今回は正準変換を利用して運動方程式を解く手法の一つである、ハミルトン・ヤコビ($\RM{Hamilton-Jacobi}$)理論について解説します。
ハミルトン・ヤコビ理論の考え方自体は簡単で、ハミルトンの正準方程式を満たす解(=正準変数)を正準変換したものも、新たなハミルトンの正準方程式の解となるという、アイデアに基づいています。
詳細については後述しますが、ハミルトン・ヤコビ理論からは次のハミルトン・ヤコビ方程式が導けます。
ハミルトン・ヤコビ理論を活用した具体例については、別の機会に説明します。
ハミルトン・ヤコビ理論とは?
以前、正準変換なる変数変換を導入しました。正準変換を利用すると、元の運動方程式を簡単な運動方程式に帰着できる場合があります。そのような手法はいくつかありますが、今回はハミルトン・ヤコビ($\RM{Hamilton-Jacobi}$)理論について説明します。
さて、正準変換を利用して複雑な形をした方程式を簡単な形に帰着する方法について考えます。ここでは、上手な正準変換 $(q,p)\to(Q,P)$ によって、新たなハミルトニアン $K$ を $K=0$ とできた場合について考えます。
このとき、$K=0$ のため、$(Q,P)$ で表される新たなハミルトンの正準方程式は以下のようになるはずです。(式中の上付きドットは時間微分を表します)
$$
\left\{
\begin{split}
\dot{Q}_i&=\ff{\del K}{\del P_i}=0\EE
\dot{P}_i&=-\ff{\del K}{\del Q_i}=0
\end{split}
\right.
$$
これより、$Q,P$ が以下のような定数として表現できることが分かります。
$$
\left\{
\begin{split}
Q_i(t)&=\beta_i=const. \EE
P_i(t)&=\A_i=const.
\end{split}
\right.
$$
そして、$(q,p)$ と $(Q,P)$ は正準変換によってつながっているため、元の正準変数 $(q,p)$ を $(Q,P)$ を用いて表すことができ、具体的には、
$$
\left\{
\begin{split}
q_i(Q,P,t)=q_i(\beta,\A,t) \EE
p_i(Q,P,t)=p_i(\beta,\A,t)
\end{split}
\right.
$$
とでき、変換前の運動方程式の解が得られるのです。
今回のように、新たなハミルトニアン $K$ が $0$ となるような正準変換を考えることで、元の運動方程式の解も得る手法のことをハミルトン・ヤコビ($\RM{Hamilton-Jacobi}$)理論と呼びます。
ハミルトン・ヤコビ方程式とは?
ハミルトン・ヤコビ理論が成立するような正準変換を与える、母関数の具体的な性質について考えていきましょう。
一般論として、$(q,p)\to(Q,P)$ への正準変換を生成する母関数 $W$ は、変換前のハミルトニアンを $H(q,p,t),\,$ 変換後のハミルトニアンを $K(Q,P,t)$ として次のように表せました。
\begin{split}
K(Q,P,t)=H(q,p,t)+\ff{\del W(q,P,t)}{\del t}
\end{split}
さて、ハミルトン・ヤコビ理論を満たすような母関数 $W(q,P,t)$ が見つけられたとします。このとき、$K=0$ となるため、上の式の左辺が $0$ となります。よって、
\begin{split}
0=H(q,p,t)+\ff{\del W(q,P,t)}{\del t}
\end{split}
とできます。なお、先述したように $P$ は定数のため $\A$ と置くことができます。そして $p$ は $W$ を用いて次のように記述できるため、
\begin{split}
p=\ff{\del W}{\del q}
\end{split}
先の方程式を
\begin{split}
0=H\left(q,\ff{\del W}{\del q},t \right)+\ff{\del W(q,\A,t)}{\del t}
\end{split}
とすることができます。
さて、今後はハミルトン・ヤコビの理論を満たすような母関数のことをハミルトンの主関数と呼ぶことにして、$S$ と置くことにします。 (主関数の正体については後述します)
そして、上の方程式のことをハミルトン・ヤコビ方程式と呼ぶことにします。
ハミルトンの主関数とは?
ハミルトンの主関数の正体について考えていきます。始めの一手として $S(q,P,t)$ の時間変化を考えてみます。これは $S$ の全微分に相当するので、
\begin{split}
\ff{\diff S}{\diff t}=\sum_{i=1}^n\left( \ff{\del S}{\del q_i}\ff{\del q_i}{\del t}+\ff{\del S}{\del P_i}\ff{\del P_i}{\del t}\right)+\ff{\del S}{\del t}
\end{split}
とできます。今、$S$ はハミルトン・ヤコビ理論を満たすような母関数であるので、$P$ は定数です。したがって、$\DL{\ff{\del P_i}{\del t}=0}$ となります。ゆえに、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff S}{\diff t}=\sum_{i=1}^n\ff{\del S}{\del q_i}\ff{\del q_i}{\del t}+\ff{\del S}{\del t}\tag{1}
\end{eqnarray}
という関係が得られます。今、$S,p$ は
$$
\left\{
\begin{split}
&\,\ff{\del S}{\del t}=-H\EE
&\,\ff{\del S}{\del q_i}=p_i
\end{split}
\right.
$$
と表せます。これらを $(1)$ に適用すると、
\begin{split}
\ff{\diff S}{\diff t}=\sum_{i=1}^np_i\dot{q}_i-H
\end{split}
そして上式を、ハミルトニアンの定義と比較することで、
\begin{split}
\ff{\diff S}{\diff t}=L
\end{split}
となることが分かります。さらに、両辺を $t$ で積分することで、
\begin{split}
S=\int L\,\diff t
\end{split}
となって、$S$ は正しく最小作用の原理に現れる作用であることが分かります。
※ $q,t$ は互いに独立な変数のため、ラグランジアンを時間積分した結果より直ちに $S$ が求まる訳でないことに注意して下さい。
次回は、周期運動を解析するときに便利な作用変数と角変数について解説します。