材料力学を用いたばね定数の導出過程について解説します。
高校物理で散々出てきたばね定数ですが、この定数についてよく観察すると不思議な性質があることに気が付きます。
不思議な性質とは、同じ材質のばねであってもばねの巻き数や外径の違いによってばね定数が変化するという性質です。
定数と呼ばれながら巻き方や外径の違いなどによって変わるのでは、名前負けのように感じます。それもそのはずで、ばね定数は次の公式から計算される物理量であるためです。
ばね定数の正体について、材料力学の知識を駆使して迫っていきます。
線素のねじり
円筒面に対して一定のピッチで、一様断面の素線を巻き付けて作ったばねを円筒コイルばねと呼びます。
円筒コイルばねの模式図を以下に示します。
模式図は平均半径が$R$、素線の直径を$D$、巻き数$n$の円筒形コイルばねを表します。そして、ばねの横弾性係数を$G$とします。
この円筒形コイルばねを大きさ$W$の力で引張ると、ばねの断面には大きさ $T\,(=WR)$のトルクが働きます。
さて、円筒コイルばねから微小部分(線素)を取り出して、線素がどんな変形をするのかについて考えます。線素について図示したものが下の図になります。
具体的には、ばねを上から見て $\diff \phi$ の部分を切り出した長さ$R\diff \phi$の線素を考えます。線素の両端が大きさ$T$のトルクによりねじられるため、生じるねじり角 $\diff \theta$ を次のように計算できます。→ねじり角の公式
ただし、断面二次極モーメントを$I_p$とします。
※ 線素の断面が円形のため、具体的な断面二次極モーメントはこのようになります。
\begin{eqnarray}
I_p = \ff{\pi}{32}d^4 \tag{2}
\end{eqnarray}
ばね定数の導出
いよいよばね定数の導出に移ります。まずは、目標を示します。
ばねが大きさ$W$の力により、$\delta$だけ伸びたとすると、ばね定数 $k$ によって $W$ と$\delta$ は
\begin{eqnarray}
W = k\delta
\end{eqnarray}
と結び付けられるはずです。今回は、定数 $k$ を横弾性係数、断面二次極モーメントを使い表すことが目標となります。
さて、ある位置$\RM{A}$での線素の挙動について考えます。このとき、線素に大きさ$T$のトルクが働き、$\diff \theta$ のねじり角が生じたとします。
$\RM{A}$より右側の部分を無視し、線素のみによる伸び$\diff \delta $を考えます。
線素のねじり角 $\diff \theta$ とそれによる伸び $\diff \delta$ の幾何学的関係を図示したものが上図になります。
今、$\RM{A}$点でのねじりにより、$\RM{A}$点より右側の部分は全体として$\diff \theta$だけ回転します。すると、ばねの右端の中心点 $\RM{B}$ は $\RM{C}$ に移動するので、右側に$\diff \delta$ だけ 変位することになります。
このときの幾何学的関係を考えます。
今、$\RM{BC} = \RM{AB}\cdot \diff \theta$ であり、さらに、$\RM{BC}$と変形前の軸線と成す角を$\alpha$とすると、$\diff \delta = \RM{BC}\cos\alpha$ の関係があるため、
$\angle \RM{OAB} = \alpha$ となり、$R = \RM{AB}\cos\alpha $ の関係を導けます。
以上より $\diff\delta$ を、
\begin{eqnarray}
\diff \delta &=& \RM{BC}\cos\alpha \EE
&=& (\RM{AB}\cdot \diff \theta)\cos\alpha \EE
&=& R\diff \theta
\end{eqnarray}
とでき、これに$\diff \theta$についての式(1)の結果を適用すると、
\begin{eqnarray}
\diff \delta &=& \ff{TR^2}{GI_p}\diff \phi \tag{3} \EE
\end{eqnarray}
であることが分かります。
同じ議論をばねの全長について当てはめることができ、ばねの巻き数が$n$であることから、ばね全体の伸び$\delta$を
\begin{eqnarray}
\delta &=& \int\diff \delta \EE
&=& n\int_0^{2\pi}\ff{TR^2}{GI_p}\diff \phi \EE
&=& \ff{2\pi nTR^2}{GI_p}
\end{eqnarray}
と計算できます。
さらに、式(2)に断面二次極モーメントの表式を代入し、$T=WR$であることに注意して整理すると、
\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{2\pi nTR^2}{G}\cdot \ff{32}{\pi d^4} \EE
&=& \ff{64 nWR^3}{Gd^4} \tag{4}
\end{eqnarray}
となります。
ばね定数の導出までもう一息です。
ばね定数は、$\DL{k = \ff{W}{\delta}}$であるため、式(4)を変形して、
\begin{eqnarray}
k &=& \ff{W}{\delta} \EE
&=& \ff{Gd^4}{64 nR^3} \EE
\end{eqnarray}
と求めることができます。
この式より、素線の直径に比例してばね定数は増加し、ばねの巻き数とばねの平均径に反比例して減少することが分かります。
ワールの修正係数とは?
