超球の体積の導出|N次元球の体積と統計力学

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統計力学の数学的な準備として前回はゼータ関数とガンマ関数の関係について解説しました。今回も統計力学の準備として、$n$ 次元空間に存在する超球の体積を導出することを目指します。

結論を示すと、超球の体積はガンマ関数を用いて次のように表すことができます。

超球の体積

$n$ 次元空間に存在する半径 $R$ の超球の体積 $V_n(R)$ は次のように表される。

\begin{split}
V_n(R)=\ff{2\pi^{\ff{n}{2}}}{n\Gamma\left(\ff{n}{2} \right)}R^n
\end{split}

ただし、$\Gamma(x)$ をガンマ関数とする。

現実世界は基本的には三次元であるのに、より高次元の超球の体積を求めることは奇妙に感じるかもしれません。が、意外にも統計力学の議論を深めると必然的に超球の体積が必要となる局面が訪れるのです。

今回は詳細に立ち入りませんが、たとえば、ボルツマンの原理について考察する際、微視的状態数と呼ばれるものを計算するときに必要となります。

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超球とは?

通常思い浮かべる球は三次元の世界に存在していて、半径 $R$ の球の体積は $\DL{\ff{4}{3}\pi R^3}$ となります。また、球が空間を占める領域を数式で表すと、$x^2+y^2+z^2\leq R^2$ と表現できることは既に学んだ通りです。

ここで、球の概念を一般の次元に拡張することを考え、このような拡張された”球”のことを超球と呼ぶことにします。例えば、円は二次元の世界での”球”と考えることができます。

二次元の場合は”球”の形状をイメージすることは簡単ですが、四次元以上での超球の形状をイメージすることは困難です。したがって、超球を以下の様に数式を使って定義することにします。

超球の定義

一般化座標を $q$ として、$n$ 次元空間における半径 $R$ の球(=超球)を次のように定義する。

\begin{split}
q_1^2+q_2^2+\cdots+q_n^2=\sum_{i=1}^nq_i^2\leq R^2\\
\,
\end{split}

この定義を利用することで、超球の表面は数学的には

\begin{eqnarray}
q_1^2+q_2^2+\cdots+q_n^2=R^2\tag{1}
\end{eqnarray}

とできることが分かります。

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超球の表面積と体積の関係

ところで、三次元球の体積は $\DL{\ff{4}{3}\pi R^3}$ で、その表面積は $4\pi R^2$ でした。

この関係について良く見ると、球の表面積は体積を $R$ で微分した結果となっていることが分かります。

これは一般に成り立つ性質で、超球の体積 $V_n(R)$ と表面積 $S_n(R)$ の間には、

\begin{split}
\ff{\diff}{\diff R}V_n(R)=S_n(R)
\end{split}

という関係があります。したがって、$n$ 次元の超球の体積を $V_n(R)=a_nR^n$ と置くとき、その表面積を

\begin{split}
S_n(R)=\ff{\diff}{\diff R}V_n(R)=na_nR^{n-1}
\end{split}

と表せます。

この式を用いると、超球の半径が $\diff R$ だけ変化したときの体積の増加化分 $\diff V$ を

\begin{split}
\diff V=na_nR^{n-1}\diff R
\end{split}

と求めれらます。

ところで、超球が存在する空間を一般化座標で表したとします。すると、$\diff V$ は $\diff q_1\diff q_2\cdots\diff q_n$ とも表せます。ゆえに、

\begin{eqnarray}
\diff V=\diff q_1\diff q_2\cdots\diff q_n=na_nR^{n-1}\diff R\tag{2}
\end{eqnarray}

という等式が成立します。

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超球の体積の導出

準備が整ったので、これより超球の体積を求めていきます。ここまでの情報を整理すると、半径 $R$ の超球の表面は

\begin{split}
q_1^2+q_2^2+\cdots+q_n^2=R^2
\end{split}

と表せ、そして超球の体積を $V_n(R)=a_nR^n$ と置くと、表面積 $S_n(R)$は $na_nR^{n-1}$ とできました。

そして $q$ を一般化座標として

\begin{split}
\diff q_1\diff q_2\cdots\diff q_n=na_nR^{n-1}\diff R
\end{split}

という関係にあるのでした。

これらの情報より $a_n$ を求めることが今回の目標です。

そのためには上の数式たちを含み、かつ計算可能な式を見つけてくる必要がありますが、先人達はそのような式として以下の積分値を求めることを考えました。

\begin{split}
I_n&=\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(q_1^2+q_2^2+\cdots+q_n^2)}\diff q_1\diff q_2\cdots\diff q_n
\end{split}

これを変形して、

\begin{split}
I_n&=\left(\int_{-\infty}^{\infty}e^{-q^2}\diff q\right)^n
\end{split}

とすると、ガウス積分の結果を用いることができて、

\begin{split}
I_n&=\sqrt{\pi}^n=\pi^{\ff{n}{2}}
\end{split}

と求められます。一方、$I_n$ は式$(1)$ と $(2)$ を用いると以下のようにも変形でき、

\begin{split}
I_n&=\int_{-\infty}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(q_1^2+q_2^2+\cdots+q_N^2)}\diff q_1\diff q_2\cdots\diff q_n \EE
&=\int_{0}^{\infty}e^{-R^2}\cdot na_nR^{n-1}\diff R \EE
&= na_n\int_{0}^{\infty}R^{n-1}e^{-R^2}\diff R
\end{split}

ここで $R^2=t$ と置換すると

\begin{split}
I_n&= \ff{na_n}{2}\int_{0}^{\infty}t^{\ff{n}{2}-1}e^{-t}\diff t \EE
\therefore a_n &=\ff{2I_n}{n\Gamma\left(\ff{n}{2} \right)}
\end{split}

となります。この積分をガンマ関数の定義と比較することで、$a_n$ の具体的な表示が得られます。そして、$I_n=\DL{\pi^{\ff{n}{2}}}$ なので、超球の体積を次のように求めることができます。

\begin{split}
V_n(R)=\ff{2\pi^{\ff{n}{2}}}{n\Gamma\left(\ff{n}{2} \right)}R^n
\end{split}

超球の体積

$n$ 次元空間に存在する半径 $R$ の超球の体積 $V_n(R)$ は次のように表される。

\begin{split}
V_n(R)=\ff{2\pi^{\ff{n}{2}}}{n\Gamma\left(\ff{n}{2} \right)}R^n
\end{split}

ただし、$\Gamma(x)$ をガンマ関数とする。

上の式で $n=3$ の場合について考えましょう。

$\DL{\Gamma\left(\ff{1}{2}\right)=\sqrt{\pi}}$ であることを用いると、(導出方法について) $\DL{\Gamma\left(\ff{3}{2}\right)=\ff{1}{2}\sqrt{\pi}}$ となるので、

\begin{split}
V_3(R)=\ff{2\pi^{\ff{3}{2}}}{\ff{3}{2}\sqrt{\pi}}R^3=\ff{4}{3}\pi R^3
\end{split}

となります。

同様に $n=2$ のときも計算すると $V_2(R)=\pi R^2$ となって確かに”球”の体積となっていることが分かります。

※ 上に示した超球の体積の公式が正しいことを示すには、数学的帰納法を用いる必要がありますが今回は割愛します。

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