適合条件式から$\RM{Airy}$の応力関数を導出します。
また、$\RM{Airy}$の応力関数を梁の曲げ問題に適用し、$\RM{Airy}$の応力関数の有効性を確認します。
平面ひずみと平面応力
まず、平面ひずみ状態における平衡方程式から考え始めます。
平面ひずみ状態においては、ひずみと変位の間に次のような関係式が成立し、→変位とひずみの添え字の約束について
$$
\left\{
\begin{split}
&\varepsilon_{xx} = \ff{\del u_x}{\del x} \EE
&\varepsilon_{yy} = \ff{\del u_y}{\del y} \EE
&\varepsilon_{zz} = \ff{\del u_z}{\del z} = 0 \EE
&\varepsilon_{xy} = \varepsilon_{yx} = \ff{1}{2}\left(\ff{\del u_x}{\del y} + \ff{\del u_y}{\del x} \right) \EE
&\varepsilon_{yz} = \varepsilon_{zy} = \varepsilon_{zx} = \varepsilon_{xz} =0
\end{split}
\right.
$$
これを平衡方程式に適用すると、以下の式が導けます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del \sigma_{xx}}{\del x} + \ff{\del \sigma_{xy}}{\del y} + F_x = 0 \EE
&\ff{\del \sigma_{xy}}{\del x} + \ff{\del \sigma_{yy}}{\del y} + F_y = 0 \EE
\end{split}
\right.
$$
平面ひずみ状態でのひずみの適合条件式を考えると、ほとんどの式が消え、以下の一本の式のみが残ります。
\begin{split}
&2\ff{\del^2 \varepsilon_{xy}}{\del x \del y}\,-\ff{\del^2 \varepsilon_{xx}}{\del y^2}\,-\ff{\del^2 \varepsilon_{yy}}{\del x^2} =0 \EE
\end{split}
※ 平面ひずみ状態では$\varepsilon_{xx}, \varepsilon_{xy}, \varepsilon_{yy}$ に$z$が含まれないことがポイントです。
次に平面応力状態での適合条件式について考えていきます。
平面応力状態では、$\sigma_{zx}=\sigma_{zy}=\sigma_{zz}=0$であるため、平衡方程式は、
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del \sigma_{xx}}{\del x} + \ff{\del \sigma_{xy}}{\del y} + F_x = 0 \EE
&\ff{\del \sigma_{xy}}{\del x} + \ff{\del \sigma_{yy}}{\del y} + F_y = 0 \EE
\end{split}
\right.
$$
となり、平面ひずみ状態での平衡方程式と同じになることが分かります。
さて、平面応力状態では一般化フックの法則は次のようになります。
$$
\left\{
\begin{split}
&\varepsilon_{xx} = \ff{1}{E}(\sigma_{xx}\,-\nu \sigma_{yy}) \EE
&\varepsilon_{yy} = \ff{1}{E}(\sigma_{yy}\,-\nu \sigma_{xx}) \EE
&\varepsilon_{zz} = -\ff{\nu}{E}(\sigma_{xx}+\sigma_{yy}) \EE
&\varepsilon_{xy} = \ff{1}{G}\sigma_{xy} \EE
&\varepsilon_{yz} = \varepsilon_{zx} = 0
\end{split}
\right.
$$
これらの結果を適合条件式に代入すると、
\begin{split}
&2\ff{\del^2 \varepsilon_{xy}}{\del x \del y}\,-\ff{\del^2 \varepsilon_{xx}}{\del y^2}\,-\ff{\del^2 \varepsilon_{yy}}{\del x^2} =0 \EE
\end{split}
となります。
ここでも平面ひずみ状態の適合条件式と一致することが分かります。
応力の適合条件式
上述の結果より、ひずみの適合条件式は、平面ひずみ状態と平面応力状態で一致することが分かります。
この結果に対して、平面ひずみ状態、平面応力状態それぞれのフックの法則を代入すると、以下の応力の適合条件式が得られます。
このように両方の状態において、応力の適合条件式が一致することが分かります。
ただし、$\nu$(ニュー)をポアソン比とします。
$\RM{Airy}$の応力関数
適合条件式の上では平面ひずみ状態と平面応力状態は実は同じであることが分かりました。
この事実を利用して何か面白いことが導けるのかを調べてみましょう。
ところで、$F_x, F_y$が保存力の場合、これらはポテンシャル関数 $V$ を用いて、
\begin{split}
F_x &= -\ff{\del V}{\del x} \EE
F_y &= -\ff{\del V}{\del y} \EE
\end{split}
とできることは既に習いました。これを先ほどの平衡方程式に代入すると、次の方程式が導けます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del }{\del x}\Big( \sigma_{xx}\,-V \Big) + \ff{\del \sigma_{yx}}{\del y} = 0 \EE
&\ff{\del \sigma_{xy}}{\del x} + \ff{\del }{\del y}\Big( \sigma_{yy}\,-V \Big) = 0 \EE
\end{split}
\right. \tag{1}
$$
さて、この偏微分方程式を満足するように、$\RM{Airy}$の応力関数 $\chi$(カイ)を導入します。
※ ここからは、エアリーの応力関数が満たす関係式を求めることが主題になります。
$\chi(x,y)$と置き、式$(1)$を満たすように$\RM{Airy}$の応力関数を次のように定めます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\sigma_{xx} = \ff{\del^2 \chi}{\del y^2} + V \EE
