正準変換・母関数とは?|正準変換と母関数の定義とその導出

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正準変換とは次のように定義される変換のことです。

正準変換とは?

ハミルトンの正準方程式を満たす一連の正準変数 $q_i,p_i$ と、これにより定められるハミルトニアン $H(q_i,p_i,t)$ が存在したとする。ここで、$q_i,p_i$ を用いて新たな変数 $Q_i,P_i$ を

$$
\left\{
\begin{split}
&Q_i(q_1,\cdots,q_n,p_1,\cdots,p_n,t) \\[8pt]
&P_i(q_1,\cdots,q_n,p_1,\cdots,p_n,t)
\end{split}
\right.
$$

のような変数変換で作ったとする。このとき、変換後のハミルトニアン $K(Q_i,P_i,t)$ に対しても、

$$
\left\{
\begin{split}
\dot{Q}_i&=\ff{\del K}{\del P_i} \EE
\dot{P}_i&=-\ff{\del K}{\del Q_i}
\end{split}
\right.
$$

が満たされるとき、変数変換 $(q,p)\to (Q,P)$ のことを正準変換と呼ぶ。

正準変換なるものを定義したところで、その意義に実感が湧かないかもしれませんが、正準変換は単なる数字遊びではありません。正準変換を上手く施すことで、コンピュータでシミュレーションしやすい形に変形したりなど、様々な恩恵を得られるのです。

まずは、正準変数と呼ばれる変数とハミルトニアンの関係から見ていきます。

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正準変数とは?

まず、ハミルトンの正準方程式一般化座標 $q_i$ と一般化運動量 $p_i$ により構成される以下の一連の式のことでした。

$$
\left\{
\begin{split}
\dot{q}_i&=\ff{\diff q_i}{\diff t}=\ff{\del H}{\del p_i} \EE
\dot{p}_i&=\ff{\diff p_i}{\diff t}=-\ff{\del H}{\del q_i}
\end{split}
\right.
$$

ただし、$H$ をハミルトニアン、上付きドットは時間微分(ニュートンの記法とは?)を表すとします。

このように、ハミルトンの正準方程式を満たすような変数の組み合わせのことを解析力学では、正準変数と呼びます。

正準変数とは?

正準変数ハミルトンの正準方程式を満たす変数の組み合わせのこと

なお、ハミルトニアンは $q_i$ と $p_i,t$ の関数となっていることも分かり、

$$ H(q_1,\cdots,q_n, p_1,\cdots,p_n,t) $$

と表すことができます。そして、ハミルトニアン一般化座標一般化運動量、そして時間の関数となっていることが正準変換を導く際のポイントとなります。

それでは、次節にて正準変換を見ていきましょう。

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正準変換とは?

ところで、ばねのトラジェクトリーを円に変換した際に分かったように、変数を上手く選んでやるとハミルトンの正準方程式を満たしたまま正準変数を変数変換できます。

このような変数変換の手法を正準変換と呼びます。そして、正準変換は次のように定義される変換のことです。

正準変換とは?

ハミルトンの正準方程式を満たす一連の正準変数 $q_i,p_i$ と、これにより定められるハミルトニアン $H(q_i,p_i,t)$ が存在したとする。ここで、$q_i,p_i$ を用いて新たな変数 $Q_i,P_i$ を

$$
\left\{
\begin{split}
&Q_i(q_1,\cdots,q_n,p_1,\cdots,p_n,t) \\[8pt]
&P_i(q_1,\cdots,q_n,p_1,\cdots,p_n,t)
\end{split}
\right.
$$

のような変数変換で作ったとする。このとき、変換後のハミルトニアン $K(Q_i,P_i,t)$ に対しても、

$$
\left\{
\begin{split}
\dot{Q}_i&=\ff{\del K}{\del P_i} \EE
\dot{P}_i&=-\ff{\del K}{\del Q_i}
\end{split}
\right.
$$

