等確率の原理とボルツマンの原理|微視的状態の数とエントロピーの関係【統計力学】

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等確率の原理ボルツマンの原理を使い、微視的状態数からエントロピーを計算します。

今回は、気体一個一個の分子の微視的状態とエントロピーという巨視的な性質を結びつける、統計力学の一つの集大成であり、物理学の到達点の一つである、ボルツマンの原理について解説します。

はじめに、気体分子運動論マクスウェル分布で見てきたように、個々の気体分子は様々な速度で運動していました。

様々な速度で運動しているということは、個々の分子が様々な異なる運動エネルギーを持ってることを意味します。

ところで、分子一個一個の微視的な運動状態に注目し、各時刻での運動状態(位置と運動量)を数え上げたとします。

この微視的状態数は気体の巨視的性質(エントロピー)とどのような関係を持つでしょうか?

今回の議論は、微視的状態と巨視的性質を結びつけることをゴールとして展開されます。

ニュートンの運動法則に従う分子の集合から、気体の巨視的な性質を導ける衝撃を体験できます。

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プロローグ

位置と速度が決まれば、次の瞬間での質点の位置が決定できます。

$3$次元空間を運動する一つの質点について考えましょう。

次の瞬間での質点の位置を求めるには、位置の$x, y, z$座標と速度$\B{v}(v_x, v_y, v_z)$の情報があれば良く、具体的には、位置と運動量の情報が必要となります。

ところで、これら位置と運動量をひとまとめにして座標にしたものを位相空間と呼びます。

一つの質点の運動を位相空間で考えると、一点の座標を指定すれば位置も運動量も決まるため、次の瞬間の位置を簡単に求められます。

一個の質点の運動に関しては、位置と運動量を合わせ$6$変数あるため、この位相空間も$6$次元空間になります。

質点系の位相空間

面白いことに、二質点の位置と速度も位相空間で考えると、$12$次元空間内の一点の座標としてまとめて表すことができます。(この点を代表点と呼びます)

一般には、$N$個の質点の位置と速度を位相空間で考えれば、$6N$次元空間での一点の座標として$N$個の質点の運動状態をまとめて表すことができます。

さて、この質点の集団(質点系)の中で、ただ一つの質点でも速度や位置が変化れば、位相空間での点の位置が変わることは理解できるでしょう。

今回の議論では、気体分子を質点とみなします。

また、気体分子一個一個の位置と運動量の状態(=運動状態)を微視的状態と呼びます。

気体分子全体の運動と位相空間

それでは、気体分子全体の運動状態を位相空間で考えることにしましょう。

同じ温度、同じ体積、同じ圧力の気体が詰まった容器を複数個用意したとしましょう。

同一の内部エネルギーを持つ複数の気体

これらの容器の内部エネルギーは全て同じです。(内部エネルギー=気体分子の全エネルギー)

しかし、分子一個一個の運動に注目して、その位置や速度を集計したら全く同じになるでしょうか?

おそらく一致することはないでしょう。

このように、一個一個の分子の微視的状態を厳密に比較すると、容器の中の分子の運動状態は異なるでしょう。

巨視的な状態(温度・体積・圧力)は同じでも、それに対応した分子一個一個の微視的な状態は複数あるという視点が、今回は重要な観点になります。

話を位相空間に戻しましょう。

莫大な粒子を含む気体の運動状態をデカルト座標に表示するのは無理ですが、位相空間であれば全ての粒子の微視的状態を、一つの代表点の座標で表示できます。

位相空間で各容器の分子の運動状態を表す代表点を表示すると、下図のようになります。(各容器には$N$個の分子が含まれるため、$6N$次元になります)

等エネルギーを表す超平面と代表点

さて、それぞれの容器の状態に対応する代表の集合は、位相空間上で超曲面を形作ります。

超曲面上にある代表点同士のエネルギーの大きさは同一です。

ところで、(古典力学の立場では)空間や時間は切れ目なく連続しているため、分子はどんな位置や速度でも取ることができるはずです。

ですが、このままでは超曲面上の点の数が無限になり計算が破綻します。

そこで、ある単位で位置や運動量が飛び飛びに変化すると仮定しましょう。(現実にそうなっているかは置いておいて)

