結合系の熱平衡|統計力学による結合系の解析

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二つ以上の容器を接触させた系のことを結合系と呼びます。

接触させた直後には温度差があっても、接触面でエネルギーの交換が行われるため、徐々に二つの容器の温度差は無くなっていきます。つまり、十分時間が経過した後は二つの容器は最終的に等しい温度となります。このことは経験的な事実からも納得できるでしょう。

さて、熱力学では接触させた二つの物体の温度が等しくなった状態を、熱平衡と呼びます。

今回は統計力学の立場から、結合系における熱平衡の状態について考えていきます。

結合系での熱平衡の状態を考察する準備として、まずは、結合系微視的状態数について考えることから始めます。

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結合系の微視的状態数

下図のように、二つ以上の容器を接触させた系のことを結合系と呼びます。

結合系とは?

結合系:二つ以上の容器を接触させた系のこと

今、容器の内部エネルギーをそれぞれ $E_1,E_2$ とします。また、熱力学的重率をそれぞれ $W(E_1),W(E_2)$ とします。

結合系の模式図

結合系は接触面でエネルギーの授受が行える状態にあるため、十分な時間が経過すると結合系は熱平衡状態となると予測されます。この予測は日常の経験からも納得できるでしょう。

今回は、熱平衡状態における微視的状態数を計算することが主題となります。

これを考えるに当たり、接触前の微視的状態数を計算しておく必要があります。

まず、系 $1$ の微視的状態数 $W_1$ は熱力学的重率 $W(E_1)$ を用いて次のように表せます。

\begin{split}
W_1=W(E_1)\diff E_1
\end{split}

同様にして系 $2$ の微視的状態数を

\begin{split}
W_2=W(E_2)\diff E_2
\end{split}

と置けます。

このとき、二つの系を合わせた微視的状態の総数は上式の積となります。なぜなら、系 $1$ のある微視的状態それぞれに、系 $2$ の微視的状態の組み合わせを考えることができるためです。(場合の数と同様の考え方です)

したがって、接触前の微視的状態数の総数 $W_{1,2}$ は次のように表せます。

\begin{split}
W_{1,2}=W_1W_2=W(E_1)W(E_2)\diff E_1\diff E_2
\end{split}

同様の議論から、結合系の状態数 $W_{1+2}$ を求めることができます。

今、結合系の全エネルギー $E$ は $E=E_1+E_2$ と表せます。したがって、$E_2=E-E_1$ と言えるので、状態数 $W_{1+2}$ が次のように計算できます。

\begin{split}
W_{1+2}=W(E_1)W(E-E_1)\diff E_1\diff E_2
\end{split}

得られた結合系の状態数より、熱平衡状態での微視的状態数を計算できます。

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熱平衡の微視的状態数の計算

では、結合系熱平衡状態となったときの微視的状態数について考えていきます。

始めに、熱平衡状態において微視的状態数 $W_{1+2}$ は最大となっているだろうと予想されます。

なぜなら、エルゴート仮説より観測される状態は微視的状態数の期待値と一致すると言え、このときの期待値は微視的状態数の最大値と一致するからです。

このように、熱平衡に達した状態では $W_{1+2}$ は最大となります。そこで $W_{1+2}$ が最大となる数学的ンな条件を求めることを考えます。

少々、技巧的ですが、今後の展開を見据えて $W_{1+2}=W(E_1)W(E-E_1)$ の対数を考えることにします。すなわち、

\begin{split}
M=\log W_{1+2}=\log \Big(W(E_1)W(E-E_1)\Big)
\end{split}

が最大となる条件を得ることを目標とします。

ところで、$E_1$ を変化させることで $M$ も増減します。つまり、$M$ を $E_1$ の関数と見なすことができます。したがって、$M$ が最大となる数学的条件は $\DL{\ff{\diff M}{\diff E_1}=0}$ であると言えます。

この条件を適用すると、

\begin{split}
\ff{\diff M}{\diff E_1}&=\ff{\diff \big(\log W(E_1)\big)}{\diff E_1}+\ff{\diff \big(\log W(E-E_1)\big)}{\diff E_1}=0
\end{split}

と計算できます。そして、$E_2=E-E_1$ の関係にあるため、$\diff E_1=-\diff E_2$ となります。したがって、

\begin{split}
0&=\ff{\diff \big(\log W(E_1)\big)}{\diff E_1}-\ff{\diff \big(\diff \big(\log W(E_2)\big)}{\diff E_2}\EE
\therefore\,&\ff{\diff \big(\log W(E_1)\big)}{\diff E_1}=\ff{\diff \big(\log W(E_2)\big)}{\diff E_2}
\end{split}

が導かれます。

上の結果は統計力学的温度を用いることでさらに整理することができ、系 $1$ と $2$ の温度をそれぞれ $T_1,T_2$ とすると、以下のようにできます。

\begin{split}
\ff{1}{k_B T_1}=\ff{1}{k_B T_2}
\end{split}

これより、統計力学の立場からも熱平衡において二つの系の温度が等しくなること、すなわち $T_1=T_2$ となることが示せました。

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