が満たされるとき、変数変換 $(q,p)\to (Q,P)$ のことを正準変換と呼ぶ。

正準変換によりハミルトンの正準方程式を解きやすい形に変形できるため、有用な変換と言えますが、いつでも都合よく正準変換できるとは限りません。

そこで、次節にて正準変換が成立する条件ための条件について考えていきます。

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母関数の導出

ところで、変数変換後のハミルトニアン $K$ はハミルトニアンの定義から次のように置くことができます。

\begin{split}
K=\sum_{i=1}^nP_i\dot{Q}_i-L’
\end{split}

ただし、$L'(Q_i,\dot{Q}_i,t)$ を変換後のラグランジアンとします。そして、$L’$ について整理すると以下のようになります。

\begin{split}
L’=\sum_{i=1}^nP_i\dot{Q}_i-K
\end{split}

さて、ラグランジアンの共変性から変換前のラグランジアン $L$ と変換後のラグランジアン $L’$ は等しいと言え、

\begin{split}
L&=L’
\end{split}

とできます。なお、$L’$ については不定性を考慮すると等価ラグランジアン $\widetilde{L}$ が設定できます。

\begin{split}
\widetilde{L}&=L’+\ff{\diff W}{\diff t}
\end{split}

ただし、$W=W(q,Q,t)$ の形で表される任意関数であるとします。

もし、$P,Q$ もハミルトンの正準方程式を満たすならば、解析力学の基本原理である最小作用の原理変分原理の考え方を適用できて

\begin{split}
\delta I&=\delta\int_{t_0}^{t_1}\widetilde{L}\diff t\EE
&= \delta\int_{t_0}^{t_1}\left(\sum_{i=1}^nP_i\dot{Q}_i-K+\ff{\diff W}{\diff t}\right)\diff t\EE
&=0
\end{split}

が成立すると言えます。これより

\begin{split}
\sum_{i=1}^np_i\dot{q}_i-H &= \sum_{i=1}^nP_i\dot{Q}_i-K+\ff{\diff W}{\diff t}
\end{split}

が得られます。これを $\DL{\ff{\diff W}{\diff t}}$ について整理すると、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff W}{\diff t}=\sum_{i=1}^np_i\dot{q}_i-\sum_{i=1}^nP_i\dot{Q}_i+K-H\tag{1}
\end{eqnarray}

となります。

加えて、$W(q,Q,t)$ と表されることにも注目すると、$W$ の時間微分を

\begin{eqnarray}
\ff{\diff W}{\diff t}=\ff{\del W}{\del t}+\left(\sum_{i=1}^n\ff{\del W}{\del q_i}\dot{q}_i+\sum_{i=1}^n\ff{\del W}{\del Q_i}\dot{Q}_i \right)\tag{2}
\end{eqnarray}

とも表せます。

母関数とは?

$(1)=(2)$ であることに注意して各項をまとめると、

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n\left(p_i-\ff{\del W}{\del q_i} \right)\dot{q}_i-\sum_{i=1}^n\left(P_i-\ff{\del W}{\del Q_i} \right)\dot{Q}_i-\left(H-K-\ff{\del W}{\del t} \right)=0
\end{eqnarray}

この関係が任意の $P,Q,W$ に対して恒等的に成立するためには次の関係を満たさなければなりません。したがって、

$$
\left\{
\begin{split}
p_i&=\ff{\del W}{\del q_i}\EE
P_i&=-\ff{\del W}{\del Q_i}\EE
K&=H+\ff{\del W}{\del t}
\end{split}
\right.
$$

と言えます。なお、$W$ に $t$ を含まない場合、$K=H$ となることに注目してください。

さて、上の関係を $W$ が満たすとき、自動的に $(q,p)\to (Q,P)$ の変換が正準変換であることが言えます。

このように $W$ は新たな正準変数を生み出す関数となるので、母関数($\RM{generating\,\,function}$)と呼ばれます。

母関数とは?

以下の関係を恒等的に満たす関数 $W$ のことを母関数($\RM{generating\,\,function}$)と呼ぶ。また、この恒等式が成立するならば、$(q,p)\to (Q,P)$ の変換は正準変換となる。

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n\left(p_i-\ff{\del W}{\del q_i} \right)\dot{q}_i-\sum_{i=1}^n\left(P_i-\ff{\del W}{\del Q_i} \right)\dot{Q}_i-\left(H-K-\ff{\del W}{\del t} \right)=0
\end{eqnarray}

仮に $W(q,Q)$ の形で表される関数のとき、母関数正準変数の間に以下の関係が成立する。

$$
\left\{
\begin{split}
p_i&=\ff{\del W}{\del q_i}\EE
P_i&=-\ff{\del W}{\del Q_i}\EE
K&=H
\end{split}
\right.
$$

今回は母関数 $W$ に変数として $(q,Q)$ の組の場合を考えましたが、実は $(q,P),(p,Q),(p,P)$ の場合でも同様の関係を導け、それぞれ次のようになります。

$1.\,W(q,P)$ の場合

$$
\left\{
\begin{split}
p_i&=\ff{\del W}{\del q_i}\EE
Q_i&=\ff{\del W}{\del P_i}\EE
\end{split}
\right.
$$

$2.\,W(p,Q)$ の場合

$$
\left\{
\begin{split}
q_i&=-\ff{\del W}{\del p_i}\EE
P_i&=-\ff{\del W}{\del Q_i}\EE
\end{split}
\right.
$$

$3.\,W(p,P)$ の場合

$$
\left\{
\begin{split}
q_i&=-\ff{\del W}{\del p_i}\EE
Q_i&=\ff{\del W}{\del P_i}\EE
\end{split}
\right.
$$

母関数の考え方を利用すると熱力学に登場するマクスウェルの関係式というものも導けます。

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