位置や運動量を別々に考えても良いですが、位置と運動量の積が飛び飛びの値を取るとしておきましょう。

つまり、

\begin{eqnarray}
\D q \cdot \D p = h
\end{eqnarray}

を単位として飛び飛びの値を取ると考えましょう。

ややこしいですが、今回、$\diff q, \diff p$よりも、$\D q, \D p$がずっと小さいと考えます。

エネルギーの揺らぎ

ここまでは全ての容器で内部エネルギー$E$が厳密に同じであるとして議論をしていましたが、実際には各容器の内部エネルギーには微妙なばらつきがあるはずです。

現実に当てはめれば、同じ部屋の中でも場所や時刻によって気温が微妙に異なる様子に相当します。

専門的には、エネルギーのばらつきをエネルギーの揺らぎと呼びます。

エネルギーの揺らぎの範囲を$\diff E$とします。

位相空間でエネルギーの揺らぎを図示すると、$E$から$E+\diff E$までの各エネルギーに対応する超曲面が積み重なって、ある程度の”厚み”を持った超立体が現れます。

微小超体積要素の模式図

微笑な超立体の”体積”$\diff v$を$h$で割ることで、この微小領域の範囲で気体の分子が取りうる微視的状態の総数を求めることができます。

正確には、$\diff v=\diff q_1 \diff q_2 \cdots \diff q_{3N}\diff p_1 \diff p_2 \cdots \diff p_{3N}$であり、微視的状態数は$\DL{\ff{\diff v}{h^{3N}}}$により求められます。

この超立体はある時刻$t$での微視的状態数の総数に相当します。超立体は時間経過と共に位相空間を移動していきます。

考えなければならないこと

以上の計算を行えば、気体の微視的状態数を求めることができそうです。

巨視的状態が微視的状態に関係しているようなので、反対に考えれば、微視的状態から巨視的状態を繋げることができそうです。

いきなり計算に着手する前に、議論のポイントを考えましょう。

まず、容器をたくさん用意し、それぞれの容器の状態の平均を取ったものを統計平均と呼びます。(同じ時刻で同時に状態の平均を取っています)

一方、一つの容器に対して十分長い時間測定を繰り返し、平均を取ったものを時間平均と呼びます。

統計平均と時間平均は一致するのでしょうか?このことについて検証が必要そうです。

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等確率の原理

前置きが長くなりましたが、気体の微視的状態数の計算に取り掛かりましょう。

さて、プロローグで位置と運動量の積(=エネルギー)が飛び飛びの値を取ると仮定すると書きましたが、このことについて考えましょう。

簡単のため、$E_1, E_1 +\varepsilon$の二つの大きさのエネルギーだけを分子が取れると仮定します。(それぞれの大きさのエネルギーをエネルギー準位と呼びます)

また、系全体のエネルギーが$3E_1 + \varepsilon$であるとしましょう。

各分子のエネルギーの大きさの組み合わせを図示すると、次のようになります。

エネルギー準位とその組み合わせ

全エネルギーが$3E_1 + \varepsilon$であることから、一個の分子だけ$E_1 +\varepsilon$のエネルギー準位を取ることができます。

三個の分子の内から一個の分子を$E_1 + \varepsilon$のエネルギー準位に割り当てる方法は3通りあります。

組み合わせの式を使って、表現すると${}_3\RM{C}_1$ともできます。

プロローグでの説明のように、内部エネルギーが同じでも、微視的見ると分子の運動状態が異なることがあります。

概念的には、気体の巨視的な状態を観測することは、複数の微視的状態の候補から、一つの微視的状態を選ぶことに相当します。

つまり、観測とは、特定の微視的状態の系をある確率で引くことと考えることもできるのです。

さて、複数の微視的状態の候補の内、特定の微視的状態を引く確率はどの程度なのでしょうか?

