分極ベクトルとは?|誘電分極のメカニズムと分極電荷

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今回は誘電体(=不導体)を電場の中に置いたときに起きる現象である、誘電分極のメカニズムについて考えます。また、この考察を通じて分極ベクトルという物理量の導出を行います。

まずは結論から示します。すなわち、分極ベクトルは次のように定義される物理量です。(※太字はベクトルを表します)

分極ベクトルとは?

$\B{p}$ を誘電体電気双極子モーメント、$n$ を単位体積当たりの原子数とする。

このとき、誘電体内部の電場と平行な分極ベクトル $\B{P}$ を次のように定義する。

\begin{split}
\B{P}=n\B{p}
\end{split}

また、$\B{P}$ の大きさ $|\B{P}|=P$ を分極の大きさと呼ぶ。

上の定義から分かるように、誘電分極電気双極子を用いてモデル化できることが今回のポイントとなります。このように表せる理由について理解するため、まずは分極電荷という用語について説明していきます。

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分極電荷と真電荷

分極電荷とは?

誘電率について説明した際、見たように外部電場の中に置かれた誘電体(=不導体)は分極します。そして、誘電体の表面に電荷が現れます。この一連の現象を誘電分極と呼びます。なお、誘電分極によって現れた電荷のことを静電誘導により現れる電荷と区別して分極電荷と呼びます。

分極電荷とは?

分極電荷誘電分極によって誘電体表面に現れる電荷のこと

分極電荷と誘電分極のメカニズム

真電荷とは?

導体であろうと不導体(=誘電体)であろうと、外部電場の中に置かれた物体表面には電荷が現れます。表面上は同じ現象のように思われるかもしれんせんが、メカニズムは全く異なることに注意する必要があります。

まず、導体を外部電場の中に置いた場合に起きる静電誘導ですが、これは導体内部に存在する自由電子により起きます。導体内部に存在する多数の自由電子が外部電場に反応して高速に移動する結果、外部電場が完全に打ち消されて導体内部の正味の電場が $\B{0}$ となります。(→静電遮蔽のメカニズム) 

なお、静電誘導により表面に生じる電荷は分極電荷と区別して真電荷と呼ばれます。

真電荷とは?

真電荷静電誘導によって導体表面に現れる電荷(=自由電子)のこと

一方、誘電体を外部電場の中に置いた場合に起きる誘電分極ですが、誘電体を構成する粒子(原子または分子)が分極することで生じます。ただし、分極電荷は外部電場を完全に打ち消すほど大きくないため、誘電体内部には電場が残ることになります。

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誘電分極のメカニズム

ここからは、誘電分極の具体的なメカニズムについて考察していきます。まず、誘電体の粒子(原子または分子)が電場 $\B{E}_1$ の中に置かれた状況について考えます。

粒子は自由電子を持ちませんが、電場によって正の電荷を持つ原子核が $\B{E}_1$ の向きにわずかに移動し、電子は $\B{E}_1$ と逆向きに移動します。この結果、粒子の中で電荷の分布にズレが生じ、粒子は分極します。

誘電分極のメカニズム

さて、粒子が分極した様子は電気双極子としてモデル化できます。また、正電荷と負電荷の電気量を $q$ として、点電荷間を結ぶベクトルを $\B{l}$ とすると、電気双極子モーメント $\B{p}$ を次のように表せます。

\begin{split}
\B{p}=q\B{l}
\end{split}

次に、上の粒子を集めた誘電体を外部電場 $\B{E}_1$ に置いた状況について考えます。このとき、各粒子は電場の影響により分極します。そのため、下図のようになります。

誘電分極の模式図

図から分かるように、誘電体内部では分極電荷が相殺されるため電気的には中性となります。一方、誘電体の左右の表面では打ち消し合う電荷のペアが無いため、表面には電荷が残った状態となります。

結果として誘電体の表面には正または負の電荷、すなわち分極電荷が生じます。これが誘電分極のメカニズムとなります。

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分極ベクトルとは?

上で説明した誘電分極の様子は、仮想的な正電荷の塊りと負電荷の塊りを用いて三次元的にモデル化でき、下の模式図のように表せます。(図は、電荷が外部電場により引張られ $l$ だけズレている様子を表しています)

誘電分極の模式図

上の図を利用すると、電場 $E_1$ が加えられたときに誘電体に現れる分極電荷の大きさを計算できます。

ここで、単位体積当たりの原子数を $n$ とし、誘電体を構成する原子たちの平均的な、原子核の電気量を $q$ とします。すると、正の電荷を持つ塊りの電荷密度を $nq$ とできます。同様にして、負の電荷の塊りの電荷密度を $-nq$ とできます。

始め、電場が $\B{0}$ のとき、それぞれの塊りが完全に重なっているので電気的に中性になっています。その後、電場が $\B{E}_1$ となると、それぞれの塊りが $l$ ズレることになります。

したがって、誘電体の左右には次の大きさで与えられる分極電荷 $Q_1$ が生じることになります。

\begin{split}
Q_1=\pm lS\cdot nq=\pm pnS
\end{split}

ところで、上で説明したように、電気双極子モーメントの大きさは $p=ql$ と表せます。よって、$Q_1=\pm pnS$ とできます。ゆえに、誘導分極の面密度(=面積当たりの電荷密度) $\sigma_1$ が以下のように求められます。

\begin{split}
\sigma_1=\ff{Q_1}{S}=\pm pn
\end{split}

分極ベクトルの模式図

この結果を用いると誘電体内部の電場の大きさ $E_1$ も求めることができます。今、極板の電荷の面密度を $\sigma_0$ とすると、極板が持つ正味の電荷の面密度を $\sigma_0-\sigma_1$ とできます。よって、図のような平行平板コンデンサー間の電場の大きさを $E_1$ を

\begin{split}
E_1=2\times \ff{\sigma_0-\sigma_1}{2\eps_0}=\ff{\sigma_0-\sigma_1}{\eps_0}
\end{split}

と求められます。(→平板の形成する電場の大きさ)このように、分極電荷の面密度は計算上便利な量のため、『誘電分極の大きさ $P$ 』という新たな物理量を導入します。

\begin{split}
P=\sigma_1=np
\end{split}

さらに、電気双極子モーメント $\B{p}$ はベクトルでもあるため、$P$ もベクトルとして表現でき、$\B{P}=n\B{p}$ とできます。こうして新たに定義したベクトル $\B{P}$ も分極ベクトルと呼ぶことにします。

分極ベクトルとは?

$\B{p}$ を誘電体電気双極子モーメント、$n$ を単位体積当たりの原子数とする。

このとき、誘電体内部の電場と平行な分極ベクトル $\B{P}$ を次のように定義する。

\begin{split}
\B{P}=n\B{p}
\end{split}

また、$\B{P}$ の大きさ $|\B{P}|=P$ を分極の大きさと呼ぶ。

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