リウヴィルの定理の証明|統計力学の基礎【解析力学】【統計力学】

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統計力学の準備編として、リウヴィルの定理を証明します。

以下の議論では、気体は定常状態にあるとします。

以前、位相空間の解説を行いました。その際に、リウヴィルの定理を紹介、$f=1$にてリウヴィルの定理が成立することを示しました。

さて、統計力学では、気体分子のミクロな運動からマクロな気体の性質を導くことを目標にしています。

気体分子を大きさの無い質点とみなしても、その質点の数はアボガドロ数程度($\NEQ 6.0\times 10^{23}$ 個)であり、すべての質点の運動を計算するのは絶望的です。

この問題を解決するために、ハミルトンの正準方程式を使い、位相空間での一個の質点の運動に変換してやります。

そして、ハミルトンの正準方程式は次のように表せました。

ハミルトンの正準方程式

一般化座標を$q_i$、一般化運動量を$p_i$、ハミルトニアンを$H$として、ハミルトンの正準方程式は以下のように表せる。

\begin{eqnarray}
\frac{\diff q_i}{\diff t} &=& \frac{\del H}{\del p_i} \EE
\frac{\diff p_i}{\diff t} &=& -\frac{\del H}{\del q_i} \\
\,
\end{eqnarray}

位相空間に変換する際、気体が持つ全エネルギー$E$により、位相空間上での軌跡(トラジェクトリー)が決まります。

ところで、気体の持つエネルギーは気体の温度によって決まります。

気体の温度は温度計により測定できますが、無限の精度では測定できず、真の温度からある程度の誤差を常に含んでいます。

例えば、真の温度からの誤差が$0.1 {}^\circ\RM{C}$あったとしましょう。

そして、その差によって気体の圧力や体積が全く違ってしまうとしましょう。

このような場合、統計力学と現実の気体を比較する際に困ったことになります。

小さな測定誤差のせいで、測定値から統計力学的に導いた気体の振る舞い(圧力・体積など)と、現実の気体の振る舞いが全く異なったら、理論の正しさを検証できなくなってしまいます。

これが本当のことだとしたら由々しき事態です。

なぜなら、どう頑張っても統計力学から、現実の気体の振る舞いを予測できないことを意味するからです。

もちろん、実際にはそのような心配はしなくても良いのですが、その根拠となるのがリウヴィルの定理です。

今回は、リウヴィルの定理の証明過程について解説していきます。

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リウヴィルの定理で示したいこと

小さな誤差により、気体の状態が全く異なったものになるか?という問いを、解析力学の言葉を使って表現すると、

ハミルトニアン$H$が時間に依らず一定(つまり、$H=E$)のとき、各ハミルトニアンに対応するトラジェクトリー上の各代表点を囲む領域の大きさ(測度)は、時間と共に変化するか?

というものになります。

それぞれの意味について解説します。

まず、『ハミルトニアン$H$が時間に依らず一定』とは、

$H$が$H\big(\{ \dot{q_i} \}, \{ \dot{p_i} \}, t\big)$ではなく、$H\big(\{ \dot{q_i} \}, \{ \dot{p_i} \}\big)$と表せるということです。

