統計力学の重要な成果として、エネルギー等分配則があります。エネルギー等分配則とは、どの自由度に対しても同じ大きさのエネルギーが配分されるという法則のことです。具体的には、次のようにエネルギーが分配されます。
エネルギー等分配則を用いると、二原子分子の内部エネルギーやデュロン・プティの法則などを比較的簡単に求めることができます。
今回は、統計力学で得た結果を用いてエネルギー等分配則を導出することを目指していきます。
平均エネルギーの効率的な計算法
まずは、平均エネルギーの計算を工夫することから始めます。ところで、平均エネルギー $\langle E\,\rangle$ は物理量の平均値の公式から次のように表せました。
\begin{eqnarray}
\langle E\,\rangle=\ff{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}Ee^{-\ff{E}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p}} }{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{E}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p}}}
\end{eqnarray}
この公式を使えば正しい答えが得られますが、自由粒子の平均エネルギーの計算の例から分かるように、計算はかなり煩雑です。粒子が $1$ 個の場合ですら計算が面倒であったことを考えれば、それ以上の粒子数での平均エネルギーを計算するのは気が滅入ります。
より簡単に計算できる便利な公式があり、それは次のような形をしています。
証明は以下のようになります。
まず、$(1)$の証明を行います。右辺の $\DL{-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)}$ を変形すると、
\begin{split}
-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)&=-\ff{\diff Z}{\diff \beta}\ff{\diff}{\diff Z}(\log Z)\EE
&=-\ff{1}{Z}\ff{\diff Z}{\diff \beta}
\end{split}
今、$Z=\DL{\sum_{i=1}^jw_i\,e^{-E_i\beta}}$ であるので、これを適用すると、
\begin{split}
-\ff{1}{Z}\ff{\diff Z}{\diff \beta}&=-\ff{1}{Z}\ff{\diff}{\diff \beta}\left(\sum_{i=1}^jw_i\,e^{-E_i\beta} \right) \EE
&=-\ff{1}{Z}\sum_{i=1}^jE_iw_i\,e^{-E_i\beta}
\end{split}
これは離散型の物理量の平均公式と一致するため、直ちに $\DL{\langle E\,\rangle=-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)}$ が示されました。
次に、$(2)$の証明を行います。証明では $(1)$ の結果を利用します。すなわち、次のような変形を行っていきます。
\begin{split}
-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)&=-\ff{\diff T}{\diff \beta}\ff{\diff}{\diff T}(\log Z)
\end{split}
今、$\DL{\beta=\ff{1}{k_B T}}$ のため、$\DL{\ff{\diff \beta}{\diff T}=-\ff{1}{k_BT^2}}$ です。したがって、上式は
\begin{split}
-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)&=-(-k_BT^2)\ff{\diff}{\diff T}(\log Z)\EE
\therefore\,\langle E\,\rangle&=k_BT^2\ff{\diff}{\diff T}(\log Z)
\end{split}
となり、$(2)$ が示されました。
一般の場合の平均自由エネルギーの導出
上で導いた公式を元に、$3$ 次元空間の $N$ 個の単原子分子から成る気体の平均エネルギーの計算を行いましょう。なお、この計算では、$(1)$ の公式を用いることとします。
まず、分配関数 $Z$ ですが、一般には $\DL{Z=\ff{1}{h^{3N}}\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta E_i}\diff\B{q}\diff\B{p}}$ と表されることを活用すると、以下のように計算されます。
\begin{split}
Z&=\ff{1}{h^{3N}}\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta E_i}\diff\B{q}\diff\B{p}\EE
&=\left(\iiint_{\infty}^{-\infty}\diff q_1\diff q_2\diff q_3 \right)^N\left(\int_{\infty}^{-\infty}e^{-\ff{\beta}{2m}p^2} \diff p\right)^{3N}
\end{split}
ただし、$\DL{E_i=\ff{p_i^2}{2m}}$ とします。($p_i$ は運動量)
今、容器の体積を $V$ とすると $V=\DL{\iiint_{\infty}^{-\infty}\diff q_1\diff q_{2}\diff q_{3}}$ の対応関係にあり、またガウス積分より $\DL{\int_{\infty}^{-\infty}e^{-\ff{\beta}{2m}p^2}=\sqrt{\ff{2 m\pi}{\beta}}}$ と言えるため、
\begin{split}
Z&=\left(\ff{V}{h^3}\right)^N\cdot \left( \ff{2 m\pi}{\beta}\right)^{\ff{3N}{2}}\EE
\therefore\,Z&=\left\{\ff{V(2 m\pi)^{\ff{3}{2}}}{h^3}\right\}^N\cdot\beta^{-\ff{3N}{2}}
\end{split}
と計算できます。以上より公式$(1)$ を用いて $\langle E\,\rangle$ が次のように求められます。
\begin{split}
\quad\langle E\,\rangle&=-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)\EE
&=-\ff{\diff}{\diff \beta}\log\left[\left\{ \ff{V(2 m\pi)^{\ff{3}{2}}}{h^3}\right\}^N\cdot\beta^{-\ff{3N}{2}}\right]\EE
&=-\ff{\diff}{\diff \beta}\left( N\log \ff{V(2 m\pi)^{\ff{3}{2}}}{h^3}-\ff{3N}{2}\log \beta\right)\EE
&=\ff{3N}{2}\cdot\ff{1}{\beta}\EE
&=\ff{3}{2}Nk_BT=\ff{3}{2}N\cdot\ff{R}{N_A}T=\ff{3}{2}nRT
\end{split}
さらにボルツマン定数は $\DL{k_B=\ff{R}{N_A}}$ という関係にあるため、$\langle E\,\rangle=\DL{\ff{3}{2}nRT}$ となります。この結果は気体分子運動論より導いた単原子分子の内部エネルギーと同一の結果となります。
エネルギー等分配則とは?
