遠心力とコリオリ力 慣性系と非慣性系の不思議

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高校で遠心力の単元を学んだ時、教科書にこんなことが書かれていませんでしたか?

遠心力は見かけの力である。実在する力では無いので注意するように。』

そのように書いていながら、平然と遠心力と向心力を等号で結び、釣り合い方程式なり運動方程式を立てて、問題を解いていきます。

内心こう思いませんでしたか?

『ちょっと持て。さっき遠心力は無いと書いていたじゃないか?どうして、遠心力を使って平然と計算しているのか?』と、

つまり、見かけの力であるにも関わらず、図のように遠心力を含めて考えているのです。

遠心力と向心力

結論から言うと、遠心力を持ち出して議論しても問題ありません。

教科書では紙面の関係上、遠心力が現れる理由や前提条件についての説明が省かれているため、分かりずらくなっているのです。

今回は、遠心力の正体や、遠心力が出現する前提条件についても解説します。

さらに、発展的な内容としてコリオリ力についても見ていきます。

遠心力とコリオリ力

質点の質量を$m$、回転半径を$r$、接線速度を$v$、
角速度を $\omega$(オメガ)とすると、遠心力 $F_c$ は次のように表せる

$$ F_c = \frac{mv^2}{r} = mr\omega^2 $$

また、コリオリ力 $F^{(c)}$ は次のようにベクトル表示される

$$ \B{F}^{(c)} = (-2m\omega\dot{y’},\, 2m\omega\dot{x’}) $$

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回転中にばねが切れたら?

まずは、円運動での力学を遠心力を持ち出さずに考えましょう。

例として、質量$m$ の物体がばねにつながれて、速度$v$ で半径$r$ の円運動をしている状況を考えます。

この状況で、物体に働く力$\boldsymbol{F}$ を向心力と呼びますす。

太字はベクトルを表します。ベクトルの表記法についてはこちらで解説しています。

この状況でばねを切断したらどうなるでしょうか?

結論から言うと、慣性に従って物体が接線方向に飛んでいきます。

この様子を図にすると次のようになります。

なお、上図は切断から$\Delta t$ 秒後の物体の位置を表したものです。

ばねを切断しない場合、もちろん物体は円運動を継続します。

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幾何学的関係と三平方の定理

ばねを切断すると物体は慣性に従い、接線方向に直線運動をします。

ここで、ばねを切断した場合と切断しなかった場合の図を重ねてみるとどうなるでしょうか?

上の図は、$\Delta t$ 秒後のばねを切断した場合と切断しなかった場合の状況を重ねたものになります。

ここで、物理学から離れて幾何学の話になります。

重要なポイントは2つ、$\mathrm{OCB}$ が一直線上にあること、そして$ \angle \mathrm{OAB} = 90^\circ $ であることです。

さらに、$\mathrm{OA} = \mathrm{OC} = r, \mathrm{AB} = v\Delta t$ でることに注意し、

$\mathrm{BC} = x$ とおくと、$\triangle \mathrm{OAB}$ で三平方の定理が適用できて次の関係式が成立します。

\begin{eqnarray}
\mathrm{OB}^2 &=& \mathrm{OA}^2 + \mathrm{AB}^2 \EE
(r+x)^2 &=& r^2 + (v\Delta t)^2 \EE
2rx + x^2 &=& (v\Delta t)^2 \EE
\therefore\,\,2x + \frac{x^2}{r} &=& \frac{v^2}{r}(\Delta t)^2 \tag{1}
\end{eqnarray}

※ 円運動という条件から$ \mathrm{OC} = r $ となります。

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近似発動!

$\mathrm{BC} = x$ は、円運動の半径$r$ よりもずっと小さいので、$\DL{\ff{x^2}{r}} \ll 1$ となります。

そのため、$\DL{\ff{x^2}{r}}$ は無視でき、式(1)は次のように近似できます。

\begin{eqnarray}
2x &=& \frac{v^2}{r}(\Delta t)^2 \EE
x &=& \frac{1}{2} \frac{v^2}{r}(\Delta t)^2 \tag{2}
\end{eqnarray}

