平等強さの棒|等荷重を受ける棒とその形状 バベルの塔と宇宙エレベータ

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通常、荷重を受ける棒は断面によって受ける応力が異なります。(→棒とは?)

なぜなら、考えている断面より下にある棒自身の重さによる荷重も追加で働くためです。

直感的には断面の面積を増やし、断面より下の棒を細くすれば断面が受ける応力を減らすことができそうです。(→応力とは?)

考えを進めると、どの断面でも応力が一定となる適切な形状がありそうです。

どの位置でも応力が一定となる棒を平等強さの棒と呼びます。

今回は平等強さの棒がどんな形状となるのかを考察していきます。

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平等強さの棒

平等強さの棒が下の図のような形状をしているとしましょう。

また棒の密度を$\rho$(ロー)、ヤング率を$E$とします。(→ヤング率とは?

平等強さの棒と力の釣り合い

鉛直上向きに$x$軸を取り、原点を下面に取ります。

原点から$x$離れた位置での棒の断面積を$S(x)$、面に働く力を$F(x)$とします。

このとき、$x$から$x+\D x$の区間で棒の微小要素に注目してみましょう。

微小要素の体積を$\D V$とすると、微小要素に働く重力は$\rho g \D V$とできます。

今、微小要素は運動していないため、微小要素に関する釣り合い式が立てられ、

\begin{split}
F(x) + \rho g \D V = F(x+\D x)
\end{split}

とできます。

$\D V \NEQ S(x)\D x$と近似でき、また、平等強さの棒では各断面での応力が等しいため、応力を$\sigma$(シグマ)として次のように変形できます。

\begin{eqnarray}
S(x)\sigma + \rho g S(x)\D x = S(x+\D x)\sigma \tag{1}
\end{eqnarray}

さて、$S(x+\D x)$に関して、テイラー展開を適用すると、

\begin{split}
S(x+\D x) &= S(x) +\ff{\diff S}{\diff x}\D x + \ff{\diff^2 S}{\diff x^2}(\D x)^2 + \cdots
\end{split}

となります。

二次以上の微小量を無視すると、

\begin{split}
S(x+\D x) &\NEQ S(x) +\ff{\diff S}{\diff x}\D x
\end{split}

とできます。

これを式(1)に代入すると、次のようになります。

\begin{split}
S(x)\sigma + \rho g S(x)\D x &= \left( S(x) +\ff{\diff S}{\diff x}\D x \right)\sigma \EE
\end{split}

式を整理すると、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff S(x)}{\diff x} &= \ff{\rho g}{\sigma}S \tag{2}
\end{eqnarray}

となります。

上の微分方程式は位置$x$における断面積の形状についての情報を提供してくれます。

この微分方程式を満たすように形状を変化させると、各断面で応力が等しくなる棒を作れます。

この微分方程式を具体的に解くことで、平等強さの棒の断面形状を調べていきましょう。

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平等強さの棒の形状

上で求めた微分方程式を解き、棒の形状を具体的に求めてみましょう。

次のように式(2)を変形し、$S$と$x$に関して分離します。

\begin{eqnarray}
\ff{\diff S}{S} &= \ff{\rho g}{\sigma}\diff x
\end{eqnarray}

両辺を積分すると次のように計算でき、

\begin{eqnarray}
\int \ff{\diff S}{S} &= \int \ff{\rho g}{\sigma}\diff x \EE
\ln S(x) &= \ff{\rho g}{\sigma}x + C \EE
\therefore\,\, S(x) &= Ce^{\ff{\rho g}{\sigma}x}
\end{eqnarray}

指数関数が現れます。

ただし、積分定数を$C$とします。

$x=0$において、$S(0) = S_0$とすると$C=S_0$と求められ、積分定数を決定できます。

以上より棒の断面積の形状を次のように表すことができます。

\begin{eqnarray}
S = S_0 e^{\ff{\rho g}{\sigma}x}
\end{eqnarray}

$x=0$にて$S=S_0$であり、$S_0$にて引張力が$P_0$であるとすると、$\sigma = \DL{\ff{P_0}{S_0}}$表せるので、$S_0 = \DL{\ff{P_0}{\sigma}}$とできます。

平等強さの棒の形状

棒の密度を$\rho$、引張応力を$\sigma$として平等強さの棒の断面積$S(x)$は次のように表せる

\begin{eqnarray}
S(x) = \ff{P_0}{\sigma} e^{\ff{\rho g}{\sigma}x} \\
\,
\end{eqnarray}

圧縮の場合では指数関数の指数の符号が負となります。

すなわち、

\begin{eqnarray}
S(x) = \ff{P_0}{\sigma} e^{-\ff{\rho g}{\sigma}x}
\end{eqnarray}

となります。

指数関数の指数が負となることより、先細りの形状となることが分かります。

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バベルの塔

聖書には天まで届くほどの塔、バベルの塔が登場します。

バベルの塔は神様の怒りに触れて破壊されてしまうのですが、この塔が建設可能なのか科学的に検討してみましょう。

平等強さの棒の理論を用いて、バベルの塔がどの程度の大きさになるのか物理学的に見積もっていきましょう。

まず、天までの高さとして、国際航空連盟によって宇宙空間までの高度(カーマン・ライン)として定義されている高度$100\, \RM{km}$を採用します。

また、バベルの塔の建材として、レンガを使用するとします。

なお、レンガの圧縮強度を$10\, \RM{MPa}$とします。

圧縮強度とは、その材料が耐えられる圧縮応力の限界値です。つまり、$10\, \RM{MPa}$以上の圧縮応力が働くとバベルの塔は崩壊してしまいます。

現実には考えにくいですが、レンガが耐えられる限界強度である圧縮強度が働く状態でバベルの塔を建設するとします。

さて、塔の断面が円形とし、その半径を$r(x)$で表すとします。

このとき、$S(x)=\pi r(x)^2$となります。

この結果を先ほど得られた平等強さの棒に関する式に代入すると、

\begin{eqnarray}
\pi r(x)^2 = \ff{P_0}{\sigma} e^{-\ff{\rho g}{\sigma}x} \\
\end{eqnarray}

