気体分子一個に働く微視的な法則から、気体の巨視的法則を導くことが統計力学の最終的な目的です。
とは言え、いきなり微視的法則と巨視的法則を結びつけることは難しいので、ひとまず、圧力と運動エネルギーの関係を導くことを考えます。
幸運なことに、この関係は高校物理の範囲で導くことができます。
そして、この関係を論じる理論を気体分子運動論と呼びます。
今回は、気体分子運動論について解説します。
気体分子運動論から導いた結果と理想気体の状態方程式と比較することで、ボルツマン定数を導くこともできます。
ここで、$P$は圧力、$V$は体積、$n$はモル数、$R$は気体定数、$T$は温度を表します。
気体分子運動論から統計力学を始めていきましょう。
気体分子運動論
気体分子運動論では、最も単純な単原子分子の運動から壁に与える圧力を導きます。
単原子分子気体とは、HeやAr等の希ガスのように、一つの原子が分子のように振舞う気体のことです。
気体分子運動論の重要な仮定として、分子間力が働かないとします。このような気体を理想気体と呼びます。
力学的には、気体分子を質点と見なすということです。
また、気体分子に働く重力も無視します。
それでは、具体的に気体分子が壁に与える圧力について考えていきましょう。
一辺$L$の立方体容器の中に質量$m$の気体分子が$N$個入っているとします。
手始めに1個の分子の運動について考えます。
この気体分子の速度を $\B{v} = (v_x, v_y, v_z)$とします。
分子が壁に与える力
一個の分子が衝突した際に、容器の壁に与える力$\B{f}$を求めましょう。
始めに、$x$軸方向の気体分子の運動から力を考えます。
しかしながら、現状のままでは力を計算することができません。
そこで、力積と運動量の関係を利用することで力を求めます。
高校物理の復習になりますが、力積$\B{I}$と運動量の間に次のような関係が成り立ちます。
衝突前の速度を$\B{v}_1$、衝突後の速度を$\B{v}_2$、衝突に要した時間を$\D{t}$としています。
$x$軸に対して垂直な壁への衝突を考えているため、衝突の前後で変化するのは$v_x$のみです。
そこで、衝突前の$x$軸方向の速度を$v_{x1}, $ 衝突後の速度を$v_{x2}$ とします。
さらに、分子と壁との衝突が完全弾性衝突であると仮定します。
すると、$v_{x2} = -v_{x1}$となります。
したがって、この分子が衝突時に壁に与える力を次のように求めることができます。
\begin{eqnarray}
I &=& mv_{x2} \,- mv_{x1} \\
&=& -2mv_{x1} \\
&=& -2mv_x\\
\end{eqnarray}
衝突の前後で速さは変わらないため、$v_{x1} = v_x$とします。
今、壁に加わる力は反力であるため、壁に与えられる力積の大きさは次のように表せます。
\begin{eqnarray}
I &=& 2mv_{x}
\end{eqnarray}
単位時間当たりの衝突回数と壁に与える力
次に、一つの分子が単位時間(≒1秒間)に壁に与える力について考えましょう。
まず、単位時間の間に分子が壁に衝突する回数を計算します。
壁に衝突してから1往復したあと、つまり$2L$だけ移動するとまた壁に衝突する訳です。
単位時間当たりに分子は$v_x$移動するため、単位時間当たりにこの分子は、壁に$\displaystyle\ff{v_x}{2L}$ 回衝突することになります。
このことから、一個の気体分子は単位時間当たり、$\displaystyle\ff{mv_x}{2L}I$ の力を壁に与えることが分かります。
$t$秒間の間では、$\displaystyle\ff{mv_x}{2L}It$ の力積を壁は受けます。
さて、一個の分子から壁が受ける平均の力を$\langle f \rangle$とすると、以下のような関係が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
\langle f \rangle t &=& \ff{mv_x}{2L}It \EE
\end{eqnarray}
以下の図を参考にするとイメージを掴み易いかもしれません。
緑と青の面積が等しいことを上式は表しています。
この式から、平均の力を
\begin{eqnarray}
\langle f \rangle &=& \ff{mv^2_x}{L}\EE
\end{eqnarray}
と求められます。
$N$個の分子が壁に与える力
いよいよ、$N$個の粒子が壁に与える力$F$について計算しましょう。
直感的には、
\begin{eqnarray}
F&=& N\langle f \rangle \EE
&=& \ff{Nmv^2_{x}}{L}
\end{eqnarray}
と求められそうに感じますが、これは誤りです。
なぜなら、各気体分子で$x$軸方向の速さが異なるためです。
気体分子の速さの分布については、別の機会に考察します。
従って、$F$は各分子の速度の和として、次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
