梁の曲げのまとめとして、梁の不静定問題を解説します。
片持ち梁や単純支持梁の問題は静定問題に分類されますが、今回解説する問題は、不静定問題に分類されます。
不静定問題は、静定問題よりも問題の難易度が上がります。
とは言え、静定梁のように手順通りに計算を進めれば問題無く解くことができます。
不静定はり
まず、分布荷重を受ける一端支持他端固定はりのたわみ曲線について計算します。
ステップ1:反力の計算
反力とモーメントを書き加えると図のようになります。(固定端では反力に加えて、曲げモーメントが生じます。)
力の釣り合いとモーメントの釣り合いを考えると、
$$
\left\{
\begin{eqnarray}
&wl \,-\, R_A \,-\, R_B = 0 \EE \EE
&-\ff{1}{2}wl^2 + R_A l \,-\, M_B = 0
\end{eqnarray}
\right.
$$
となります。$R_A$について解くと、
$$ R_A = \ff{M_B}{l} \,-\, \ff{1}{2}wl $$
となります。しかしながら、$M_B$が分からないため、$R_A$を決定できません。
このように、力の釣り合いとモーメントの釣り合いのみで、全ての未知数を決定できない問題を不静定問題と呼びます。$R_A$は後ほど決定できるので、気にせずに手順通り計算を進めていきます。
ステップ2:自由体図の作成
自由体図を考え、仮想切断面での曲げモーメント$M(x)$を考えます。位置$x$での自由体図に働く、力やモーメントは次のようになります。
ステップ3:モーメント釣り合い計算
自由体図は回転していないため、自由体図内のモーメントが釣り合っています。
モーメントの釣り合いから、仮想切断面での曲げモーメント$M(x)$を次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
R_A x \,-\, \int_0^x wx’ \diff x’ &-& M(x) = 0 \EE
\therefore M(x) = R_A x \,&-& \ff{1}{2}wx^2 \tag{1}
\end{eqnarray}
ステップ4:微分方程式の計算
式(1)の曲げモーメントをたわみ曲線の微分方程式に代入します。
\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 v}{\diff x^2} &=& -\ff{1}{EI}\left( R_A x \,- \ff{1}{2}wx^2 \right) \EE
EI\ff{\diff^2 v}{\diff x^2} &=& \ff{1}{2}wx^2 \,-\, R_A x \tag{2}
\end{eqnarray}
※たわみ曲線の微分方程式に関しては以下の記事で解説しています。
式(2)を一回積分すると、たわみ角 $\theta (x)$ は、
\begin{eqnarray}
EI \int \ff{\diff^2 v}{\diff x^2} \diff x &=& \int \left( \ff{1}{2}wx^2 \,-\, R_A x \right) \diff x \EE
EI \,\theta (x) &=& \ff{1}{6}wx^3 \,-\, \ff{1}{2}R_A x^2 + C_1
\end{eqnarray}
となり、さらに一回積分するとたわみ $v(x)$ は、
\begin{eqnarray}
EI \int \ff{\diff v}{\diff x} \diff x &=& \int \left( \ff{1}{6}wx^3 \,-\, \ff{1}{2}R_A x^2 + C_1 \right) \diff x \EE
EI \,v(x) &=& \ff{1}{24}wx^4 \,-\, \ff{1}{6}R_A x^3 + C_1 x + C_2
\end{eqnarray}
となり、たわみ角 $\theta (x)$ とたわみ $v(x)$ が計算できました。
ステップ5:境界条件の検討
たわみ曲線を決定するため、境界条件を検討します。
この問題での境界条件は次のようなものです。
- 右端($x = l$)でのたわみ角が$0$
- 端点($x = 0, l$)でたわみが$0$
ステップ6:積分定数の決定
境界条件から積分定数を計算します。まず、たわみ角の条件から、
\begin{eqnarray}
EI \,\theta (l) &=& \ff{1}{6}wl^3 \,-\, \ff{1}{2}R_A l^2 + C_1
&=& 0 \EE
\therefore C_1 &=& \ff{1}{2}R_A l^2 \,-\, \ff{1}{6}wl^3 \tag{3}
\end{eqnarray}
となり、さらに、たわみの条件から、
\begin{eqnarray}
EI \,v (0) &=& C_2 = 0 \EE
EI \,v (l) &=& \ff{1}{24}wl^4 \,-\, \ff{1}{6}R_A l^3 + C_1 l = 0 \EE
\therefore C_1 &=& \ff{1}{6}R_A l^2 \,-\, \ff{1}{24}wl^3 \tag{4}
\end{eqnarray}
となります。ここで、式(3)、(4)より、
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}R_A l^2 \,-\, \ff{1}{6}wl^3 &=& \ff{1}{6}R_A l^2 \,-\, \ff{1}{24}wl^3 \EE
\ff{1}{3}R_A l^2 &=& \ff{1}{8}wl^3 \EE
\therefore R_A &=& \ff{3}{8}wl
\end{eqnarray}
とでき反力 $R_A$ が計算できます。従って、$C_1$は、
\begin{eqnarray}
C_1 = \ff{1}{48}wl^3
\end{eqnarray}
と求められます。
ステップ7:たわみ曲線の計算
以上より、たわみ曲線は、
\begin{eqnarray}
v(x) = \ff{w}{24EI}x^4 \,-\, \ff{wl}{16EI}x^3 + \ff{wl^3}{48} x
\end{eqnarray}
となります。
重ね合わせ法
毎回、曲げモーメントや微分方程式を計算するのは面倒です。もっと簡単に解く方法を考てみます。
今回は重ね合わせ法という解法を紹介します。まず、一端支持他端固定梁の問題を次のように、二つの片持ち梁が複合した問題として捉えます。
このように問題をより簡単な問題に分解して考える方法を重ね合わせ法といいます。
ステップ1:重ね合わせ
分布荷重と集中荷重の自由端でのたわみはそれぞれ次のように計算できます。
$$
\left\{
\begin{eqnarray}
&\text{分布荷重:}& \ff{wl^4}{8EI} \EE\EE
&\text{集中荷重:}& -\ff{R_A l^3}{3EI}
\end{eqnarray}
\right.
