ポアソンブラケットとは?|定義と性質・正準変換の変換公式

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ポアソンブラケットとは、次のように定義される計算のことです

ポアソンブラケット

正準変数 $q_i,p_i$ を独立変数に持つ偏微分可能な二つの関数 $f(q_i,p_i),\,g(q_i,p_i)$ に対して、
ポアソンブラケット $\{f,\,g \}$ を次のように定義する。

\begin{split}
\{f,g \}=\sum_{i=1}^n\left(\ff{\del f}{\del q_i}\ff{\del g}{\del p_i}-\ff{\del f}{\del p_i}\ff{\del g}{\del q_i} \right) \\
\,
\end{split}

ポアソンブラケットは数式を簡便に表せるだけでなく、解析力学量子力学などの物理学の世界でも新たな知見を与えてくれる有用な表記法でもあります。

例えばポアソンブラケットを用いると、ある変数変換が正準変換であるかどうかを簡単に判定することができます。

ポアソンブラケットと正準変換の判定公式

ポアソンブラケットを用いた以下の条件を全て満たすことは、変数変換 $(q,p)\to(Q,P)$ が正準変換であるための必要十分条件である。なお、$q,p$ は正準変数とする。

$$
\left\{
\begin{split}
&\{Q_i,Q_j \}=0 \\[8pt]
&\{P_i,P_j \}=0 \\[8pt]
&\{Q_i,P_j \}=\delta_{ij}
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\delta_{ij}$ をクロネッカーのデルタとする。

まずはポアソンブラケットの定義を説明していきます。

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ポアソンブラケットの定義

いきなりですが、ポアソンブラケットは次のように定義される式のことです。

ポアソンブラケット

正準変数 $q_i,p_i$ を独立変数に持つ偏微分可能な二つの関数 $f(q_i,p_i),\,g(q_i,p_i)$ に対して、
ポアソンブラケット $\{f,\,g \}$ を次のように定義する。

\begin{split}
\{f,g \}=\sum_{i=1}^n\left(\ff{\del f}{\del q_i}\ff{\del g}{\del p_i}-\ff{\del f}{\del p_i}\ff{\del g}{\del q_i} \right) \\
\,
\end{split}

上の定義にあるようにポアソンブラケットは、正準変数により構成された関数 $f,g$ のある計算方法を $\{f,g\}$ と表記する数学上の記号のことです。

また、ポアソンブラケットは単に表記的に簡便な記号というだけでなく、正準変換とも深い関わりを持ち、さらには量子力学でも重要な役割を果たします。

ところで、上のように定義されるポアソンブラケットヤコビアンを用いても表すことができます。具体的には、ヤコビアン $J$ を用いて次のようにも表記できます。

\begin{split}
J&=\ff{\del (f,g)}{\del (q_i,p_i)}
=
\begin{vmatrix}
\DL{\ff{\del f}{\del q_i}} & \DL{\ff{\del f}{\del p_i}} \EE
\DL{\ff{\del g}{\del q_i}} & \DL{\ff{\del g}{\del p_i}}
\end{vmatrix}\EE
&=\ff{\del f}{\del q_i}\ff{\del g}{\del p_i}-\ff{\del f}{\del p_i}\ff{\del g}{\del q_i}
\end{split}

したがって、ポアソンブラケットの定義式を

\begin{split}
\{f,g \}=\sum_{i=1}^n\ff{\del (f,g)}{\del (q_i,p_i)}
\end{split}

と表記することもできます。

ポアソンブラケットと正準方程式

ここからはポアソンブラケットの有用性を見ていくことにします。最初の例として、ハミルトンの正準方程式ポアソンブラケットによって次のように簡潔に表示できます。

ポアソンブラケットと正準方程式

ポアソンブラケットを用いてハミルトンの正準方程式は次のように表せる。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\dot{q}_i &= \{q_i,H \}\\[8pt]
\,\dot{p}_i &= \{p_i,H \}
\end{split}
\right.
$$

上の結果について確かめてみます。まず、$\{q_i,H \}$ については先述のポアソンブラケットの定義より

\begin{split}
\{q_i,H \}&=\sum_{i=1}^n\left(\ff{\del q_i}{\del q_i}\ff{\del H}{\del p_i}-\ff{\del q_i}{\del p_i}\ff{\del H}{\del q_i} \right) =\ff{\del H}{\del p_i}
\end{split}

となり、そして、$\{p_i,H \}$ についても同様に計算して、

\begin{split}
\{p_i,H \}&=\sum_{i=1}^n\left(\ff{\del p_i}{\del q_i}\ff{\del H}{\del p_i}-\ff{\del p_i}{\del p_i}\ff{\del H}{\del q_i} \right) =-\ff{\del H}{\del q_i}
\end{split}

となります。以上よりポアソンブラケットを用いてハミルトンの正準方程式を記述できることが示せました。なお、ポアソンブラケットを用いることで、ハミルトンの正準方程式を対称的に表現できることも分かります。