F&=& \ff{m}{L}\sum_{i=1}^{N}(v_{xi})^2 \EE
\end{eqnarray}
さて、速度の二乗の平均を$\langle v^2_{x} \rangle$とすると、$N\langle v^2_{x} \rangle=\displaystyle{\sum_{i=1}^{N}(v_{xi})^2}$となるので、
\begin{eqnarray}
F&=& \ff{Nm\langle v^2_{x} \rangle}{L} \tag{1} \EE
\end{eqnarray}
とできます。
平均速度$\langle v \rangle$と二乗平均速度$\langle v^2 \rangle$との間には、
\begin{eqnarray}
\langle v \rangle &=& \sqrt{\langle v^2 \rangle} \EE
\end{eqnarray}
の関係が成立するように感じますが、この直感は誤りです。
実際は
\begin{eqnarray}
\langle v \rangle &=& \ff{2}{\sqrt{\pi}}\sqrt{\ff{2k_B T}{m}} \EE
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\sqrt{\langle v^2 \rangle} = \sqrt{\ff{3}{2}}\sqrt{\ff{2k_B T}{m}} \EE
\end{eqnarray}
となります。
気体分子が壁に与える圧力
以上の結果を利用して、気体分子が壁に与える圧力$P$ を計算しましょう。
$P$は単位面積あたりに働く力なので、式(1)を利用して以下のように求められます。
\begin{eqnarray}
P &=& \ff{F}{S} = \ff{F}{L^2} = \ff{Nm{\langle v^2_{x} \rangle}}{L^3} \tag{2}
\end{eqnarray}
さて、$x, y, z$軸の各方向で平均速度に違いは無いはずなので、次のような関係が成り立つはずです。
\begin{eqnarray}
\langle v^2_{x} \rangle = \langle v^2_{y} \rangle = \langle v^2_{z} \rangle
\end{eqnarray}
そのため、
\begin{eqnarray}
\langle v^2 \rangle &=& \langle v^2_{x} \rangle + \langle v^2_{y} \rangle + \langle v^2_{z} \rangle \EE
&=& 3 \langle v^2_{x} \rangle \EE
\therefore \, \langle v^2_{x} \rangle &=& \ff{1}{3} \langle v^2 \rangle
\end{eqnarray}
の関係が成立します。
これを式(2)に代入して、
\begin{eqnarray}
P &=& \ff{Nm{\langle v^2 \rangle}}{3L^3}
\end{eqnarray}
となります。
$L^3 = V$とすると、分子が壁に及ぼす圧力を求められます。
以上が気体分子運動論により、単原子分子の運動から圧力が求められることが分かりました。
気体の状態方程式
先ほど導出した式を気体の状態方程式と比較しましょう。
式を変形して、
\begin{eqnarray}
PV &=& \ff{Nm{\langle v^2 \rangle}}{3} \tag{3} \\
\end{eqnarray}
気体の状態方程式と比較すると、
\begin{eqnarray}
\ff{Nm{\langle v^2 \rangle}}{3} = nRT \\
\end{eqnarray}
であることが分かります。
ここで、アボガドロ数を$N_A$($6.02\times10^{23}$個)とすると、モル数$n$は、$\displaystyle{n = \ff{N}{N_A}}$となるので、
\begin{eqnarray}
\ff{Nm{\langle v^2 \rangle}}{3} = \ff{N}{N_A}RT \\
\end{eqnarray}
とも表せます。
ボルツマン定数
ここで、気体分子の全エネルギーのことを内部エネルギーと呼ぶことにしましょう。
単原子分子の場合、内部エネルギー$U$は全運動エネルギーとなります。
従って$U$は、
\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}Nm\langle v^2 \rangle = \ff{3}{2}\ff{N}{N_A}RT \\
\end{eqnarray}
となります。
上式から、分子一個あたりの運動エネルギーは、
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}m\langle v^2 \rangle = \ff{3}{2}\ff{R}{N_A}T = \ff{3}{2}k_B T \\
\end{eqnarray}
となります。
