今回は鏡像法と呼ばれる方法により、導体平板と点電荷が形成する電場と電位の分布を計算していきます。
鏡像法を用いることで、平板や球体周辺に形成される電場や電位を簡便に求められるようになります。
実際、点電荷により導体平板上に形成される電場の大きさは次のように与えられます。
なお、流体力学でも同様に鏡像法を用いて解析を行うことができます。詳しくはこちらで解説しています。
上の結果を導出するため、まずは導体平板の近くに点電荷を置いたときに何が起きるのかを見ていきましょう。
電荷の鏡像法とは?
鉄のような導体でできた平板の近くに、電気量 $Q$ の電荷を置いた状況について考えます。
このとき、平板表面には静電誘導によって、点電荷とは異種の電荷が現れます。例えば、点電荷が正のとき、平板表面には負の電荷が現れます。また、平板の裏面に正の電荷が同時に現れることにも注意して下さい。
ここで平板を接地すると、平板裏面の正電荷を打ち消すように電子が流入してきます。最終的には、平板表面のみに負電荷が残ることになります。
さて、接地した物体は電気的に地球と一つの系と見なせることに注目しましょう。したがって、地球の電位を基準電位 $0$ とすると、平板の電位も $0$ となります。
ところで、電荷周辺(電荷が存在しない空間)では電位 $\phi$(ファイ)は次のラプラス方程式を満たします。
\begin{split}
\ff{\del^2\phi}{\del x^2}+\ff{\del^2\phi}{\del y^2}+\ff{\del^2\phi}{\del z^2}=0
\end{split}
もちろん、導体平板周辺に形成される電位も上の方程式を満たすと言えますが、平板の電位が $0$ となる境界条件の設定や $\phi$ を見出すことは大変です。
代わりに、平板を取り去って線対称な位置に負電荷を設置した状況を考えます。この様子は下のように図示できます。
このとき、垂直二等分線が導体平板に相当します。そして、垂直二等分線上では二つの電荷からの距離が等しいことに注意しましょう。すると、以下の計算から電位が $0$ であることが言えます。
\begin{split}
\phi=-kQ\left( \ff{1}{r}-\ff{1}{r} \right)=0
\end{split}
鏡写しの位置に電荷を配置することで、元の問題を単純な状況に置き換える方法のことを鏡像法と呼びます。
次節では、鏡像法が本当に元の問題と同じ結果となることを説明します。
鏡像法の数学的背景
上述のように、仮想的な電荷を対称な位置に置くことで、垂直二等分線上の電位を $0$ とできました。問題は、これが平板と電荷のモデルとして適切なのかということです。そこで、電荷を対称に設置したモデルは、平板を置いたモデルでの電場と電位の分布と等しいことを確認していきます。
これを考えるとき、境界条件を与えた時、偏微分方程式の解は一意に決まるという性質を利用します。
さて、対称に電荷を置いた場合、その等電位面線は下図のような赤線となります。なお、青線は電気力線を表します。
これは先述の議論や上図からも分かる通り、垂直二等分線の電位が $0$ となります。
ところで、与えられた境界条件を満たす偏微分方程式の解は、ただ一つしか存在しません。したがって、$\phi=0$ という境界条件を満たす電位の分布もただ一つしか無いと言えます。
そのため、$\phi=0$ を満たす上のような電荷の配置は、そのまま導体平板と点電荷が形成する電場と電位の分布を再現すると言えます。
以上のことから鏡像法によって置き換えても、問題なく元の状態の電場と電位の分布を再現できることが言えます。
なお、鏡像法のより深い背景には複素関数論があります。また、流体力学に鏡像法を用いた場合についてはこちらで解説しています。
鏡像法による導体平板と点電荷の電場・電位の導出
早速、点電荷により導体平板に形成される電場の分布について、鏡像法を用いて求めていきましょう。
始めに、接地された導体平板から距離 $L$ の位置に電気量 $Q$ の点電荷が置かれているとき、この電荷が受ける力を計算します。
鏡像法を適用すると、対称の位置に $-Q$ の電荷を置いた状態に変換できます。
このとき、点電荷が平板より受ける静電気力の大きさ $F$ は次のように表せます。
\begin{split}
F=k\ff{Q^2}{(2L)^2}=\ff{1}{4\pi \eps_0}\cdot\ff{Q^2}{4L^2}=\ff{Q^2}{16\pi \eps_0L^2}
\end{split}
※ クーロン定数 $k$ と真空の誘電率 $\eps_0$ については、$\DL{k=\ff{1}{4\pi \eps_0}}$ の関係にあることを用いています。
次に、電場の大きさの分布を求めます。
図のように、導体平板上の鉛直方向距離を $y$、点電荷と成す角を $\q$ とします。すると、二つの点電荷による電場の大きさは次のように表せます。
\begin{split}
E&=2\times k\ff{Q}{y^2+L^2}\cdot\cos\q
\end{split}
今、$\cos\q=\DL{\ff{y}{\sqrt{y^2+L^2}}}$ とできるので、
\begin{split}
E&=\ff{2kQ}{y^2+L^2}\cdot \ff{y}{\sqrt{y^2+L^2}}\EE
&=\ff{Q}{2\pi\eps_0}\cdot \ff{y}{(y^2+L^2)^{\ff{3}{2}}}
\end{split}
が得られます。以上より、点電荷により導体平板上に形成される電場を次のように記述できます。
また、位置 $y$ における単位面積当たりの電荷密度(=面密度)を $\sigma (y)$ とします。このとき、電荷密度と電場の大きさの関係を用いると、$\sigma (y)=\eps_0 E$ となります。ゆえに、
\begin{split}
\sigma (y)&=\eps_0\,E\EE
&=\eps_0\cdot \ff{Q}{2\pi\eps_0}\cdot \ff{y}{(y^2+L^2)^{\ff{3}{2}}}\EE
&=\ff{Q}{2\pi}\cdot\ff{y}{(y^2+L^2)^{\ff{3}{2}}}
\end{split}
が得られます。