熱力学的重率とは?|巨視的状態と微視的状態数の架け橋

スポンサーリンク
ホーム » 統計力学 » 熱力学的重率とは?|巨視的状態と微視的状態数の架け橋

今回は熱力学的重率と呼ばれる、微視的状態の数に関わる重要な数値の導出方法について解説します。

さて、熱力学的重率は次のように定義される量のことです。

熱力学的重率とは?

ある巨視的状態(=圧力や温度など)に含まれる微視的状態数のことを熱力学定重率と呼ぶ。

すなわち、系の持つ全力学的エネルギーが $0$ 以上 $E$ 以下のの範囲にあるときの微視的状態の総数を $\Omega(E)$ として、熱力学的重率 $W(E)$ は次のように定式化される。

\begin{split}
W(E)=\ff{\diff \Omega(E)}{\diff E} \\
\,
\end{split}

そして、熱力学的重率を用いることで $E$ から $E+\D E$ までの間の微視的状態数を求めることができます。具体的には、次のように求められます。

$E$ から $E+\D E$ での微視的状態数

$E$ 以上 $E+\D E$ 以下の微視的状態数熱力学的重率 $W(E)$ を用いて $W(E)\cdot\D E$ と表せる。

すなわち、$N$ 個の気体分子から成る系の微視的状態数 $W$ は次のように表される。

\begin{split}
W=W(E)\cdot\D E=\ff{2V^N\D E}{3n\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}E^{\ff{3N}{2}-1} \\
\end{split}

ただし、$\Gamma(x)$ をガンマ関数とする。

この値は、ボルツマンの原理など後に続く統計力学の様々な量の計算に利用されるため、非常に重要な値となります。

熱力学定重率の概念を理解するための準備として、まずは微視的状態数の説明から行います。

スポンサーリンク

微視的状態数とは?

さて、気体分子微視的状態には複数の状態が考えられます。例えば $5$ 個の分子を閉じ込めた容器を考え、この分子達の左右の配置パターンを微視的状態と捉えると、パターン数は $6$ つとなります。

気体分子の配置パターン

この例では分子の配置パターンを考えましたが、他の微視的状態を考えることができます。

統計力学では考えうる微視的状態の数のことを微視的状態数と呼びます。

微視的状態数とは?

微視的状態数:あるエネルギーでの考え得る微視的状態の数のこと

微視的状態のイメージは上の通りですが、様々な状況に適用できる一般的な議論を行いたいので、エネルギーの大きさに基づいた微視的状態数の議論を進めることにします。

つまり、各分子へのエネルギー量の割り当て方を微視的状態数と考えることにします。そして、微視的状態に関する仮定も利用することにします。すると、あるエネルギーでの微視的状態数は下図に示す位相空間の格子点数として理解できます。

微小領域の中のエネルギー準位

例えば $1$ 個の分子が $\delta E=\diff q\cdot\diff p$ のエネルギーを持っているとき、代表点が取り得る微視的状態数は、位相空間の格子点の総数と考えることができます。よって、$\DL{\ff{\diff q\cdot\diff p}{h}}$ と計算できます。

この計算結果は $1$ 次元の世界での微視的状態数であることに注意して下さい。現実の空間は $3$ 次元のため、$\delta E=(\diff q_1\cdot\diff p_1)(\diff q_2\cdot\diff p_2)(\diff q_3\cdot\diff p_3)$ としなければならなりません。

したがって、微視的状態数は $\DL{\ff{(\diff q_1\cdot\diff p_1)(\diff q_2\cdot\diff p_2)(\diff q_3\cdot\diff p_3)}{h^3}}$ となります。

この考え方は一般の、$N$ 個の分子を含む系に拡張できます。すなわち、$N$ 個の分子を含む系の微視的状態数は $\DL{\ff{(\diff q_1\cdot\diff p_1)\cdots(\diff q_{3N}\cdot\diff p_{3N})}{h^{3N}}}$ となります。

スポンサーリンク

熱力学的重率とは?

統計力学では、ある圧力や温度、言い換えるとあるエネルギー $E$ での微視的状態数が重要な要素となります。なぜなら、あるエネルギーでの微視的状態数が分かると、ミクロな世界に基礎を持つ微視的状態数とマクロな世界での巨視的状態(=圧力や温度など)との相関が議論できるからです。

さて、統計力学では、ある巨視的状態(=圧力や温度など)に含まれる微視的状態数のことを熱力学的重率と呼びます。

熱力学的重率とは?

