今回は電気双極子と呼ばれる、電気量の絶対値が等しい正電荷と負電荷の対の系について考えます。さて、電気双極子とは次のように定義される状態のことです。
電気双極子の重要なパラメータとして、電気双極子モーメントと呼ばれるパラメータがあります。
電気双極子に関わるこれらのパラメータの導出を行っていきます。まずは、電気双極子について説明を行います。
電気双極子とは?
下図に示すように、符号が異なる電気量が等しい大きさの電荷がある間隔だけ隔てて存在するとき、これを一つの系と見て、電気双極子あるいはダイポールと呼びます。
電気双極子は原子や分子のモデルとして用いられ、分子間力や分子の性質を説明する際、重要な役割を果たします。
また、誘電分極の説明にも電気双極子を用いることができます。
では実際に電気双極子の性質を見ていきましょう。まずは、電気双極子の形成する電位について計算してみましょう。
電気双極子の形成する電位
下のように、電気量が $-q,q$ の点電荷が距離 $l$ だけ離れてペアとなっている電気双極子について考えます。
このとき、二つの電荷が形成する電気力線は図のように描画できます。ここで、座標が $(x,y)$ の位置での電位 $\phi$ は次のように表せます。
\begin{split}
\phi=k\ff{q}{r_2}-k\ff{q}{r_1}=kq\left(\ff{1}{r_2}-\ff{1}{r_1} \right)
\end{split}
ただし、$r_1,r_2$ を各電荷からの距離とします。今、$\DL{r_1=\sqrt{(x-a)^2+y^2},\,r_2=\sqrt{(x+a)^2+y^2}}$ なので、これらは極座標を用いて、
$$
\left\{
\begin{split}
r_1&=\sqrt{r^2-2ar\cos\q+a^2} \EE
r_2&=\sqrt{r^2+2ar\cos\q+a^2}
\end{split}
\right.
$$
とできます。これを先程の電位の式に適用すると、
\begin{split}
\phi=kq\left\{\ff{1}{\left( r^2-2ar\cos\q+a^2 \right)^{\ff{1}{2}}}-\ff{1}{\left( r^2+2ar\cos\q+a^2 \right)^{\ff{1}{2}}} \right\}
\end{split}
さて、$\A$ が微小であるとき、$(1\pm \A)^z\NEQ 1\pm z\A$ という近似が成立することを利用すると、
\begin{split}
\phi&\NEQ kq \cdot\ff{1}{r}\left\{1+\ff{a}{r}\cos\q-\left(1-\ff{a}{r}\cos\q \right)\right\}\EE
&=k\ff{2qa}{r^2}\cos\q
\end{split}
と整理できます。以上より、電気双極子の電位を次のように表せます。
次に、電気双極子が形成する電場の計算を行っていきます。
電気双極子の形成する電場
上で得られたように、電気双極子の周囲の電位は $\phi=\DL{kp\ff{x}{r^3}}$ と表せました。
ところで、電場 $\B{E}$ と電位 $\phi$ の間には
\begin{split}
\B{E}=-\nabla \phi\\
\end{split}
という関係がありました。これより電気双極子の電場を、
\begin{split}
\B{E}=-\nabla \left( kp\ff{x}{r^3} \right)=-kp\nabla \left( \ff{x}{r^3} \right)
\end{split}
と表せます。今、$r=\DL{\sqrt{x^2+y^2}}$ の関係にあるので、二次元平面上での電場のそれぞれの大きさ $E_x,E_y$ が、
\begin{split}
E_x&=-kp\ff{\del}{\del x}\left( \ff{x}{r^3} \right)=-kp\left( \ff{1}{r^3}-\ff{3x^2}{r^5} \right)\EE
&=\ff{kp}{r^3}(3\cos^2\q-1)\EE
E_y&=-kp\ff{\del}{\del y}\left( \ff{x}{r^3} \right)=-kp\cdot\ff{3xy}{r^5}\EE
&=\ff{3kp}{r^3}\sin\q\cos\q
\end{split}
と求められます。以上より、電気双極子の電場は次のようになります。
電気双極子モーメントとは?
ここで、電場が $\B{E}$ で一定の空間に電気双極子が置かれているとします。この状況で電気双極子に作用するモーメントを求めてみます。
このとき、電気双極子の各電荷に作用する静電気力の大きさを $qE$ と表せます。したがって、モーメント $N$ が次のように計算できます。
\begin{split}
N&=\ff{l}{2}\sin\q\cdot qE+\ff{l}{2}\sin\q\cdot qE\EE
&=qlE\sin\q=(2qa)E\sin\q
\end{split}
ここで $l=2a$ とすると、$N=(2qa)E\sin\q$ ともできます。
さて、これまで見てきたように $2qa$ というパラメータは、電気双極子の電位や電場を表す式に現れます。さらに、$2pa$ はモーメントにも現れました。そのため、$2pa$ というパラメータに電気双極子モーメントという名前を付けることにします。