今回は解析力学にて中心的な役割を果たすラグランジアンとその性質について解説していきます。
ラグランジアン自体は上のように定義される物理量です。ところが、この定義はラグランジアンの一つの表式に過ぎず、いくつもの等価なラグランジアンを考えることができます。
このようにラグランジアンが一つに定まらない性質のことをラグランジアンの不定性と言います。
ラグランジアンとは?
さて、最小作用の原理について説明した際、突然にラグランジアンなる物理量を導入しました。そして、ラグランジアンなる物理量から計算される、作用が最小となるような軌跡が実現されると説明しました。
問題はラグランジアンがどのような形であるのか?という点です。
幸いなことに、この問いの答えはオイラー・ラグランジュ方程式を導出する際に判明しています。すなわち、ラグランジアンは次のように定義される物理量となります。
ラグランジアンの定義から分かるように、ラグランジアンはエネルギーの次元を持つことが分かります。
ただし、上の定義で示したラグランジアンは、以下のオイラー・ラグランジュ方程式を満たす、無数の解の中の一つに過ぎません。
\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left(\frac{\del L}{\del \dot{q}} \right)-\frac{\del L}{\del q}
\end{eqnarray}
このような視点から、ラグランジアンを見つめ直すことも今回のポイントとなります。
ラグランジアンの不定性とは?
ラグランジアンを $L=T-U$ と定義した直後ですが、良く考えるとラグランジアンがこの形でなければならない理由は特にはありません。
実際、定数倍や定数項を加えたラグランジアンをオイラー・ラグランジュ方程式に適用しても、これらはオイラー・ラグランジュ方程式の解となります。
さらに、$\widetilde{L}=L+\dot{q}e^{q}$ としてもオイラー・ラグランジュ方程式は満たされます。実際に確かめてみましょう。$\widetilde{L}$ をオイラー・ラグランジュ方程式に適用すると、
\begin{split}
&\quad\frac{\diff}{\diff t}\left(\frac{\del \widetilde{L}}{\del \dot{q}} \right)-\frac{\del \widetilde{L}}{\del q} \EE
&= \ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}} \right)-\ff{\del L}{\del q}\EE
&\qquad+\ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\dot{q}e^{q}}{\del \dot{q}} \right)-\ff{\del \dot{q}e^{q}}{\del q} \EE
&= 0+\dot{q}e^{q}-\dot{q}e^{q}=0
\end{split}
となり、実際に $0$ となることが確認できます。このように、$\widetilde{L}$ もオイラー・ラグランジュ方程式の解となるので、等価ラグランジアンと呼ばれます。
例から分かるように、ラグランジアンは必ずしも $1$ つに定まりません。この性質をラグランジアンの不定性と呼びます。
等価ラグランジアンとは?
気になるのは、ラグランジアンにどんな項を付け加えられるのか?です。これについては、以下の性質を満たす関数であれば等価ラグランジアンを作れることが分かっています。
等価ラグランジアンがオイラー・ラグランジュ方程式を満たすことは次のように証明できます。
【証明】
始めに $\widetilde{L}=L+\dot{W}$ をオイラー・ラグランジュ方程式に適用します。
\begin{split}
&\quad\frac{\diff}{\diff t}\left(\frac{\del \widetilde{L}}{\del \dot{q}_i} \right)-\frac{\del \widetilde{L}}{\del q_i} \EE
&= \ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \right)-\ff{\del L}{\del q_i}\EE
&\qquad+\ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del \dot{W}}{\del \dot{q}_i} \right)-\ff{\del \dot{W}}{\del q_i}
\end{split}
前半部分は $0$ となります。ゆえに、次式が $0$ となることを示すことが証明の根幹となります。
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del \dot{W}}{\del \dot{q}_i} \right)-\ff{\del \dot{W}}{\del q_i}
\end{split}
まず、$\DL{\dot{W}=\ff{\diff W}{\diff t}}$ については、
\begin{eqnarray}
\dot{W}=\ff{\diff W}{\diff t}=\ff{\del W}{\del q}\ff{\del q}{\del t}+\ff{\del W}{\del t}\tag{1}
\end{eqnarray}
となります。したがって、第一項の $\DL{\ff{\diff}{\diff t}\left(\ff{\del\dot{W}}{\del \dot{q}_i}\right) }$ は、
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\left(\ff{\del\dot{W}}{\del \dot{q}_i}\right) &= \ff{\diff}{\diff t}\left( \ff{\del W}{\del q_i} \right) \EE
&= \ff{\del^2 W}{\del q_j\del q_i}\ff{\del q_i}{\del t}+\ff{\del^2 W}{\del q_i\del t}
\end{split}
となります。同様に第二項の $\DL{\ff{\del\dot{W}}{\del q_i}}$ にも式$(1)$を適用して、
\begin{split}
\ff{\del\dot{W}}{\del q_i}&=\ff{\del^2 W}{\del q_i\del q_j}\ff{\del q_j}{\del t}+\ff{\del^2 W}{\del q_i\del t}
\end{split}
が得られます。$q_i,q_j$ の偏微分は交換可能なため、$\DL{\ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del \dot{W}}{\del \dot{q}_i} \right)=\ff{\del \dot{W}}{\del q_i}}$ となります。ゆえに、
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del \dot{W}}{\del \dot{q}_i} \right)-\ff{\del \dot{W}}{\del q_i}=0
\end{split}
以上より、題意が示されました。