ベクトルの大きさと向き自体は座標変換に関して不変です。そのため、ベクトル形式での運動方程式はどんな座標系であっても同じ形で表されます。
一方、ベクトルの成分は座標変換により変化します。直交座標から極座標への座標変換の例がその代表例です。
実用上、運動方程式はベクトルの成分表示として書き下されます。そのため、解く対象としての運動方程式は座標変換により大きく変化していきます。
このような座標変換により引き起こされる面倒な問題を解消するため、解析力学では一般化座標や一般化力という新たな概念を導入することとします。まず、一般化座標は次のように定義されます。
そして、一般化力は次のように定義されます。
今回は解析力学の重要概念である一般化座標・一般化速度・一般化運動量・一般化力について解説します。
一般化座標とは?
速度や加速度の極座標表示の例から分かるように、直交座標系で成分表示した運動方程式を極座標系や円筒座標系などの他の座標系に移すと、見た目が大きく変わるという問題があります。
座標変換によっても、その物理的な意味は変わりませんが、人間にとっては不便であることは確かです。そこで、統一した方法で運動を記述する手法を導入することとします。
このようなときは具体的な形で定式化するよりも、抽象的な概念として導入した方が有利となります。なお、この座標系を一般化座標と呼ぶこととします。
さて、一般化座標 $q_i$ はデカルト座標 $x_i$ と $1$ 対 $1$ 対応しているものとします。すると、$q_i$ を $x_i$ の関数として、
\begin{split}
q_i=q_i(x_i)
\end{split}
と表せます。
上式は異なる座標間での変換規則を規定するため、座標変換あるいは変数変換とも呼ばれます。例えば、$\q$ を一般化座標の変数として選んだならば、$x=l\sin\q$ が座標変換となります。
これから分かるように、一般化座標は必ずしも長さの次元を持つとは限りません。なお、$x$ は時間 $t$ も変数に持つため、$q_i=q_i(x_i,t)$ とできることがポイントとなります。
なお、座標と一般化座標は一対一対応の関係にあるため、
\begin{split}
x_i=x_i(q_i,t)
\end{split}
という関係にあることも言えます。
一般化速度とは?
一般化座標を定義できたので、次は一般化速度なるものが定義できるのかを考えてみましょう。
一般化座標の例から分かるように、速度の次元を維持することへのこだわりは捨て、速度の定義式を一般化速度に当てはめることとします。
つまり、一般化速度 $\dot{q}_i$ を次のように定義します。
定義式だけでは一般化速度の正体が掴めないので、連鎖律を用いて直交座標系との関係を調べます。つまり、$\dot{x}_i$ は次のように。
\begin{split}
\dot{q}_i&=\ff{\diff q_i}{\diff t} \EE
&= \ff{\del q_i}{\del x_i}\ff{\diff x_i}{\diff t}+\ff{\del q_i}{\del t}\ff{\diff t}{\diff t} \EE
&= \ff{\del q_i}{\del x_i}\cdot\dot{x}_i+\ff{\del q_i}{\del t}
\end{split}
$q_i$ 自体は $x_i,t$ を変数に持つので、$\dot{q}_i$ は $\dot{x}_i,x_i,t$ を変数に持つことが分かります。したがって、速度と一般化速度との間には、
\begin{split}
\dot{q}_i=\dot{q}_i(x_i,\dot{x}_i,t)
\end{split}
という関係にあることが言えます。
一般化速度の重要公式
さて、一般化速度と速度の間には次の重要な関係が成立します。
この公式は次のようにして証明できます。まず、$\dot{x}_i$ は連鎖律を用いて
\begin{split}
\dot{x}_i&=\ff{\diff x_i}{\diff t} \EE
&= \ff{\del x_i}{\del q_i}\ff{\diff q_i}{\diff t}+\ff{\del x_i}{\del t}\ff{\diff t}{\diff t} \EE
&= \ff{\del x_i}{\del q_i}\cdot\dot{q}_i+\ff{\del x_i}{\del t}
\end{split}
とでき、この両辺に形式的に $\DL{\ff{\del}{\del \dot{q}_i}}$ をかけると、
\begin{split}
\ff{\del \dot{x}_i}{\del \dot{q}_i}&=\ff{\del}{\del \dot{q}_i}\left(\ff{\del x_i}{\del q}\dot{q}_i+\ff{\del x_i}{\del t} \right) \EE
&= \left(\ff{\del}{\del \dot{q}_i}\ff{\del x_i}{\del q_i} \right)\dot{q}_i+\ff{\del x_i}{\del q_i}\ff{\del \dot{q}_i}{\del \dot{q}_i}+\ff{\del}{\del \dot{q}_i}\ff{\del x_i}{\del t}
\end{split}
となります。ここで、$x_i$ は $q_i,t$ のみを変数に持つので、第一項および第三項の $\dot{q}_i$ に関する微分は $0$ となります。ゆえに、
\begin{split}
\ff{\del \dot{x}_i}{\del \dot{q}_i}&=\ff{\del x_i}{\del \dot{q}_i}
\end{split}
が成立します。
一般化運動量とは?