※ $\Delta t$ は微小なため、二次の微小量が無視できます。したがって、このような近似ができるのです。

ここからは、式(2)が何を意味しているのかについて考えていきましょう。

ところで、ばねにつながれた物体は円運動の間ばねから力を受け、軌道が常に変化し続けています。

つまり、ばねは動径方向から常に力を受けているのです。

そのため、物体は動径方向に加速度運動をしていると考えられます。

では、物体はどの程度の加速度を受けているのでしょうか?計算してみましょう。

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円運動の加速度と物体が受ける力

物体の加速度を計算する前に、等加速度直線運動の公式について復習しましょう。

まず、移動距離 $x$ と加速度 $a$ の間には次のような関係が成立します。($t$ は経過時間)

$$ x = \frac{1}{2}at^2 \tag{3} $$

これを式(2)と比較することで、円運動の(向心)加速度を計算できそうです。

早速計算してみましょう。

式(2)と式(3)を比較することで、円運動の加速度 $a$ を

$$ a = \frac{v^2}{r} $$

と求められます。

また、角速度 $ \omega = \DL{\ff{\Delta \theta}{\Delta t}} $ を使うと、速度は$v = r\omega $ となるので、

$$ a = r\omega^2 $$

とも表せます。

従って、ばねに繋がれた物体がばねから受ける力(=向心力)$F$ ニュートンの第二法則より、

\begin{eqnarray}
F &=& ma \EE
&=& \frac{mv^2}{r} = mr\omega^2
\end{eqnarray}

と表せます。

この力が向心力と呼ばれるものです。

慣性の法則によって、物体は接線方向の直線運動を維持しようとします。

それに対抗して物体を中心に引き付け、円軌道に沿って運動させようとする力が向心力です。

すなわち、ばねが発揮する力が向心力になります。

重要な点は、円運動を維持しているという条件を課したとき、その向心力$F$ は先ほどの関係式を満たす形になるということです。

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遠心力の正体とは?

ここまでの説明では、遠心力を使わず話を進めてきましたが、やはり遠心力とは何なのか?が気になります。

ここからは、遠心力の正体について考えていきましょう。

前提として、半径$r$、周速(接線方向の速度)$v$、角速度$\omega$ で円運動をする質量$m$ の物体の遠心力$F_c$ は、次のように表せます。

$$ F_c = \frac{mv^2}{r} = mr\omega^2 $$

先程求めた向心力の式と一致することが分かると思います。

なぜ向心力と遠心力が一致するのでしょうか?

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慣性系と非慣性系

少し話は変わりますが、物理学では慣性系と非慣性系という重要な概念があります。

慣性系と非慣性系

慣性系:ニュートンの第一法則(慣性の法則)と第二法則(運動の法則)が厳密に成立する座標系

非慣性系:慣性の法則や運動の法則が成立しない慣性系

慣性系は静止または等速直線運動をしている座標系で、非慣性系は加速度運動をしている座標系とも言い換えられます。

実は、先述の向心力の導出過程は慣性系から見た場合の円運動の解析だったのです。

下図に慣性系$\mathrm{S}$と非慣性系 $\mathrm{S’} $ から見た円運動を示します。

慣性座標と非慣性座標

$S’$系(非慣性系)では座標全体が角速度$\omega$(オメガ)で回転しています。

一方、$S’$系では$S$系(慣性系)と同じ運動方程式が成り立たないため、補正をしてやる必要があります。

具体的な計算過程は次に譲りますが、円運動では慣性系から非慣性系に移行する過程で遠心力とコリオリ力が運動方程式に補正項として入り込みます。

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非慣性座標系の運動方程式

慣性座標系と非慣性座標系を下の図に示します。図中の$F$ は、向心力を表します。

ただし、非慣性座標系は一定の角速度$\omega$ で反時計回りに回転しているとします。

この図は、慣性座標系と非慣性座標系を重ね合わせたものです。慣性座標系を$x-y$ 軸で表し、非慣性座標系を$x’-y’$ 軸で表しています。

初めに慣性座標系での$x$ と$y$ 方向で運動方程式を立てます。

\begin{eqnarray}
m\frac{d^2x}{dt^2} &=& F_x \EE
m\frac{d^2y}{dt^2} &=& F_y
\end{eqnarray}

また、$(x, y)$と $(x’, y’)$ の対応関係は次のようになります。

\begin{eqnarray}
x &=& x’ \cos \omega t \,\, – \,\, y’ \sin \omega t \\
y &=& x’ \sin \omega t \, + \, y’ \cos \omega t \\
\end{eqnarray}

これを二階微分して、整理すると次のようになります。

\begin{eqnarray}
\ddot{x} &=& (\ddot{x’} -2\omega\dot{y’} \, – \, \omega^2x’ )\cos \omega t \,\, – \,\, (\ddot{y’}+2\omega\dot{x’} \, – \, \omega^2y’ ) \sin \omega t \\
\ddot{y} &=& (\ddot{x’} -2\omega\dot{y’} \, – \, \omega^2x’ )\sin \omega t + (\ddot{y’}+2\omega\dot{x’} \, – \, \omega^2y’ ) \cos \omega t \\
\end{eqnarray}

ただし、$\DL{\ff{\diff x}{\diff t} = \dot{x}, \ff{\diff^2x}{\diff t^2} = \ddot{x} }$ としています。