上の結果から分かるように、$N$ 個の分子から成る気体は $\ff{3}{2}Nk_BT$ のエネルギーを持ちます。したがって、一個の分子当たりに $\DL{\ff{3}{2}k_BT}$ のエネルギーを持つと考えることができます。
さらに、単分子原子の自由度は $3$ であるため、一自由度当たりには $\DL{\ff{1}{2}k_BT}$ のエネルギーが分配されると考えることができます。これは冒頭で示したエネルギー等分配則と一致します。
この予想を証明していきましょう。
今回は一般の場合について考えるため、ポテンシャルエネルギーについても考慮することにします。すなわち、$1$ 個の分子が持つ力学的エネルギー $E$ は運動エネルギー $T$ とポテンシャルエネルギー $U$ を用いて $T+U$ と表せ、さらに、
\begin{split}
T+U=\ff{1}{2m}p^2+\ff{1}{2}kq^2
\end{split}
とできます。ただし、$m$ を分子の質量、$p$ を運動量、$k$ をばね定数、$q$ を変位とします。これより、この系が持つ全力学的エネルギー $E$ を次のようにできます。
\begin{split}
E=\sum_{i=1}^{3N}\ff{1}{2m}p_i^2+\sum_{i=1}^N\ff{1}{2}kq_i^2
\end{split}
上式をさらに一般化し、$p,q$ の係数を $a_i,b_i$ と置くことにします。
\begin{split}
E=\sum_{i=1}^Na_ip_i^2+\sum_{i=1}^Nb_iq_i^2
\end{split}
準備が整ったので、$p,q$ それぞれの自由度に対する平均エネルギーを計算しましょう。ここで $E_i=\DL{a_ip_i^2},E_i’=\DL{b_iq_i^2}$ とすると、各自由度に対応する分配関数がそれぞれ、
\begin{split}
Z_i&=\ff{1}{h}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta E_i}\diff{p_i}\EE
&=\ff{1}{h}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta a_ip_i^2}\diff{p_i}=\ff{1}{h}\sqrt{\ff{\pi}{a_i}}\beta^{-\ff{1}{2}}
\end{split}
\begin{split}
Z_i’&=\ff{1}{h}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta E_i’}\diff{q_i}\EE
&=\ff{1}{h}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta\,b_iq_i^2}\diff{q_i}=\ff{1}{h}\sqrt{\ff{\pi}{b_i}}\beta^{-\ff{1}{2}}
\end{split}
これに公式$(1)$を適用すると、$\langle E_i\rangle,\langle E_i’\rangle$ が次のように求められます。
\begin{split}
\langle E_i\rangle&=-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z_i)\EE
&=-\ff{\diff}{\diff \beta}\log\left( \ff{1}{h}\sqrt{\ff{\pi}{a_i}}\beta^{-\ff{1}{2}}\right) \EE
&=-\ff{\diff}{\diff \beta}\left\{ \ff{1}{2}\log\left( \ff{\pi}{h^2a_i}\right)-\ff{1}{2}\log\beta\right\}\EE
&=\ff{1}{2\beta}=\ff{1}{2}k_BT
\end{split}
同様にして、$\langle E_i’\rangle$ も
\begin{split}
\langle E_i’\rangle&=-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z_i’)=-\ff{\diff}{\diff \beta}\log\left( \ff{1}{h}\sqrt{\ff{\pi}{b_i}}\beta^{-\ff{1}{2}}\right) \EE
&=\ff{1}{2\beta}=\ff{1}{2}k_BT
\end{split}
と求められます。この結果から分かるように、どの自由度についても平等に $\DL{\ff{1}{2}k_BT}$ のエネルギーが分配されます。これより、エネルギー等分配則が示されたと言えます。
エネルギー等分配則は、二分子原子気体の比熱の導出やデュロン・プティの法則などの応用例が存在します。