ばねに働くせん断応力分布についても考え、より正確な考察を行います。
ばねの断面に働くせん断応力
トルクにより、ばねの素線断面に作用するせん断応力を考えます。
棒のねじりと同様に考えると、素線断面に働くせん断応力は上図のような分布となるはずです。
せん断応力は中心からの距離に比例して増加するので、中心から距離$r$離れた位置でのせん断応力$\tau(r)$は$\DL{\ff{T}{I_p}r}$ と計算できます。
また、素線外周にてせん断応力は最大になるので、これを$\tau_1$とすると$\tau_1 = \DL{\ff{Td}{2I_p}}$と表せます。
ところで、せん断応力については、トルクによるせん断応力に加えて、引張力$W$によるせん断応力も存在しています。次は、引張力によるせん断応力についても考えましょう。
ワールの修正係数
トルクによるせん断応力は素線表面で最大となり、そのせん断応力は $\DL{\ff{Td}{2I_p}}$ となります。さて、トルクによるせん断応力に加え、せん断力$W$によるせん断応力も存在します。
$W$によって素線断面に生じるせん断応力が一様に分布していると近似すると、$W$によって素線断面に働くせん断応力は、$\tau_2 = \DL{\ff{4W}{\pi d^2}}$ と表せます。
このとき、実際の線素断面に働くせん断応力はトルクによるせん断応力と$W$によるせん断応力の合成であると考えられます。
そのため、線素に働くせん断応力の最大値 $\tau_{max}$は、
\begin{eqnarray}
\tau_{max} &=& \tau_1 + \tau_2 \EE
&=& \ff{Td}{2I_p} + \ff{4W}{\pi d^2} \EE
&=& \ff{16WR}{\pi d^3} + \DL{\ff{4W}{\pi d^2}} \EE
&=& \ff{16WR}{\pi d^3}\left( 1+\ff{d}{4R} \right) \tag{5}
\end{eqnarray}
となります。
図から分かるようにせん断応力はばねの内側で最大になります。実際、円筒コイルばねの亀裂はばねの内側から生じることが知られています。
ここでは、せん断力による応力分布が一様であると仮定しましたが、厳密には非一様なはずです。
正確な応力分布はシミュレーションや実験により知る他ありませんが、いちいち検証していられないので、実用上のせん断応力の最大値はワールの修正係数を使って求めることが一般的です。
すなわち、ワールの修正係数を$K$とし式(5)を次のようにしてせん断応力の最大値を表します。
\begin{eqnarray}
\tau_{max} &=& K\ff{16WR}{\pi d^3} \EE
&=& \left( \ff{4c-1}{4c-4} + \ff{0.615}{c} \right)\ff{16WR}{\pi d^3}
\end{eqnarray}
$K$は具体的には、ばね指数を$c$ $\left( c = \DL{\ff{2R}{d}}\right) $として、$K=\DL{\ff{4c-1}{4c-4} + \ff{0.615}{c}}$と表されます。
ばねの設計をしてみよう
ばね定数を導出できたので、応用問題について考えます。
狙ったばね定数にするためには?
横弾性係数$G$が$81 \, \RM{GPa}$の鋼を使った円筒コイルばねについて考えます。
この素線を使って直径$d$が$1.0 \, \RM{mm}$で、円筒コイルばねの平均径$D$($=2R$)が$10 \, \RM{mm}$のばねを作成します。
さて、このばねのばね定数を$0.5\, \RM{N/mm}$としたい場合、ばねの巻き数をどれくらいにすれば良いでしょうか?
まずは各数値の単位を換算することを考えます。今回は$\RM{mm}$の単位が現れるように単位を換算していきましょう。
$d$と$D$に関してはすでに$\RM{mm}$で表されているので、横弾性係数の単位換算について考えます。$G$については以下のように単位換算できます。
\begin{eqnarray}
G &=& 81 \, \RM{GPa} \EE
&=& 81 \times 10^9 \, \RM{N/m^2} \EE
&=& 81 \times 10^9 \, \RM{N/(10^3 mm)^2} \EE
&=& 81\times10^3 \, \RM{N/mm^2}
\end{eqnarray}
単位換算ができたので、前述のばね定数の公式に各数値を代入していきます。
\begin{eqnarray}
0.5 &=& \ff{81\times10^3\times 1.0^4}{64 \times n \times 5.0^3} \\
\end{eqnarray}
未知数は$n$だけであり、これを$n$について解くと、
\begin{eqnarray}
n &=& \ff{81\times10^3}{0.5 \times64 \times 5.0^3} \EE
&\NEQ& 20
\end{eqnarray}
とでき、巻き数を$20$とすれば狙ったばね定数にできることが分かります。
許容せん断応力と引張り力
次は既製品のばねに対して、どの程度まで力を加えても良いのかを計算することを考えます。
素線の許容せん断応力を$50\, \RM{MPa}$とし、素線直径を$1.0 \, \RM{mm}$、平均径$10 \, \RM{mm}$の場合にて加えられる引張力の最大値について計算します。
まず、許容せん断応力についても先ほどと同様に単位換算をすると、$50 \, \RM{N/mm^2}$となります。
次に、ワールの修正係数を用いて$W$を計算すると、以下のように計算でき、
\begin{eqnarray}
50 &=& K\ff{16\times W\times 5}{\pi \times 1.0^3} \EE
&=& \left( \ff{4\times 10-1}{4\times 10-4} + \ff{0.615}{10} \right)\ff{16\times W\times 5}{\pi 1.0^3} \EE
&\NEQ& 29 W \EE
\therefore \, W &\NEQ& 1.7 \RM{N}
\end{eqnarray}
となります。
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