熱力学的重率:ある巨視的状態(=圧力や温度など)に含まれる微視的状態数のこと

前述の微視的状態数の議論から分かるように、$\delta E$ が増加するにつれて微視的状態数は増えていきます。つまり、微視的状態数はエネルギーの大きさに比例して増加する性質があります。

このような微視的状態数の性質を利用することで、熱力学的重率を計算することができます。

始めに、熱力学定重率を求める基本的なアイデアについて説明します。前述のように、エネルギーの大きさに比例して微視的状態数は増加していきます。しかしながら、この情報だけでは熱力学的重率(=ある巨視的状態での微視的状態数)は計算できません。

とは言え、$0$ から $E$ までのトータルの微視的状態数 $\Omega(E)$ と、$0$ から $E+\D E$ までの熱力学的重率 $\Omega(E+\D E)$ を考え、この差 $\Omega(E+\D E)-\Omega(E)$ が熱力学定重率と関係があることは利用できます。

この様子をグラフ化すると図のようになります。

微視的状態数と熱力学的重率の関係

エネルギーの大きさに比例して微視的状態数は増加するため、$\Omega(E)$ の曲線は右肩上がりとなります。そして、求めたい熱力学定重率は $\Omega(E)$ の接線の傾きとなります。こう言える理由は次の通りです。

$\D E$ が微小であれば $W(E)$ は $E$ から $E+\D E$ の区間で一定と見なせるため、以下の近似式が成立します。

\begin{split}
W(E)\D E\NEQ\Omega(E+\D E)-\Omega(E)
\end{split}

これを整理すると、

\begin{split}
W(E)\NEQ\ff{\Omega(E+\D E)-\Omega(E)}{\D E}
\end{split}

が得られます。$\D E\to 0$ の極限とすると微分を用いて

\begin{split}
W(E)=\ff{\diff \Omega(E)}{\diff E}
\end{split}

と記述することができます。したがって、熱力学定重率は $\Omega(E)$ の接線の傾きと一致します。

スポンサーリンク

熱力学定重率の導出

先程求めた熱力学的重率の関係式を用いて、ある巨視的状態における具体的な熱力学定重率の式の導出を行います。

前提として、$N$ 個の気体分子の代表点は $6N$ 次元の位相空間に表示されることを思い出しましょう。

これより、$0$ から $E$ までの範囲での微視的状態数は $6N$ 次元空間の超立体に含まれる格子点の総数であることが言えます。つまり微視的状態数は、超立体の体積を $h^{3N}$ で割った値と一致します。

第一節で述べたように、$\delta E$ の領域で取り得る微視的状態の総数は $\DL{\ff{(\diff q_1\cdot\diff p_1)\cdots(\diff q_{3N}\cdot\diff p_{3N})}{h^{3N}}}$ で表現できました。

したがって、$0$ から $E$ までの範囲で取り得る微視的状態数の総数 $\Omega(E)$ は次の積分計算より求められます。

\begin{split}
\Omega(E)&=\int_0^E\delta E\EE
&=\ff{1}{h^{3N}}\int\cdots\int (\diff q_1\cdot\diff p_1)\cdots(\diff q_{3N}\cdot\diff p_{3N}) \EE
&=\ff{1}{h^{3N}}\left(\int\cdots\int\diff q_1\cdots\diff q_{3N}\right)\left(\int\cdots\int\diff p_1\cdots\diff p_{3N}\right)
\end{split}

さて、$\DL{\iiint\diff q_1\diff q_2\diff q_3}$ については容器の体積 $V$ と一致するので、$\DL{\int\cdots\int\diff q_1\cdots\diff q_{3N}}=V^N$ と言えます。

次に、$\DL{\int\cdots\int\diff p_1\cdots\diff p_{3N}}$ について考えます。

今、分子に作用するポテンシャルエネルギーを $0$ と考えられます。よって運動エネルギーのみ考えれば良いと言えます。また、運動エネルギー $T$ と運動量 $p$ との間には $T=\DL{\ff{p^2}{2m}}$ の関係が成立します。

したがって、$E$ 以下の力学的エネルギー(=内部エネルギー)を持つ $N$ 個の分子のエネルギー状態は次のように表せます。

\begin{split}
\ff{1}{2m}(p_1^2+p_2^2+\cdots+p_{3N}^2)\leq E^2 \EE
\therefore\,p_1^2+p_2^2+\cdots+p_{3N}^2\leq(\sqrt{2mE})^2
\end{split}

この式を良く見ると、超球の領域を表すことに気が付きます。ゆえに、超球の体積の計算結果を用いて、

\begin{split}
\int\cdots\int\diff p_1\cdots\diff p_{3N}=\ff{2\pi^{\ff{3N}{2}}}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}(2mE)^{\ff{3N}{2}}
\end{split}

とできます。以上より、微視的状態数 $\Omega(E)$ が

\begin{split}
\Omega(E)&=\ff{2V^N}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}E^{\ff{3N}{2}}
\end{split}

と求められます。

この結果を用いると、先述の定義より熱力学的重率が以下のように求められます。

\begin{split}
W(E)=\ff{\diff \Omega(E)}{\diff E}=\ff{2V^N}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{split}

以上より、$E$ から $E+\D E$ の間の微視的状態数 $\D \Omega(E)=W(E)\cdot\D E$ は次のようになります。

\begin{split}
\D \Omega(E)=W(E)\cdot\D E=\ff{2V^N\D E}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{split}

このように、熱力学定重率を用いることで、ある巨視的状態における微視的状態数を求めることができます。

タイトルとURLをコピーしました