一般化速度の次は一般化運動量について考えることとします。まず、運動量の定義から運動量 $p_{x_i}$ は、質量 $m_i$ と速度 $v_i$ を用いて、
\begin{split}
p_{x_i}=m_i\dot{x}_i
\end{split}
とできました。ただし、$p_{x_i}$ を直交座標系での運動量の成分とします。
さて、運動エネルギーを $T$ とすると、$T=\DL{\ff{1}{2}m_i\dot{x}_i^2}$ とできます。これより、$T$ は $\dot{x}_i$ の関数であると言えます。よって、運動エネルギーは一般化速度を用いて $T=T(q_i,\dot{q}_i,t)$ の関数とできます。
ところで、運動エネルギー $T$ と運動量 $p$ の間には微分を用いて、
\begin{split}
\ff{\del T}{\del v_i}=\ff{\diff }{\diff v_i}\left(\ff{1}{2}m_iv_i^2\right) = p_{x_i}
\end{split}
という関係があります。以上より、一般化運動量 $p_i$ を運動エネルギーを用いて
\begin{split}
p_i=\ff{\del T(q_i,\dot{q}_i,t)}{\del \dot{q}_i}
\end{split}
と定義することにします。
なお、一般化運動量とラグランジアンの関係についてはこちらで解説しています。
一般化運動量の変換公式
一般化運動量と運動量の間には次の重要な変換公式が成立します。
上の公式は次のように証明できます。まず、一般化運動量の定義式を変形して、
\begin{split}
p_i&=\ff{\del T(q_i,\dot{q}_i,t)}{\del \dot{q}_i} \EE
&= \ff{\del T(\dot{x}_i)}{\del \dot{x}_i}\ff{\del \dot{x}_i}{\del \dot{q}_i} \EE
&= p_{x_i}\ff{\del \dot{x}_i}{\del \dot{q}_i}
\end{split}
とでき、これに先程導出した一般化速度の重要公式を適用して、
\begin{split}
p_i&=p_{x_i}\ff{\del x_i}{\del q_i}
\end{split}
となります。変換公式が導出できました。
一般化力とは?
一般化速度、一般化運動量と来たので、いよいよ一般化力を定義することにします。
さて、運動の第二法則より運動量の時間微分は力となることが分かります。したがって、一般化運動量の時間微分も”力”であると考えることにしましょう。
したがって、一般化運動量の変換公式から”力”を次のように計算できます。
\begin{split}
\ff{\diff p_i}{\diff t}&= \ff{\diff p_{x_i}}{\diff t}\ff{\del x_i}{\del q_i}+p_{x_i}\left(\ff{\diff}{\diff t}\ff{\del x_i}{\del q_i} \right)\qquad(2)
\end{split}
まず、第一項に現れる $\DL{\ff{\diff p_{x_i}}{\diff t}}$ は直交座標系における $F_{x_i}$ となります。第二項については、微分の順序を変更できることを利用して、次のような変形が行えます、
\begin{split}
p_{x_i}\left(\ff{\diff}{\diff t}\ff{\del x_i}{\del q_i} \right)&=p_{x_i}\left(\ff{\del}{\del q_i}\ff{\diff x_i}{\diff t} \right)\EE
&=p_{x_i}\ff{\del \dot{x}_i}{\del q_i}
\end{split}
ここで、$p_{x_i}=\DL{\ff{\del T}{\del \dot{x}_i}}$ の関係にあることも活用すると、
\begin{split}
p_{x_i}\ff{\del \dot{x}_i}{\del q_i}&= \ff{\del T}{\del \dot{x}_i}\ff{\del \dot{x}_i}{\del q_i} \EE
&=\ff{\del T}{\del q_i}
\end{split}
とできます。以上より、式$(2)$ の一般化運動量の時間微分を
\begin{split}
\ff{\diff p_i}{\diff t}&=F_{x_i}\ff{\del x_i}{\del q_i}+\ff{\del T}{\del q_i} \qquad(3)
\end{split}
とできます。
このように求めた”力”について注意しなければならない点があります。それは、座標変換に付随して出現する、コリオリ力のような見かけの力が混じっていることです。今回の場合では第二項が見かけの力に相当します。
例えば、$\DL{\ff{\del x_i}{\del q_i}}$ の関係が一定のとき、第二項は $0$ となりますが、比例関係にない場合は第二項が残ります。このように、座標系の選び方によって、第二項の振る舞いが変化します。ゆえに、第二項は座標変換に付随して出現する見かけの力となります。
一般化の定義
以上の事情から、一般化力を次のように定義します。
一般化力を使うことで、式$(3)$を
\begin{split}
\ff{\diff p_i}{\diff t}&=Q_i+\ff{\del T}{\del q_i}
\end{split}
とすることができます。