等価ラグランジアンの考え方を具体的な変換手法に適用すると、時間対称性・並進対称性・回転対称性・ガリレイ対称性などを見出すことができます。
例えば、ガリレイ対称性は次のように定義されます。
任意の $\B{q}(t)$ がオイラー・ラグランジュ方程式の解であるとする。
このとき、$\B{v}$ を速度ベクトルとして $\B{q}(t)+\B{v}$ がオイラー・ラグランジュ方程式の解となるならば、そのラグランジアンはガリレイ対称であると言う。
ラグランジアンがガリレイ対称性を持つとき、以下の性質を満たす。
\begin{split}
L(\B{q}-\B{v}t,\dot{\B{q}}-\B{v},t)=L(\B{q},\dot{\B{q}},t)+\ff{\diff}{\diff t}G(\B{q},\B{v},t)\\
\,
\end{split}
これらの対称性が成立することはわざわざ説明することも無いほど当たり前のことです。
ところが、これらの対称性を活用するとネーターの定理という物理学の本質に迫る非常に興味深い結果が得られます。
ネーターの定理に至る準備として、今回はこれらの対称性について考察していきましょう。まずは、基本的な事項である、時間並進や空間並進、空間回転について説明していきます。
時間並進・空間並進・空間回転とは?
冒頭で話したように、ラグランジアンに時間並進・空間並進・空間回転・ガリレイ変換の対称性を課すことで興味深い性質を導くことができます。
これらの用語について説明していきます。まず、時間並進と空間並進についてですが、これらは次のように定義されます。
時間 $t$ を定数 $a$ だけずらす以下の操作を時間並進と呼ぶ。
\begin{split}
t\to t+a \\
\,
\end{split}
この定義から分かるように、時間並進は系の観察を始める時刻をずらすことに相当します。そして、空間並進は次のように定義されます。
位置ベクトル $\B{x}$ に定ベクトル $\B{a}$ を加える以下の操作を空間並進と呼ぶ。
\begin{split}
\B{x}\to \B{x}+\B{a} \\
\,
\end{split}
空間回転とは?
次に空間回転について説明します。なお、世界は $3$ 次元空間であるため、$3$ 次元空間での回転を考えれば十分と言えます。
ここでは詳しい解説は省きますが、$3$ 次元空間での空間回転は $3$ 行 $3$ 列の行列(=回転行列) $R$ を用いて表現されます。すなわち、ベクトル $\B{x}$ を回転させたとき、そのベクトル $\B{x}’$ は次のように表されます。
\begin{split}
\B{x}’=R\B{x}
\end{split}
したがって、空間回転は次のように定義されます。
位置ベクトル $\B{x}$ に回転行列 $R$ を作用させる以下の操作を空間回転と呼ぶ。
\begin{split}
\B{x}\to R\B{x} \\
\,
\end{split}
ガリレイ変換とは?
冒頭で紹介した $4$ つの操作のうち最後のガリレイ変換について解説します。
ガリレイ変換を簡単に説明すると、慣性座標系同士での変換方法を規定するのがガリレイ変換です。
ここで、静止座標系 $O-xyz$ とこの座標系に対して相対速度 $\B{v}$ で等速運動している $O’-x’y’z’$ 座標系(慣性座標系)を用意します。なお、静止座標系を $K$、慣性座標系を $K’$ で表すこととします。
さて、空間上に物体が存在しており、この物体の位置が $O-xyz$ 座標系から見ると $\B{x}$ の位置、そして $O’-x’y’z’$ 座標系から見ると $\B{x}’$ の位置にあるとします。
このとき、$\B{x}$ と $\B{x}’$ の間には上図から分かるように、次の対応関係が成立します。
\begin{split}
\B{x}’=\B{x}-\B{v}t
\end{split}
この関係式は、見方を変えると $K$ から $K’$ への変換則を表すとも言えます。したがって、この変換則はガリレイ変換と呼ばれます。
ある慣性座標系 $K$ から、$K$ に対して等速度 $\B{v}$ で移動する座標系 $K’$ に移る以下の変換のことをガリレイ変換と呼ぶ。
\begin{split}
\B{x}’=\B{x}-\B{v}t
\end{split}
ただし、$K,K’$ で時刻 $t$ は共通とする。
ラグランジアンの対称性とは?
前述した $4$ つの操作を施したラグランジアンについて考えます。さて、変換後のラグランジアンが以下の条件を満たすとき、これらには対称性あるいは不変性があると言います。各変換に対する具体的な内容を紹介していきます。
時間対称性
ラグランジアンが時間並進に対して対称性を持つとは、次のような性質を満たすことを言います。
一般化座標 $q_i(t)$ がオイラー・ラグランジュ方程式の解であり、$a$ を定数とした $q_i(t+a)$ もオイラー・ラグランジュ方程式の解となるとき、ラグランジアンは時間並進対称(時間並進不変)であると言う。
時間並進対称性の定義は以下のオイラー・ラグランジュ方程式が成立することを表現しています。
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\ff{L\big(q(t+a),\dot{q}(t+a) \big)}{\del \dot{q}(t+a)}-\ff{L\big(q(t+a),\dot{q}(t+a) \big)}{\del {q}(t+a)}=0
\end{split}
なお、時刻によってラグランジアンが変化する場合はそもそもの前提が成立しないことに注意して下さい。つまり、ラグランジアンに時間依存性が無い場合に限って、時間並進対称が成立することに注意して下さい。
並進対称性
ラグランジアンが空間並進に対して対称性を持つとは、次のような性質を満たすことを言います。
任意の $\B{q}(t)$ がオイラー・ラグランジュ方程式の解であり、$\B{a}$ を定ベクトルとして $\B{q}(t)+\B{a}$ もオイラー・ラグランジュ方程式の解となるとき、そのラグランジアンは並進対称であると言う。
なお、ラグランジアンが並進対称であるとき、以下の性質を満たす。
\begin{split}
L(\B{q}+\B{a},\dot{\B{q}},t)=L(\B{q},\dot{\B{q}},t)+\ff{\diff}{\diff t}G(\B{q},\B{a},t)\\
\,
\end{split}
このラグランジアンの性質は等価ラグランジアンを具体化したものと言えます。
回転対称性
ラグランジアンが空間回転に対して対称性を持つとは、次のような性質を満たすことを言います。
任意の $\B{q}(t)$ がオイラー・ラグランジュ方程式の解であり、$R$ を回転行列として $R\B{q}(t)$ もオイラー・ラグランジュ方程式の解となるとき、そのラグランジアンは回転対称であると言う。
なお、ラグランジアンが回転対称性を持つとき、以下の性質を満たす。
\begin{split}
L(R\B{q},R\dot{\B{q}},t)=L(\B{q},\dot{\B{q}},t)+\ff{\diff}{\diff t}G(\B{q},R,t)\\
\,
\end{split}
ガリレイ対称性
ラグランジアンがガリレイ対称性を持つとは、次のような性質を満たすことを言います。
任意の $\B{q}(t)$ がオイラー・ラグランジュ方程式の解であり、$\B{v}$ を速度ベクトルとして $\B{q}(t)+\B{v}$もオイラー・ラグランジュ方程式の解となるとき、そのラグランジアンはガリレイ対称であると言う。
なお、ラグランジアンがガリレイ対称性を持つとき、以下の性質を満たす。
\begin{split}
L(\B{q}-\B{v}t,\dot{\B{q}}-\B{v},t)=L(\B{q},\dot{\B{q}},t)+\ff{\diff}{\diff t}G(\B{q},\B{v},t)\\
\,
\end{split}