今回はラグランジュの未定乗数法を利用して束縛運動を解析する手法について解説します。
なお、束縛条件がホロノミックな束縛とすると、その系の運動は次の方程式に従うことが知られています。
それでは束縛運動を行う系の問題を実際に解いて、上の方法が適用できることを確認していきましょう。
物理モデルとホロノミックな束縛条件
今回は摩擦の無い筒に入れられた質量 $m$ の小球が、二次元平面内で運動している状態を考えます。なお、小球は筒により拘束されているため、これは束縛運動となります。
今、角速度 $\omega$ で筒が回転しているとします。すると、時刻 $t$ における小球の位置を、
$$
\left\{
\begin{split}
x&=r\cos\omega t\EE
y&=r\sin\omega t
\end{split}
\right.
$$
と表せます。ただし、$r$ を回転の中心から小球までの距離とします。
上式を $r$ について整理すると以下の等式が導け、
\begin{split}
r=\ff{x}{\cos\omega t}=\ff{y}{\sin\omega t}
\end{split}
これより、
\begin{split}
x\sin\omega t-y\cos\omega t=0
\end{split}
という関係式が導けます。
さて、この関係式は物体の位置関係を座標間の方程式で表した物です。ゆえにこれは、ホロノミックな束縛条件と言えます。
ホロノミックな束縛を制約条件と捉えることでラグランジュの未定乗数法を活用することができます。今回は解析力学とラグランジュの未定乗数法を組み合わせて解くことに主眼を置きます。
束縛力とラグランジアン
次に、小球が従う運動方程式を導出することを考えます。
小球に作用する力が不明なため、今回は解析力学を用いることが良いと言えます。解析力学を用いるときは、最初にラグランジアンを導出しなければなりません。
まず、小球の運動エネルギー $T$ は
\begin{split}
T=\ff{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2)
\end{split}
となり、そしてポテンシャルエネルギー $U$ については、小球が常に平面内を運動していることから、$U=0$ と設定できます。
以上よりラグランジアンを
\begin{split}
L&=T-U=\ff{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2)
\end{split}
となります。
ここで注意しなければならないのは、求めたラグランジアンが小球が何の拘束も受けていない自由な運動をしている場合でのラグランジアンであることです。
しかしながら、今回の小球は筒から拘束を受けていることに注意しなければなりません。束縛力を $Q$ とすると、$Q$ は非保存力であるため、非保存力を含む場合のオイラー・ラグランジュ方程式より、
\begin{split}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L}{\del q_i} = Q
\end{split}
という形の運動方程式に小球は従うことになります。ただし、現状では $Q$ の具体的な形は分かりません。
とは言え、全くの未知という訳でもなく、手掛かりもあります。それは、$Q$ の大きさが小球の位置に依存して変化するであろうということです。
したがって、$\lambda$ を定数として $Q$ は
\begin{split}
Q=\lambda(x\sin\omega t-y\cos\omega t)=\lambda\cdot g(x,y,t)=0
\end{split}
という関数として表せると予想できます。
ラグランジュの未定乗数法による運動方程式の導出
$Q$ を求めに行くのも手ですが、少し立ち止まって、物体は『作用』が最小となるような軌跡を描くという最小作用の原理の要請を課すことでも、オイラー・ラグランジュ方程式が導かれることを思い出しましょう。
この結果をラグランジュの未定乗数法の文脈に置き換えると、『$g=0$ という制約の下で作用が最小とする軌跡は、新たなラグランジアン $L’=T-U-\lambda\cdot g$ がオイラー・ラグランジュ方程式を満たすような軌跡と一致する』ということになります。
つまり、$g=0$ という制約条件の下では、ラグランジアンを新しく
\begin{split}
L’=L-\lambda\cdot g(x,y,t)
\end{split}
と設定すれば良いと言えます。こうすると、運動を束縛の無い状態と同一視できるので、
\begin{split}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L’}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L’}{\del q_i} = 0
\end{split}
を用いることができます。
では実際に今回の例題に適用してみましょう。まず、新たなラグランジアンを次のように設定します。
\begin{split}
L’&=T-U-\lambda\cdot g(x,y,t)\EE
&=\ff{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2)-\lambda\cdot (x\sin\omega t-y\cos\omega t)
\end{split}
この $L’$ を $\DL{\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L’}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L’}{\del q_i}=0}$ に適用すると、次の $2$ つの運動方程式が得られます。(上付きドットはニュートンの記法と呼ばれるものです)
$$
\left\{
\begin{split}
m\ddot{x}-\lambda\sin\omega t &=&0\qquad(1)\EE
m\ddot{y}+\lambda\cos\omega t &=&0\qquad(2)
\end{split}
\right.
$$
さて、$\ddot{x},\ddot{y}$ は $r,\omega$ と次のような関係にあるため 、
$$
\left\{
\begin{split}
\ddot{x}&=(\ddot{r}-r\omega^2)\cos\omega t-2\dot{r}\omega\sin\omega t \EE
\ddot{y}&=(\ddot{r}-r\omega^2)\sin\omega t+2\dot{r}\omega\cos\omega t
\end{split}
\right.
$$
これを上式に適用して $(1)\times\cos\omega t+(2)\times\sin \omega t$ を計算すると、
\begin{eqnarray}
\ddot{r}-\omega^2r=0\qquad(3)
\end{eqnarray}
が得られます。
これより、ラグランジュの未定乗数法を用いることで束縛力を具体的に求めることなく、小球の運動方程式が得られることが分かりました
運動方程式の解と束縛力の導出
式$(3)$を解いて $r$ の一般解を求めましょう。
$r$ の一般解については幸いなことに、振り子の運動方程式を解いた際に得ており、
\begin{eqnarray}
r=C_1\,e^{-\omega t}+C_2\,e^{\omega t}
\end{eqnarray}
となります。
ここで、$t=0$ にて $r=a,\dot{r}=0$ とします。すると、
\begin{eqnarray}
r&=\ff{a}{2}\Big(e^{-\omega t}+e^{\omega t}\Big) \EE
&=a\cosh\omega t
\end{eqnarray}
が得られます。
ところで、未定乗数 $\lambda$ が不明のままなので $\lambda$ を求めてみましょう。さて、$\lambda$ は$(1)$に $\ddot{x}=(\ddot{r}-r\omega^2)\cos\omega t-2\dot{r}\omega\sin\omega t$ を適用することで求められ、
\begin{eqnarray}
\lambda = -2\dot{r}\omega
\end{eqnarray}
この表式から、$\lambda$ がコリオリ力と一致することが分かります。なお、$\dot{r}$ を具体的に計算すると、
\begin{eqnarray}
\lambda = -2ma\omega^2\sinh\omega t
\end{eqnarray}
が得られます。