$N_A$ならびに$R$は定数ですので、$\displaystyle{\ff{R}{N_A}}$も定数になります。
また、この定数をボルツマン定数$k_B$と呼ぶことにしましょう。
このとき、内部エネルギーは次のように表せます。
さらに、$c_v = \displaystyle{\ff{3}{2}R}$とすると内部エネルギーは、
\begin{eqnarray}
U = nc_vT
\end{eqnarray}
ともできます。
$c_v$を定積モル比熱と呼びます。
熱力学では頻繁に登場する重要な定数です。
エネルギー等分配則
容器内の気体分子は、どの方向にも同じように運動しているはずなので、
各方向での運動エネルギーの平均値は、
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}m\langle v_x^2 \rangle = \ff{1}{2}m\langle v_y^2 \rangle = \ff{1}{2}m\langle v_z^2 \rangle \\
\end{eqnarray}
となります。
このことから、各方向の運動エネルギーはボルツマン定数を利用して、
\begin{eqnarray}
\ff{3}{2}k_B T &=& \ff{1}{2}m\langle v^2 \rangle \EE
&=& \ff{1}{2}m\langle v_x^2 \rangle + \ff{1}{2}m\langle v_y^2 \rangle + \ff{1}{2}m\langle v_z^2 \rangle \EE
&=& \ff{3}{2}m\langle v_x^2 \rangle \EE
\ff{1}{2}m\langle v_x^2 \rangle &=& \ff{1}{2}k_B T \EE
\therefore \, \ff{1}{2}m\langle v_x^2 \rangle = \ff{1}{2}m\langle v_y^2 \rangle &=& \ff{1}{2}m\langle v_z^2 \rangle = \ff{1}{2}k_B T
\end{eqnarray}
と表せます。
このことから、一つの自由度($x, y, z$軸の各方向)当たり、$\displaystyle{ \ff{1}{2}k_B T }$ のエネルギーが等分配されていることが分かります。
各自由度に対してエネルギーが等分配されることを、エネルギー等分配則と呼びます。
二原子分子気体の比熱の導出
二原子分子の内部エネルギー
ここまでは、単原子分子についての議論をしましたが、この節では二原子分子の内部エネルギー$U$について考えていきましょう。
※重力の影響と分子間力は無視します。
二原子分子理想気体のモデルとして、以下の様に二つの質点がばねでつながれていると考えます。
各質点の質量を$m_1, m_2$とし、それぞれの速度を$\B{v}_1, \B{v}_2$とします。
この分子の全エネルギー$E_{total}$は、分子の並進運動エネルギーを$E_t$、回転エネルギーを$E_r$、振動エネルギーを$E_V$として、以下の様に表せます。
\begin{eqnarray}
E_{total} = E_t + E_r + E_V
\end{eqnarray}
二つの原子を繋ぐばねのばね定数を$k$として、変位を$x$とすると、$E_{total}$は次のようにも表せます。
\begin{eqnarray}
E_{total} = \ff{1}{2}m_1 \B{v}^2_1 + + \ff{1}{2}m_2 \B{v}^2_2 + \ff{1}{2}kx^2
\end{eqnarray}
以下、各エネルギーの具体的な値について考えていきます。
重心運動エネルギーと相対運動エネルギーについて
二分子原子の重心運動エネルギー(並進運動エネルギー)と相対運動エネルギーについて計算しましょう。
二つの質点の運動エネルギーの和は次のように表せます。
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}m_1 \B{v}^2_1 + \ff{1}{2}m_2 \B{v}^2_2 \EE
\end{eqnarray}
※この二つのエネルギーの和は振動エネルギーを含んでいることに注意してください。
このままでは扱いにくいため、重心の運動エネルギーと重力から見た相対運動のエネルギーに分割することを考えます。
はじめに、重心の速度$\B{v}_G$は次のように表せます。
\begin{eqnarray}
\B{v}_G = \ff{m_1\B{v}_1 + m_2\B{v}_2}{m_1 + m_2}
\end{eqnarray}
ここで、全質量を$m_1+m_2 = m_G$とし、相対速度を$\B{v}_r = \B{v}_1 \,- \B{v}_2 $、換算質量を$\mu = \displaystyle{\ff{m_1m_2}{m_1 + m_2}}$ とすると、次の様に式を変形することができます。
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}m_1 \B{v}^2_1 + \ff{1}{2}m_2 \B{v}^2_2 &=& \ff{1}{2}m_G \B{v}^2_G + \ff{1}{2}\mu \B{v}^2_r \\