ある微視的状態を引き当て易い、なんてことはあるのでしょうか?

要するに、よく切ったトランプのカードから一枚を引くとき、特定のカードが特別出現しやすいなどとういことがあるでしょうか?

直感的には、どの状態も均等な確率で引けそうです。

この直感を数学的に証明することは難しそうですが、正しそうなので、『どの微視的状態も等しい確率で観測される』としておきましょう。

等確率(等重率)の原理

どの微視的状態も等しい確率で観測される

このように、どの微視的状態も等しい確率で観測されるという仮説を等確率の原理(等重率の原理)と呼びます。

今回の例では、左端の微視的状態を観測する確率は、等確率の原理から$\DL{\ff{1}{3}}$であると言えます。

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微視的状態数について

ところで、標準状態の気体の中には、1立方メートル当たり約$2.65\times 10^{25}$個もの分子が含まれています。

これを1立方ミリメートル当たりに換算すると、約$2.69\times10^{16}$個(約3京個!)もの分子が含まれていることになります。

直線上に限っても、1 mm当たりに膨大な分子が存在することが分かります。

微視的状態数の計算方法について考えていきましょう。

突然ですが、微小面積$\diff q_i \diff p_i$を考えます。

この微小面積を$h$を単位として分割し、位相空間内の代表点は、この単位で飛び飛びな値しか取れないと仮定します。

そして、この単位を$ \D q \cdot \D p = h $とします。

このとき、$\diff q_i \diff p_i$の範囲内で、代表点が取り得る微視的状態数は、下図より$\DL{\ff{\diff q_i \diff p_i}{h}}$ となります。

微小領域の中のエネルギー準位

※$h$の次元が$2$のため、計算式はこのようになります。

このことから、位相空間の微小な超立体$\diff v$の範囲に含まれる微視的状態数$\diff W$は、

\begin{eqnarray}
\diff W &=& \ff{\diff v}{h^{3N}} \EE
&=& \ff{\diff q_1 \diff q_2 \cdots \diff q_{3N}\diff p_1 \diff p_2 \cdots \diff p_{3N}}{h^{3N}}
\end{eqnarray}

となります。

リウヴィルの定理

先ほど求めた$\diff W$は正確には、ある時刻$t$での微視的状態数です。

時間変化に伴い、超立体は位相区間内を移動していきます。

ここで問題になるのは、各時刻における超立体の”体積”の変化です。

もし、”体積”が変化するのなら、各時刻での微視的状態数が変化することになります。

微視的状態数が時刻により変化することは具合が悪く、熱平衡状態(内部エネルギーが一定)であることと矛盾してしまいます。

※内部エネルギーの揺らぎがあったとしても、長時間の平均を取れば一定という意味です

つまり、$\diff v(t_1) = \diff v(t_2)$であることを証明する必要がありそうです。

といっても、リウヴィルの定理から$\diff v(t_1) = \diff v(t_2)$となることが示されているので、以降の議論では、$\diff v(t_1) = \diff v(t_2)$が証明抜きで成り立つものとして扱います。

要するに、時刻$t_1$での超立体の”体積”$\diff v$と時刻$t_2 $での超立体の”体積”$\diff v’$を比較すると、$\diff v = \diff v’$であり、各時刻で微視的状態数は変わらないことが言えます。

