オイラー・ラグランジュ方程式とは?|仮想仕事の原理とダランベールの原理による導出

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今回は、オイラー・ラグランジュ方程式の導出を行います。

オイラー・ラグランジュ方程式は次のように記述される方程式のことです。

オイラー・ラグランジュ方程式

$L$をラグランジアンとして、オイラー・ラグランジュ方程式は次のように表される

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L}{\del q_i} &=& 0 \\
\,
\end{eqnarray}

教科書の題材として取り上げられる力学の問題では、出てくる物体の数は多くても4つ程度です。

それでも、教科書の問題です。粘り強く取り組めば必ず力の大きさや向きを決定できます。

一方、現実の物体の運動は複雑です。

現実の対象に働く力を解析しようとしてもそもそも働く力の大きさや向きが分からないということが多々あります。こうなるとお手上げです。力が分からなければ、何も計算できません。

力学では通常、力を考えることが全ての基本になります。このことは静力学だろうと動力学であろうと変わりません。力学は所詮、教科書の中でしか使えない無力な学問なのでしょうか?

結論から言えば、そんなことはありません。先人たちは力学を再構築し、よりエレガントな洗練された形に再定式化しました。

この新しい力学を解析力学と呼びます。今回は、式中に力が登場しないように運動方程式を再定式化した、オイラー・ラグランジュ方程式を導出することを目指します。

導出の準備として、まずはダランベールの原理を変形することから考えます。

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ダランベールの原理と一般化座標

さて、ダランベールの原理の表示式はあまり有用な形ではないため、さらなる変形を加えていきます。

ここから、数学的操作の技巧が少し上がります。まず、質点の位置を表すベクトル $\bold{r}_i$ が $n$ 個の一般化座標 $q_i$ と時間$t$で表されるとします。

したがって、ベクトル $\bold{r}_i$ を次のように表せます。

$$ \bold{r}_i = \bold{r}_i(q_1,q_2,\cdots,q_n,t) $$

$\bold{r}_i$ を時間 $t$ について全微分すると、

\begin{eqnarray}
\bold{v}_i \equiv \frac{\diff \bold{r}_i}{\diff t} &=& \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_1}\frac{\del q_1}{\del t} + \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_2} \frac{\del q_2}{\del t} \cdots + \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_n}\frac{\del q_n}{\del t} + \frac{\del \bold{r}_i}{\del t} \EE
&=& \sum_{j=1}^{n} \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j}\dot{q}_j + \frac{\del \bold{r}_i}{\del t} \tag{4}
\end{eqnarray}

仮想変位 $\delta\bold{r}_i$ に対しても同様に微分を考えると、

$$ \delta\bold{r}_i = \sum_{j=1}^{n} \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j}\delta q_j $$

となります。

※ 定義より仮想変位に $t$ は含まれません。

以上、一般化座標を用いることで、ダランベールの原理の第一項が次のように整理できます。

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n \bold{F}_i^{(a)}\cdot \delta\bold{r}_i &=& \sum_{j=1}^n \sum_{i=1}^n \bold{F}_i^{(a)} \cdot\frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j}\delta q_j \EE
&=& \sum_{j=1}^n Q_j\cdot\delta q_j \tag{a}
\end{eqnarray}

ただし、一般化力の成分$Q_j$を次のように定義します。

$$ Q_j \equiv \sum_{i=1}^n \bold{F}_{i}^{(a)} \cdot\frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} $$

なぜ、『一般化力』と言うのかと言うと、$Q_j$ が必ずしも力の次元を持つと限らないからです。(モーメントとなることもあります)

ただし、積 $Q_j\cdot \delta q_j$ は必ず仕事の次元になります。

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ダランベールの原理と運動エネルギー

ダランベールの原理の第二項も先ほどと同様に、一般化座標を用いて次のように整理できます。

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n \bold{\dot{p}}_i \cdot \delta\bold{r}_i &=& \sum_{i=1}^n m_i\bold{\ddot{r}}_i \cdot \delta\bold{r}_i \EE
&=& \sum_{j=1}^n \sum_{i=1}^n m_i\bold{\ddot{r}}_i \cdot \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j}\delta q_j
\end{eqnarray}

技巧的になりますが、準備として次のような式変形を考えます。

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n m_i\bold{\ddot{r}}_i \cdot \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} &=& \sum_{i=1}^n\left[ \frac{\diff}{\diff t}\left( m_i\bold{\dot{r}}_i\cdot\frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} \right)- \, m_i\bold{\dot{r}}_i\cdot\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del \bold{r}_i}{\del q_j} \right) \right] \tag{5}
\end{eqnarray}

