滑り摩擦と転がり摩擦|ねじとベアリングの力学 【力学】

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摩擦は厄介な現象であるのと同時に、現代文明を支える有益な側面もあります。

摩擦は身近な現象であり、高校物理でも基本的な性質について学びました。

しかし、意外なことに摩擦現象については完全解明には至っておらず、現在も精力的に研究が行われています。

高校物理で学んだ摩擦現象ついて復習し、さらに一歩進んで滑り摩擦と転がり摩擦について解説します。

滑り摩擦と転がり摩擦

また、関連してねじとベアリングの力学についても触れます。

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摩擦の法則

摩擦力は物体の運動を妨げる方向に働く力です。

摩擦力はさらに、静止摩擦力動摩擦力に分かれます。静止摩擦力は物体の荷重に比例して増加していきますが、最大静止摩擦力を越えると、摩擦力が一気に減って物体は動き出します。そして、運動中に働く摩擦力のことを動摩擦力と呼びます。

静止摩擦力動摩擦力の基本については高校物理で既に学んでいるでしょう。なお、摩擦についてさらに詳しく研究を行うと、以下のような経験則に従うことが明らかになっています。摩擦についての経験則はアモントン・クーロンの法則と呼ばれています。

アモントン・クーロンの法則

$(1)$ 摩擦力は接触面に加わる垂直荷重に比例して増加する

$(2)$ 摩擦力の大きさは見かけの接触面積とは無関係   

$(3)$ 静止摩擦力は動摩擦力よりも大きい        

$(4)$ 動摩擦力の大きさは相対的な滑り速度とは無関係  

アモントン・クーロンの法則が述べる内容について順に見ていきます。

垂直荷重と最大静止摩擦係数

まずは、垂直荷重と摩擦力の関係について見ていきます。ここでは、同じ材質で質量が異なる物体を床の上で移動させることを考えます。

静止摩擦係数と垂直荷重の関係

まず、質量 $m_1$、$m_2$ の物体により床に対しては、それぞれ $m_1g$ と $m_2g$ の垂直荷重が働いています。この状況で、図のように物体に対して水平に力を働かせます。

そして、各物体が動き始める直前での力の大きさを$F_1, F_2$とし(最大)静止摩擦力と呼ぶことにします。

床の上で物体を動かす実験を、様々な質量に対して行いデータをまとめると質量と最大静止摩擦力がきれいに一直線上に乗ることが分かります。

すなわち、最大静止摩擦力と垂直荷重は比例関係にあり、比例定数を$\mu$(ミュー)とすると最大静止摩擦力は$F = \mu m g$となることが分かります。

なお、この比例定数 $\mu$(ミュー)を静止摩擦係数と呼びます。

真実接触面積

次に接触面積の大きさと静止摩擦力との関係を見ていきます。

ここで、接触面積が大きい場合と小さい場合での止摩擦力を比較しましょう。なお、両者の質量は等しいとし、それぞれの接触面積での静止摩擦力を$F_{A}, F_{B}$とします。

静止摩擦係数と接触面積の関係

$F_A$と$F_B$はどちらの方が大きいでしょうか?

直感的には、接触面積の大きい$F_A$の方が$F_B$より大きいように感じられますが、意外なことに、両者の静止摩擦力は等しいことが知られています。(つまり、$F_{A}= F_{B}$)接触面積が変化しても静止摩擦力が変化しない理由には、摩擦に関与する真実接触面積が関係しています。

真実接触面積の模式図

真実接触面とは、実際に接触している部分のことを示します。

前提として、現実の物体には平面に見えても、顕微鏡レベルのミクロな視点で見ると、デコボコとした凹凸があります。従って、このような平面同士を接触させても、本当に接触しているのは面同士の凸部同士のみであり、本当に接触している面積は、見かけの接触面積よりもずっと小さくなるのです。

