電流密度と電荷保存則|電磁気学の基本法則と電流の関係

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電流は確かに有用な物理量ではありますが、電磁気学では電流をより扱いやすくした電流密度というものを用います。なお、電流密度は次のように定義される物理量です。

電流密度とは?

単位時間当たり、単位断面積を通過する電気量電流密度 $\B{j}$ と呼ぶ。
また、正電荷の運動方向を電流密度の正方向と定める。

なお、電流密度の単位として $[\RM{A/m^2}]$ を用いる。

上の定義から分かるように電流密度は、電流ベクトル量として定義し直した物理量であると言えます。また、電流密度を用いると電荷保存則を以下のように定式化できます。

電荷保存則とは?

電荷は新たに生じることも消滅することも無い。(電荷は不生不滅)

これを電荷保存則と呼び、積分または微分を用いて次のように表せる。

$$
\left\{
\begin{split}
&\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S+\ff{\diff }{\diff t}\int_V\rho\,\diff V=0\EE
&\,\RM{div} \B{j}+\ff{\del \rho}{\del t}=0
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\B{j}$ を電流密度、$\B{n}$ を断面に対する法線ベクトル、$\rho$ を電荷密度とする。

まずは電流の概念を拡張した電流密度の説明について行います。

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電流密度とは?

こちらで説明したように電流『単位時間当たりに断面積 $S$ を通過する電気量と定義されます。

この定義は電流を扱うだけなら良いですが、実用に際しては導線の断面積を定めなければならず、また、電流の値自体はスカラー量のため、方向に関する情報を持たないという問題があります。

そこで、電荷の流れの方向の情報を持ち、また計算上でも便利なように単位時間・単位面積当たりに通過する電気量と定義される電流密度という物理量を導入することにします。これを具体的に定義すると次のようになります。

電流密度とは?

単位時間当たり、単位断面積を通過する電気量電流密度 $\B{j}$ と呼ぶ。
また、正電荷の運動方向を電流密度の正方向と定める。

なお、電流密度の単位として $[\RM{A/m^2}]$ を用いる。

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電流と電流密度の関係

前述のように電流密度を定義したので、電流との関係を整理しておくこととします。

電流密度と電流の関係

図のように断面積 $\diff S$ の導線があったとして、これに $\diff I$ の電流と $\B{j}$ の電流密度が流れているとします。

$\B{j}$ は正電荷の運動方向を向いており、必ずしも $\diff S$ の法線方向を向いていないことに注意が必要です。例えば、$\B{j}$ が法線に対して $\q$ の角度を成しているとき、法線方向成分 $j_n$ は

\begin{split}
j_n=|\B{j}|\cos \q
\end{split}

とできます。したがって、$\diff S$ を通る電流 $\diff I$ との関係を下のように記述できます。

\begin{split}
\diff I=j_n\,\diff S=|\B{j}|\cos \q\,\diff S
\end{split}

上の結果はさらに $\diff S$ の法線ベクトル $\B{n}$ を用いることで、

\begin{split}
\diff I=(\B{j}\cdot \B{n})\diff S=|\B{j}|\cos \q
\end{split}

と、内積を用いて表現できます。よって、断面積 $S$ の導線を通る電流 $I$ と電流密度 $\B{j}$ との関係は、面積分を用いて、

\begin{split}
I=\int_S(\diff I)\diff S=\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S
\end{split}

と表せることが分かります。以上より、電流電流密度の関係を述べることができます。

電流と電流密度の関係

電流 $I$ は電流密度 $\B{j}$ を用いて次のように表せる。

\begin{split}
I=\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S
\end{split}

ただし、$\B{n}$ を断面に対する法線ベクトルとする。

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電荷保存則とは?

現時点の科学では、電荷が消滅することも新たに生じることも観測されてはいません。したがって、『電荷は突然現れたり消滅しない』と考えられています。言い換えると、現存する電荷は過去・現在・未来に渡って常に一定量であるということになります。

そのため、この性質は電磁気学の基本法則の一つであると認識されており、電荷保存則と呼ばれています。また、電荷保存則は以下のように記述できます。

電荷保存則とは?

