_y
\end{vmatrix}
\B{k}
\\
\,
\end{eqnarray}

この定義式を分かりやすくした次の行列式が外積の公式として用いられます。

外積の公式

\begin{eqnarray}
\B{A}\times \B{B} =
\begin{vmatrix}
\B{i} & \B{j} & \B{k} \\
A_x & A_y & A_z \\
B_x & B_y & B_z
\end{vmatrix} \\
\,
\end{eqnarray}

外積の幾何学的関係を図示すると、次のようになります。

外積の幾何学的関係

$\B{A}\times\B{B}$$\B{A}$$\B{B}$に垂直かつ、右ねじが進む方向を向く”

外積計算により新たに生まれたベクトルを$\B{C}$とすると、$\B{C}$は$\B{A}$と$\B{B}$に対して垂直な幾何学的関係になります。

また、ベクトル$\B{C}$の立ち上がる方向は、右ねじが進む向きと約束します。

このように約束するため、計算の順序により$\B{C}$の向きが変わります。

今回は、$\B{A}\to \B{B}$の順序で計算を行っているので、$\B{C}$は上向きになります。

ここで、回転方向と外積計算がリンクすることが分かります。

モーメントと外積

それでは、モーメントについて改めて考えましょう。

右ねじの進む向きとモーメントの関係

図のように支点から$\B{r}$の位置に$\B{F}$が働いているとすると、その回転方向は時計回りになります。

さて、$\B{r}\times\B{F}$の順序で外積計算を行うと、$\B{N}$は下向きになって、実際の回転方向と一致することが分かります。

そこで、モーメントの外積計算を$\B{r}\times\B{F}$と定義することにしましょう。

もう一つ重要な要素は、モーメントの大きさです。

回転方向を表現できたとしも、モーメントの大きさを計算できなければ意味がありません。

外積計算によってモーメントの大きさが計算できているかを検討しましょう。

外積の大きさは、

\begin{split}
|\B{C}| = |\B{A}||\B{B}|\sin \theta
\end{split}

と定義されました。

さて、次のように$\B{r}$に対して$\B{F}$が$\theta$(シータ)の角度を成しているとします。

モーメントの模式図

このとき、$\B{F}$を$\B{r}$に対して垂直方向と水平方向にベクトル分解を行うと、図のようになります。

まず、$\B{r}$に対して水平方向の力$\B{F}\cos\theta$は回転には寄与しません。

そのため、モーメントの計算には含めなくて良いことが分かります。

一方、垂直方向の力は回転に寄与するためモーメントの計算に含まれます。

したがって、モーメントの大きさは、$rF\sin\theta$となります。

ここで外積の大きさに関する公式を思い出すと、

\begin{split}
|\B{r}\times\B{F}| = rF\sin \theta
\end{split}

となって、モーメントの大きさと確かに一致することが分かります。

これより、モーメントを$\B{r}\times\B{F}$と外積計算によって表すことが妥当であると判断できます。

モーメントの定義

「支点から作用点までの距離」を$\B{r}$、「力」を$\B{F}$としてモーメント$\B{N}$は次のように外積で表される。(掛け算の順序が重要)

\begin{split}
\B{N} = \B{r}\times\B{F}
\end{split}

モーメントはベクトル量であり、モーメントの大きさに加え回転方向の情報を含む

高校物理ではモーメントはスカラー量でしたが、大学物理ではベクトル量として扱われます。

外積についての詳細は、『力学入門③ ベクトルの内積と外積の計算方法』で解説しています。

 

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モーメントの計算例

モーメントの計算例として、傾いたコマに働くモーメントについて検討しましょう。

傾いたコマに働くモーメント

質量$M$のコマが$z$軸に対して$\theta$(シータ)傾いて回転しているとします。

また、重心はコマの軸に沿って$l$の位置にあるとします。

計算の都合上、動径方向の単位ベクトルを$\B{e}_r$、円周方向の単位ベクトルを$\B{e}_{\phi}$、鉛直軸方向の単位ベクトルを$\B{e}_z$とします。

コマの回転の模式図

すると、ベクトル$\B{l}$、$\B{F}=M\B{g}$の各成分は次のように表示できます。

\begin{split}
\B{l} &= l\sin\theta\, \B{e}_r + l\cos\theta\, \B{e}_z \EE
\B{F} &= -Mg\,\B{e}_z
\end{split}

以上からモーメントの定義に沿って計算すると、

\begin{eqnarray}
\B{N} &=& \B{l}\times \B{F} \EE
&=&
\begin{vmatrix}
\B{e}_r & \B{e}_{\phi} & \B{e}_z \\
l\sin\theta & 0 & l\cos\theta \\
0 & 0 & -Mg
\end{vmatrix} \EE
&=& Mgl\sin\theta\,\B{e}_{\phi}
\,
\end{eqnarray}

となって、コマの軸を$z$軸回りに回転する方向にモーメントが働くことが分かります。

コマの回転とモーメントの関係

コマのモーメントについては、歳差運動の解析で重要になります。詳しくは、『歳差運動と章動 回転するコマはなぜ倒れない?』で取り上げています。

 

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角運動量とは?

外積によって計算される物理量として、角運動量と呼ばれるものがあります。

ついでに角運動量についても覚えてしまいましょう。

角運動量の模式図

角運動量とは、物体が中心回りに回転する勢いに関連する物理量です。

角運動量の定義は次のようなものです。

角運動量$\B{L}$の定義

\begin{split}
\B{L} &= \B{r}\times\B{p} \EE
&= \B{r}\times m\B{v} \\
\,
\end{split}

中心から質点までのベクトルを$\B{r}$、質点の速度を$\B{v}$とすると、質点の運動量は$\B{p}=m\B{v}$となります。

そして、$\B{r}$と運動量$\B{p}$の外積として角運動量が表されます。

角運動量とモーメント

角運動量とモーメントが外積により表されることから、この両者には何らかの関連がありそうです。

そこで、これらの関連について考えることにしましょう。

まず、形式的には力を使うか運動量を使うのかの違いです。

さて、運動量と力の間には次の関係が成立しました。

\begin{split}
\ff{\diff \B{p}}{\diff t} = \B{F}
\end{split}

これは運動方程式そのものです。

従って、角運動量とモーメントの間には次のような関係を導くことができます。

\begin{split}
\B{N} &= \B{r}\times\B{F} \EE
&= \B{r}\times\ff{\diff \B{p}}{\diff t} \EE
&= \ff{\diff}{\diff t}(\B{r}\times\B{L}) \EE
&= \ff{\diff \B{L}}{\diff t}
\end{split}

角運動量とモーメントの関係

角運動量$\B{L}$とモーメント$\B{N}$の間には次の関係が成立する。

\begin{split}
\ff{\diff \B{L}}{\diff t} = \B{N} \\
\,
\end{split}

角運動量は慣性モーメントの導出の際に重要になります。

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