また、実際に接触している面の面積を真実接触面積と呼びます。

実験によれば、真実接触面積は見かけの接触面積の数百分の一から数十万分の一程度であり、点で接触していると見なせるほど、わずかな大きさの面積で接触しているのです。

このように、見かけの接触面積の変化は真実接触面積の大きさにほとんど影響を及ぼさないため、静止摩擦力の大きさに影響を及ぼさないのです。

動摩擦力と滑り速度

静止摩擦力を越えると、物体は動き始めます。

もちろん、物体が動いている状態でも摩擦力は継続して働きます。

運動中に働く摩擦力のことを動摩擦力と呼びます。

動摩擦力は静止摩擦力よりも小さくなることが知られています。

静止摩擦力と動摩擦力

最大静止摩擦力と動摩擦力の関係をグラフ化すると次のようになります。

静止摩擦力と動摩擦力の関係

実験によると、動摩擦力の大きさは滑り速度に依存せず一定であることが明らかになっています。

ただし、この関係はゴムのような弾性体や、滑り速度が極端に小さい場合や大きい場合には成立しないことが知られています。

このように、アモントン・クーロンの法則はあくまで経験則であり、理論的な根拠に欠けることは否めません。

身近な現象でありながら、摩擦現象に関しては分かっていないことも多く、現在も精力的に研究が行われている分野でもあります。

摩擦は、表面の凹凸に起因しているように思われますが、実際は真実接触面での凝着や掘り起こしによるものであると考えられています。

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滑り摩擦と転がり摩擦

少し視点を変え、単純な滑りと転がりでの摩擦力を比較しましょう。

平らな面を持つ物体を斜面に沿ってすべらせるような場合に働く摩擦を滑り摩擦と呼び、パチンコ球のような球体が転がる場合に働く摩擦を転がり摩擦と呼びます。(球は転がりながら同時に滑っているため、転がり摩擦は動摩擦力の一種です)

滑り摩擦と転がり摩擦

転がり摩擦は滑り摩擦よりもはるかに小さくなり、滑り摩擦の数十分の一程度の大きさしかありません。

例えば、鉄同士の滑り摩擦係数が0.52であるのに対して、転がり摩擦係数では0.00002程度まで小さくなります。(単純比較はできませんが、目とまぶたとの摩擦係数が0.01程度とされていることを考えると、どれほど小さい摩擦係数であるかが理解できるでしょう)

転がり摩擦の方向

さて、滑り摩擦の場合に働く動摩擦力の方向は物体が滑る方向と逆、すなわち斜面を登る方向に働くことは理解できるでしょう。

では、転がり摩擦にて動摩擦力が働く方向はどうなるのでしょうか?

直感的には滑り摩擦と同様に、斜面を登る方向と感じるかもしれませんが、これは誤りで、転がり摩擦力は斜面を下る方向に働いているのです。

なぜそうなるのでしょうか?考えてみましょう。

球は転がりながら斜面を滑っていくわけですが、斜面が図のように右肩下がりの場合では、球は時計回りに回転します。

したがって、球と斜面が接している箇所では球は斜面を登る方向に運動していることになります。

摩擦力は運動を妨げる方向に働くため、摩擦力の方向は斜面を下る方向になるのです。

もし、転がり摩擦が滑り摩擦と同じ方向に働く場合、摩擦力があるのに球がどんどん加速されることになることからも、転がり摩擦が斜面を下る方向となることは理解できるでしょう。

