波動方程式とその解法|波の速さと固有振動数の導出【力学】

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バイオリンやピアノなどの弦楽器は美しい音色を奏でますが、その理由に弦の振動が大きく関わっています。今回は物理学を駆使し、弦の振動について理論的に解析していきます。

さて、弦の解析の過程で、波動方程式と呼ばれる偏微分方程式が登場します。偏微分方程式は常微分方程式に比べて、解くための手間や難易度が一段階上がります。

今回考える波動方程式は、偏微分方程式の入門に位置づけられる解析対象となります。

波動方程式

$c$を定数として、波動方程式は次のように表される

\begin{eqnarray}
\ff{\del^2 y}{\del x^2} = \ff{1}{c^2}\ff{\del^2 y}{\del t^2} \\
\,
\end{eqnarray}

また、弦の振動の解析を通して、フーリエ級数展開やフーリエ変換のおぼろげな輪郭が浮かび上がってきます。

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弦の微小部分の運動

弦の振動を考えるために弦の運動方程式を導く必要があります。

弦全体の運動方程式を導くのは難しいため、弦の微小部分に関する運動方程式を導くことを考えましょう。

次のように長さが$L$で、線密度が$\rho$(ロー)の弦が振動しているとします。

なお、弦の振動は$xy$平面内に限られているとします。

弦の微小部分の運動

時刻$t$のある瞬間において、弦の形状が$y(x,t)$という関数で表されるとします。弦の形状は、$x$と$t$の二変数関数としてして表されることがポイントです。

このときの弦の二点$x$と$x+\D x$の間にある微小部分の運動方程式を導きましょう。

弦の振動に関する重要な点として、弦に働く張力はどの位置でも一定であるということです。

弦の張力が一定となる理由はこちらで解説しています。

微小部分の$y$方向に関する加速度は、偏微分を使って$\DL{\ff{\del^2 y}{\del t^2}}$と表せます。

微小部分の質量は$\rho \D x$であることより、『質量×加速度』は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
(\rho \D x)\ff{\del^2 y}{\del t^2}
\end{eqnarray}

次に、微小部分の鉛直方向に対して働く力について考えましょう。

弦の接線方向に大きさ$T$の力が常に働いているため、位置$x$における鉛直方向に関する力の大きさは偏微分を用いて$\DL{T\ff{\del y(x,t)}{\del x}}$と表せます。

弦の微小部分の鉛直方向に働く力

これより、微小部分の鉛直方向に対して働く正味の力は、

\begin{eqnarray}
-T\ff{\del y(x,t)}{\del x}+T\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}
\end{eqnarray}

と計算できます。

以上より、微小部分の鉛直方向に関する運動方程式を次のように記述できます。

\begin{eqnarray}
-T\ff{\del y(x,t)}{\del x}+T\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}= (\rho \D x)\ff{\del^2 y}{\del t^2}
\end{eqnarray}

これを変形すると、

\begin{eqnarray}
\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}-\ff{\del y(x,t)}{\del x}= \ff{\rho \D x}{T}\ff{\del^2 y}{\del t^2} \tag{1}
\end{eqnarray}

となります。

なお、$x$方向に弦の微小部分は運動していないため、水平方向の運動方程式は考えなくて良く、結局、上式が弦の微小部分に関する運動方程式となります。

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波動方程式

先ほど求めた運動方程式について詳しく考えていきます。

式(1)の左辺に関して、$\DL{\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}}$をテイラー展開すると、次のように表せます。

\begin{eqnarray}
\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}=\ff{\del y(x,t)}{\del x}+\D x\ff{\del^2 y(x,t)}{\del x^2} +O(\D x^2)
\end{eqnarray}

微小量$\D x$に関しては微小な量であるため、二乗以上の量は無視できます。

したがって、

\begin{eqnarray}
\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}&=&\ff{\del y(x,t)}{\del x}+\D x\ff{\del^2 y(x,t)}{\del x^2} \EE
\end{eqnarray}

とできます。

以上より、式(1)は次のように整理できます。

\begin{eqnarray}
\ff{\del y(x+\D x,t)}{\del x}\,- \ff{\del y(x,t)}{\del x} &=& \ff{\rho \D x}{T}\ff{\del^2 y}{\del t^2} \EE
\D x\ff{\del^2 y(x,t)}{\del x^2}&=& \ff{\rho \D x}{T}\ff{\del^2 y}{\del t^2} \EE
\therefore\,\, \ff{\del^2 y(x,t)}{\del x^2} &=& \ff{\rho}{T}\ff{\del^2 y}{\del t^2}
\end{eqnarray}