電荷が新たに生じることも消滅することも無い。(電荷は不生不滅)

これを電荷保存則と呼び、積分または微分を用いて次のように表せる。

$$
\left\{
\begin{split}
&\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S+\ff{\diff }{\diff t}\int_V\rho\,\diff V=0\EE
&\,\RM{div} \B{j}+\ff{\del \rho}{\del t}=0
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\B{j}$ を電流密度、$\B{n}$ を面に対する法線ベクトル、$\rho$ を電荷密度とする。

電荷保存則が上のように記述される理由について説明します。まずは、積分型の電荷保存則の導出を行います。

積分型の電荷保存則の導出

電荷保存則は、『電荷が新たに生じることも消滅することも無い』ということを表現しますが、その意味を考えることで電荷電流電流密度)の関係を導くことができます。

さて、下図のように体積 $V$ で表面積 $S$ の物体があったとします。このとき、物体に入る電気量を正、出ていく電気量を負と定義します。

電荷保存則の模式図

今、物体に電流 $I$ が流れているとします。始めに物体が持っていた総電気量を $Q$ として、$\D t$ 秒後の電気量が $Q-\D Q$ に変化したとすると、電荷保存則より、

\begin{split}
I\D t=(Q-\D Q)-Q=-\D Q
\end{split}

が成立します。両辺を $\D t$ で割ると $I=\DL{-\ff{\D Q}{\D t}}$ と整理でき、さらに $\D t$ の極限を考えると、

\begin{split}
I=-\ff{\diff Q}{\diff t}
\end{split}

が導けます。左辺については電流密度 $\B{j}$ を用いて変形でき、右辺の $Q$ についても電荷密度 $\rho$ と体積分を用いることで置き換えられます。したがって、

\begin{split}
\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S=-\ff{\diff }{\diff t}\int_V\rho\,\diff V
\end{split}

が得られます。上式を移項すると、積分型の電荷保存則 $\DL{\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S+\ff{\diff }{\diff t}\int_V\rho\,\diff V=0}$ が導けます。

ところで、積分型の電荷保存則の第二項は物体の電荷の増減を表しますが、これが $0$ となる場合でも電荷の流れがないという意味ではありません。このように、時間変化が無い電流のことを定常電流と呼びます。

定常電流とは?

ある物体に流入した電荷と流出した電荷が同じ量であるとき、電流の時間変化は無い。

時間変化の無い電流を定常電流と呼び、以下の式が成立する。

\begin{split}
\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S=0\\
\,
\end{split}

微分型の電荷保存則の導出

上で導出した積分型の電荷保存則の左辺第一項に対して、ガウスの発散定理を適用します。すると、

\begin{split}
\int_S\B{j}\cdot \B{n}\,\diff S&=\int_V\RM{div}\B{j}\,\diff V\EE
\end{split}

と変形できます。ただし、$\RM{div}$ は発散という計算方法を表す記号です。よって、積分型の電荷保存則は、

\begin{split}
&\int_V\RM{div}\B{j}\,\diff V+\ff{\diff }{\diff t}\int_V\rho\,\diff V=0\EE
\therefore\,&\int_V\left(\RM{div}\B{j}+\ff{\del \rho}{\del t} \right)\diff V=0
\end{split}

と整理できます。これが恒等的に成立するため、

\begin{split}
\RM{div}\B{j}+\ff{\del \rho}{\del t}=0
\end{split}

が導けます。以上より、上で説明した微分型の電荷保存則が導けました。上式についても第二項が $0$ となる定常電流の場合では、発散が $0$ となります。よって、微分型の電荷保存則の枠組みで定常電流を記述すると、

\begin{split}
\RM{div}\B{j}=0
\end{split}

となります。

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