ネーターの定理とは?|時間と空間の対称性と保存則の関係

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今回は物理学上の重要な知見を与えてくれるネーター($\RM{Noether}$)の定理について解説します。

ネーターの定理

ラグランジアン $L(q,\dot{q},t)$ が対称性を持つとき、それに対応した保存量が存在する。

ネーターの定理は時間や空間に対称性があるとき、それに付随した保存量が存在することを主張しています。

保存量としては力学的エネルギー保存則運動量保存則角運動量保存則があり、もちろん力学の立場からも導くことができます。しかしながら、なぜそのような保存則が成立するのかについては分かりませんでした。

この本質的な疑問に答えを与えてくれるのがネーターの定理です。今回は、ネーターの定理の証明と、具体的にどのような保存則が導かれるのかについて説明していきます。

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ネーター($\RM{Noether}$)の定理とは?

ネーター($\RM{Noether}$)の定理とは、次のように表現される定理のことです。

ネーターの定理

ラグランジアン $L(q,\dot{q},t)$ が対称性を持つとき、それに対応した保存量が存在する。

ネーターの定理が主張する内容について簡単に説明をしていきます。

まず、ラグランジアンが対称性を持つという意味についてですが、これは、ラグランジアンが時間並進対称性並進対称性回転対称性などを持つということです。

もっと具体的に言えば、$L$ に含まれる一般化座標 $q$ を変化させても $L$ が変化しないとき、$L$ は対称性(不変性)を持つと言います。

次に、保存量の意味についてですが、これは時間に依らず一定であるような物理量のことを言います。たとえば、ある物理量が $Q$ という関数で表されるとき、$Q$ が保存量であるとは、

\begin{split}
\ff{\diff Q}{\diff t}=0
\end{split}

が成立することを言います。

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ネーターの定理の証明

ではネーターの定理の証明をしていきます。

前提として無限小変換により一般化座標一般化速度が $(q,\dot{q})\to(q’,\dot{q}’)=(q+\diff q,\dot{q}+\diff\dot{q})$ のように変化したとします。このとき、$\diff q,\diff\dot{q}$ は次のように表せます。

$$
\left\{
\begin{split}
\diff q&=q’-q=\eps G(q,\dot{q})\EE
\diff \dot{q}&=\dot{q}’-\dot{q}=\eps \ff{\diff}{\diff t}G(q,\dot{q})
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\eps$(エプシロン)を変換の大きさを与える無限小パラメータ、$G$ を無限小変換を定義する関数とします。また、$G$ は $t$ を陽に含まないとします。

この無限小変換のもとでラグランジアンがある関数 $Y$ の時間微分を除いて不変であると仮定します。すると、以下の式となります。

\begin{eqnarray}
\diff L&=L(q’,\dot{q}’,t)-L(q,\dot{q},t)=\eps \ff{\diff Y}{\diff t} \tag{1}
\end{eqnarray}

テイラー展開を利用して上式の中辺を変形すると、

\begin{split}
\diff L&= L(q+\diff q,\dot{q}+\diff\dot{q},t)-L(q,\dot{q},t)\EE
&=\sum_{i=1}^n\left\{\ff{\del L}{\del q_i}G+\ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\left(\ff{\diff G}{\diff t} \right)\right\}\eps
\end{split}

上の右辺第一項はオイラー・ラグランジュ方程式を用いてさらに変形でき、

\begin{split}
\diff L=\sum_{i=1}^n\left\{\ff{\diff}{\diff t}\right(\ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\left)G+\ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\left(\ff{\diff G}{\diff t} \right)\right\}\eps
\end{split}

ゆえに、

\begin{split}
\diff L&=\eps\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n\left( \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\cdot G \right)
\end{split}

が得られます。これを式$(1)$に適用すると

\begin{split}
\diff L&=\eps\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n\left( \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\cdot G \right)-\eps \ff{\diff Y}{\diff t}
\end{split}

となります。今、ラグランジアンは微小変換に対して対称=不変のため $\diff L=0$ となります。したがって、

\begin{split}
0&=\ff{\diff}{\diff t}\left( \sum_{i=1}^n \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\cdot G-Y \right)
\end{split}

が得られます。ここで、$\DL{\sum_{i=1}^n \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\cdot G-Y=Q}$ とすると、以下のことが言えます。

\begin{eqnarray}
\ff{\diff}{\diff t}\left( \sum_{i=1}^n \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\cdot G-Y \right)=\ff{\diff Q}{\diff t}=0 \tag{2}
\end{eqnarray}

