エネルギーの振る舞いについて研究する熱力学は、工学を学ぶ上での必須学問となります。
手始めに、熱力学の基本概念について理解することから始めます。
今回は特に、熱力学に関わる法則の全ての基礎となる温度についての説明を行います。また、温度を定める熱力学第0法則についても説明します。
まずは、熱力学の舞台となる閉じた系・開いた系・孤立系という用語の解説から始めます。
閉じた系・開いた系・孤立系とは?
熱力学では、様々な道具を駆使して系の状態の解析を行っていきますが、熱エネルギーと物質の出入りの有無によって、使う道具が変わります。
したがって、系の状態を区別し、それぞれの状態に応じて名前を付けることにします。
まず、境界を通じての物質とエネルギーの流入・流出が可能な系のことを開いた系と呼びます。
コンプレッサやポンプなど種々の機械の性能を評価する際に、開いた系に対する解析の道具が活用されます。なお、検査体積の大きさが変化せず、系への物質の流入と流出が等しい開いた系のことを定常流動系と呼びます。
一方、境界を通じての物質の流入・流出が無い系のことを閉じた系と呼びます。
閉じた系では、系内の質量は変化せず保存されることが特徴とです。ただし、閉じた系でもエネルギーの流入と流出は可能であることに注意して下さい。熱機関などは閉じた系に相当します。
さて、系と周囲との間で物質の出入りも、エネルギーの出入りも無い系のことを孤立系と呼びます。
エントロピー増大則について考える際、孤立系がその舞台となります。
熱力学第0法則とは?
熱力学の基本法則としては、第一法則から第三法則までの三つが存在してます。それらの法則は温度と密接な関係を持つため、まずは温度の定義から始めなければなりません。
普段から何気なく使用している温度の背景にある理論について解説します。
まずは、温度測定の原理について見ていきましょう。
物体の温度を知りたいとき、温度測定を行う訳ですが、この際に熱力学第0法則という熱平衡に関する理論が関係してきます。熱力学第0法則とは、次のような理論です。
ここで、熱平衡とは接触した2物体の温度が等しくなった状態のことを言い、温度平衡とも呼ばれます。
例えば、系 $1$ と系 $2$ を接触させて一つの孤立系を作ったとして、その系を十分な時間放置すれば、温度が等しい熱平衡状態となります。
このとき、孤立系であるため、2つの系の接触を断っても熱平衡にある両者に温度変化は起きません。
同様にして、系 $2$ と系 $3$ が熱平衡状態となれば、接触を断っても両者の温度は変化しないと言えます。
これを利用することで、直接接触させることが難しい二つの系に対しても、系 $2$ を介して熱平衡状態にあるかを判定できるようになります。
つまり、系 $2$ が同じ温度を示していれば、系 $1$ と系 $3$ は熱平衡状態にあるということが言えます。このようにして、熱力学第0法則は温度計の測定原理とも言えるのです。
温度とは?
先述したように、熱力学では系の状態を表す物理量として温度を頻繁に用います。そのため、温度の定義についても簡単に説明しておきます。
熱力学第0法則は熱平衡にある系に対して、共通して使用可能な物理量が存在することを示しています。そして、具体例として温度が存在することを教えてくれます。
ただし、温度の基準や目盛りの取り方については何も示してくれてはいません。これらについては、人間側で定義してやる必要があります。
さて、温度の定義としては理想気体温度と、熱力学的温度の二種類が良く用いられており、両者は一致することが理論的に示されています。
前者の理想気体温度は、水の三重点を $273.16\,\RM{K}$ と定義した温度目盛りを使用する温度のことです。
また、理想気体の温度原点を理論上の最低温度(=絶対温度)に設定して測定した温度のことを絶対温度と呼び、単位としてケルビン $\RM{K}$ が用いられます。
摂氏温度 $t$ $\RM{{}^{\circ}C}$ と絶対温度 $T$ との対応関係は、
\begin{split}
t = T-273.15
\end{split}
となっています。
一方、どのような物質にも依存しない温度を理論的に定めることができ、これを熱力学的温度と呼びます。そして、熱力学的温度の理論的根拠となるのが熱力学第三法則です。
温度計などは、国際温度目盛りなどで定義された温度に準拠し、目盛りが設定され出荷されます。