ハミルトン・ヤコビ理論を用いて周期運動(振り子の振動やばね振動等の運動)を解析する場合、次のような作用変数や角変数を利用すると便利です。
※ $\DL{\oint}$ は周回積分を意味する記号です。
今回はこれら作用変数と角変数について解説します。これらの変数を導入する準備として始めに、ハミルトンの特性関数についての説明を行います。
ハミルトンの特性関数とは?
振り子やばねの振動のような周期性のある運動を扱う際に便利な作用変数や角変数を導入します。
その準備として、ハミルトンの主関数が次のように $q$ と $P$ の関数 $W(q,P)$ と時間のみの関数 $Y(t)$ に分離できる場合について考えます。
\begin{split}
S=W(q,P)+Y(t)
\end{split}
さらにハミルトニアンが $t$ を陽に含まないとします。これらの仮定の下で、ハミルトン・ヤコビ方程式に適用すると、
\begin{split}
H\left(q,\ff{\diff W}{\diff q} \right)=-\ff{\diff Y}{\diff t}=const.=E
\end{split}
が得られます。各辺は互いに独立な変数によって記述されているため、上の値は定数となります。
この定数の物理的な意味についてはハミルトニアンの性質に注目すれば分かります。すなわち、ハミルトニアンに時間を陽に含まないとき、ハミルトニアンは系の力学的エネルギー $E$ と一致するので、この定数はエネルギーであると言えます。
ゆえに、ハミルトンの主関数を
\begin{split}
S=W(q,P)-Et=W(q,\A)-Et
\end{split}
とできます。そして、ハミルトン・ヤコビ理論より $P$ は定数と言えるため、$P=\A$ と置けます。したがって、$W=W(q,\A)$ となります。
なお、このような形でハミルトンの主関数を与える $W$ のことをハミルトンの特性関数と呼びます。
ばね振動(調和振動子)とハミルトンの特性関数
ハミルトン・ヤコビ理論を用いた具体例として、ばね振動(調和振動子)について解析していきます。
まず、ばね振動のハミルトニアンについてはこちらで求めた結果を用いて次のように置けます。ただし、$q,p$ をそれぞれ一般化座標、一般化運動量とします。
\begin{split}
H=\ff{1}{2}kq^2+\ff{1}{2m}p^2
\end{split}
この結果を用いることで、ハミルトン・ヤコビ方程式が次のように書けます。
\begin{split}
0&=H+\ff{\del S}{\del t} \EE
\therefore\,\,0&=\ff{1}{2m}\left(\ff{\del S}{\del t} \right)^2+\ff{\del S}{\del t}+\ff{1}{2}kq^2
\end{split}
なお、ハミルトンの主関数を $S$ として $\DL{p=\ff{\del S}{\del q}}$ の関係にあることも用いています。
今、ハミルトニアンに時間依存性が無いため、先述のハミルトンの特性関数を用いて、
\begin{split}
\ff{1}{2m}\left(\ff{\diff W}{\diff q} \right)^2+\ff{1}{2}kq^2=E
\end{split}
とでき、これより、
\begin{split}
\ff{\diff W}{\diff q}=m\omega\sqrt{\ff{2E}{m\omega^2}-q^2}
\end{split}
となります。ただし、$\omega^2=\DL{\ff{k}{m}}$ とします。さらに両辺を $q$ で積分することでハミルトンの特性関数 $W$ をこのように表示できます。
\begin{eqnarray}
W&=m\omega\int\sqrt{\ff{2E}{m\omega^2}-q^2}\,\diff q \tag{1}
\end{eqnarray}
作用変数・角変数とは?
今回の本題にようやく入ります。天下り的ですが、次のように定義される作用変数と角変数という物理量を導入します。
例として調和振動(ばね振動)の作用変数と角変数について求めてみます。
このときの $q,p$ についてですが、調和振動のトラジェクトリーを描画した際の結果を流用して、
\begin{split}
&\,q=\sqrt{\ff{2E}{k}}\cos\q \EE
&\,p=\sqrt{2mE}\sin\q
\end{split}
とでき、これを作用変数の定義に代入することで、
\begin{split}
J&=\oint p\,\diff q =\int_0^{2\pi}\sqrt{2mE}\sin\q\cdot \sqrt{\ff{2E}{k}}(\sin\q)\diff \q \EE
&=2E\sqrt{\ff{m}{k}}\int_0^{2\pi}\sin^2\q\diff \q\EE
&=2\pi E\sqrt{\ff{m}{k}}=\ff{2\pi E}{\omega}
\end{split}
となります。最後の計算では三角関数の直交性を利用しています。この例から分かるように、作用変数 $J$ は位相空間の軌跡の面積と一致します。
次に $w$ についてですが、連鎖律によって
\begin{split}
w&=\ff{\del W}{\del J}=\ff{\del W}{\del E}\ff{\del E}{\del J}
\end{split}
できることを利用します。各偏微分はこれまでの結果を用いて
\begin{split}
w&=\ff{\del W}{\del E}\ff{\del E}{\del J}=\ff{2}{\omega}\int\ff{\diff q}{\sqrt{\ff{2E}{m\omega^2}-q^2}}\cdot \ff{\omega}{2\pi}\EE
&=\ff{1}{\pi}\arcsin\left(\sqrt{\ff{m\omega^2}{2E}}q \right)
\end{split}
と求められます。
作用変数と角変数の意味
上で導入した作用変数と角変数の意味について簡単に説明します。まず作用変数 $J$ は、上の例から分かるように定数となります。よって、ハミルトン・ヤコビ理論での正準変数として用いることができます。
したがって、作用変数はハミルトン・ヤコビ理論の一般化運動量に相当すると考えることができます。
次に角変数について考えます。これは、$P=J$ としたときの正準変換が以下の関係を満たすことから、
$$
\left\{
\begin{split}
\,p&=\ff{\del W}{\del q} \EE
\,Q&=\ff{\del W}{\del P}=\ff{\del W}{\del J}
\end{split}
\right.
$$
角変数はハミルトン・ヤコビ理論の一般化座標に相当することが分かります。
振動数と作用変数
上で定義した作用変数を用いると、周期振動の振動数を次のように求めることができます。
振動数が上のように表せる理由について説明します。まず、作用変数と角変数はハミルトンの正準方程式を通じて次のような結び付きがあり、
\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff t}=\ff{\del K}{\del J}
\end{split}
ハミルトニアン $K$ に時間依存性が無いとき、系の持つエネルギー $E$ との間に $K=E$ という関係があります。ゆえに、
\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff t}=\ff{\del E}{\del J}=const.
\end{split}
前述の計算から分かるように、$E$ は $J$ の一変数関数です。これより、上の微分の結果は定数となります。
次に、この定数の正体について考えます。
ばね振動(調和振動子)を例にすると、$\DL{E=\ff{\omega}{2\pi}J}$ という関係にあるため、
\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff t}=\ff{\del E}{\del J}=\ff{\omega}{2\pi}=\nu
\end{split}
この値は振動数を意味します。ゆえに、系の持つエネルギーを作用変数で偏微分した結果が振動数となることが分かります。
この結果を用いることで、振り子の周期の厳密解を求めることができます。