今回は導体が示す、四つの重要な性質について説明します。
結論から示すと導体は次の四つの性質を示します。
まずは、一番目の性質として挙げられる静電遮蔽と呼ばれる性質から説明します。
静電遮蔽とは?
今まで説明してきたように、金属のように良く電気を通す物質のことを導体と呼びます。また、導体の電気を通しやすいという性質は、導体内部を自由に動き回れる自由電子が存在することに由来します。
ここで、導体を外部電場の中に置いたとき何が起きるのかを考えていきます。
まず、$\B{E}_0$ の外部電場の中に導体を置いたとしましょう。ただし、電場は左から右に向かっているとします。
このとき、導体中の自由電子は $\B{E}_0$ による静電気力によって $\B{E}_0$ とは逆方向に移動します。したがって、自由電子は導体の左側に集まります。そのため、導体の左側は負に帯電します。
一方、導体の右側は正に帯電していきます。このような現象を静電誘導または静電分極と呼ぶのでした。
このように、外部電場によって導体の端は正負の電荷が分布した状態となります。これにより、上図のように二次的な電場 $\B{E}_1$ が形成されます。また、図から分かるように $\B{E}_1$ は $\B{E}_0$ とは逆向きで右から左側に向かう方向となります。
よって、導体内の正味の電場 $\B{E}$ は $\B{E}=\B{E}_0-\B{E}_1$ と与えられます。$\B{E}$ によって自由電子は移動します。そして、$\B{E}$ が最終的に $\B{0}$ となるまで導体内の自由電子の移動は続きます。
以上の議論から分かるように、十分な時間が経てば導体内の正味の電場は $\B{0}$ となります。ゆえに、以下の関係が成立します。
\begin{split}
\B{E}=\B{E}_0-\B{E}_1=\B{0}
\end{split}
このように外部の電場を受けても自由電子の移動によって内部の電場が $\B{0}$ となる現象のことを静電遮蔽と呼びます。
もちろん、外部電場が無ければ導体内部の電場も存在しないので、冒頭で述べた導体の性質 $1$(導体内部に電場は存在しない)が成立することが言えます。
導体内部の電位
静電遮蔽の結果、導体内部には電場が存在しないことが分かりました。ここで、電場と電位の関係式を思い出しましょう。
\begin{split}
\B{E}=-\RM{grad}\phi
\end{split}
導体内部の電場を考えているため、左辺は $\B{0}$ となります。したがって、上式を書き下すと
\begin{split}
\B{0}=-\ff{\del \phi}{\del x}\B{i}-\ff{\del \phi}{\del y}\B{j}-\ff{\del \phi}{\del z}\B{k}
\end{split}
これより、
$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del \phi}{\del x}&=0\EE
\ff{\del \phi}{\del y}&=0\EE
\ff{\del \phi}{\del z}&=0
\end{split}
\right.
$$
が成立します。これらの式は導体内部のどの点でも電位が一定であることを意味し、$\phi=const.$ であることが分かります。
以上より、性質 $2$ の『導体内の全ての点で電位が等しい』ということが分かります。ただし、これが成立するのは自由電子等の自由電荷が静止している場合であることに注意して下さい。
空洞を持つ導体と静電遮蔽
前述のように、導体内の電場は静電遮蔽によって $\B{0}$ となります。では、導体内に空洞があるとき、導体内の電場はどのようになるでしょうか?
まず、結論を示します。
このようになる理由について説明します。
それに当たり、背理法を用います。まず、空洞内の電場が $\B{0}$ でないと仮定します。すると、空洞内に電気力線が存在することになるので、電気力線の始点の壁面には正の電荷、終点には負の電荷が現れると言えます。
言い換えると、始点の電位は終点の電位よりも高くなることを意味します。
しかしながら、これは性質 $2$ の『導体内の全ての点で電位が等しい』という性質に矛盾します。ゆえに空洞の内壁には電荷が現れず、また電場も $\B{0}$ となることが分かります。
これより、電荷は導体表面にのみ現れることも分かります。
さらに、先述の議論を適用すると空洞内の電位も導体と等電位であることが分かります。以上より、上の結論が示されました。
導体の四つの性質
静電遮蔽の議論から導体についての重要な性質が導かれます。すなわち、導体には次の四つの重要な性質があります。
$1$ 番目と $2$ 番目については、今までの議論から分かるように成立します。したがって、$3$ 番目と $4$ 番目について示していきます。
性質 $3$ の証明
まず、$3$ 番目の性質についてです。今まで説明してきたように、外部の電場があったとしても静電誘導によって、導体内部の正味の電場は $\B{0}$ となります。
この状況の下で導体内部に閉曲面 $S$ を設定し、積分型のガウスの法則について考えてみます。
積分型のガウスの法則は次のように与えられ、
\begin{split}
\int_S\B{E}\cdot \B{n}\diff S=4\pi k\int_V\sigma \diff V
\end{split}
今、性質 $1$ より導体内部は $\B{E}=\B{0}$ となることを思い出しましょう。そのため、左辺の積分結果も $0$ となります。よって、
\begin{split}
\int_S\B{E}\cdot \B{n}\diff S&=4\pi k\int_V\sigma \diff V=0\EE
\therefore\,\, \sigma &= 0
\end{split}
が成立し、閉曲面内部の電荷密度が $0$ となると言えます。ゆえに、この閉曲面内部には電荷が存在しないことが分かります。この議論は導体内部では成立するため、導体内部に電荷が存在しないことが言えます。言い換えると、電荷は導体表面のみに存在することが言えます。
以上より、性質 $3$ の『電荷は導体表面のみに存在する』が示されました。
性質 $4$ の証明
次に、$4$ 番目の性質について示します。この証明では、点 $\RM{A}$ と $\RM{B}$ の間での電位差 $\D V$ は、内積と積分を用いて次のように表せることを用います。
\begin{split}
\D V=-\int_{A}^B\B{E}\cdot \diff \B{l}
\end{split}
導体表面でこの計算を実行したとき、もし $\D V\neq 0$ であったなら導体内に電位差があることを意味し、性質 $2$ に反します。したがって、常に $\D V=0$ が成立します。これの意味を上式に当てはめて考えると、電場は導体表面の線素と直交することを意味します。
ゆえに、性質 $4$ の『導体表面に形成される電場は表面に垂直な方向を向く』ことが示されました。