ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような内燃機関は、シリンダ内で燃料を間欠的に燃焼することで仕事を取り出します。
これらのエンジンは高速運転が可能で大出力が得られる長所を持つ一方、そのエンジンを動作させるためには、燃焼性・流動性・着火性など複数の条件を満たす特定の燃料を用いなければならないという短所があります。
外燃機関であればこれらの制約無しに様々な熱源を活用できるため、内燃機関の燃料の制約という問題から解放されます。
今回は外燃機関の中でスターリングエンジンと呼ばれる熱機関の動作と、その熱効率の導出方法について解説します。
スターリングエンジンの動作
まずは、スターリングエンジンの基本的な動作から確認しましょう。
スターリングエンジンの構造を単純化したものが下図になります。これから分かるように、スターリングエンジンはガソリンエンジンやディーゼルエンジンと異なり、外部に存在する熱源により駆動する外燃機関であることが特徴です。
そして、スターリングエンジンの一連のサイクルは次のようなものです。
① 等積加熱:外部の熱源により気体が加熱される。
② 等温膨張:十分加熱された気体が膨張し、ピストンを押しやる。
③ 等積冷却:周囲に放熱し、気体が冷却される。
④ 等温圧縮:十分冷却された気体が収縮し、ピストンが初期位置に戻る。
スターリングエンジンの動作では、速やかな加熱と冷却を両立させることがポイントとなります。このような要望を達成するために、伝熱工学の知識が用いられます。
例えば、等積加熱と等積冷却の過程では再生器と呼ばれる熱交換器が活躍します。この再生器の性能がスターリングエンジンの性能を決定するため、最重要の部材となります。再生器の材質の選定、形状の決定に伝熱工学が重要な役割を果たします。
また、等積冷却の過程ではフィンも重要な役割を果たします。
スターリングサイクルの $p-V$ 線図
さて、スターリングエンジンのような熱機関はスターリングサイクルと呼ばれる熱力学的サイクルに分類されます。
先程説明したスターリングエンジンの動作から類推できるように、スターリングサイクルの $p-V$ 線図は下図のように描くことができます。
スターリングサイクルの $T-S$ 線図
次に、スターリングサイクルの温度とエントロピーのグラフ、すなわち $T-S$ 線図を描くと、次のようになります。
$1\to 2$ と $3\to 4$ の過程では熱がエンジンに流入・流出するため、エントロピーの変化があり、また温度も変化するため、赤や青線のような軌跡となります。
$2\to3$ と $4\to1$ の過程については等温過程であることがポイントとなります。したがって、$T-S$ 線図上では水平線となります。
次節にて詳しく説明しますが、スターリングサイクルにおいて正味の熱の授受が生じるのは、$2\to3$ と $4\to1$ の等温過程であることも、上図から読み取ることができます。
スターリングエンジンの熱効率
では実際に、スターリングサイクルの熱効率を求めていきましょう。まず、熱効率の定義より熱効率 $\eta$ は、
\begin{split}
\eta = \ff{W}{Q_{in}}
\end{split}
と書けます。$W$ については熱力学第一法則より、$W=Q_{in}-Q_{out}$ の関係にあると言えるので、熱効率を
\begin{split}
\eta = 1-\ff{Q_{out}}{Q_{in}}
\end{split}
と変形できます。
ここからは、$Q_{in},Q_{out}$ を具体的に求めていくことが目的となります。まず、各過程において、エンジンを出入りする熱量は、定積比熱 $c_v$ や気体定数 $R$ を用いてそれぞれ次のように表せます。
$$
\left\{
\begin{split}
&Q_{12}=c_v(T_H-T_L) \EE
&Q_{23}=Q_{in}=RT_H\ln\left(\ff{V_H}{V_L} \right) \EE
&Q_{34}=c_v(T_L-T_H) \EE
&Q_{41}=Q_{out}=RT_L\ln\left(\ff{V_H}{V_L} \right)
\end{split}
\right.
$$
※ $Q_{23},Q_{41}$ の計算についてはこちらで解説しています。
この結果から分かるように、$Q_{12}=-Q_{34}$ となっており、両者の過程を合算すると、正味の熱の出入りが $0$ となります。
したがって、スターリングサイクルにおける熱の出入りとして、$Q_{23},Q_{41}$ を考えれば良いことが分かります。
以上の結果より、スターリングサイクルの熱効率を、
\begin{split}
\eta &= 1-\ff{Q_{out}}{Q_{in}} \EE
&= 1-\ff{\DL{RT_H\ln\left(\ff{V_H}{V_L} \right)}}{\DL{RT_L\ln\left(\ff{V_H}{V_L} \right)}} \EE
\therefore\, \eta &= 1-\ff{T_L}{T_H}
\end{split}
と求められます。
この結果よりスターリングサイクルの熱効率は、あらゆる熱力学的サイクルの中で最大の熱効率を誇るカルノーサイクルと一致することが分かります。
スターリングエンジンが実用化されたなら、人類にとって大きな恩恵となることは間違いなく各国で精力的に研究が進められていますが、スターリングエンジンの実用化のためには高性能な熱交換器が必要であること、材料面から最高温度が制限されることから、現時点ではガソリンエンジンやディーゼルエンジンの熱効率の方が高くなっています。