この偏微分方程式は波の運動を記述する方程式であるため、波動方程式と呼ばれます。

今後の展開上、$c^2=\DL{\ff{\rho}{T}}$とおきます。$c$の正体については後ほど判明します。

これより、波動方程式と呼ばれる偏微分方程式が導かれます。

波動方程式

$c$を定数として、波動方程式は次のように表される

\begin{eqnarray}
\ff{\del^2 y}{\del x^2} = \ff{1}{c^2}\ff{\del^2 y}{\del t^2} \\
\,
\end{eqnarray}

波動方程式を解くことで、関数$y$の具体的な形が明らかになります。

$y$が波の形を表しているため、実際の波の運動も明らかになったと言えます。

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波動方程式の解法

ここからは波動方程式を解くことを考えていきましょう。

偏微分方程式を解く難易度は常微分方程式と比べて上がります。

偏微分方程式を解くにあたり、$y(x, t)=X(x)T(t)$と仮定することが定石となります。

波動方程式の解としての$y$の候補は多数ありますが、このように$y$を仮定することで比較的楽に波動方程式を解くことができるのです。

このように、波動方程式の解を一関数の積や商として表す方法を変数分離法と呼びます。

仮定した解を波動分方程式に代入すると、

\begin{eqnarray}
T(t)\ff{\del^2 X}{\del x^2} = \ff{X(x)}{c^2}\ff{\del^2 T}{\del t^2} \\
\end{eqnarray}

とできて式を整理すると、

\begin{eqnarray}
\ff{1}{X(x)}\ff{\del^2 X}{\del x^2} = \ff{1}{c^2T(t)}\ff{\del^2 T}{\del t^2}=\alpha \tag{2}
\end{eqnarray}

となります。

左辺が$x$のみの微分、右辺も$t$のみの微分として表示できていることが分かります。

式(2)がどんな$x, t$に関しても成立するためには式(2)の答えは定数とならなければなりません。

もし$x$や$t$の変化によって計算結果が変化した場合、片方の変数が片方の従属変数となっていることを意味します。

$x$と$t$は独立変数であるため偏微分の計算結果は定数とならなければならないのです。

定数を$\alpha$(アルファ)とおくと、式(2)は$x$と$t$に関して次のように分離できます。

$$
\left\{
\begin{split}
&\,\,\ff{\diff^2 X}{\diff x^2} \,-\alpha X = 0 \EE
&\,\,\ff{\diff^2 T}{\diff t^2} \,-\alpha c^2 T = 0
\end{split}
\right.
$$

各微分方程式は一変数に関するものであるため、常微分方程式として表せます。

幸いなことに、これらの微分方程式の解は求めたことがあります。(→振り子の微分方程式の解法

その結果を利用すると、上の微分方程式の解は次のように求められます。

$$
\left\{
\begin{split}
&X(x) = C_1\cos\sqrt{\alpha}x + C_2\sin\sqrt{\alpha}x \EE\\
&T(t) = C_3\cos c\sqrt{\alpha}t + C_4\sin c\sqrt{\alpha}t
\end{split}
\right.
$$

ただし、$C_1, C_2, C_3, C_4$を積分定数とします。

これより、波動方程式の解は三角関数の積として表現できることが分かります。

ここからは、積分定数を決定することを考えます。

今回は、弦の端点($x=0, L$)が固定されているとし、時刻$t=0$にて弦は$x$軸に沿って真っすぐであるとします。

このような初期条件や設定を境界条件と呼び、解を決定するために重要な役割を果たします。

境界条件を具体的に書き下すと、

$$
\left\{
\begin{split}
&\,y(0,t) = y(L,t) = 0\EE\\
&\,\ff{\del y(x,0)}{\del t} = 0
\end{split}
\right.
$$

となります。

まず、境界条件から$x=0$において$X(0)=0$である必要があるため、$C_1=0$であることが分かります。

よって、$X(x) = C_2\sin\sqrt{\alpha}x$であることが分かります。

次に、$x=L$において$X(L)=0$とならなければなりませんが、この条件を満たすために正弦関数が$0$となる必要があります。

正弦関数は動径が$0$か$\pi$の整数倍であるときに$0$となる性質があるため、$n$を整数として$\sqrt{\alpha}L = n\pi$となる必要があります。

これより、$\DL{\sqrt{\alpha} = \ff{n\pi}{L}}$の関係が成立することが分かります。

最後に$\DL{\ff{\del y(x,0)}{\del t} = 0}$の境界条件について考えましょう。

この条件より、次の計算ができて結局$C_4=0$と求められます。

\begin{split}
\left.\ff{\del T}{\del t}\right|_{t=0}&=0 \EE
&= -c\sqrt{\alpha}C_3\cdot 0 +c\sqrt{\alpha}C_4\cdot 1 \EE
\therefore\,\, C_4 &= 0
\end{split}