エルゴート仮説

時間の経過に伴い超曲面上を刻々と微小な超立体が移動していきます。

この超曲面上を超立体がどう動いていくのかが、次の疑問になります。

考えている超曲面上を偏りなく、均一に移動していることが今後の議論のポイントになるためです。

均一に移動しているかを実際に追跡して確かめるのは非常に難しいため、次のような仮説を設ることにします。

  1. 時間経過に伴い、超立体は全ての超曲面上の代表点を通る。
  2. 超曲面上のある集合に滞在する時間は、その集合の相対的な大きさに比例して増加する。

最初の仮説については、十分な時間をかければ超曲面上の全ての代表点を通ることを主張します。

二つ目の仮説は、同じ大きさの領域であれば、超立体は同じ時間で通過することを主張しています。

やや、遠回りな表現になっていますが、要するに、位相空間で計算した平均値と現実の測定での時間平均(=観測値)が一致することを主張しています。

この主張をエルゴート仮説と呼び、次のようにまとめられます。

エルゴート仮説

物理量の位相平均と時間平均は等しい

今回、エルゴート仮説から、位相空間で計算した微視的状態数の平均値は、現実の微視的状態数の時間平均と一致することになります。

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熱力学的重率

$0$以上$E$以下の範囲にある微視的状態数の総数を$\Omega (E)$とします。

さて、エネルギーがほぼ$0$のとき、分子はほとんど静止しているため、微視的状態の数は少ないですが、エネルギーが大きくなるにつれ、微視的状態数は急激に増えてくことは感覚的に理解できると思えます。

各エネルギーの大きさでの微視的状態数の総和$\Omega(E)$ですが、グラフにすると指数関数的に増加するグラフになります。

微視的状態数と熱力学的重率の関係

$\Omega(E)$について、$E$から$E+\D E$までの傾きを考え、この傾きを$W(E)$とします。

\begin{eqnarray}
W(E) &=& \ff{\Omega(E+\D E) \,- \Omega(E)}{(E+\D E) \,- E} \EE
&=& \ff{\Omega(E+\D E) \,- \Omega(E)}{\D E}
\end{eqnarray}

式変形をして、

\begin{eqnarray}
\Omega(E+\D E) \,- \Omega(E) &=& W(E)\D E \EE
\end{eqnarray}

となります。

左辺は、$E$以上$E+\D E$以下の範囲に含まれる微視的状態数を表します。

逆に言えば、$E$以上$E+\D E$以下の範囲に含まれる微視的状態数を$W(E)$を使って表現できるということです。

統計力学では、$W(E)$を熱力学的重率と呼び、$E$以上$E+\D E$以下の範囲に含まれる微視的状態数を表します。

さて、$\D E$の極限を考えると微分の形で表せて$W(E)$は、

\begin{eqnarray}
W(E) &=& \ff{\diff \Omega(E)}{\diff E} \tag{1}
\end{eqnarray}

となります。

少し遠回りに感じるかもしれませんが、$\Omega(E)$を求めてから$W(E)$を求めることが、今後の方針となります。

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$E$以下の微視的状態数$\Omega(E)$の計算

いよいよ、$E$以下の微視的状態数の総数$\Omega(E)$について計算していきましょう。

$\Omega(E)$は、位相空間内の超立体の”体積”を積分により求め、”体積”を$h^{3N}$で割ることにより求められるので、

\begin{eqnarray}
\Omega(E) &=& \ff{1}{h^{3N}}\int\cdots\int\cdot\int\cdots\int \diff q_1 \diff q_2 \cdots \diff q_{3N}\cdot\diff p_1 \diff p_2 \cdots \diff p_{3N}
\end{eqnarray}

となります。

さて、一個の分子の移動について注目すると、この分子は容器全体を運動するため、容器の体積を$V$とすると、

\begin{eqnarray}
\iiint \diff q_i \diff q_{i+1} \diff q_{i+2} = V
\end{eqnarray}

となります。

したがって、

\begin{eqnarray}
\int\cdots\int \diff q_1 \diff q_2 \cdots \diff q_{3N} = V^{N}
\end{eqnarray}

と計算できます。

次に、下のような運動量についての$3N$重積分にていて考えていきます。

\begin{eqnarray}
\int\cdots\int \diff p_1 \diff p_2 \cdots \diff p_{3N}
\end{eqnarray}

