今回は電圧あるいは電位差と呼ばれる重要な概念について説明します。さて、電気を押し出す力とも説明される電圧は、次のように説明される物理量です。
上の定義だけでは電圧を上手く計算できませんが、電場と組み合わせることで電圧を具体的な式に落とし込め、次のように与えることができます。これは、力学における位置エネルギー(=ポテンシャルエネルギー)と同じ形をしていることに注意して下さい。
このように与えられる理由を理解するため、まずは電圧という概念についての説明を行います。
電圧とは?
まず、電位は $3$ 次元空間上の関数と見なせるため、$\phi(x,y,z)$ と表現できます。例えば、点 $\RM{A}$ と $\RM{B}$ での電位は $\phi_A(x,y,z),\phi_B(x,y,z)$ と表せます。
このとき、次式で表される二点間の電位の差 $\D \phi$ を電位差あるいは電圧と呼びます。
\begin{split}
\D \phi=\phi_B(x,y,z)-\phi_A(x,y,z)
\end{split}
一般の場合での経路について電位差を計算する場合は積分を用います。例えば、下図のような赤線の経路で電荷を移動させたときの電圧(電位差)について考えます。
このとき、$i$ 番目の微小区間についての電位差を $\D \phi_i$ と置きます。すると、経路全体の電位差が次のように近似できます。
\begin{split}
\D \phi\NEQ\sum_{i=1}^n \D \phi_i
\end{split}
微小区間の極限を考えると、上式は積分に置き換えることができます。すなわち、
\begin{split}
\D \phi=\int_A^B\diff \phi=\phi_B(x,y,z)-\phi_A(x,y,z)
\end{split}
と与えることができます。
なお、こちらで説明したように静電気力は保存力の必要十分条件を満たします。したがって、静電気力から導かれる電圧(電位差)も経路に関わらず、始点と終点の電位の値のみで決まる性質を持ちます。この性質を利用して後ほど電圧の計算を行います。
電圧を具体的に計算する前に、電圧の具体的な計算式の導出を次節にて行います。
電圧の一般式の導出
一般の経路について電圧 $\D \phi$ が
\begin{split}
\D \phi=\int_A^B\diff \phi=\phi_B(x,y,z)-\phi_A(x,y,z)
\end{split}
と求められることは先述の通りです。しかしながら、これだけでは電圧の具体的な計算が行えません。そこで、電場を用いて電圧を表すことにします。最初の一手として、$\diff \phi$ を全微分で表すことにします。すなわち、
\begin{split}
\diff \phi=\ff{\del \phi}{\del x}\diff x+\ff{\del \phi}{\del y}\diff y+\ff{\del \phi}{\del z}\diff z
\end{split}
とでき、次の一手として、電場と電位の関係式を利用します。すなわち、$\DL{\B{E}=-\nabla \phi}$ の関係があるので電場と電位の対応として、
\begin{split}
(E_x,E_y,E_z)&=\left(-\ff{\del \phi}{\del x},-\ff{\del \phi}{\del y},-\ff{\del \phi}{\del z} \right)
\end{split}
が導けます。これを上の全微分に適用すると、
\begin{split}
\diff \phi=-\Big(E_x\diff x+E_y\diff y+E_z\diff z\Big)
\end{split}
とできます。ここで、電場を $\B{E}=(E_x,E_y,E_z)$ とし、経路上の線素をベクトルによって $\diff s=(\diff x,\diff y,\diff z)$ と置きます。すると、$\diff \phi$ は内積を用いて次のようにもできます。
\begin{split}
\diff \phi&=-\Big(E_x\diff x+E_y\diff y+E_z\diff z\Big)\EE
&=-(E_x,E_y,E_z)\cdot (\diff x,\diff y,\diff z)^T\EE
&=-\B{E}\cdot\diff \B{s}
\end{split}
これを最初の積分の式に戻すと、
\begin{split}
\D \phi &=\int_A^B\diff \phi\EE
&=-\int_A^B\B{E}\cdot\diff \B{s}=\phi_B(x,y,z)-\phi_A(x,y,z)
\end{split}
が得られます。得られた式は一般の経路についての電圧の計算方法を示すと言えます。ゆえに、上式は電圧の一般式を表すと言えます。
一様な電場の電圧の計算
上述のように、電圧の一般式の導出を行いましたが、応用上重要なのは電場の分布が均一のときの電圧です。なぜなら、平行平板コンデンサーの電場と電圧の公式となるためです。
ここでは、導体でできた二つの平行平板間の電圧について計算することとします。
導体の性質から導かれるように、導体の電位は全ての点で等しくなります。したがって、それぞれの平板の電位を $\phi_A,\phi_B$ の定数と置くことができます。
さて、平板間の電場の分布が一様(=電場の強さと向きが空間のどこでも一定)であると仮定すると、平板間の電圧 $\D \phi$ は、
\begin{split}
\D \phi=\phi_B-\phi_A=-\int_A^B\B{E}\cdot\diff \B{s}
\end{split}
と表示できます。電位の性質からどんな経路を採用しても計算結果が変わらないことを思い出しましょう。そのため、$z$ 軸に沿った方向のみで計算を実行しても、正しい結果が得られます。
仮定より、$z$ 方向の電場は $E$ を定数、$\B{k}$ を $z$ 方向の単位ベクトルとして $\B{E}_z=E\B{k}$ とでき、また$\RM{B}$ から $\RM{A}$ に向かう線素ベクトルは図より $\diff \B{s}=-\diff z\B{k}$ と表せることを用いると、電圧の一般式を
\begin{split}
\D \phi&=-\int_A^B\B{E}\cdot\diff \B{s}\EE
&=-\int_A^B(E\B{k})\cdot(-\diff z\,\B{k})=E\int_A^B\diff z
\end{split}
と簡単にできます。ここで、平板の間隔を $d$ とします。すると、
\begin{split}
\D \phi=\phi_B-\phi_A=E\int_A^B\diff z=E\Big[z\Big]_{-d}^{0}=Ed
\end{split}
と、電圧が計算できます。これより、一様な電場での電圧が次のように与えられることが分かります。