上式の右辺第二項についても式$(4)$を用いると、

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del \bold{r}_i}{\del q_j} \right) &=& \sum_k \frac{\del}{\del q_k}\left( \frac{\del \bold{r}_i}{\del q_j}\right)\dot{q_k} + \frac{\del}{\del t} \frac{\del \bold{r}_i}{\del q_j} \EE
&=& \sum_k \frac{\del^2 q_k}{ \del q_j \del q_k}\frac{\del \bold{r}_i}{\del t} + \frac{\del}{\del q_j} \frac{\del \bold{r}_i}{\del t} \EE
&=& \frac{\del}{\del q_j}\frac{\del \bold{r}_i}{\del t} = \frac{\del \bold{\dot{r}}_i}{\del q_j} \EE
&=& \frac{\del \bold{v}_i}{\del q_j}
\end{eqnarray}

とできます。この結果から、$t$ と $q_j$ に関する微分を入れ替えできることが分かります。なお、$\bold{\dot{r}}_i \equiv \bold{v}_i$であることにも注意してください。

この結果と一般化速度の重要公式を式$(5)$に適用すると、

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n m_i\bold{\ddot{r}}_i \cdot \frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} &=& \sum_{i=1}^n\left[ \frac{\diff}{\diff t}\left( m_i\bold{v}_i\cdot\frac{\del\bold{v}_i}{\del \dot{q}_j} \right) – \, m_i\bold{v}_i\cdot\frac{\del \bold{v}_i}{\del q_j} \right] \EE
&=& \frac{\diff}{\diff t}\left[\frac{\del}{\del \dot{q}_j}\left(\sum_{i=1}^n \frac{1}{2}m_i v_i^2\right)\right] -\, \frac{\del}{\del q_j}\left(\sum_{i=1}^n \frac{1}{2}m_i v_i^2\right) \tag{b}
\end{eqnarray}

が得られます。

ようやく準備が整いました。

以上、式$(a)$と$(b)$をダランベールの原理の表式に放り込むと、

\begin{eqnarray}
\sum_{j=1}^n\left\{ \frac{\diff}{\diff t}\left[\frac{\del}{\del \dot{q}_j}\left(\sum_{i=1}^n \frac{1}{2}m_i v_i^2\right)\right] -\, \frac{\del}{\del q_j}\left(\sum_{i=1}^n \frac{1}{2}m_i v_i^2\right) – \, Q_j \right\}\delta q_j = 0 \tag{6}
\end{eqnarray}

とできます。

さて、$\DL{\sum_{i=1}^n\frac{1}{2}m_iv^2_i}$ は系が保有する運動エネルギーとなります。

ここで、運動エネルギーを $T$ とすると、上式を簡潔に

$$ \sum_{j=1}^n \left\{ \left[\frac{\diff}{\diff t}\left(\frac{\del T}{\del \dot{q}_j}\right)-\frac{\del T}{\del q_j} \right] -\, Q_j \right\}\delta q_j = 0 $$

と整理できます。

上式が任意の仮想変位 $\delta q_j$ に対して成立するためには、

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_j} \right) -\, \frac{\del T}{\del q_j} = Q_j \tag{8}
\end{eqnarray}

とならなければなりません。

オイラー・ラグランジュ方程式の導出まで一歩です。

一般化力$Q_j$を具体的な形にして意味を明瞭にします。

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オイラー・ラグランジュ方程式の導出

ところで力$\bold{F}^{(a)}_i$が保存力(重力など)のとき、スカラーポテンシャル $U$を使って次のように表せます。

\begin{eqnarray}
\bold{F}^{(a)}_i = -\nabla_i U = -\frac{\del U}{\del r_i}\bold{i}
\end{eqnarray}

※ $\nabla$はナブラと読みます。詳細はこちらで解説しています。

系に働く力が保存力のみであるとき、一般化力を次のように表せます。

\begin{eqnarray}
Q_j &=& \sum_i\bold{F}_i^{(a)} \cdot\frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} \EE
&=& -\sum_i \nabla_i U \cdot\frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} \EE
&=& -\sum_i \left( \frac{\del U}{\del r_i}\bold{i} \right) \cdot\frac{\del\bold{r}_i}{\del q_j} \EE
&=& -\sum_i \frac{\del U}{\del r_i}\frac{\del r_i}{\del q_j} \tag{9}
\end{eqnarray}

ところで、$U$は、距離の関数として$U(r_1, r_2, \cdots, r_n)$と表せます。

そのため、$U$の全微分$\diff U$を次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
\diff U = \frac{\del U}{\del r_1}\diff r_1 + \frac{\del U}{\del r_2}\diff r_2 + \cdots + \frac{\del U}{\del r_n}\diff r_n
\end{eqnarray}

さらに、$r_i(q_1, q_2,\cdots ,q_n)$であることに注意し、上式を$q_i$でも偏微分すると、

\begin{eqnarray}
\frac{\del U}{\del q_i} &=& \frac{\del U}{\del r_1}\frac{\del r_1}{\del q_i} + \frac{\del U}{\del r_2}\frac{\del r_2}{\del q_i} + \cdots + \frac{\del U}{\del r_n}\frac{\del r_n}{\del q_i} \EE
&=& \sum_i \frac{\del U}{\del r_i}\frac{\del r_i}{\del q_i}
\end{eqnarray}