つまり、$H$が陽に時間$t$を含んでいない場合ということです。

このとき、$H$は系の全エネルギー$E$と一致し、$H=E$となります。

次に、『各ハミルトニアンに対応する各トラジェクトリー上の代表点を囲む領域』を図にすると以下のようになります。

位相空間上での代表点を囲む領域

$H$の大きさが異なるトラジェクトリーを位相空間上に描き、ある時刻$t$での位置をプロットします。

これらの点を代表点と呼びます。

図では、五つの線しか描いていませんが、その間に無数のトラジェクトリーがあると考えてください。

そして、それぞれのトラジェクトリー上の代表点を囲む領域を図示すると、薄青色の領域$V(t)$になるわけです。

この領域が、各ハミルトニアンに対応するトラジェクトリー上の代表点を囲む領域になります。

領域の大きさと、ぼかした表現をしていますが、正確に表現すると、二次元であれば面積、三次元であれば体積になります。

一般の次元では、面積や体積のことを測度と呼びます。

現実との関係

わざわざ複数のトラジェクトリーと、それらの代表点を囲む領域を考える理由について、説明します。

この理由は、測定誤差を上手くモデル化するためです。

例えば、気体の温度測定を行ったとき、得られた測定値は誤差を含んでおり、真の温度とは異なる値となっているでしょう。

つまり、温度の測定値は、真の温度からある程度の範囲内で分布していると考えられます。

真の値と測定値

時刻$t$で複数の温度計で同時に温度測定し、それぞれの温度(=エネルギー)に対応したトラジェクトリーを描いたのが、先ほどの図だとしましょう。

その結果、各トラジェクトリー上の代表点を囲む領域を作ると、$V(t)$となります。

同様に、$\D t$秒後に温度を再測定して、領域を作ると$V(t+\D t)$となります。

ここからが本題になります。

もし、ある測定温度に対応した代表点が、$\D t$秒後に他の代表点から遠く離れた場所にあったとしたらどうなるでしょうか?

この測定結果を元に計算すると、$\D t$秒後の気体の状態は、その他の代表点とは大きく異なったものになります。

また、このときの領域の大きさは、大きくなっているでしょう。

一方、位相点がある領域に集中した場合も、異なる状態のはずの気体が同じ状態になることを意味し、やはり変です。

このときは、領域の大きさは小さくなります。

現実には測定値が多少真の値から外れていても、前後の時刻で気体の状態に大きな変化が起きることはありません。

したがって、『領域の大きさ(測度)は、時刻$t$と$t+\D t$の間で変化しないだろう。』と予想できるわけです。

つまり、『$V(t) = V(t+ \D t)$となるだろうか?』ということです。

$V(t) = V(t+\D t)$であるということを数学的に示したのがリウヴィルの定理というわけです。

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証明の概要

証明に入る前に、リウヴィルの定理の証明の道筋について説明します。

まず、一般化座標を$q_i$、一般化運動量を$p_i$とします。

また、ハミルトニアン$H$が陽に時間を含まないという前提の下では、$H\big(\{ \dot{q_i} \}, \{ \dot{p_i} \}\big)$とできます。

ここで、位相空間の自由度を$2N$としましょう。

位相空間上の微小要素の流れ

また、時刻$t$での各代表点を囲む領域の”体積”(測度)を$\diff v$、$t+\D t$での”体積”を$\diff v’$とします。

このとき、それぞれの領域の”体積”は、

\begin{split}
&\diff v = \diff q_1\cdots \diff q_n \cdot \diff p_1 \cdots \diff p_n \EE
&\diff v’ = \diff Q_1\cdots \diff Q_n \cdot \diff P_1 \cdots \diff P_n \EE
\end{split}

と表せます。

※このようになる理由が分からない方は、2次元でのリウヴィルの定理の証明も参考にしてください。

最終的に$\diff v = \diff v’$を示すことが目標です。

ここで問題となるのが、$\diff q_i, \diff p_i$ と$\diff Q_i, \diff P_i$ の対応関係です。

時刻 $t + \D t $での各代表点は、時刻$t$での代表点が移動した結果のため、その座標は$\{ q_i \}, \{ p_i \}$を使った何らかの関数で表現されるはずです。

そのため、$\diff Q_i, \diff P_i$ は、

\begin{split}
&\diff Q_i =\, \diff Q_i\big(\{ q_i \}, \{ p_i \}\big) \EE
&\diff P_i =\, \diff P_i\,\big(\{ q_i \}, \{ p_i \}\big)
\end{split}

とできます。

つまり、何らかの係数$J$をかけることで$\diff Q_i, \diff P_i$を$\diff q_i, \diff p_i$と対応させられることが分かります。

このことを踏まえて、$\diff Q_1\cdots \diff Q_n \cdot \diff P_1 \cdots \diff P_n$について考えると、

\begin{split}
\diff v’ &= \diff Q_1\cdots \diff Q_n \cdot \diff P_1 \cdots \diff P_n \EE
&= \textcolor{red}{J}\, \diff q_1\cdots \diff q_n \cdot \diff p_1 \cdots \diff p_n \EE
\therefore \, \diff v’ &= J \diff v
\end{split}