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ねじの力学

摩擦は運動を妨げるため、厄介者のように感じるかもしれません。

しかしながら、現代文明を支える縁の下の力持ちという側面もあります。

たとえば、物体同士を接着剤無しで繋げる場合、ねじを使用します。

ねじは物体同士の摩擦を利用することで、接着剤無しでの接合を実現しています。

このように、摩擦現象を利用した素晴らしい応用例としてねじが挙げられます。

ねじにはらせん状に溝が入っていますが、これは斜面を円柱に巻き付けたものとみることができます。

これにより、長い斜面をコンパクトにまとめることができます。

ねじがどのように摩擦を利用しているのか、すなわち、ねじの力学について考えていきましょう。

ねじの用語

ねじの力学について考える前に、ねじに関する用語について説明しましょう。

ねじには多数の山や谷が連なっていますが、これらの構造は一本の螺旋に沿って作られていることが分かります。

ねじ

この螺旋のことをつる巻き線と呼びます。

ねじは下図のように円筒面につる巻き線を巻き付け、つる巻き線に沿って三角形や台形の溝を付けた構造をしています。

さて、つる巻き線を巻き付ける角度をリード角と呼び、つる巻き線に沿って軸の周りを一周したときに軸方向に進む距離をリードと呼びます。

なお、普段から目にする一条ねじでは、リードとピッチ(あるねじ山から次のねじ山までの距離)が一致します。

ねじのリード角とリードとピッチ

さらに、ねじの直径(有効径)を$d$とするとリード角$\beta$(ベータ)とリード$L$との間に次のような幾何学的関係が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
\tan \beta = \ff{L}{\pi d}
\end{eqnarray}

ねじが締まるには?

それでは、ねじの力学について考えていきましょう。

ねじを押し込む方向に働く軸力があり、この大きさが$F$であったとします。

さらに、ねじが締まるように、水平方向右向きに大きさ$Q$の水平接線力を働かせるとします。

ここで、リード角を$\beta$、ねじとねじを止めている被締結部材との静止摩擦係数を$\mu$とします。

ねじに働く力

さて、ねじが締まるようにするには、どんな物理的条件が成立すれば良いでしょうか?

ねじから見れば、被締結部材が右上に滑って行けば良いので、ねじが締まる条件は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
Q \cos \beta &>& F\sin\beta + \mu\big( F\cos\beta + Q\sin\beta \big)
\end{eqnarray}

ねじが締まる直前では左右は等号で結ばれるため、$Q$について整理すると、

\begin{eqnarray}
Q &=& \ff{\sin\beta + \mu\cos\beta}{\cos\beta \,- \mu\sin\beta}F \EE
&=& \ff{\tan\beta + \mu}{1\,- \mu \tan\beta}F \tag{1}
\end{eqnarray}

となります。

ここで、$F$と静止摩擦力$\mu F$とが形作る三角形を考えると、$\tan \rho = \mu F /F = \mu$と表せます。

また、$\rho$のことを摩擦角と呼びます。

軸力と静止摩擦力の関係

これを式(1)に代入し、三角関数についての加法定理を用いると、

\begin{eqnarray}
Q &=& \ff{\tan\beta + \tan \rho}{1\,- \tan \rho \tan\beta}F \EE
&=& F\tan(\beta + \rho) \tag{2}
\end{eqnarray}

とできます。

軸力とトルクの関係

ねじを締める方向に大きさ$T$のトルクが働いているとき、先述の水平接線力$Q$と有効径$d$を使い、トルクは次のように表せます。

\begin{eqnarray}
T &=& Q\cdot \ff{d}{2} \EE
&=& \ff{1}{2}Fd\tan(\beta + \rho)
\end{eqnarray}

