今回は、点電荷同士に作用する静電気力が従う基本法則である、クーロンの法則について説明します。
クーロンの法則は、数式とベクトルの記法を用いて次のように記述されます。
高校物理で学んだ、クーロンの法則の表記は $\DL{F=k\ff{q_1q_2}{r^2}}$ でしたが、これは静電気力の大きさを表すことに注意して下さい。大学以降の物理学では力がベクトルであることを意識していきます。そのため、上のような表記となるのです。
どうして上のように表せるのかについて、これから説明していきます。
クーロンの法則とは?
まずは、$q_1$ の電荷と $q_2$ の電荷が距離 $r$ だけ離れた状態を考えます。
このような状況で電荷に作用する静電気力 $F$ についてクーロンはねじり秤を用いて測定を行いました。
その結果、『二つの点電荷の間に作用する静電気力の大きさ $|F|$ はそれぞれの電気量の大きさ $|q_1|,|q_2|$ の積に比例し、点電荷の距離 $r$ の二乗に反比例する』ということを見出しました。
\begin{split}
|F|=k\ff{|q_1||q_2|}{r^2}
\end{split}
なお $k$ はクーロン定数と呼ばれる比例定数です。クーロン定数の詳細については別の機会に詳しく見ていきます。
クローンはさらに、同種の電荷の場合は互いに反発する力(=斤力)が作用し、異種の電荷の場合は互いに引き合う力(=引力)が作用することも発見しました。これらの功績を記念してクーロンの法則と呼ばれます。なお、クーロンはアモントン・クーロンの法則にもその名を残しています。
さて、力は大きさと向きを持つベクトルです。したがって、静電気力の大きさを表す上の式をベクトルの形に整えなければなりません。
ここで、$q_1$ を始点として $q_2$ に向かうベクトル $\B{r}$ を導入します。すると、電荷 $q_2$ に作用する $q_1$ からの静電気力 $\B{F}_{12}$ は $\B{r}$ に平行なベクトルになると言えます。
異種の電荷であれば積 $q_1q_2$ は負となり、また静電気力は引力となるので、$\B{F}_{12}$ は $\B{r}$ と反対方向を向くことになります。
以上のことから、静電気力の大きさと向きを規定できます。まず、$\B{F}_{12}$ の大きさは $\DL{k\ff{|q_1||q_2|}{|\B{r}|^2}}$ と言えます。そして、向きは積 $q_1q_2$ を $\B{r}$ に掛ければ規定できます。なぜなら、電荷が同種であれば $q_1q_2$ が正となって斤力となり、異種であれば積が負となって引力となるためです。
これらのことから静電気力を $\DL{k\ff{q_1q_2}{|\B{r}|^2}\B{r}}$ としたいところですが、これでは $\B{r}$ を余計に掛けた分、静電気力の大きさを過大に評価することになります。
この帳尻合わせのため、$\DL{\ff{1}{|\B{r}|}}$ を掛けなければなりません。したがって、$\B{F}_{12}$ は
\begin{split}
\B{F}_{12}=k\ff{q_1q_2}{|\B{r}|^3}\B{r}=k\ff{q_1q_2}{|\B{r}|^2}\cdot\ff{\B{r}}{|\B{r}|}
\end{split}
となります。見方を変えれば単位ベクトル $\DL{\ff{\B{r}}{|\B{r}|}}$ を最初の式に掛けたものと見ることもできます。以上、クーロンの法則は以下のようにまとめられます。
クーロンの法則と重ね合わせの原理
上では、二つの電荷の間に作用する静電気力を考えました。ここでは三個以上の電荷による静電気力について考えていきます。
三つの電荷が下のような配置になっているとき、電荷 $q_1$ が他の二つの電荷から受ける力はそれぞれ、
$$
\left\{
\begin{split}
\B{F}_{21}=k\ff{q_1q_2}{|\B{r}_{21}|^3}\B{r}_{21} \\[8pt]
\B{F}_{31}=k\ff{q_1q_3}{|\B{r}_{31}|^{3}}\B{r}_{31}
\end{split}
\right.
$$
と書くことができます。図から分かるように、$q_2,q_3$ の電荷から受ける力 $\B{F}$ は $\B{F}_{12}$ と $\B{F}_{31}$ を合成したものとなります。(→ベクトルの合成)
したがって、
\begin{split}
\B{F}=\B{F}_{21}+\B{F}_{31}=k\ff{q_1q_2}{|\B{r}_{21}|^3}\B{r}_{21}+k\ff{q_1q_3}{|\B{r}_{31}|^{3}}\B{r}_{31}
\end{split}
が成立します。これを一般の $n$ 個の電荷から受ける力に拡張すると、
\begin{split}
\B{F}=\sum_{j=2}^n\B{F}_{j1}=kq_1\sum_{j=2}^n\ff{q_j}{|\B{r}_{j1}|^{3}}\B{r}_{j1}
\end{split}
とできることが分かります。このように、静電気力の合力をそれぞれの電荷からの力を単純に合成したものとして計算できます。このことを、静電気力(クーロン力)の重ね合わせの原理と呼びます。
重ね合わせの原理を整理すると、次のように述べられます。
万有引力の法則との違いと共通点
ところで、クーロンの法則と万有引力の法則が表す式の形はほぼ同じです。
そのため、天体力学で用いた手法を活用することもできます。その例として、ラザフォード散乱断面積が挙げられます。
しかしながら、異なる点もあります。その違いとは、一つは静電気力には引力の他に斤力が存在すること、二つ目は静電気力が万有引力よりも $20$ 桁以上大きな力であるということ、最後に電荷の運動によって磁場も生じることです。
静電気力がいかほど大きな力であるかは、簡単な計算からも分かります。たとえば、$1\,\RM{m}$ 離れた $1\,\RM{kg}$ の質点同士に作用する万有引力の大きさ $f_g$ は、
\begin{split}
f_g=6.7\times10^{-11}\times\ff{1\times 1}{1^2}=6.7\times10^{-11}\,\RM{N}
\end{split}
となる一方、$1\,\RM{C}$ の電荷同士に作用する静電気力 $f_q$ は、
\begin{split}
f_q=9.0\times10^{9}\times\ff{1\times 1}{1^2}=9.0\times10^{9}\,\RM{N}
\end{split}
となります。これらを比較すると、$20$ 桁以上も大きさに違いがあることが分かります。したがって、万有引力が小さいために使えた近似手法を電磁気学には適用できません。
また、電荷の運動により磁場が生じます。生じた磁場は電荷の運動にも影響を及ぼすので、やはり天体力学とおなじ手法は使えません。これが万有引力との最大の違いとなります。