ラザフォード散乱断面積とは?|ラザフォード散乱の理論と導出

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前回見たように散乱とは標的粒子との相互作用により、入射粒子の方向が変わる現象のことです。今回は、電荷同士の散乱について考えることにします。

さて、この電荷同士の散乱はラザフォード散乱とも呼ばれます。このように呼ばれる理由は歴史的な実験である、ラザフォードの実験(ガイガー・マースデンの実験)が電荷同士の散乱に関するものだったためです。

今回はラザフォード散乱について理論的な解析を行い、ラザフォード散乱断面積の導出を目指します。

ラザフォード散乱断面積

$E$ を入射粒子の全エネルギー、$k$ をクーロン定数、$q_1$ を入射粒子の電荷、$q_2$ を標的粒子の電荷、$\Theta$(シータ)を散乱角とする。このとき、ラザフォード散乱断面積 $\sigma(\Omega)$ は次のように表される。

\begin{split}
\sigma(\Omega)&=\left(\ff{kq_1q_2}{4E}\right)^2\ff{1}{\sin^4{\ff{\Theta}{2}}}\\
\,
\end{split}

ラザフォード散乱断面積を導出する準備として、離心率とエネルギーの関係を考察するところから始めます。

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離心率とエネルギーの関係

ラザフォード散乱断面積を導く準備として、離心率エネルギーの関係を導出する必要があります。この際、ラザフォード散乱が中心力のみにより運動であるため、天体力学の知識を活かすことができます。

なお、散乱の状況が下図のようになっているとします。

ラザフォード散乱の模式図

このとき、離心率 $e$ がラプラスベクトル $\B{P}$ を用いて $e^2=\DL{\ff{P^2}{\mu^2}=\ff{\B{P}}{\mu}\cdot\ff{\B{P}}{\mu}}$ の関係にあるという、天体力学の知識を使うと

\begin{split}
\mu^2e^2&=\B{P}\cdot\B{P}\EE
&=\left(\dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{h} + \frac{\mu}{r}\boldsymbol{r}\right)\cdot \left(\dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{h} + \frac{\mu}{r}\boldsymbol{r}\right)\EE
&=|\dot{\B{r}}\times \B{h}|^2-\ff{2\mu(\dot{\B{r}}\times \B{h})\cdot\B{r}}{r}+\mu^2
\end{split}

とでき、(ただし、$\B{h}$ を角運動量ベクトル $\mu$ を定数とします)

ところで、ベクトル三重積の公式を用いると、

\begin{split}
|\B{a}\times\B{b}|^2=a^2b^2-(\B{a}\cdot\B{b})^2
\end{split}

となるので、第一項の $|\dot{\B{r}}\times \B{h}|^2$ について、

\begin{split}
|\dot{\B{r}}\times \B{h}|^2&=\dot{r}^2h^2-(\B{\dot{r}}\cdot\B{h})^2 \EE
&=\dot{r}^2h^2-\{\B{\dot{r}}\cdot(\B{\dot{r}}\times\B{r})\}^2\EE
&=\dot{r}^2h^2-\{\B{r}\cdot(\B{\dot{r}}\times\B{\dot{r}})\}^2=\dot{r}^2h^2
\end{split}

とできます。なお、計算の途中で $\B{h}=\B{\dot{r}}\times\B{r}$ であることと、スカラー三重積の公式を利用しています。

次に、第二項については

\begin{split}
(\dot{\B{r}}\times \B{h})\cdot\B{r}&=(\B{r}\times\dot{\B{r}})\cdot\B{h}\EE
&=\B{h}\cdot\B{h}=h^2
\end{split}

と求められます。これらの結果を適用することで、最初の式を

\begin{split}
e^2&=\ff{2h^2}{\mu^2}\left(\ff{\dot{r}^2}{2}-\ff{\mu}{r} \right)+1
\end{split}

と整理できます。さて、エネルギー積分の結果を比較すると、括弧の中身が単位換算質量当たりの力学的エネルギー $\DL{\eps}$ に相当すると言えるので、

\begin{split}
e=\sqrt{1+\ff{2h^2\eps}{\mu^2}}
\end{split}

となって、離心率とエネルギーの関係が導出できました。なお、$E$ を全力学的エネルギーとして $\eps=\DL{\ff{m_1+m_2}{m_1m_2}E}$ の関係にあります。

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離心率とクーロン力

クーロン力万有引力と同様に逆二乗の法則であるため、上の結果を電荷同士の散乱に拡張できます。

クーロン力と散乱の模式図

さて、クーロン力の大きさ $F$ はクーロン定数を $k$、電荷を $q_1,q_2$ として

\begin{split}
F=k\ff{q_1q_2}{r^2}
\end{split}

と表せます。今、各電荷の質量を $m_1,m_2$ とすると、二体問題と同様の考え方を適用でき運動方程式は、

$$
\left\{
\begin{split}
m_1 \ddot{\boldsymbol{r}_1} &=k\frac{q_1q_2}{|\B{r}_2-\B{r}_1|^3} (\B{r}_1-\B{r}_2)\EE
m_2 \ddot{\boldsymbol{r}_1} &=k\frac{q_1q_2}{|\B{r}_2-\B{r}_1|^3} (\B{r}_2-\B{r}_1)
\end{split}
\right.
$$