&\sigma_{yy} = \ff{\del^2 \chi}{\del x^2} + V \EE
&\sigma_{xy} = -\ff{\del^2 \chi}{\del x\del y} + V \EE
\end{split}
\right. \tag{2}
$$
特に、$F_x=F_y=0$であるとき、式$(2)$は以下のようになります。
$$
\left\{
\begin{split}
&\sigma_{xx} = \ff{\del^2 \chi}{\del y^2} \EE
&\sigma_{yy} = \ff{\del^2 \chi}{\del x^2} \EE
&\sigma_{xy} = -\ff{\del^2 \chi}{\del x\del y} \EE
\end{split}
\right. \tag{3}
$$
さて、式$(2)$を応力の適合条件式に代入すると、次のように計算ができて、
\begin{split}
&\ff{\del^4 \chi}{\del y^4}+\ff{\del^4 \chi}{\del x^4}+\left( \ff{\del^2 V}{\del x^2}+\ff{\del^2 V}{\del y^2} \right)\EE
&\qquad\,-\nu\left( 2\ff{\del^4 \chi}{\del x^2\del y^2}+\ff{\del^2 V}{\del x^2}+\ff{\del^2 V}{\del y^2} \right)=-2(1+\nu)\ff{\del^4 \chi}{\del x^2\del y^2}
\end{split}
整理すると、
\begin{split}
\ff{\del^4 \chi}{\del x^4}+ 2\ff{\del^4 \chi}{\del x^2\del y^2} +\ff{\del^4 \chi}{\del y^4} &=- (1\,-\nu)\left( \ff{\del^2 V}{\del x^2} + \ff{\del^2 V}{\del y^2} \right) \EE
\therefore\,\,\, \left( \ff{\del^2}{\del x^2} + \ff{\del^2}{\del y^2} \right)^2 \chi &= – (1\,-\nu)\nabla^2 V
\end{split}
となり、ここで、$\DL{\nabla^2 = \ff{\del^2}{\del x^2} + \ff{\del^2}{\del y^2} }$とすると、次の式が得られます。
\begin{split}
\nabla^4 \chi = – (1\,-\nu)\nabla^2 V
\end{split}
体積力が作用しないとき、$F_x=F_y=0$なので、先の関係式は、
\begin{eqnarray}
\nabla^4 \chi = 0 \tag{4}
\end{eqnarray}
となります。
この関係式を満たすとき、$\chi$を平面調和関数と呼びます。
※ $\nabla$は”ナブラ”と呼ばれる記号です。ナブラについての解説はこちらでしています。
具体的な$\chi$の形は問題に応じて変化します。具体的な関数の形については次章で見ていきます。
梁の曲げと$\RM{Airy}$の応力関数
$\RM{Airy}$の応力関数を利用して、実際に梁の曲げの問題を解いてみましょう。
長さ$2l$、高さが$2h$、幅$b$の薄い長方形板の梁に$x$軸方向に沿って応力が作用しているとします。
このとき、各方向の応力は次のように表せます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\sigma_{xx} = p_0 y,\quad \sigma_{xy}=0 \EE
&\sigma_{yy} = 0,\quad\quad \sigma_{yx}=0 \EE
\end{split}
\right.
$$
今、外力は作用していないため、式$(4)$を満足すれば良く、このときの$\RM{Airy}$の応力関数として、
\begin{split}
\chi = A y^3
\end{split}
を選びます。ただし、$A$を任意の定数とします。
これを式$(3)$に代入すると、
\begin{split}
\sigma_{xx} = 6A y
\end{split}
と求められます。
この結果を先程の応力の係数と比較することで、$A$を$\DL{\ff{p_0}{6}}$と確定できます。
さて、中立面($x$軸) 回りに作用する曲げモーメント$M$は次の積分を計算することで求められます。
\begin{split}
M &= \int_{-h}^h (p_0 y)yh \diff y \EE
&= p_0 h\int_{-h}^h y^2 \diff y \EE
&= p_0 h\left[ \ff{1}{3}y^3 \right]_{-h}^{h} \EE
&= \ff{2}{3}p_0bh^3
\end{split}
ここで、$h’ = 2h$とすると、$M=\DL{\ff{b{h’}^3}{12}}p_0$とできて、断面二次モーメントが確かに現れることが見て取れます。
これより、
$$
\left\{
\begin{split}
&\sigma_{xx} = \ff{M}{I}y \EE\\
&\sigma_{yy} = \sigma_{yx}=0 \EE
\end{split}
\right.
$$
となり、見事に梁の曲げ理論で求めた結果と一致することが分かります。
さて、平面応力状態であることより、変位について以下の式が成立します。
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del u_x}{\del x} = \ff{M}{EI} \EE
&\ff{\del u_y}{\del y} = -\ff{\nu M}{EI} \EE
&\ff{\del u_x}{\del y}+\ff{\del u_y}{\del x} = 0 \EE
\end{split}
\right.
$$
これらの式を満たすように積分定数を定めると、
$$
\left\{
\begin{split}
&u_x = \ff{M}{EI}xy \EE
&u_y = -\ff{M}{2EI}(x^2+\nu y^2)
\end{split}
\right.
$$
という結果が得られます。
$\RM{Airy}$の応力関数の応用
梁の曲げ問題のような単純な問題に$\RM{Airy}$の応力関数を適用することは過剰戦力のように感じられますが、$\RM{Airy}$の応力関数の真価は複雑な問題に応用したときに発揮されます。
例えば、次のような半径$a$の孔が空いた平版に作用する応力分布はどうなるでしょうか?
このような問題に対しても、$\RM{Airy}$の応力関数を応用すれば答えを得ることができるのです。
他にも、厚肉円筒の問題に対しても適用することができます。