ルジャンドル変換は次のように定義される変数変換のことです。
今回ルジャンドル変換を考える理由は、解析力学に適用すると面白い結果が導けるためです。
具体的にはラグランジアンにルジャンドル変換を施したとき、ハミルトニアンとハミルトンの正準方程式が導かれることを見ていきます。
ルジャンドル変換とは?
いささか唐突ですが次のように定義される変数変換、ルジャンドル変換を導入します。
上で示した定義について説明していきます。
まず $\max$ の意味についてですが、これはある集合 $S$ の全ての元の中で最大ものを意味します。たとえば、$S=\{3,7,-1\}$ のような集合であるとき、$\max S=7$ となります。そして $\max f(x)$ とは関数 $f$ の定義域の中での最大値を意味します。
したがって、$\DL{\max_x\big\{ux-f(x) \big\}}$ は関数 $ux-f(x)$ が最大となる値を意味します。
とは言え、これだけではルジャンドル変換の正体が良く分からないので具体例を見ていきましょう。まずは、 $\max$ を外した次の式について考えます。
\begin{split}
g(u)=ux-f(x)
\end{split}
ここで、$f(x)=ax^2\,\,(a>0)$ とすると、$g(u)=ux-ax^2$ となり、これを平方完成すると以下のようになります。
\begin{split}
ux-ax^2&=-a\left( x-\ff{u}{2a} \right)^2+\ff{u^2}{4a}
\end{split}
この関数の最大値は $\DL{\ff{u^2}{4a}}$ と言えるので、$\max\big\{ux-f(x)\big\}=\DL{\ff{u^2}{4a}}$ となります。したがって、$g(u)=\DL{\ff{u^2}{4a}}$ となります。なお、このときの $u$ は $u=2ax$ となって、$u=f'(x)$ の関係にあることも分かります。
これは偶然ではなく、ルジャンドル変換は微分を用いても表現でき、このとき次のようになります。
ルジャンドル変換の重要な性質
上で得られた結果を $h(x)=\DL{\ff{x^2}{4a}}$ として、これにもう一度ルジャンドル変換を施してみましょう。まず、$ux-h(x)$ について計算し、平方完成を施すと
\begin{split}
ux-h(x)&=ux-\ff{x^2}{4a}\EE
&=-\ff{1}{4a}\left(x-2au \right)^2+au^2
\end{split}
とります。したがって、$\DL{\max_u\big\{ux-h(x) \big\}}$ は $au^2$ となります。
この結果は一般の関数にも拡張でき、ルジャンドル変換は下に凸な関数であればルジャンドル変換を $2$ 回施すと元の関数に戻るという重要な性質を持ちます。
なお、上に凸の関数の場合はルジャンドル変換を $2$ 回施しても元の関数には戻りません。
ルジャンドル変換の図形的意味
数式だけではまだルジャンドル変換のイメージが湧きません、そこで変換の図形的意味についても考えることにします。
ここでも、$y=f(x)=ax^2$ に対してルジャンドル変換することを考えます。なお、ルジャンドル変換後の関数 $g$ を $g=ux-ax^2$ とします。
このとき、前述の結果から分かるように、$u=f'(x)=2ax$ と言えます。したがって、各 $x$ に対応する $g$ を下図のように描画できます。
図から明らかなように、各 $x$ により定まる $g$ をまとめた直線群は $f$ の包絡線となります。なお、$u$ は接線の傾きに対応し、その切片の値が $g$ と一致することも言えます。
これは、$x,y$ の組み合わせで表現された関数 $f$ を、その曲線の接点と接線の傾きと切片の組み合わせ $u,-\DL{\ff{u^2}{4a}}$ で表現した関数 $g$ に置き換えたと見ることもできます。
つまり、ルジャンドル変換の図形的な意味としては、曲線の座標を接線での傾きとその切片に変換することに対応すると言えます。
ルジャンドル変換とハミルトンの正準方程式
ところで、多変数関数にもルジャンドル変換を考えることができます。例えば $2$ 変数関数 $f(x,y)$ の $y$ に対してルジャンドル変換を施した場合は以下のようになります。ただし、$\DL{u=\ff{\del f}{\del y}}$ とします。
\begin{split}
g(x,u)=uy-f(x,y)
\end{split}
ここからが今回の本題となります。
すなわち、ラグランジアン $L$ にルジャンドル変換を施したらどうなるのかについて考えてみましょう。
今、ラグランジアンを $L(q,\dot{q})$ とします。すると、そのルジャンドル変換は、
\begin{split}
g(q,u)&=u \dot{q}-L(q,\dot{q})
\end{split}
となるはずです。ここで、$\DL{u=\ff{\del L}{\del \dot{q}}}$ はラグランジアンと運動量の関係を思い出すと、一般化運動量に相当することが分かります。したがって、
\begin{split}
u=p=\ff{\del L}{\del \dot{q}}
\end{split}
と言えます。これはまさにハミルトンの定義式と同じです。したがって、$g=H$ と言えます。ゆえに、ラグランジアンのルジャンドル変換はハミルトニアンとなることが分かります。つまり、
\begin{split}
H(q,p)&=p \dot{q}-L(q,\dot{q})
\end{split}
なお、上の結果からは
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del H}{\del p}=\dot{q}\EE
&\ff{\del H}{\del q}=-\ff{\del L}{\del q}
\end{split}
\right.
$$
の関係にあることも導けます。
ここで、$\DL{p=\ff{\del L}{\del \dot{q}}}$ に対して、両辺に時間微分を施し、これにオイラー・ラグランジュ方程式と上の結果を適用することを考えます。すると、
\begin{split}
\dot{p}&=\ff{\diff}{\diff t}\left(\ff{\del L}{\del \dot{q}} \right)\EE
&=\ff{\del L}{\del q}=-\ff{\del H}{\del q} \EE
\therefore\,\dot{p}&=-\ff{\del H}{\del q}
\end{split}
であることも導けます。つまり、ラグランジアンに対する一連のルジャンドル変換の結果、ハミルトンの正準方程式
$$
\left\{
\begin{split}
&\dot{q}=\ff{\del H}{\del p}\EE
&\dot{p}=-\ff{\del H}{\del q}
\end{split}
\right.
$$
が導けることも分かります。
このように、ラグランジアンからハミルトニアンを導く際、ルジャンドル変換が有用であることが分かります。