誘電率の異なる誘電体の境界を電場(または電束密度)が通過するとき、光と同様に電場(または電束密度)は屈折します。
これは、電場の屈折と呼ばれる現象であり、具体的には以下の関係として与えられます。
今回は電場の屈折の法則が上のように表される理由について説明します。導出の始めとして、入射した電場の水平方向成分の変化について考えます。
電場とストークスの定理
始めに、誘電率の異なる物体に電場(または電束密度)が入射したときの振る舞いについて考えます。このとき、電場 $\B{E}$ が $\q_1$ の入射角から入っているとし、誘電体の誘電率をそれぞれ $\eps_1,\eps_2$ とします。
さて、誘電体の境界では電場(または電束密度)の屈折が起きます。屈折角が $\q_2$ であったとして、$\q_1$ と $\q_2$ の関係を導きます。
手始めに入射した電場の水平方向の成分の変化について考えます。準備として、誘電体の境界を取り囲む閉曲線 $C$ に沿った以下の線積分の値を求めます。
\begin{split}
\oint_C\B{E}\cdot\diff \B{s}
\end{split}
閉曲線の形状は任意のため、上図のような長方形の経路を設定します。このとき、上辺と下辺での単位接ベクトルをそれぞれ $\B{t},-\B{t}$ とし、境界面を横切る辺の長さが微小であるとすると線積分の値を
\begin{split}
\oint_C\B{E}\cdot\diff \B{s}&\NEQ(\B{E}_1-\B{E}_2)\cdot \B{t}
\end{split}
と近似できます。
さて、電位を考えた際に導いたように、静電気力(クーロン力) $\B{F}$ は $\RM{rot}\B{F}=\B{0}$ の関係にありました。ゆえに、電場 $\B{E}$ も $\RM{rot}\B{E}=\B{0}$ の関係があります。
ところで、$\DL{\oint_C\B{E}\cdot\diff \B{s}}$ については、流体力学で循環と渦度の関係で説明したように、ストークスの定理を用いると
\begin{split}
\oint_C\B{E}\cdot\diff \B{s}=\int_S\RM{rot}\B{E}\cdot\B{n}\diff S
\end{split}
と変換できて、今、$\RM{rot}\B{E}=\B{0}$ であるために右辺は $0$ となります。したがって、$\DL{\oint_C\B{E}\cdot\diff \B{s}=0}$ と言え、ゆえに
\begin{split}
(\B{E}_1-\B{E}_2)\cdot \B{t}=0
\end{split}
これより、電場の水平方向成分は
\begin{eqnarray}
E_1\sin\q_1=E_2\sin\q_2\tag{1}
\end{eqnarray}
の関係にあることが分かります。さらに、$\B{E}$ の接線成分は連続であることも言えます。
一方、電束密度 $\B{D}$ の水平方向成分を考えた場合は、$\left(\ff{\B{D}_1}{\eps_1}-\ff{\B{D}_2}{\eps_2} \right)\cdot \B{t}=0$ となるので、$\B{D}$ の接線成分は不連続であることも分かります。
電束密度と積分型のガウスの法則の導出
電束密度に対しても同様の計算を行うのですが、これを行う準備として電束密度と(積分型の)ガウスの法則の関係について再考します。
まず、こちらで説明したように電束密度 $\B{D}$ と電荷密度 $\rho$ の間にも(微分型の)ガウスの法則、
\begin{eqnarray}
\RM{div}\B{D}=\rho
\end{eqnarray}
が成立します。そして、両辺を体積 $V$ について積分した結果について考えます。
\begin{eqnarray}
\int_V\RM{div}\B{D}\,\diff V=\int_V\rho\diff V
\end{eqnarray}
右辺については誘電体全体に含まれる電気量を計算していることになります。したがって、誘電体の持つ電気量 $Q$ と一致します。よって、$\DL{\int_V\rho\diff V=Q}$ と言えます。
さて、左辺についてですが、このままでは計算が行えないため、ガウスの発散定理を用いての変換を行います。すなわち、
\begin{eqnarray}
\int_V\RM{div}\B{D}\,\diff V=\int_S\B{D}\cdot\B{n}\diff S
\end{eqnarray}
として、右辺の閉曲面の選び方は任意のため、例えば閉曲面を半径 $r$ の球面とすると次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
\int_S\B{D}\cdot\B{n}\,\diff S&=\int_S\left(D\ff{\B{r}}{r}\right)\cdot\ff{\B{r}}{r}\diff S\EE
&=D\cdot 4\pi r^2
\end{eqnarray}
この計算は任意の閉曲面でも成立します。よって、閉曲面の表面積を $S$ として $\DL{\int_S\B{D}\cdot\B{n}\diff S=DS}$ とできます。
以上より、$\DL{\int_S\B{D}\cdot\B{n}\,\diff S=Q}$ となります。この結果は、電束密度についての積分型のガウスの法則であると言えます。
電場の屈折の法則
上の結果を利用して、再び誘電体の境界での電場の屈折について考えていきます。この節では、入射した電場の鉛直方向の成分の変化について考えます。
これを計算するため、誘電体の境界を取り囲む閉曲面 $S$ の面積分を実行します。なお、閉曲面は任意なため、閉曲面を円柱とします。そして、誘電体の境界に対して面積分を実行します。今、境界には電荷が無いため前述のガウスの法則の右辺は $0$ となります。したがって、
\begin{eqnarray}
\int_S\B{D}\cdot\B{n}\diff S=0
\end{eqnarray}
であり、円柱の高さは微小なため、円柱側面での面積分への寄与は無視できます。したがって、
\begin{eqnarray}
\int_S\B{D}\cdot\B{n}\diff S&\NEQ \int_S(\B{D}_1\cdot\B{n}-\B{D}_2\cdot\B{n})\diff S=0
\end{eqnarray}
と近似できます。ただし、$\B{n},-\B{n}$ を円柱上面または下面に対する単位法線ベクトルとします。
上の結果から、$(\B{D}_1-\B{D}_2)\cdot\B{n}=0$ と言えるため、
\begin{eqnarray}
D_1\cos\q_1=D_2\cos\q_2
\end{eqnarray}
が得られます。これより、$\B{D}$ の法線成分は連続となることが分かります。一方、電場 $\B{E}$ の法線成分についてですが、$\B{D}=\eps\B{E}$ の関係にあることより、
\begin{eqnarray}
(\eps_1\B{E}_1-\eps_2\B{E}_2)\cdot\B{n}=0
\end{eqnarray}
となりますが、$\eps_1\neq \eps_2$ のために、$\B{E}$ の法線成分は不連続となります。今までの結果をまとめると、連続の成分として次の二式が得られます。
$$
\left\{
\begin{split}
&E_1\sin\q_1=E_2\sin\q_2\EE
&D_1\cos\q_1=D_2\cos\q_2
\end{split}
\right.
$$
辺々を割ると
\begin{split}
\ff{E_1}{D_1}\tan\q_1=\ff{E_2}{D_2}\tan\q_2
\end{split}
さらに、$D_1=\eps_1E_1,D_2=\eps_2E_2$ であることを用いて整理すると、
\begin{split}
\ff{\tan\q_1}{\tan\q_2}=\ff{\eps_1}{\eps_2}
\end{split}
が得られます。この関係は冒頭で示した、電場の屈折の法則となります。