以上より、$y$を次のように表すことができます。

\begin{split}
y(x, t) &= X(x)T(t) \EE
&= C_2C_3 \sin \ff{n\pi}{L}x \cdot\cos\ff{n\pi c}{L}t \EE
&= A_n \sin \ff{n\pi}{L}x \cdot\cos\ff{n\pi c}{L}t \EE
\end{split}

ただし、$C_2, C_3$は任意の定数です。また、$C_2C_3$の積を$A_n$で表すとします。($A_n$は波の振幅に相当します)

どんな整数$n$に対しても上式は波動関数の解となるため、波動関数の一般解はこれらの関数の和として表すことができます。

以上より、波動方程式の解は次のように表すことができます。

波動関数の解

波動方程式の一般解は次のように表せる

\begin{split}
y(x, t) &= \sum_{n=1}^{\infty} A_n \sin \ff{n\pi}{L}x \cdot\cos\ff{n\pi c}{L}t \\
\,
\end{split}

波動方程式の解から、様々な$n$の値に対応する波が合成されて弦の振動となっていることが分かります。

また、波動関数の解がフーリエ級数展開と同一の形式をしていることは注目に値します。

波動方程式と似た形をした微分方程式として、熱伝導方程式があります。

熱伝導方程式でも、その解をフーリエ級数により表すことができます。

このように根本の現象は異なっていても、その数学的な解が共通の姿をしていることは注目に値します。

この考えを推し進めると、微分方程式を真正面から解かずに、その方程式の形から解を求めることができるようになります。

このような方法をラプラス変換フーリエ変換と呼びます。

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波の速さ・固有振動数

先程と同様に端点が固定されている弦の振動について考えます。

弦が整数$k$で表せる波のみで振動している場合を考えましょう。

このとき弦の振動は、$A_k\, \DL{\sin \ff{k\pi}{L}x \cdot\cos\ff{k\pi c}{L}t}$と表せます。

ここで、弦の振動の周期を$T$とすると、以下の関係が成立することが分かります。(周期は波のある一点が最初の位置に戻るまでの時間であるため)

\begin{split}
\ff{k\pi c}{L}T &= 2\pi \EE
\therefore\,T &= \ff{2L}{kc}
\end{split}

さて、周期の逆数は振動数と呼ばれる物理量でした。

振動数を$\nu$(ニュー)で表すと上式の周期の計算結果より、

\begin{eqnarray}
\nu = \ff{1}{T} = \ff{k}{2L}c \tag{3}
\end{eqnarray}

と表せます。

波の速さ$v$と波長$\lambda$(ラムダ)、振動数$\nu$の間には$v = \nu \lambda$の関係があることは、高校物理で学びました。

この関係式と式(3)を見比べると、次元解析の結果から振動数や速度に次のような対応関係があることが分かります。

$$
\left\{
\begin{split}
&v = c = \sqrt{\ff{\rho}{T}} \EE\\
&\nu = \ff{k}{2L}\sqrt{\ff{\rho}{T}} \EE\\
&\lambda = \ff{2L}{k}
\end{split}
\right.
$$

この対応関係から波の速さが分かります。最初の方で思わせぶりに設定した$c$は、波の速さを表していたのです。

波の速さ

弦の線密度を$\rho$、張力を$T$とすると、弦を伝わる波の速度$c$は次のように表せる

\begin{split}
c = \sqrt{\ff{\rho}{T}} \\
\,
\end{split}

波の速さは線密度と張力のみによって決まり、弦の長さや振幅、周波数には無関係であることは注目に値します。

波に関する方程式を立てるとその係数として$c$が現れます。実は、この係数こそが対象の波の速度そのものなのです。

すなわち、波の速度だけを計算したい場合は$c$を求めるだけで事足りるのです。

この性質を利用したエレガントな具体例として音速の導出が挙げられます。

今、弦は両端を固定されており、その端は固定端となっています。

このような場合、弦を伝わる波は定常波となります。

定常波の振動は固有振動と呼ばれ、その振動数は固有振動数と呼ばれます。

したがって、ある整数$k$での固有振動数は$\DL{\ff{k}{2L}\sqrt{\ff{\rho}{T}}}$と計算できます。

定常波の固有振動数

弦の長さを$L$、張力を$T$、$k$を整数として、弦の固有振動数$\nu_k$は次のように求められる

\begin{split}
\nu_k = \ff{k}{2L}\sqrt{\ff{\rho}{T}} \\
\,
\end{split}

$k, L, \rho$は定数であるため、振動数は張力の大きさのみにより決まることが分かります。

振動数が高くなるほど音は高音になりますが、この式より、弦を強く張るほどギターの音が高くなる理由や、張力を調整してピアノの調律が行われる理由が説明できます。

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