この気体分子全体の系からなるハミルトニアン$H$は、運動エネルギー$T$とポテンシャルエネルギー$U$を使って、

\begin{eqnarray}
H &=& T + U
\end{eqnarray}

とできて、

今、ポテンシャルエネルギー(重力による位置エネルギー)を無視し、運動量$p_i$を使って$H$を表すと、

\begin{eqnarray}
H &=& T \EE
&=& \ff{1}{2m}\left(\, p_1^2 + p_2^2 + p_3^2 + \cdots + p_{3N}^2 \,\right)
\end{eqnarray}

とできます。

今、$H\leq E$の範囲で考えているため、次のような不等式が成立します。

\begin{eqnarray}
\ff{1}{2m}\left(\, p_1^2 + p_2^2 + p_3^2 + \cdots + p_{3N}^2 \,\right) \leq E \EE
\end{eqnarray}

整理して、

\begin{eqnarray}
p_1^2 + p_2^2 + p_3^2 + \cdots + p_{3N}^2 \leq \sqrt{2mE} \tag{2} \EE
\end{eqnarray}

とできます。

$n$次元球の体積

式(2)から、$3N$次元の運動量空間では、代表点はこの不等式が表す領域の中を移動することが分かりました。

したがって、運動量についての$3N$重積分の計算結果は、式(2)が表す不等式の”体積”と一致すると言えます。

式(2)がどんな領域を表すかが問題になる訳ですが、これは半径$\sqrt{2mE}$ の$3N$次元球を表します。

天下り的になりますが、半径$R$の$n$次元球の”体積”を$C_n(R)$とすると、次のように表せます。(導出の過程は別記事で解説します)

半径$R$の$n$次元球の体積$C_n(R)$

\begin{eqnarray}
C_n(R) = \ff{\pi^{\ff{n}{2}}}{\Gamma\left( \ff{n}{2}+1 \right)}R^n \\
\,
\end{eqnarray}

※式中に出てくる$\Gamma(x)$はガンマ関数と呼ばれる階乗を一般化した関数です。

運動量の$ 3N$重積分

以上のことから、運動量の$3N$重積分の結果は、

\begin{split}
&\int\cdots\int \diff p_1 \diff p_2 \cdots \diff p_{3N} = C_{3N}(\sqrt{2mE}) \EE
&\qquad = \ff{\pi^{\ff{3N}{2}}}{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)}(2mE)^{\ff{3N}{2}}
\end{split}

となります。

したがって、$\Omega(E)$は、

\begin{eqnarray}
\Omega(E) &=& \ff{1}{h^{3N}}\cdot V^N \cdot \ff{\pi^{\ff{3N}{2}}}{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)}(2mE)^{\ff{3N}{2}} \EE
&=& \left( \ff{2\pi m}{h^2} \right)^{\ff{3N}{2}}\cdot\ff{V^N}{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)}\cdot E^{\ff{3N}{2}}
\end{eqnarray}

と求められます。

熱力学的重率

式(1)より、熱力学的重率$W(E)$は次のように求められます。

\begin{eqnarray}
W(E) &=& \ff{\diff \Omega(E)}{\diff E} \EE
&=& \left( \ff{2\pi m}{h^2} \right)^{\ff{3N}{2}}\cdot\ff{V^N}{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)}\cdot E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{eqnarray}

$E$以上、$E+\D E$以下の熱力学的重率$W$は、両辺に$\D E$を掛けることで求められ、

\begin{eqnarray}
W &=& W(E)\D E \EE
&=& \left( \ff{2\pi m}{h^2} \right)^{\ff{3N}{2}}\cdot\ff{V^N \cdot\D E}{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)}\cdot E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{eqnarray}

となります。

熱力学的重率$W(E)$

\begin{eqnarray}
W &=& \left( \ff{2\pi m}{h^2} \right)^{\ff{3N}{2}}\cdot\ff{V^N \cdot\D E}{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)}\cdot E^{\ff{3N}{2}-1} \\
\,
\end{eqnarray}

右辺の定数部分を$A$とすると、

\begin{eqnarray}
W &=& A E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{eqnarray}