$$
これらを合計すると、片持ち梁の自由端でのたわみ $v$ を、
\begin{eqnarray}
v = \ff{wl^4}{8EI} \,-\, \ff{R_A l^3}{3EI}
\end{eqnarray}
と求められます。→片持ち梁のたわみ変形量の計算方法とは?
ステップ2:$R_A$の計算
梁の左端でのたわみが$0$になるという条件を課すことで、未知数 $R_A$ を計算できます。すなわち、
\begin{eqnarray}
v &=& \ff{wl^4}{8EI} – \ff{R_A l^3}{3EI} = 0 \EE
\ff{R_A l^3}{3EI} &=& \ff{wl^4}{8EI} \EE
\therefore R_A &=& \ff{3}{8}wl
\end{eqnarray}
と求められます。先程の反力の計算結果と一致することが確かめられます。
ステップ3:たわみ曲線の計算
たわみ曲線も重ね合わせ法により計算できます。分散荷重と集中荷重のたわみ曲線は、
$$
v(x) =
\left\{
\begin{eqnarray}
&\text{分布荷重:}& \ff{1}{24} \ff{wx^4}{EI} \,-\, \ff{1}{6} \ff{wl^3}{EI}x + \ff{1}{8} \ff{wl^4}{EI} \EE\EE
&\text{集中荷重:}& -\ff{1}{6} \ff{R_A x^3}{EI} + \ff{1}{2} \ff{R_A l^2}{EI} x \,-\, \ff{1}{3}\ff{R_A l^3}{EI}
\end{eqnarray}
\right.
$$
と表せました。ここに $R_A$ の計算結果を代入して、たわみ曲線を足し合わせると、
$$
\begin{eqnarray}
v(x) &=& \ff{1}{24} \ff{wx^4}{EI} – \ff{1}{6} \ff{wl^3}{EI}x + \ff{1}{8} \ff{wl^4}{EI} \EE
&-& \ff{1}{16} \ff{wl x^3}{EI} + \ff{3}{16} \ff{w l^3}{EI} x \,-\, \ff{1}{8}\ff{w l^4}{EI}
\EE
&=& \ff{w}{24EI} x^4 \,-\, \ff{wl}{16EI} x^3 + \ff{3}{16} \ff{w l^3}{EI} x
\end{eqnarray}
$$
となります。たわみ曲線も先程の結果と一致することが分かります。
カスティリアノの定理
どんなに複雑な荷重やモーメントが働いていようと、たわみ曲線の微分方程式に曲げモーメントを代入して境界条件を適用してやれば、理論上は梁のたわみを計算することができます。
それでも実際に計算するのは面倒です。そこで、複雑な問題を単純な問題に分解して解く重ね合わせ法を使いました。かなり簡単に問題を解けるようになりましたが、それでも、まだ面倒と感じるのが人間というものです。
実用上、荷重の加わる点での変位を知りたい場合がほとんどで、そのためにたわみ曲線を計算するのはいかにも遠回りに感じます。
たわみ曲線をわざわざ求める必要な無い場合に、威力を発揮するのがカスティリアノの定理です。
詳しい解説はこちらで行っていますが、カスティリアノの定理とは次のような定理です。
自由端に集中荷重が働く片持ちはりを例に具体的な適用例を示します。
ひずみエネルギー $U$ は、
\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l \ff{M^2}{2EI} \diff x \EE
&=& \ff{P^2}{2EI}\int_0^l x^2 \diff x \EE
&=& \ff{P^2 l^3}{6EI}
\end{eqnarray}
と計算でき、自由端でのひずみ$\delta$(たわみ)は、カスティリアノの定理を適用すると、
\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{\del U}{\del P} \EE
&=& \ff{\del}{\del P}\left(\ff{P^2 l^3}{6EI}\right) \EE
&=& \ff{Pl^3}{3EI}
\end{eqnarray}
と計算できます。微分方程式から計算した自由端でのたわみと一致することが確認できます。