ミリカンの実験とは?|電荷素量の測定法とその理論

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質量に最小量が存在するかは現時点では判明していませんが、電気量については最小量が存在することが知られています。

電気量の最小量のことを電荷素量と呼び、基本的には $e$ で表します。なお、一個の電子または陽子が持つ電気量の大きさは電荷素量と一致します。

電荷素量とは?

電気量の最小量のことを電荷素量(または電気素量)と呼ぶ。電荷素量 $e$ の値は次のように定義される。

\begin{split}
e=1.602176634\times 10^{-19}\,\RM{C}\\
\,
\end{split}

上から分かる通り、電荷素量は非常に小さな数値であるため、測定には工夫が必要となります。

今回は、電荷素量の測定実験として最も有名なミリカンの実験について説明します。まずは、ミリカンの実験の概要について説明します。

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ミリカンの実験の概要

始めに、ミリカンの実験の概要について説明します。

ミリカンの実験の模式図

実験は二つの極板に挟まれた空間に、油滴やラテックス球のような微細な粒子を霧吹きなどを使って投入することで行われます。

霧吹きで押し出される過程で粒子同士が摩擦されるので、粒子は帯電して静電気を帯びることがポイントとなります。

始め、極板に電圧はかけずに粒子を自由落下させます。粒子は非常に小さく軽いため、空気抵抗の影響が顕著に現れます。後ほど説明しますが、粒子は空気抵抗によって一定速度となり、$v_{\infty}$ で落下していきます。この速度を容器側面の顕微鏡で覗きながら測定します。

次に、極板間に電圧を加えて電場を加えます。粒子は帯電しているため電場に沿った力が作用することになります。このとき、電場の方向を切り替えて粒子の移動方向を変えることがポイントとなります。切り替え前後の粒子の速度を測定することで、粒子の持つ電気量を算出します。(粒子の移動速度も顕微鏡を覗きながら測定します)

ミリカンはこのような実験を行った結果、各粒子の持つ電気量が、ある電気量の整数比となることを見出しました。この電気量こそ、電気素量と呼ばれる物理量です。

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電気量の測定方法

ミリカンの実験の最重要ポイントである、粒子の電気量の測定方法の手順について説明します。

まずは、電場の無い状態で自由落下するラテックス球(質量 $m$)の測定を行います。このとき、粒子は空気抵抗を受けるので、ある程度の時間が経過すると重力と空気抵抗が釣り合って落下速度が一定となります。この速度のことを終端速度 $v_{\infty}$ と呼びます。

空気抵抗は速度に比例して大きくなる性質があります。そのため、比例定数 $k$ を用いて、空気抵抗の大きさは $kv_{\infty}$ と置けます。さて、ラテックス球が終端速度に達した状態では、重力と空気抵抗が釣り合っています。したがって、次式が成立し、

\begin{split}
mg=kv_{\infty}
\end{split}

よって、$\DL{k=\ff{mg}{v_{\infty}}}$ であることが分かります。次に、電場中を運動するラテックス粒子の測定を行います。

空気抵抗の模式図

最初に重力と同じ方向に電場を加えた時について考えます。このとき、粒子には下向きに $qE+mg$ の力が作用しています。下向きに加速された粒子は時間経過と共に増速しますが、それに比例して空気抵抗も大きくなります。そのため、ある速度で下向きの力と空気抵抗が釣り合い、一定速度となります。

このときの速度を $v_{+}$ とすると、前述と同様の議論より次式が成立します。

\begin{split}
mg+qE=kv_{+}
\end{split}

この後、電場を反転させます。電場を反転させた場合も一定時間経過後に等速度となります。この速度を $v_{-}$ とし、電場が反転していることに注意すると以下の式が導けます。

\begin{split}
mg=kv_{-}+qE
\end{split}

得られた二式を $v_{+},v_{-}$ について整理して、比較すると

\begin{split}
&v_{+}-v_{-}=\ff{2qE}{k}\EE
\therefore\,\,&q=\ff{k}{2E}(v_{+}-v_{-})
\end{split}

が得られます。

$k$ は最初の実験より得られます。そして、$v_{+},v_{-}$ は電場を加えた状態でのラテックス球の運動を観察することで得られます。$m,g,E$ は実験条件であるため事前に調べることができます。これらを用いることで、ラテックス球の持つ電気量 $q$ が得られます。

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電荷素量の決定

上で説明した一連の測定を実際に行って、ラテックス球の持つ電気量 $q$ を算出した結果、表のようになったとします。

\begin{array}{c|ccccc}
\, & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\
\hline
電気量 [\times 10^{-19}\RM{C}] & 24.0 & 22.4 & 16.0 & 11.2 & 3.23 \\
\hline
電気量の差 & – & 1.60 & 6.40 & 4.80 & 7.97 \\
\hline
電気量 & 15e & 14e & 10e & 7e & 2e \\
\end{array}

得られた電気量だけでは規則性は見えてきませんが、これらの差を計算すると面白いことが見えてきます。表の二行目の部分が計算結果です。

二行目に注目すると、ほぼ $1.60$ の倍数となっていることが分かります。したがって、帯電した粒子は $1.60\times 10^{-19}\,\RM{C}$ を最小量とした電気量を持つと予想されます。

これだけではデータ量が少ないため確信は持てませんが、ミリカンの実験を繰り返してデータ量を増やすと、帯電粒子は $1.60\times 10^{-19}\,\RM{C}$ を最小量とした電気量を持つことが分かってきます。

現在では、$1.60\times 10^{-19}\,\RM{C}$ が電気量の最小量であることが広く認められており、これは電荷素量または電気素量と呼ばれています。

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