となります。

上式は式(9)の右辺と一致するので、一般化力を以下ように整理できます。

$$ Q_i = – \frac{\del U}{\del q_i} $$

この結果を、式(8)に代入すると、

\begin{split}
&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del T}{\del q_i} = Q_i \EE
&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del T}{\del q_i} = – \frac{\del U}{\del q_i} \EE
\therefore\,\,\, &\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del (T-U)}{\del q_i} = 0
\end{split}

と書き直すことができます。

いよいよラストスパートです。もう少しだけお付き合いください。

さて、$U$は(一般化)速度に依存せず決まるので、$U$を式(10)の左辺第一項の$\dot{q}_i$の偏微分に含めても結果が変わりません。

そのため、次のようにできます。

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del (T-U)}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del (T-U)}{\del q_i} &=& 0
\end{eqnarray}

ここで、新しい物理量ラグラジアン $L$ を新たに導入し、以下のように定義します。

ラグランジアンの定義

運動エネルギーを $T$、ポテンシャルエネルギーを $U$とする。

このとき、ラグランジアン $L$ を次のように定義する。

\begin{eqnarray}
L\equiv T-U \\
\,
\end{eqnarray}

すると、先程の式はすっきりした形にできます。この方程式をオイラー・ラグランジュ方程式と呼びます。

オイラー・ラグランジュ方程式

運動エネルギーを $T$、ポテンシャルエネルギーを $U$とし、ラグランジアンを$L=T-U$とする。

このとき、オイラー・ラグランジュ方程式を次のように表される。

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L}{\del q_i} &=& 0 \\
\,
\end{eqnarray}

ようやく、オイラー・ラグランジュ方程式が導出できました。

読者の皆さん、お付き合いありがとうございました。

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オイラー・ラグランジュ方程式の長所

ところで、オイラー・ラグランジュ方程式は、ニュートンの運動方程式と違い複雑な形をしてますし、暗記もしにくい形です。

むしろ不便になったのでは?と感じるかもしれませんが、オイラー・ラグランジュ方程式にはすごい長所があるのです。

その長所とは、系のエネルギーに関する情報のみから運動方程式が導けることと、座標変換に対しても式が変わらない直交座標→極座標などの変換に対して不変)ことです。

今まで力学の問題を解くときには、系に働く力(重力・張力・垂直抗力・向心力などなど)や幾何学的な条件を全て考えて運動方程式を立てていました。

ですが、オイラー・ラグランジュ方程式では系のエネルギーが分かれば、そこから機械的に運動方程式を導けます

今までの手間を考えれば、素晴らしい長所と言えます。

また、ニュートンの運動方程式では座標変換のたびに見た目が変わり、非常に面倒くさい計算が必要でした。(気になる方は、極座標形式での運動方程式を検索してください。)

しかし、オイラー・ラグランジュ方程式は、座標変換しても式の形が変わりません。

座標変換しても見た目が変わらないのは、理論展開の上で見通しが良く非常に助かるのです。

このように、座標変換に強いこともオイラー・ラグランジュ方程式の長所なのです。(詳細は別の機会に説明します。)

※ニュートンの運動方程式$\bold{F} = m\bold{a}$とオイラー・ラグランジュ方程式の同値性は別の機会に示します。

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非保存力を含む場合のオイラー・ラグランジュ方程式

オイラー・ラグランジュ方程式を導出する際、一般化力$Q_i$が保存力であるとしました。

その場合、スカラーポテンシャル$U$を使って、次のように表せました。

$$ Q_i = – \frac{\del U}{\del q_i} $$

ここからは一般化力に非保存力が含まれる場合に、オイラー・ラグランジュ方程式がどうなるかを見ていきます。

一般化力$Q_i$が保存力と、摩擦やダンパーの減衰などの非保存力$Q’_i$から成り立つとき、次のように表せます。

$$ Q_i = – \frac{\del U}{\del q_i} + Q’_i $$

これを式(10)の過程に代入すると、

\begin{split}
&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del T}{\del q_i}
= Q_i \EE
&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del T}{\del q_i} = – \frac{\del U}{\del q_i} + Q’_i \EE
&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del T}{\del \dot{q}_k} \right) -\, \frac{\del (T-U)}{\del q_i} = Q’_i \EE
&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del (T-U)}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del (T-U)}{\del q_i} = Q’_i \EE
\therefore\,\,\,&\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L}{\del q_i} = Q’_i
\end{split}

となります。

これが、外力に非保存力が含まれる場合のオイラー・ラグランジュ方程式となります。

非保存力が含まれる場合のオイラー・ラグランジュ方程式

\begin{split}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \right) -\, \frac{\del L}{\del q_i} = Q’_i \\
\,
\end{split}

※ $Q’_i$の具体的な形は問題によって変わります。

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