となるだろうと予想できます。

目標が明確になりました。$J=1$であることが示せれば、$\diff v’ = \diff v$であることを示せます。

リウヴィルの定理の証明では、いかに$J=1$を示すかが焦点になります。

その最初のステップとして、$\diff q, \diff p$がどう変換されて$\diff Q, \diff P$になるのかを明らかにする必要があります。

それを調べるため、ヤコビアンというツールを使います。

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リウヴィルの定理の証明

本題に入ります。

本格的にリウヴィルの定理の証明に取り掛かりましょう。

ハミルトンの正準方程式の行列表示

$q, p$ について

まずは、$\{q_i\}, \{p_i\}$ についてのハミルトンの正準方程式を行列表示で表すと、次のようになります。

\begin{eqnarray}

\begin{pmatrix}
\ff{\diff q_1}{\diff t} \\
\vdots \\
\ff{\diff q_N}{\diff t} \\
\ff{\diff p_1}{\diff t} \\
\vdots \\
\ff{\diff p_N}{\diff t} \\
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 & \ldots & 0 & 1 & \ldots & 0 \\
0 & \ddots & 0 & 0 & \ddots & 0 \\
0 & \ldots & 0 & 0 & \ldots & 1 \\
-1 & \ldots & 0 & 0 & \ldots & 0 \\
0 & \ddots & 0 & 0 & \ddots & 0 \\
0 & \ldots & -1 & 0 & \ldots & 0 \\
\end{pmatrix}

\begin{pmatrix}
\ff{\del H}{\del q_1} \\
\vdots \\
\ff{\del H}{\del q_N} \\
\ff{\del H}{\del p_1} \\
\vdots \\
\ff{\del H}{\del p_N} \\
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}

ここで、$\B{w}=(q_1, \cdots, q_N, p_1, \cdots, p_N)=(w_1, \cdots w_{2N})$とし、$N\times N$の単位行列を$\B{E}$、ゼロ行列を$\B{0}$とし、

さらに、$\B{M}=\displaystyle{\begin{pmatrix} \B{0} & \B{E} \\ -\B{E} & \B{0} \\ \end{pmatrix}}$とします。すると、

\begin{eqnarray}
\B{\dot{w}} =
\begin{pmatrix}
\ff{\diff w_1}{\diff t} \\
\vdots \\
\ff{\diff w_{2N}}{\diff t} \\
\end{pmatrix}
&=&
\begin{pmatrix}
\B{0} & \B{E} \\
-\B{E} & \B{0} \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\ff{\del H}{\del w_1} \\
\vdots \\
\ff{\del H}{\del w_{2N}} \\
\end{pmatrix}
\EE
&=&
\B{M}
\begin{pmatrix}
\ff{\del H}{\del w_1} \\
\vdots \\
\ff{\del H}{\del w_{2N}} \\
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}

最終的に、以下のように簡単に記述できます。

\begin{eqnarray}
\B{\dot{w}} = \B{M}\ff{\del H}{\del \B{w}} \tag{a}
\end{eqnarray}

この式は、後に重要な役割を果たします。

ついでに、この行列を成分ごとに表示すると、次のようにも表せます。

$$
\dot{w}_i = \sum_{j=1}^{2N}M_{ij}\ff{\del H}{\del w_j}
$$

$Q, P$について

同様に、$\{Q_i\}, \{P_i\}$ についてハミルトンの正準方程式を行列表示し、成分表示すると以下の様になります。

$$
\dot{W}_i = \sum_{j=1}^{2N}M_{ij}\ff{\del H}{\del W_j} \tag{1}
$$

ただし、$\B{W} = (Q_1, \cdots, Q_N, P_1, \cdots, P_N)=(W_1, \cdots W_{2N})$としています。

$\B{M}$については、次の重要な性質があります。

\begin{eqnarray}
\B{M} = \B{M}^T = -\B{M}
\end{eqnarray}

$\B{M}$の行列式 $\RM{det} \B{M} $は$1$となります。

ヤコビアン

次に$\diff q_i, \diff p_i$から$\diff Q_i, \diff P_i$へ変数変換を行った際の、ヤコビアンを考えます。

微小”体積”要素$\diff v$から$\diff v’$への変形はヤコビアン$\B{J}$を使って、次のように表せます。

\begin{split}
\diff v &= |\B{J}| \diff v’ \EE
\diff q_1\cdot \diff q_2\cdots \diff q_n \cdot \diff p_1 \cdot \diff p_2 \cdots \diff p_n &= |\B{J}|\diff Q_1\cdot \diff Q_2\cdots \diff Q_n \cdot \diff P_1 \cdot \diff P_2 \cdots \diff P_n \EE
\end{split}

