導体やコンデンサーに蓄えられた電気エネルギーを表す量として、静電エネルギーと呼ばれるものがあります。具体的には次のように静電エネルギーは与えられます。
上で示したように静電エネルギーの式は電位と電圧で共通の形です。応用上重要なのは、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーの式です。
今回は、静電エネルギーが上のように表される理由について説明します。静電エネルギーの導出に取り掛かる前に、高校物理で習った平行平板コンデンサーの諸公式について復習します。
平行平板コンデンサーの公式の復習
平行平板コンデンサーについて、高校物理では以下の四つの公式を学びました。
公式 $1,2$ についてはこちらで導出しています。そして、公式 $3$ については一様電場での電圧を導出した結果より直ちに成立することが分かります。
公式 $4$ に登場した静電エネルギーはコンデンサーに蓄えられる電気エネルギーと説明されます。これは冒頭に紹介した静電エネルギーと一致します。次節では静電エネルギーの正体について説明していきます。
静電エネルギーとは?
静電エネルギーの正体について考えていきましょう。
結論から述べますが、静電エネルギーは、導体の電気量が $0$ から $Q$ の状態になるまでに要した外部からの仕事の大きさのことです。逆に言えば、 $Q$ の電気量を蓄えた導体は、静電エネルギー分の仕事を外部へ行うことができます。
冒頭で示したように、静電エネルギーの具体的な形は $U=\DL{\ff{1}{2}CV^2}$ などと表されます。
このように表される理由を説明するため、まずは単独の導体についての静電エネルギーを考えることにします。
単独導体の静電エネルギーの導出
始めに、単独導体についての静電エネルギーを定義に従って導出します。なお、導体の電気容量が $C$ であるとします。
このとき、電気量 $\diff q$ の電荷を無限遠点から導体まで動かすのに要する仕事について考えます。
今、導体が持っている電気量を $q$ として、これによる電位が $\phi(q)$ であったとします。定義より、電位の大きさは、無限遠点から $1\,\RM{C}$ の電荷を動かしたときの仕事の大きさと言えます。したがって、$\diff q$ の電荷を導体まで運ぶのに必要な仕事 $\diff U$ は、
\begin{split}
\diff U=\phi(q)\diff q
\end{split}
と与えられることが分かります。ここで、単独導体については電位と電気量の間に $q=C\phi$ の関係が成立することを思い出しましょう。(→単独導体の電位と電気量の関係)ゆえに上の式を、
\begin{split}
\diff U=\ff{q}{C}\diff q
\end{split}
と変形できます。
次に、導体の始めの電気量が $0$ であり、これを $Q$ まで増やした状況を考えます。これは、$\diff q$ の微小な電荷を次々と増やしていき、$Q$ までした状況に相当します。そのため、これに要する外部からの仕事は、積分を用いて以下のように求められます。
\begin{split}
U&=\int_{0}^Q \diff U=\int_{0}^Q \ff{q}{C}\diff q =\ff{Q^2}{2C}
\end{split}
さらに、上で説明したように $Q=C\phi$ の関係にあるため、
\begin{split}
U&=\ff{Q^2}{2C}=\ff{1}{2}C\phi^2
\end{split}
とできます。めでたく、冒頭で紹介した単独導体での静電エネルギーが導出できました。
平板コンデンサーの静電エネルギーの導出
次に、平行平板のコンデンサーの静電エネルギーの導出を行いましょう。このときのポイントは極板の間でのみ、電場が存在しその上下では電場が $\B{0}$ となることです。このようになる理由についてはこちらで説明しています。
したがって、平行平板間の静電エネルギーを求める際は、極板間での電荷の移動を考えれば良いと言えます。
ここで、下の極板から電気量 $\diff q$ の電荷を上の極板に移動させたとします。今、極板間の電場の大きさが $E$ で一様であると仮定します。
よって、電荷には $F=E\diff q$ の一定の力が作用すると言えます。そのため、$d$(極板間の間隔)だけ電荷を移動させるのに要する仕事 $\diff U$ が次のように与えられます。
\begin{split}
\diff U=Fd=Ed\,\diff q
\end{split}
ところで、電荷を移動させる前の極板間の電圧を $V$ とします。すると、電圧 $V$ と平行平板の電気容量 $C$ との間に $V=\DL{\ff{q}{C}}$ の関係が得られます。また、一様電場中では $V=Ed$ の関係にあることを用いると、
\begin{split}
\diff U=\ff{q}{C}\diff q
\end{split}
と整理できます。ゆえに、電荷を $0$ から $Q$ まで増やす過程で外部から要した仕事の大きさが、次のように計算できます。
\begin{split}
U&=\int_{0}^Q\ff{q}{C}\diff q=\ff{Q^2}{2C}=\ff{1}{2}CV^2
\end{split}
※ 変形の途中で $Q=CV$ であることも利用しています。この議論は平行平板コンデンサーに限らず、一般の形状のコンデンサーでも成立します。(→任意形状コンデンサーの電気容量の導出)したがって、$\DL{U=\ff{1}{2}CV^2}$ であると言えます。
静電場のエネルギー密度とは?
コンデンサーが持つ静電エネルギーを導出しましたが、これがどこに保存されているのかを考えます。
具体例として、平行平板コンデンサーに蓄えられている静電エネルギーについて考えます。まず、電気容量 $C$ は平板の面積を $S$ として、
\begin{split}
C=\ff{\eps_0\,S}{d}
\end{split}
と表せました。(→平行平板コンデンサーの電気容量の導出)また、$V=Ed$ であることも利用して静電エネルギーの式に適用すると、
\begin{split}
U&=\ff{1}{2}\cdot\ff{\eps_0\,S}{d}\cdot (Ed)^2\EE
&=\ff{1}{2}\eps_0\,SdE^2
\end{split}
となります。上式に電場が現れていることに注目しましょう。電場はコンデンサーの間にのみ存在していることより、静電エネルギーはコンデンサーの間の空間に蓄えられていることが分かります。
このように、静電エネルギーは極板間に蓄えられたものと言えます。今、極板間の体積は $Sd$ であることより、単位体積当たりに蓄えられる静電エネルギー $u_E$ が次のように計算できます。
\begin{split}
u_E&=\ff{U}{Sd}=\ff{1}{2}\eps_0E^2
\end{split}
これは、電場により蓄えられるエネルギーとも見なせます。そのため、$\DL{\ff{1}{2}\eps_0E^2}$ を静電場のエネルギー密度と呼ぶことにします。