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ポアソンブラケットの性質

ポアソンブラケットは次のような性質を持っています。

ポアソンブラケットの性質

$q,p$ を正準変数とする。このとき、ポアソンブラケットは以下の性質を持つ。

\begin{split}
&(1)\,\,\{q_i,q_j \}=\{p_i,p_j \}=0 \EE
&(2)\,\,\{q_i,p_j \}=-\{p_i,q_j \}=\delta_{ij}\\
\end{split}

ただし、$\delta_{ij}$ をクロネッカーのデルタとする。

ポアソンブラケットの性質の証明

上のポアソンブラケットの性質を証明していきます。

性質 $(1)$ の証明

ポアソンブラケットの定義より、$\{q_i,q_j \}$ は次のように計算できます。

\begin{split}
\{q_i,q_j \}&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del q_i}{\del q_k}\ff{\del q_j}{\del p_k}-\ff{\del q_i}{\del p_k}\ff{\del q_j}{\del q_k} \right)= 0
\end{split}

また、$\{p_i,p_j \}$ についても同様に計算して、

\begin{split}
\{p_i,p_j \}&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del p_i}{\del q_k}\ff{\del p_j}{\del p_k}-\ff{\del p_i}{\del p_k}\ff{\del p_j}{\del q_k} \right)= 0
\end{split}

となります。よって、性質$(1)$が示されました。

性質 $(2)$ の証明

ポアソンブラケットの定義より、$\{q_i,p_j \}$ は次のように計算されます。

\begin{split}
\{q_i,p_j \}&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del q_i}{\del q_k}\ff{\del p_j}{\del p_k}-\ff{\del q_i}{\del p_k}\ff{\del p_j}{\del q_k} \right)
\end{split}

右辺第二項は $0$ となります。第一項については $j=k$ の項のみが残り、さらに

\begin{split}
\{q_i,p_j \}&=\ff{\del q_i}{\del q_k}\ff{\del p_j}{\del p_j}=\ff{\del q_i}{\del q_k}
\end{split}

となります。上式は $i=k$ のときは $1$ で、$i\neq k$ のとき $0$ となります。したがって、

$$
\{q_i,p_j \}=
\left\{
\begin{split}
&1\quad(i=k) \EE
&0\quad(i\neq k)
\end{split}
\right.
$$

と言えます。これはクロネッカーのデルタと呼ばれる記号を使うことで、

$$
\{q_i,p_j \}=\delta_{ij}
$$

と簡潔に表現できます。

次に、$\{p_i,q_j \}$ について考えます。同様にポアソンブラケットの定義より、

\begin{split}
\{p_i,q_j \}&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del p_i}{\del q_k}\ff{\del q_j}{\del p_k}-\ff{\del p_i}{\del p_k}\ff{\del q_j}{\del q_k} \right)
\end{split}

とできて、これは右辺第一項は $0$ となるので、第二項の振る舞いについて見ていけばよいと言えます。

第二項について計算すると、

\begin{split}
\{p_i,q_j \}&=-\ff{\del p_i}{\del p_j}\ff{\del q_j}{\del q_j}= -\ff{\del p_i}{\del p_j}=-\delta_{ij}
\end{split}

となります。以上より、$\{q_i,p_j \}=-\{p_i,q_j \}=\delta_{ij}$ が示せました。

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正準変換の判定公式

ここまで見てきたように、ポアソンブラケットを使うことで数式をすっきりと表せます。それだけではなく、$(q,p)\to(Q,P)$ への変数変換が正準変換となるかについても有用な判定公式を提供してくれます。

ポアソンブラケットと正準変換の判定公式

ポアソンブラケットを用いた以下の条件を全て満たすことは、変数変換 $(q,p)\to(Q,P)$ が正準変換であるための必要十分条件である。なお、$q,p$ は正準変数とする。

$$
\left\{
\begin{split}
&\{Q_i,Q_j \}=0 \\[8pt]
&\{P_i,P_j \}=0 \\[8pt]
&\{Q_i,P_j \}=\delta_{ij}
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\delta_{ij}$ をクロネッカーのデルタとする。

上の判定条件は前述のポアソンブラケットの性質と一致しているため覚えやすい条件となっています。

なお、この判定公式を用いることでポアソンブラケットが正準変換に対して不変であることも証明できます。

判定公式の証明

判定公式の証明を行っていきます。

まず、$(q,p)\to(Q,P)$ が正準変換であるときですが、このときはポアソンブラケットの性質より自動的に判定公式を満たすと言えます。したがって、必要条件は示されたと言えます。

十分条件については丁寧に示していく必要があります。

方針が浮かばないため、手始めに $\{Q_i,Q_j \}$ について計算することにします。これについては定義に素直に従えば良く、

\begin{split}
\{Q_i,Q_j \}=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del q_k}\ff{\del Q_j}{\del p_k}-\ff{\del Q_i}{\del p_k}\ff{\del Q_j}{\del q_k} \right)
\end{split}