となります。(圧縮であるため、指数関数の指数は負となります)

なお、上空$100\, \RM{km}$での重力は地上と数%程度しか変化しないため、重力加速度は一定であると近似します。

$r(x)$について整理すると、

\begin{eqnarray}
r(x) = \sqrt{\ff{P_0}{\pi\sigma} e^{-\ff{\rho g}{\sigma}x}} \tag{3}
\end{eqnarray}

とできます。

さて、バベルの塔先端での半径を$r(H)$、地上での半径を$r(0)$としてその比を計算してみると、式(3)より次のように求めることができます。

\begin{eqnarray}
\ff{r(0)}{r(H)} = \sqrt{\ff{1}{e^{-\ff{\rho g}{\sigma}H}}} = \sqrt{e^{\ff{\rho g}{\sigma}H}}
\end{eqnarray}

$\rho = 2.0 \times 10^3\, \RM{kg}$、$H=1.0\times 10^5\, \RM{m}$、$g=9.8\, \RM{kg\cdot m/s^2}$として、上式に諸数値を代入すると、

\begin{eqnarray}
\ff{r(0)}{r(H)} = 3.6\times 10^{42}
\end{eqnarray}

という結果が得られます。

塔の先端の半径が$1\, \RM{m}$であったとしても、地上での半径は$3.6\times 10^{42}\, \RM{m}$という天文学的な数値となります。

地球の半径が$6.3\times 10^6\, \RM{m}$であることを考慮すると、レンガでは宇宙まで届く塔を建設することは不可能であることが分かります。

結局、神様が介入せずともレンガの塔では天まで届く塔など物理的に建設が不可能な代物であったようです。

バベルの塔が地上に収まるようにするには、もっと強度のある材料で建設するしかないでしょう。

現在、最も広く使用されている建材であるコンクリートは、圧縮強度が$200 \RM{MPa}$ありますが、それでもバベルの塔を建設すると、地上での半径は$450\,\RM{m}$に達します。(先端での半径を$1\, \RM{m}$として)

先端での半径を増すと比例して地上での半径も増すため、現実に建設するのは困難でしょう。

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宇宙エレベータの夢

現実のことは一旦忘れて、宇宙エレベータについて少しだけ検討します。

せっかくなので、夢は大きく静止軌道(上空3万6000 km)に届くまでの建造物について検討してみましょう。

実際に静止軌道まで塔を建設した場合を考えます。

塔の高さを$h$、断面積は$S$で一定とします。また、塔の平均密度を$\rho$とします。

バベルの塔

このとき、地上から$x$離れた位置にある微小部分に対する力の釣り合いは次のように計算できます。

\begin{split}
F(x) + G\ff{(\rho S\D x)M}{x^2}\,- (\rho S\D x)x\omega^2 = F(x+\D x)
\end{split}

ただし、地球の自転の角速度を$\omega$(オメガ)とします。

平等強さの棒での議論と同様に、テイラー展開を利用して式を整理すると次のように微分方程式を導出できます。

\begin{split}
\ff{\diff F}{\diff x} = G\ff{\rho SM}{x^2}\,- \rho Sx\omega^2
\end{split}

以上より、$F(x)$を次のように具体的に求めることができます。

\begin{eqnarray}
F(x) &=& \int_r^{x}\left( G\ff{\rho SM}{x’^2} \,- \rho S x’ \omega^2 \right) \diff x’ \EE
&=& \rho S\left[ -\ff{GM}{x’}\,- \ff{1}{2}\omega^2x’^2 \right]_r^{x} \EE
&=& \rho S\left\{ GM\left(\ff{1}{r}\,- \ff{1}{x}\right) + \ff{1}{2}\omega^2( r^2\,- x^2 ) \right\}
\end{eqnarray}

これより、位置$x$に働く応力$\sigma(x)$は、

\begin{eqnarray}
\sigma(x) = \ff{F(x)}{S}
&=& \rho \left\{ GM\left(\ff{1}{r}\,- \ff{1}{x}\right) + \ff{1}{2}\omega^2( r^2\,- x^2 ) \right\} \tag{4}
\end{eqnarray}

と計算できます。

応力の最大値は式(4)の微分を$0$と置けばよいため、最大応力となる位置は次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
0 &=& \ff{\diff \sigma}{\diff x} \EE
&=& \ff{\rho GM}{x^2}\,- \omega^2 x \EE
\therefore\,\, x &=& \sqrt[3]{\ff{\rho G M}{\omega^2}}
\end{eqnarray}

この結果に諸数値を代入すると56万 kmとなります。

今、塔の高さは3万6000 kmであるため、応力が最大値になることはありません。

式(4)より、単調増加であるため、塔の先端で応力は最大となります。

なお、この応力は引張応力となります。

これらに諸数値を代入すると、塔の先端での応力は$115\, \RM{GPa}$となります。

宇宙エレベータを建設するには、桁違いに引張強度が大きい素材を開発する必要があるようです。

宇宙エレベータについての詳しい考察は、こちらで解説しています。

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