と簡略化できます。

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ボルツマンの原理

分子の微視的状態とエントロピーという気体の巨視的性質を結びつけましょう。

ここでようやく、微視的状態数を求めた理由が明らかになります。

実は、微視的状態数$W$はエントロピー$S$と次のような関係を持ちます。($k_B$はボルツマン定数

ボルツマンの原理

\begin{eqnarray}
S &=& k_B \log W \\
\,
\end{eqnarray}

この関係は証明抜きで正しいと考えるため、ボルツマンの原理と呼ばれます。

エントロピーの計算

熱力学的重率とボルツマンの原理を用いてエントロピーを計算してみましょう。

今回は、$N$を偶数として計算します。

まず、$\DL{\Gamma\left( \ff{3N}{2}+1 \right)=\left( \ff{3N}{2} \right)!}$とできて、$W$は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
W &=& \left( \ff{2\pi m}{h^2} \right)^{\ff{3N}{2}}\cdot\ff{V^N \cdot\D E}{\left( \ff{3N}{2} \right)!}\cdot E^{\ff{3N}{2}-1} \\
\end{eqnarray}

さて、ここで$W$を$N!$で割ったものを考えます。

このような操作を行う理由は、各分子を区別するのをやめ、純粋に状態の数のみを考えるためです。

エントロピーの計算では、$\DL{\ff{W}{N!}}$を微視的状態数として扱います。(ボルツマンの原理の$W$は、$W/N!$のこと)

次に$\DL{\log \ff{W}{N!}}$を計算すると、

\begin{split}
\log \ff{W}{N!} &= \left( \ff{2\pi m}{h^2} \right)^{\ff{3N}{2}}\cdot\ff{V^N \cdot\D E}{N!\left(\cdot\ff{3N}{2} \right)!}\cdot E^{\ff{3N}{2}-1} \EE
&= \ff{3N}{2} \log\ff{2\pi m}{h^2}+N\log V + \log \D E\EE
&\qquad+ \left( \ff{3N}{2}-1 \right)\log E \,- \log N! \,- \log \left( \ff{3N}{2} \right)!
\end{split}

とできて、$\log \D E$は無視でき、$N$は十分大きな数のためスターリングの公式が使えます。

よって上式は、

\begin{split}
\log \ff{W}{N!} &\NEQ \ff{3N}{2} \log\ff{2\pi m}{h^2}+N\log V + \ff{3N}{2}\log E\EE
&\qquad \,- \log N^Ne^{-N} \,- \log \left( \ff{3N}{2} \right)^{\ff{3N}{2}}e^{-\ff{3N}{2}} \EE
&= \ff{3N}{2} \log\ff{2\pi m}{h^2}+N\log V + \ff{3N}{2}\log E\EE
&\qquad \,- N\log N + N \,- \ff{3N}{2}\log \ff{3N}{2} + \ff{3N}{2}
\end{split}

と変形でき、整理すると、

\begin{split}
\log \ff{W}{N!} &\NEQ N \left\{ \ff{5}{2} + \log \ff{V}{N} + \ff{3}{2}\log\left( \ff{4\pi m}{3h^2}\cdot\ff{E}{N} \right) \right\} \EE
\end{split}

となります。

したがって、エントロピー$S$は、

\begin{split}
S = k_B N \left\{ \ff{5}{2} + \log \ff{V}{N} + \ff{3}{2}\log\left( \ff{4\pi m}{3h^2}\cdot\ff{E}{N} \right) \right\} \EE
\end{split}

と求められます。

気体の体積$V$と内部エネルギー$E$の大きさは、気体分子の数により決まるため$V/N, E/N$は定数となります。

したがって、エントロピーは気体分子の個数により決まりることが分かります。

こことから、二つの気体を混ぜ合わせると、エントロピーが増加することが分かります。(外部との熱の出入りは無いとします)


ニュートンの運動法則を個々の分子に適用気体全体に適用することで気体の巨視的性質が導けました。この事実は衝撃的ですが、美しくもあります。

参考記事

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