これより $Q$ が保存量となることが言えます。よって、ネーターの定理が示されました。

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ネーターの定理と保存量

では、ネーターの定理ラグランジアンの対称性からどんな保存則が導けるのかについて見ていきましょう。

時間並進対称性とエネルギー保存則

ラグランジアンが時間並進に対して対称な(=ラグランジアンが陽な時間依存性を持たない)場合について考えます。このとき、微小時間 $\diff t$ による無限小変換を次のように表現できます。

$$
\left\{
\begin{split}
q’=q(t+\diff t)=q+\dot{q}\,\diff t \EE
\dot{q}’=\dot{q}(t+\diff t)=\dot{q}+\ddot{q}\,\diff t
\end{split}
\right.
$$

これをネーターの定理の導出過程から得られた式$(2)$と比較することで、$G=\dot{q},\, Y=L$ と言えます。したがって、式$(2)$ を

\begin{split}
\ff{\diff Q}{\diff t}=\ff{\diff}{\diff t}\left(\sum_{i=1}^n \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\dot{q}_i-L\right)
\end{split}

とできます。今、$T$ を運動エネルギーとして $\DL{\ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\dot{q}_i}=2T$ の関係にあるので、右辺の括弧の中身は

\begin{split}
\ff{\del L}{\del \dot{q}_i}\dot{q}_i-L&=2T-(T-U)\EE
&=T+U=E
\end{split}

ただし、$U$ をポテンシャルエネルギーとします。さて、$T+U$ は系全体が持つ力学的エネルギー $E$ と一致します。したがって、$\DL{\ff{\diff E}{\diff t}=0}$ と言えます。言い換えるとエネルギーが保存されるということです。

以上より、時間並進対称性があるときエネルギー保存則が成立する』ということが言えます。

並進対称性と運動量保存則

次に、ラグランジアンに並進対称性がある(つまり、$\DL{\ff{\del L}{\del q}=0}$)場合について考えます。

このようなとき、無限小パラメータは $\eps=\diff q,\,G=1$ となり、さらに $Y=0$ となります。ゆえに、式$(2)$をこのようにできます。

\begin{split}
&\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}=0\EE
\end{split}

ここでラグランジアンと運動量の関係を用いると $\DL{p_i=\ff{\del L}{\del \dot{q}_i}}$ と言え、またオイラー・ラグランジュ方程式を適用することで、次のことが言えます。

\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^np_i=\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n \ff{\del L}{\del \dot{q}_i}=\sum_{i=1}^n\ff{\del L}{\del q_i}
\end{split}

今、ラグランジアンは並進対称性を持つため、$\DL{\ff{\del L}{\del q}=0}$ となります。ゆえに、

\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^np_i&=\sum_{i=1}^n\ff{\del L}{\del q_i}=0 \EE
\therefore\,\, \sum_{i=1}^np_i&=const.
\end{split}

これより、並進対称性があるとき運動量保存則が成立する』ということが言えます。

回転対称性と角運動量保存則

最後に回転対称性からどんな保存則が生まれるのかを見ていきます。ここではベクトルを用いて回転移動を考えていくことにします。

さて、微小ベクトル $\delta \B{\varphi}$ によって、ベクトル $\B{x}$ を回転移動させたとします。回転よる移動分は $\delta \B{\varphi}\times \B{x}$ と表せるため、回転後のベクトルが次のように表せます。

\begin{split}
\B{x}+\delta \B{\varphi}\times \B{x}
\end{split}

そして速度は

\begin{split}
\dot{\B{x}}+\delta \B{\varphi}\times \dot{\B{x}}
\end{split}

とできます。以上を式$(2)$に適用すると、

\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n\left\{ \ff{\del L}{\del \dot{\B{x}}_i}\cdot(\delta \B{\varphi}\times \B{x}_i) \right\}=0
\end{split}

となります。

さらに、ラグランジアンと運動量の関係を用いることで以下の式が得られ、

\begin{split}
0=\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n \B{p}_i\cdot(\delta \B{\varphi}\times \B{x}_i)
\end{split}

これにスカラー三重積の公式を適用して

\begin{split}
0=\delta \B{\varphi}\cdot\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n \B{p}_i\times \B{x}_i
\end{split}

これが任意の微小回転角で成立するため、

\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\sum_{i=1}^n \B{p}_i\times \B{x}_i=0
\end{split}

とならなければなりません。この外積は角運動量を表します。以上より、

\begin{split}
\sum_{i=1}^n \B{p}_i\times \B{x}_i=const.
\end{split}

が言えます。これより回転対称性があるとき角運動量保存則が成立する』ということが言えます。

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