\,
\end{eqnarray}
右辺第一項を重心運動エネルギー、第二項を相対運動エネルギーと呼びます。
以上より、二つの原子の運動エネルギーの和は、重心運動エネルギーと相対運動エネルギーの和となることが分かりました。
並進運動エネルギーの平均値$\langle E_t \rangle$
並進運動エネルギーの平均値$\langle E_t \rangle$を計算しましょう。
並進運動エネルギーの平均値とは、重心運動エネルギーの平均値のことです。
並進運動エネルギーの平均値$\displaystyle{\left\langle \ff{1}{2}m_G\B{v}_G^2 \right\rangle}$ が$\displaystyle{\ff{3}{2}k_B T}$に等しいことを示します。
重心運動エネルギーの平均値の式を展開すると、
\begin{split}
\left\langle \ff{1}{2}m_G\B{v}_G^2 \right\rangle &= \ff{1}{2(m_1+m_2)} \langle (m_1\B{v}_1 + m_2\B{v}_2)^2 \rangle \EE
&= \ff{1}{2(m_1+m_2)} \langle m^2_1\B{v}^2_1 +2m_1m_2\B{v}_1\cdot\B{v}_2+ m^2_2\B{v}^2_2 \rangle \EE
&= \ff{m_1}{m_1+m_2}\left\langle \ff{1}{2}m_1\B{v}_1^2 \right\rangle + \ff{m_2}{m_1+m_2}\left\langle \ff{1}{2}m_2\B{v}_2^2 \right\rangle \EE
&\qquad\quad + \ff{m_1m_2}{m_1+m_2}\left\langle \B{v}_1\cdot\B{v}_2 \right\rangle \EE
\end{split}
となります。
今、$\B{v}_1$と$\B{v}_2$の方向はランダムであるため、$\langle \B{v}_1\cdot\B{v}_2 \rangle=0$となります。
したがって、
\begin{split}
\left\langle \ff{1}{2}m_G\B{v}_G^2 \right\rangle &= \ff{m_1}{m_1+m_2}\left\langle \ff{1}{2}m_1\B{v}_1^2 \right\rangle + \ff{m_2}{m_1+m_2}\left\langle \ff{1}{2}m_2\B{v}_2^2 \right\rangle \EE
&= \ff{m_1}{m_1+m_2}\times\ff{3}{2}k_B T + \ff{m_2}{m_1+m_2}\times\ff{3}{2}k_B T \EE
&= \ff{3}{2}k_B T
\end{split}
となります。
並進運動エネルギーの平均値は、$\displaystyle{\ff{3}{2}k_B T}$となることが示せました。
つまり、$E_t =\displaystyle{\ff{3}{2}k_B T}$ となります。
運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの関係
質点が単振動している場合、運動エネルギーの平均値とポテンシャルエネルギーの平均値が等しいことを示します。
この節で示す結果を利用することで、二原子分子の振動エネルギーを導けます。
さて、質量$m$の質点がばね定数$k$のばねにつながれて、単振動しているとします。
このとき、角振動数を$\omega=\displaystyle{\sqrt{\ff{k}{m}}}$とし、振幅を$a$とすると、
時刻$t$での質点の位置$x(t)$ならびに速度$v(t)$は、
\begin{eqnarray}
x(t) &=& a\sin\omega t \EE
v(t) &=& a\omega\cos\omega t
\end{eqnarray}
と表せます。
また、この単振動の周期$T$は、$T=\displaystyle{\ff{2\pi}{\omega}}$と表せます。
このとき、
\begin{eqnarray}
\langle \cos^2 \omega t \rangle &=& \ff{1}{T}\int^{T}_{0}\cos^2 \omega t\, \diff t \EE
&=& \ff{1}{T}\int^{T}_{0}\ff{1+\cos2\omega t}{2} \diff t \EE
&=& \ff{1}{T}\cdot\ff{T}{2} \EE
&=& \ff{1}{2}
\end{eqnarray}
となります。
同様に、$\langle \sin^2 \omega t \rangle = \displaystyle{\ff{1}{2}}$となります。
※ここでは、時間平均が統計平均と等しいと見なしています。