とできます。ここで、$Q,P$ は何らかの変数変換により $q,p$ より生み出される変数であることを思い出しましょう。

つまり、連鎖律を使うことを念頭に入れて、上式の $\DL{\ff{\del Q_j}{\del p_k},\ff{\del Q_j}{\del q_k}}$ の項を $\DL{\ff{\del q_k}{\del P_j},\ff{\del p_k}{\del P_j}}$ のように変換することを目指す方針で考えることとします。

この方針に持ち込む前提として、$t$ を陽に含まない関数 $W(q,p)$ に対しては、その時間微分を

\begin{split}
\ff{\diff W}{\diff t}=\{W,H \}
\end{split}

と表せることを用います。(時間微分とポアソンブラケットの関係) ただし、$H(q,p)$ をハミルトニアンとします。

なお、$W$ は $Q,P$ を用いても $W(Q,P)$ とも表せ、そして $(q,p)\to(Q,P)$ の変数変換によりハミルトニアンが $K(Q,P)$ になっていたとすると、

\begin{split}
\ff{\diff W}{\diff t}=\{W,K \}
\end{split}

という関係にもあります。したがって、$\{W,H \}=\{W,K \}$ にあると言えます。

ここで、$W=Q_i$ であったとします。これを上の等式に適用して、

\begin{split}
\{Q_i(q,p),H(q,p) \}&=\{Q_i,K(Q,P) \}\EE
\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del q_k}\ff{\del H}{\del p_k}-\ff{\del Q_i}{\del p_k}\ff{\del H}{\del q_k} \right)&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del Q_k}\ff{\del K}{\del P_k}-\ff{\del Q_i}{\del P_k}\ff{\del K}{\del Q_k} \right) \EE
&=\ff{\del K}{\del P_i}
\end{split}

ここで、$K(Q,P)$ は $K(q,p)$ とも表せ、そして $K=H$ となるような $(q,p)\to(Q,P)$ という変数変換であったとすると、右辺を

\begin{split}
\ff{\del K(q,p)}{\del P_i}&=\ff{\del H(q,p)}{\del P_i} \EE
&= \sum_{k=1}^n\left(\ff{\del H}{\del q_k}\ff{\del q_k}{\del P_i}+\ff{\del H}{\del p_k}\ff{\del p_k}{\del P_i} \right)
\end{split}

と計算できます。

これを左辺の係数と比較すると、

$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del Q_i}{\del q_k}&=\ff{\del p_k}{\del P_i} \EE
\ff{\del Q_i}{\del p_k}&=-\ff{\del q_k}{\del P_i}
\end{split}
\right.
$$

が得られます。同様に $\{P_i,H \}=\{P_i,K \}$ についても計算すると、

$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del P_i}{\del q_k}&=-\ff{\del p_k}{\del Q_i} \EE
\ff{\del P_i}{\del p_k}&=\ff{\del q_k}{\del Q_i}
\end{split}
\right.
$$

となります。さて、$(q,p)\to(Q,P)$ の変換で $H=K$ であり、そして $\{Q,K \},\{P,K \}$ はハミルトンの正準方程式であるため、この変換は正準変換であると言えます。

以上の結果を判定公式に適用し、同じ結果が得られることを確認できれば証明は完了です。

では実際に見ていきましょう。最初に $\{Q_i,Q_j \}$ についてですが、

\begin{split}
\{Q_i,Q_j \}&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del q_k}\ff{\del Q_j}{\del p_k}-\ff{\del Q_i}{\del p_k}\ff{\del Q_j}{\del q_k} \right) \EE
&=-\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del q_k}\ff{\del q_k}{\del P_j}+\ff{\del Q_i}{\del p_k}\ff{\del p_k}{\del P_j} \right)\EE
&=-\ff{\del Q_i}{\del P_j}=0
\end{split}

となります。($Q_i,P_i$ は独立変数であることを最後に用いています) 同様に $\{P_i,P_j \}$ も計算すると $0$ となります。

最後に $\{Q_i,P_j \}$ について計算します。すると、

\begin{split}
\{Q_i,P_j \}&=\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del q_k}\ff{\del P_j}{\del p_k}-\ff{\del Q_i}{\del p_k}\ff{\del P_j}{\del q_k} \right) \EE
&=-\sum_{k=1}^n\left(\ff{\del Q_i}{\del q_k}\ff{\del q_k}{\del Q_j}+\ff{\del Q_i}{\del p_k}\ff{\del p_k}{\del Q_j} \right)\EE
&=-\ff{\del Q_i}{\del Q_j}=\delta_{ij}
\end{split}

となります。以上の結果より、判定公式を満たすとき $(q,p)\to(Q,P)$ は正準変換であることが示せました。

したがって、上の判定公式は変数変換 $(q,p)\to(Q,P)$ が正準変換であるための必要十分条件であることが分かります。

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