循環座標・共役な運動量とは?|ラグランジアンと保存量の関係

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解析力学において、ラグランジアンはその核となる物理量ですが、従来の力学との接点ももちろん持ちます。

それが最も分かりやすい形で現れるのが、運動量との関係です。

ラグランジアンと運動量

一般化運動量 $p_i$ と、ラグランジアン $L$ との間には以下の関係が成立する。

\begin{split}
p_i = \frac{\del L}{\del \dot{q}_i}
\end{split}

ただし、$\dot{q}_i$ を一般化速度とする。

さて、ラグランジアンはそれに含まれる座標により振る舞いが変わります。特に、循環座標オイラー・ラグランジュ方程式を考えるときが重要になります。循環座標とは、次のように定義される座標のことです。

循環座標とは?

ラグランジアンに含まれないような座標 $q_k$ のことを循環座標と呼ぶ

なお、循環座標に対応した運動量のことを共役な運動量といいます。

共役な運動量とは?

循環座標 $q_k$ に対応した運動量を共役な運動量と呼ぶ

まずは、循環座標の解説から始めます。

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循環座標とは?

ラグランジアン $L$ にある一般化座標 $q_k$ を含まない場合があったとしましょう。

この座標ではオイラー・ラグランジュ方程式は、$\DL{\frac{\del L}{\del q_k}=0}$ となります。つまり、方程式は以下のように単純な形になります。

\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\del L}{\del \dot{q}_k} \right)&=& 0 \tag{1}
\end{eqnarray}

天下り的になりますが、ラグランジアンに含まれないこのような座標 $q_k$ のことを循環座標と呼びます。

循環座標とは?

ラグランジアンに含まれないような座標 $q_k$ のことを循環座標と呼ぶ

ラグランジアンと運動量の関係

ところで、系に保存力のみが作用しているとき、ラグランジアン運動量の間に有用な関係が導けます。

この導出には一般化運動量の定義を利用します。さて、$T$ を運動エネルギーとすると、運動エネルギーと運動量の関係は次のようになりました。

\begin{eqnarray}
p=\ff{\del T}{\del \dot{q}}
\end{eqnarray}

ここで、保存力 $U$ のみが系に作用しているとします。保存力はその性質から距離のみで表される関数となります。ゆえに、$\DL{\ff{\del U}{\del \dot{q}}=0}$ と言えます。

したがって、以下の等式が成立し,

\begin{eqnarray}
p=\ff{\del T}{\del \dot{q}}=\ff{\del (T-U)}{\del \dot{q}}
\end{eqnarray}

さらに、$L=T-U$ であるため

\begin{eqnarray}
p=\ff{\del L}{\del \dot{q}}
\end{eqnarray}

が得られます。

ラグランジアンと運動量の関係

一般化運動量 $p_i$ と、ラグランジアン $L$ との間に以下の関係が成立する。

\begin{split}
p_i = \frac{\del L}{\del \dot{q}_i} \\
\,
\end{split}

循環座標と保存量

上の結果を $(1)$ に適用しましょう。すると

\begin{split}
\frac{\diff p_k}{\diff t}&= 0 \EE
\therefore\,p_k=\,&const.
\end{split}

となって、$p_k$ は時間に依らず一定となることが導けます。

循環座標と運動量

$q_k$ が循環座標のとき、その運動量 $p_k$ は時間に依らず一定となる。

また、この $q_k$ に対応する運動量を共役な運動量と呼ぶ。

これは重要な結論と言えます。すなわち、循環座標を見つければ自動的に、時間に依らず保存される物理量(=保存量)がその座標で存在することを教えてくれます。

なお、循環座標に対応する運動量のことを共役な運動量とも呼びます。

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循環座標と保存量の具体例

循環座標共役な運動量が存在する具体例を紹介します。今回は二体問題を題材として、循環座標が実際に存在することを示します。

楕円軌道

図のような太陽(質量 $M$)と地球(質量 $m$)から成る二体問題を考えます。座標系として、太陽を極とした極座標系を採用します。すると、地球の極座は $(r,\q)$ と表せます。

このとき、動径方向の速度は $\dot{r}$、偏角方向の速度が $r\dot{\q}$ となるので、ある瞬間での地球の運動エネルギー $T$ を

\begin{eqnarray}
T=\ff{1}{2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\q}^2)
\end{eqnarray}

と表せます。

次に、ポテンシャルエネルギー $U$ については、万有引力が $\DL{G\ff{Mm}{r^2}}$ であること、そしてポテンシャルエネルギーの定義より、

\begin{eqnarray}
U=\int_0^r G\ff{Mm}{r^2}\diff r=-\ff{GM_sm_e}{r}
\end{eqnarray}

と求められます。これより、系全体のラグランジアン

\begin{split}
L&=T-U\EE
&=\ff{1}{2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\q}^2)+\ff{GMm}{r}
\end{split}

と表せます。この結果から分かるように $L$ には $\q$ が含まれていません。

したがって、$\q$ は循環座標であることが分かります。$\q$ は太陽を極として一周ぐるり回る座標を描いています。このような事実からも循環座標と呼ばれることが納得できます。

解析力学とケプラーの第二法則

上から求めたラグランジアンより、共役な運動量が求められます。すなわち、ラグランジアンと運動量の関係を用いて、

\begin{split}
p=\frac{\del L}{\del \dot{\q}} &= mr^2\dot{\q}
\end{split}

共役な運動量が求められます。さらに $\q$ にて $\DL{\ff{\diff p}{\diff t}=0}$ であることより、

\begin{split}
mr^2\dot{\q}=const.
\end{split}

が言えます。この結果はまさしくケプラーの第二法則の数学的な表現と一致します。

さらに、$p=mr^2\dot{\q}$ が角運動量であることは、外積の計算を活用しつつ以下のように示せます。

\begin{split}
|\B{l}|&=|\B{r}\times m\B{v}| \EE
&= |r\B{e}_r\times mr\dot{\q}\B{e}_{\q}| \EE
&= mr^2\dot{\q}\,|\B{e}_r\times\B{e}_{\q}| \EE
\therefore |\B{l}|&=mr^2\dot{\q}
\end{split}

※証明の最集段にて $\B{e}_{r} \perp \B{e}_{\q}$ であることを利用しています。

$\q$ と角運動量との対応関係は一例に過ぎません。循環座標と保存量の一般論については、別の機会に詳しく考えていくこととします。

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