これを変形すると

\begin{split}
\ddot{\B{r}}=\ff{kq_1q_2(m_1+m_2)}{m_1m_2}\B{r}
\end{split}

と一本の方程式にまとめられます。係数部分は上での $\mu$ に相当し、$\mu=\DL{\ff{kq_1q_2(m_1+m_2)}{m_1m_2}}$ となります。

さて、衝突係数 $b$ と角運動量 $h$ については $h=b\sqrt{2mE}$ の関係にあり、今 $h^2=\DL{\ff{2b^2(m_1+m_2)E}{m_1m_2}}$ であることに注意して計算を進めると、上で得た離心率の式は、

\begin{eqnarray}
e&=&\sqrt{1+\ff{4b^2E(m_1+m_2)}{m_1m_2}\cdot \ff{m_1+m_2}{m_1m_2}E\cdot\left\{\ff{m_1m_2}{kq_1q_2(m_1+m_2)} \right\}^2}\EE
&=&\sqrt{1+\left(\ff{2Eb}{kq_1q_2} \right)^2 }\tag{1}
\end{eqnarray}

となります。このように、離心率クーロン力の関係を導けました。

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クーロン力と散乱角

先述の結果よりクーロン力離心率が次の関係にあることが導けました。

\begin{split}
e&=\sqrt{1+\left(\ff{2Eb}{kq_1q_2} \right)^2 }
\end{split}

ここで、軌道方程式について考えると、

\begin{split}
r=\ff{p}{1+e\cos\q}
\end{split}

この逆数を取って、

\begin{split}
\ff{1}{r}=\ff{1+e\cos\q}{p}
\end{split}

さて、散乱の過程で電荷は下図のような双曲線を描きます。

双曲線の模式図

双曲線の漸近線と $\RM{AB}$ の成す角を $\Psi$ とすると、漸近線の位置では $\q\to \Psi$ かつ、$r=\infty$ となるので、

\begin{split}
\lim_{r\to\infty}\ff{1}{r}&=\lim_{\q\to\Psi}\ff{1+e\cos\q}{p}\EE
0&=1+e\cos\Psi\EE
\therefore\, &\cos\Psi=-\ff{1}{e}
\end{split}

が成立します。前回説明したように、散乱角 $\Theta$ と $\Psi$ の関係から、

\begin{split}
\cos\Psi&=\cos\left(\ff{\pi}{2}-\ff{\Theta}{2} \right)=-\ff{1}{e}\EE
&\therefore\, \sin\ff{\Theta}{2}=-\ff{1}{e}
\end{split}

が導け、さらに、$\DL{1+\ff{1}{\tan^2\q}=\ff{1}{\sin^2\q}}$ であることを利用すると、

\begin{eqnarray}
\ff{1}{\tan^2\ff{\Theta}{2}}=e^2-1\tag{2}
\end{eqnarray}

であることも言えます。

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ラザフォード散乱断面積の導出

以上の情報から、ラザフォード散乱断面積を導出していきます。まず、式$(1)$を変形して、

\begin{split}
e^2-1=\left(\ff{2Eb}{kq_1q_2} \right)^2
\end{split}

左辺に式$(2)$の結果を適用すると

\begin{split}
\ff{1}{\tan^2\ff{\Theta}{2}}=\left(\ff{2Eb}{kq_1q_2} \right)^2
\end{split}

これを衝突係数 $b$ について整理すると、

\begin{split}
b=\ff{kq_1q_2}{2E\tan\ff{\Theta}{2}}
\end{split}

となります。ここで散乱断面積の公式は、

\begin{split}
\sigma(\Omega)=\ff{b}{\sin\Theta}\left|\ff{\diff b}{\diff \Theta}\right|
\end{split}

と表せました。まず、$\DL{\ff{\diff b}{\diff \Theta}}$ について計算すると、

\begin{split}
\ff{\diff b}{\diff \Theta}&=\ff{kq_1q_2}{2E}\ff{\diff }{\diff \Theta}\left(\ff{1}{\tan\ff{\Theta}{2}}\right)\EE
&=-\ff{kq_1q_2}{4E}\cdot\ff{1}{\sin^2\ff{\Theta}{2}}
\end{split}

次に、$\DL{\ff{1}{\sin\Theta\tan{\ff{\Theta}{2}}}}$ については次のように計算できます。

\begin{split}
\ff{1}{\sin\Theta\tan{\ff{\Theta}{2}}}&=\ff{1}{2\sin{\ff{\Theta}{2}}\cos{\ff{\Theta}{2}}\tan{\ff{\Theta}{2}}}\EE
&=\ff{1}{2\sin^2{\ff{\Theta}{2}}}
\end{split}

したがって、散乱断面積

\begin{split}
\sigma(\Omega)&=\ff{b}{\sin\Theta}\left|\ff{\diff b}{\diff \Theta}\right|\EE
&=\ff{kq_1q_2}{2E\sin{\Theta}\tan\ff{\Theta}{2}}\cdot \left( \ff{kq_1q_2}{4E}\cdot\ff{1}{\sin^2\ff{\Theta}{2}} \right)\EE
&=\left(\ff{kq_1q_2}{4E}\right)^2\ff{1}{\sin^4{\ff{\Theta}{2}}}
\end{split}

と求められます。これは冒頭で紹介したラザフォード散乱断面積となります。

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