今回は解析力学の具体例としてパラメータ励振と呼ばれる現象を取り上げ、そしてパラメータ励振と深い関わりを持つマシュー方程式の導出について解説していきます。
なお、マシュー方程式に現れる上付きドットはニュートンの記法と呼ばれる時間微分を意味します。詳しくはこちらで解説しています。
パラメータ励振とは?
ブランコを立ち漕ぎした経験があると感覚的に理解しやすいでしょうが、立ち漕ぎしながらブランコに乗ると、特に外力が作用していないにも関わらず、不思議とその振幅がどんどん大きくなっていきます。
このようになる理由は、立ち漕ぎの際に体を上げたり下げたりする動作がブランコと人の系全体の重心を移動させることに相当するためです。
この状態を振り子と見なすと、状況は振り子のひもの長さを振動中に変化させることに当たります。
このように、あるパラメータ(例えば振り子のひもの長さ)を周期的に変化させる振動のことを、パラメータ励振と呼びます。
次節からはパラメータ励振の運動方程式を導出することを目指します。
パラメータ励振とラグランジアン
それではパラメータ励振の解析を進めていきましょう。上の例のようなパラメータ励振においては、振動中に作用する力が不明です。このようなとき、解析力学の知識を利用すると便利です。
この系には保存力(今回の場合は重力)のみが作用しているので、その運動方程式はオイラー・ラグランジュ方程式を利用することで導出できます。
まずはラグランジアンの導出から取り掛かりましょう。
さて、時刻 $t=0$ でのひもの長さを $l$ として、鉛直線との成す角を $\q(0)$ とします。すると、錘の位置 $(x,y)$ を
$$
\left\{
\begin{split}
&x(0)=l\sin\q(0)\EE
&y(0)=l\cos\q(0)
\end{split}
\right.
$$
と表せます。ここで、ある時刻 $t$ において、$y$ 方向(鉛直方向)のひもの長さの変位が $\eps =A\sin\omega t$ で表されるとします。すると、任意の時刻 $t$ におけるひもの長さを
$$
\left\{
\begin{split}
&x(t)=l\sin\q(t)\EE
&y(t)=l\cos\q(t)-\eps
\end{split}
\right.
$$
とできます。これより、運動エネルギー $T$ を次のように計算できます。
\begin{split}
T&=\ff{1}{2}m(\dot{x}^2+\dot{y}^2) \EE
&= \ff{1}{2}m(l^2\dot{\q}^2\cos^2\q+l^2\dot{\q}^2\sin^2\q+2l\dot{\q}\dot{\eps}\sin\q+\dot{\eps}^2) \EE
&= \ff{1}{2}m(l^2\dot{\q}^2+2l\dot{\q}\dot{\eps}\sin\q+\dot{\eps}^2)
\end{split}
また、ポテンシャルエネルギー $U$ は以下のようになります。
\begin{split}
U=-mgy=-mg(l\cos\q-\eps)
\end{split}
以上より、ラグランジアンを
\begin{split}
L&=T-U\EE
&= \ff{1}{2}m(l^2\dot{\q}^2+2l\dot{\q}\dot{\eps}\sin\q+\dot{\eps}^2)\EE
&\qquad\quad+mg(l\cos\q-\eps)
\end{split}
と求められます。
マシュー方程式の導出
上で求めたラグランジアンをオイラー・ラグランジュ方程式に代入します。すると、パラメータ励振の運動方程式が得られます。
まず、第一項についての計算は次のように行えます。
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\left( \ff{\del L}{\del \dot{\q}} \right)&= \ff{\diff}{\diff t}\left\{ m(l^2\dot{\q}+l\dot{\eps}\sin\q) \right\} \EE
&=ml^2\ddot{\q}+ml\ddot{\eps}\sin\q+ml\dot{\eps}\dot{\q}\cos\q
\end{split}
※ オイラー・ラグランジュ方程式の計算では $q$ と $\dot{q}$ を独立変数と見なします。したがって、$\DL{\ff{\del L}{\del \dot{\q}}}$ では $\dot{\q}$ のみに対して微分を行います。
第二項については次のようになります。
\begin{split}
\ff{\del L}{\del {\q}} &= ml\dot{\q}\dot{\eps}\cos\q-mgl\sin\q
\end{split}
以上より、運動方程式は、
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}\left( \ff{\del L}{\del \dot{\q}} \right)-\ff{\del L}{\del {\q}}=ml^2\ddot{\q}+ml(\ddot{\eps}+g)\sin\q=0
\end{split}
と得られます。さらに、$\ddot{\eps}=-A\omega^2\sin \omega t$ であることより、次のように変形できます。
\begin{split}
\ddot{\q}+\ff{g}{l}\left(1-\ff{A\omega^2}{g}\sin\omega t\right)\sin\q=0
\end{split}
そして、$\DL{\ff{g}{l}=\omega_0^2,\ff{A\omega^2}{g}=k}$ と置いて、また $\q$ を微小と考えると $\q\NEQ\sin\q$ と近似できます。すると、
\begin{split}
\ddot{\q}+\omega_0^2\left(1-k\sin\omega t\right)\q=0
\end{split}
が得られます。
さて、振り子の運動方程式を解いた結果から分かるように $\omega_0$ は振り子の角振動数に相当します。そして、ひもの上げ下げの周期 $\omega$ は図から分かるように、ちょうど $2\omega_0=\omega$ の関係にあります。そして $\q$ を $x$ に入れ替えます。すると上式が以下のようになります。
\begin{split}
\ddot{x}+\omega_0^2\left(1-k\sin 2\omega_0 t\right)x=0
\end{split}
マシュー方程式が導出できました。
マシュー方程式はパラメータ励振のみならず、電気工学、振動工学、天体力学など幅広い分野に顔を出す重要な微分方程式です。