詳しい時間微分の表記法についてはこちらで解説しています。

上式の両辺に$m$を掛けて運動方程式の形に整理すると、

$$
\begin{eqnarray}
m\ddot{x} = F_x &=& m(\ddot{x’} -2\omega\dot{y’} \, – \, \omega^2x’ )\cos \omega t \,\, – \,\, m(\ddot{y’}+2\omega\dot{x’} \, – \, \omega^2y’ ) \sin \omega t \EE
m\ddot{y} = F_y &=& m(\ddot{x’} -2\omega\dot{y’} \, – \, \omega^2x’ )\sin \omega t + m(\ddot{y’}+2\omega\dot{x’} \, – \, \omega^2y’ ) \cos \omega t \\
\end{eqnarray}
\tag{4}
$$

となります。

さて、 $(F_x, F_y)$と $(F_{x’}, F_{y’})$ の対応関係は次のようになります。

$$
\begin{eqnarray}
F_x &=& F_{x’} \cos \omega t \,\, – \,\, F_{y’} \sin \omega t \\
F_y &=& F_{x’} \sin \omega t \, + \, F_{y’} \cos \omega t \\
\end{eqnarray}
\tag{5}
$$

式(4)と(5)を比較することで、$F_{x’}, F_{y’}$の具体的な対応関係を次のように導出することができます。

$$
\begin{eqnarray}
F_{x’} &=& m\ddot{x’} -2m\omega\dot{y’} \, – \, mx’\omega^2 \EE
F_{y’} &=& m\ddot{y’}+2m\omega\dot{x’} \, – \, my’\omega^2
\end{eqnarray}
\tag{6}
$$

式(6)の右辺第三項から、遠心力$F_c$の大きさは、

\begin{eqnarray}
|F_c| &=& \sqrt{( m\omega^2x’ )^2 + ( m\omega^2y’ )^2 } \\
&=& m\omega^2\sqrt{x’^2 + y’^2} \\
\end{eqnarray}

と求められます。

ここで、$ r = \sqrt{x’^2 + y’^2} $ とすると、$F_c = mr\omega^2$ となり見慣れた遠心力の式が導けます。

さて、右辺第二項に現れた力を$F^{(c)}$ をコリオリ力と呼びます。

ここで、コリオリ力に関して次のような内積を計算します。

\begin{eqnarray}
( 2 m\omega \dot{y’} , – 2m\omega \dot{x’} )\cdot( \dot{x’}, \dot{y’} )^{\mathrm{T}} &=& 2 m\omega \dot{y’}\dot{x’} \,-\, 2m\omega \dot{x’}\dot{y’} \\
&=& 0
\end{eqnarray}

ただし、 $( \dot{x’}, \dot{y’} )$は速度ベクトルを表します。

内積の計算結果が$0$ となったことから、コリオリ力と速度は直交していることが分かります。

内積計算により、コリオリ力と速度との幾何学的関係を調べています

→内積についての詳しい解説はこちら

以上より、非慣性系で質点に働く力をまとめると下の図のようになります。

遠心力は動径方向と平行で向心力と反対方向に働き、コリオリ力は周方向に働くことが分かりました。

注意しなければいけない点は、遠心力とコリオリ力は現実に働いている力ではないということです。

遠心力やコリオリ力は慣性系から非慣性系への座標変換の過程で出てくるものです。遠心力とコリオリ力は実際には存在しない見かけの力のため、慣性力と呼ばれます。

自分が非慣性運動(加速度運動)をしているため、物体にこれらの力が働いているように錯覚するのです。

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遠心力とコリオリ力はなぜ現れる?

遠心力やコリオリ力について、泥臭く物理的な説明をすると上のような説明になります。

物体と一緒に回転する座標系では、中心と物体の位置関係(座標の値)が変化しないため、物体は中心に対して静止しているように感じます。

ですが向心力が働いていることは分かっているので、物体が静止していることは矛盾します。

この矛盾を回避するため、向心力と反対方向に遠心力が働いているはずだと錯覚します。

そして、円周方向にも運動しなければ遠心力が働かないので、周方向に物体を動かすコリオリ力も導入する必要がでてくるのです。

現実には、向心力によって中心に落ちる距離を相殺する分だけ、接線方向に動いているため中心からの距離が変わらず、円運動を維持できているのですが、

この事実は、慣性系にいる観測者にしか分からないのです。

向心力と、周速や角速度が事前に与えられており、回転半径が後から決まるとも言えます。

周速がなぜその値なのか?という疑問が残りますが、これには答えることができません。その前に与えられたものだからです。

天体力学的には地球の公転速度がなぜこの速度なのか?という点が本質的に重要な疑問になりますが、これは未解決の問題となっています。

→力学についてのまとめ記事はこちら


どんな向心力でも良いわけではなく、円運動を維持するには、ある関係を満たす力である必要があります。詳細エネルギーと軌道の形状 エネルギーが軌道の形状を決める!?で解説しています。

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