ヤコビアンは、行列$\B{J}$の行列式です。

行列式$|\B{J}|$は、次のように表せます。($\RM{det}\B{J}$とも書きます。)

\begin{eqnarray}
|\B{J}| &=&
\begin{vmatrix}
\ff{\del q_1}{\del Q_1} & \ldots & \ff{\del q_1}{\del Q_N} & \ff{\del q_1}{\del P_1} & \ldots & \ff{\del q_1}{\del P_N} \\
\vdots & & \vdots & \vdots & & \vdots \\
\ff{\del q_N}{\del Q_1} & \ldots & \ff{\del q_N}{\del Q_N} & \ff{\del q_N}{\del P_1} & \ldots & \ff{\del q_N}{\del P_N} \\
\ff{\del p_1}{\del Q_1} & \ldots & \ff{\del p_1}{\del Q_N} & \ff{\del p_1}{\del P_1} & \ldots & \ff{\del p_1}{\del P_N} \\
\vdots & & \vdots & \vdots & & \vdots \\
\ff{\del p_N}{\del Q_1} & \ldots & \ff{\del p_N}{\del Q_N} & \ff{\del p_N}{\del P_1} & \ldots & \ff{\del p_N}{\del P_N} \\
\end{vmatrix} \EE \\
&=&
\begin{vmatrix}
\ff{\del w_1}{\del W_1} & \ldots & \ff{\del w_1}{\del W_{2N}} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
\ff{\del w_{2N}}{\del W_1} & \ldots & \ff{\del w_{2N}}{\del W_{2N}} \\
\end{vmatrix} \tag{2}
\end{eqnarray}

※ヤコビアンを”体積”要素の伸縮率とも見なせます。

デカルト座標系から極座標系への変数変換を行い、積分をする際、補正係数が必要になります。

この補正係数をヤコビアンと呼びます。

例として、$x, y$から$r, \theta$への変数変換の際のヤコビアンを計算します。

\begin{eqnarray}
J(r, \theta) &=& \ff{\del (x, y)}{\del (r, \theta) } \EE
&=&
\begin{vmatrix}
\ff{\del x}{\del r} & \ff{\del x}{\del \theta} \\
\ff{\del y}{\del r} & \ff{\del y}{\del \theta}
\end{vmatrix}
\end{eqnarray}

今、$x = r\cos \theta,\, y=r\sin \theta$なので、ヤコビアンは、

\begin{eqnarray}
J(r, \theta) &=& \cos \theta \cdot r\cos \theta \,-\, (-r\sin \theta)\cdot\sin \theta \EE
&=& r(\cos^2 \theta + \sin^2 \theta) = r
\end{eqnarray}

となります。

$\big( \{q_i\}, \{p_i\}\big)$から$\big( \{Q_i\}, \{P_i\}\big)$へのヤコビアンの具体的な値は分かりませんが、ヤコビアンの行列式の値をどうにか求めに行きます。

$\B{M}$と$\B{J}$の関係式

$\B{M}$と$\B{J}$の関係について考えます。

まずは、$\displaystyle{\ff{\diff w_i}{\diff t}}$について考えます。

\begin{eqnarray}
\dot{w}_i &=& \ff{\diff w_i}{\diff t} \EE
&=& \sum_{j=1}^{2N} \ff{\del w_i}{\del W_j}\dot{W_j} \EE
\end{eqnarray}

ヤコビアンの成分と式(1)を利用して変形すると、

\begin{eqnarray}
\dot{w}_i &=& \sum_{j=1}^{2N} J_{ij}\,\dot{W_j} \EE
&=& \sum_{j=1}^{2N}J_{ij}\,M_{ij}\ff{\del H}{\del W_j}
\end{eqnarray}

となります。

ベクトル表記にすると、

\begin{eqnarray}
\dot{\B{w}} &=& \B{J}\dot{\B{W}} = \B{J}\B{M}\ff{\del H}{\del \B{W}} \tag{3}
\end{eqnarray}