従って、トルクを軸力$F$を使って表すと、次のようにできます。

\begin{eqnarray}
T &=& \ff{1}{2}Fd\tan(\beta + \rho)
\end{eqnarray}

さらに、軸力$F$について整理すると、

\begin{eqnarray}
F &=& \ff{2T}{d\tan (\beta + \rho)} \tag{3}
\end{eqnarray}

となります。

$\rho$は一定なため、変更可能なリード角$\beta$に注目します。

式(2)より、一定のトルクでより大きな軸力を生じさせたい場合は$\beta$を小さくすれば良いことが分かります。

したがって、より大きな軸力を得たいときは、並目ねじではなく、リード角がより小さい細目ねじを使用すれば良いことが分かります。

なお、ねじと締結材には締め付けにより、ねじの軸部には引張力が働き、被締結材には圧縮力が働きます。

また、この引張力を軸力、圧縮力を締付け力と呼びます。

ねじの自立条件

次に、ねじが独りでに緩まないための条件について検討しましょう。

ねじが緩むときは、$Q$は右方向から働くため、式(2)に対して$-\beta$を代入すれば良く、次のように表せます。

\begin{eqnarray}
Q &=& F\tan(\rho \,- \beta)
\end{eqnarray}

$Q<0$であると、独りでに緩む方向にねじが回転していきます。

緩むことを防ぐためには、$\rho \,- \beta > 0$すなわち$\beta < \rho$の条件を満たす必要があるのです。

なお、この条件をねじの自立条件と呼びます。

一般の三角ねじのリード角では、ねじの自立条件を考慮した上で、さらに十分な安全を見て$\beta < 2.5^{\circ}$となるように設計されています。

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ベアリングの力学

ベアリング(軸受け)は機械の回転軸を支える部品です。(写真は玉軸受け)

ベアリング

ベアリングはあらゆる機械の中に組み込まれている機械要素の一つです。

ベアリングの品質が機械の性能を決めるため、機械要素の中でも極めて重要な位置を占める部品でもあります。

代表的なベアリングはボールベアリング(玉軸受け)ですが、ボールベアリングでは文字通り鋼鉄製の球を内輪と外輪で挟み込み、保持器で球が飛び出さないようにした構造を持ちます。

機械を組み立てる際には、ボールベアリングの内輪に軸を入れ、外輪をハウジング等で固定し、軸を安定して保持しながら滑らかに回転させることができるのです。

ヘルツの弾性接触理論

高校物理の範囲から脱線しますが、ボールベアリング内部で起きる現象について少し考えてみましょう。

ボールベアリングを単純化すると、次のような模式図になります。

ベアリングの模式図

さて、最も荷重を受ける一番下の一つの玉に注目し、この玉と外輪の間に働く圧力について考えましょう。

玉と外輪が接触している箇所では何が起きるでしょうか?

現実の物体には、弾性があるため力が加わると変形します。

したがって、、つまり玉と外輪が接触している場所でも玉と外輪が変形し図のように、楕円形の接触部が形成されます。

玉と平面の接触の様子

楕円の長径を$b$、短径を$a$とすると楕円の面積は$\pi ab$と計算されるので、接触部に働く圧力$p$は単純に計算すれば $p=\DL{\ff{F}{\pi ab}}$となります。

しかし、現実の圧力は楕円の中で均一に働くのではなく、ある分布を持っているはずです。

ベアリング内の実際の圧力分布については、ドイツのハインリヒ・ヘルツにより理論的に分析されており、この理論はヘルツの弾性接触理論として知られています。

ヘルツの弾性接触理論によれば、圧力分布は楕円の中央で最も高くなることが明らかにされています。

この圧力分布は実際の圧力分布と良く一致することが確認されています。

ヘルツの接触理論

金属疲労とベアリングの寿命

金属には長期間に渡り繰り返しの荷重を受け続けると、本来の引張強さよりも小さな応力で亀裂が生じるという疲労破壊という現象が起きます。

前述のようにボールベアリングの外輪には、繰り返し荷重がかけられます。そのため、一定以上の期間に渡ってボールベアリングを使用すると、外輪表面や玉の表面が剥離するフレーキングという現象が発生します。

フレーキングが起きると、軸受けは正常に回転できなくなりので、機械の故障につながります。

そのため、フレーキングが起きるまでの期間を疲れ寿命と呼び、フレーキングが初めて現れるまでの総回転数で疲れ寿命までの期間が管理されます。

※ 厳密には、一群の同じ軸受けを同じ条件で運転させたとき、その90%の軸受けがフレーキングを起こさずに回転できる総回転数を定格疲れ寿命と呼びます。

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