以上より、運動エネルギーの平均値とポテンシャルエネルギーの平均値は以下のように計算でき、両者が等しいことが分かります。
\begin{split}
&\left\langle \ff{1}{2}kx^2 \right\rangle &= \ff{1}{2}ma^2\omega^2\langle \sin^2\omega t \rangle = \ff{1}{4}ma^2\omega^2 \EE
&\left\langle \ff{1}{2}mv^2 \right\rangle &= \ff{1}{2}ma^2\omega^2\langle \cos^2\omega t \rangle = \ff{1}{4}ma^2\omega^2 \EE
\end{split}
振動運動エネルギーの平均値
二原子分子の振動エネルギーの平均値が$k_BT$に等しいことを示します。
まず、$\langle E_t + E_r \rangle$は並進運動エネルギーと相対運動エネルギーの和であり、並進運動エネルギーから相対運動エネルギーの平均値は次のように求められます。
\begin{eqnarray}
\langle E_t + E_r \rangle &=& \left\langle \ff{1}{2}m_G\B{v}_G^2 \right\rangle + \left\langle \ff{1}{2}\mu\B{v}_r^2 \right\rangle \EE
3k_BT &=& \ff{3}{2}k_BT + \left\langle \ff{1}{2}\mu\B{v}_r^2 \right\rangle \EE
\therefore \, \left\langle \ff{1}{2}\mu\B{v}_r^2 \right\rangle &=& \ff{3}{2}k_BT
\end{eqnarray}
相対速度$\B{v}_r$も$x, y, z$軸方向に分解できます。
そのため、振動方向($x$方向)の運動エネルギーの平均値は、エネルギー等分配則より、
\begin{eqnarray}
\left\langle \ff{1}{2}\mu v_{rx}^2 \right\rangle &=& \ff{1}{2}k_BT
\end{eqnarray}
となります。
このとき、$y, z$軸方向の運動は回転運動のため、回転運動のエネルギーの平均値$\langle E_r \rangle$は、$k_BT$となります。($y, z$軸方向のエネルギーの和)
さて、二原子分子を繋ぐばねのばね定数を$k$とします。
先ほどの単振動の運動エネルギーの平均値とポテンシャルエネルギーの平均値の結果から、両者は等しく、以下の関係が成立します。
\begin{eqnarray}
\left\langle \ff{1}{2}\mu v_{rx}^2 \right\rangle &=& \left\langle \ff{1}{2}kx^2 \right\rangle = \ff{1}{2}k_BT
\end{eqnarray}
したがって、振動運動のエネルギーの平均値$\langle E_V \rangle$は、
\begin{eqnarray}
\left\langle E_V \right\rangle &=& \left\langle\ff{1}{2}\mu v_{rx}^2 \right\rangle + \left\langle \ff{1}{2}kx^2 \right\rangle = k_BT
\end{eqnarray}
と求められます。
二原子分子の定積モル比熱$C_v$
以上より、二原子分子の全エネルギー$E_{total}$は、
\begin{eqnarray}
E_{total} &=& E_t + E_r + E_V \EE
&=& \ff{3}{2}k_BT + k_BT + k_BT \EE
&=& \ff{7}{2}k_BT
\end{eqnarray}
と求められます。
ただし、低温では量子力学的効果により振動エネルギーが凍結され、内部エネルギーに寄与しないことが分かっています。
そのため、二原子分子の全エネルギーは、並進運動と回転運動の和($E_t+E_r$)として表せ、$\displaystyle{\ff{5}{2}k_BT}$となります。
このことから、二原子分子気体の内部エネルギー$U$は以下のように表せます。
したがって、二原子分子気体の定積モル比熱$c_v$は、$c_v=\displaystyle{\ff{5}{2}R}$と表せます。
エネルギー等分配則による二原子分子気体の内部エネルギーの導出
二原子分子気体の内部エネルギーをより簡単に導出する方法を紹介します。
エネルギー等分配則を利用します。
つまり、一自由度につき$\displaystyle{\ff{1}{2}k_BT}$のエネルギーが分配されることを利用します。
自由度は$x, y, z$軸方向の並進運動の3つ、回転の自由度で2つであり、合計5つの自由度があります。(高温の場合、自由度は7)
したがって、二原子分子気体の内部エネルギー$U$は以下のように導出できます。
\begin{eqnarray}
U = 5\times\ff{1}{2}k_B T = \ff{5}{2}k_BT\EE
\end{eqnarray}