となります。

一方、$\displaystyle{\ff{\diff W_i}{\diff t}}$のヤコビアンを$\B{J’}$とすると、同様にして、

\begin{eqnarray}
\dot{\B{W}} &=& \B{J’}\dot{\B{w}} = \B{J’}\B{M}\ff{\del H}{\del \B{w}} \tag{4}
\end{eqnarray}

この式(4)を式(3)に代入すると、

\begin{eqnarray}
\dot{\B{w}} &=& \B{J}\B{J’}\dot{\B{w}}
\end{eqnarray}

となります。両辺は等しいので、$\B{J}\B{J’} = \B{E}$となります。

このことから、$\B{J’} = \B{J}^{-1}$であることが分かります。

次に、$\displaystyle{\ff{\del H}{\del W_i}}$について考えます。

\begin{eqnarray}
\ff{\del H}{\del W_i} &=& \sum_{j=1}^{2N} \ff{\del H}{\del w_j}\ff{\del w_j}{\del W_i} \EE
\end{eqnarray}

ヤコビアンを使うと、

\begin{eqnarray}
\ff{\del H}{\del W_i} &=& \sum_{j=1}^{2N} J_{ji}\ff{\del H}{\del w_j} \EE
\end{eqnarray}

となります。このとき、ヤコビアンが$\B{J}$の転置行列となることに注意してください。

このことから、ベクトルと行列を使って、

\begin{eqnarray}
\ff{\del H}{\del \B{W}} &=& \B{J}^T\ff{\del H}{\del \B{w}} \EE
\end{eqnarray}

とできます。

これを式(3)に代入すると、

\begin{eqnarray}
\dot{\B{w}} &=& \B{J}\B{M}\B{J}^T\ff{\del H}{\del \B{w}}
\end{eqnarray}

となります。

式(a)と係数を比較すると、以下の関係が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
\B{M} &=& \B{J}\B{M}\B{J}^T \tag{b} \EE
\end{eqnarray}

$\RM{det}\B{J}=1$であることの証明

式(b)から、$\B{J}$の行列式 $\RM{det}\B{J}=1$であることを示しましょう。

ところで、行列式には以下のような性質があります。

行列式の性質

\begin{eqnarray}
\RM{det}{\B{AB}} &=& \RM{det}{\B{A}}\cdot\RM{det}{\B{B}} \EE
\RM{det}{\B{A}^T} &=& \RM{det}{\B{A}} \\
\,
\end{eqnarray}

これを利用して、(b)の行列式を計算すると、

\begin{eqnarray}
\RM{det}\B{M} &=& \RM{det}\big(\B{J}\B{M}\B{J}^T\big) \EE
1 &=& \RM{det}{\B{J}}\cdot\RM{det}{\B{M}}\cdot\RM{det}{\B{J}^T} \EE
1 &=& \big( \RM{det}{\B{J}} \big)^2 \EE
\therefore \, \RM{det}{\B{J}} &=& \pm 1
\end{eqnarray}

となります。

物理学的に、$\RM{det}{\B{J}} = -1$となることは無いので、$\RM{det}{\B{J}} = 1$のみが生き残ります。

従って、$\RM{det}{\B{J}} = 1$であることが示せました。

最後の仕上げ

微小”体積”要素$\diff v = \diff v’$を示し、証明の仕上げとしましょう。

$\diff v$ と $\diff v’$はヤコビアンを通して次のような関係がありました。

\begin{split}
\diff v &= |\B{J}| \diff v’ \EE
\end{split}

そして、$|J| = 1$であることが今までの議論で示せたので、

\begin{split}
\diff v &= \diff v’ \EE
\end{split}

となります。

以上のことから、

リウヴィルの定理

位相空間内のある微小領域内の各代表点が正準方程式に従って運動するとき、領域の形状は変化しても、その測度1(=”体積”)は変化せず保存される。

であることを証明できました。

※1:測度とは、面積や体積のような量を一般の次元に拡張した概念です。二次元平面であれば面積であり、三次元空間であれば体積になります。

また、リウヴィルの定理は、ハミルトニアン(=エネルギー)が一定である場合に成立します。

エネルギーが徐々に減っていく場合、$\diff v $は時間と共に小さくなり、最終的に$0$になります。

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