熱力学では様々な物理量が存在し、それらから誘導される物理量が大量に登場するため、だんだんと訳が分からなくなっていきます。
このとき、その物理量が系の大きさにより変化するのかしないのか、という分類をしておくと思考の整理になります。
この分類を示量変数・示強変数と呼び、以下のように表現されます。
今回は示量変数と示強変数について説明し、その意義についても解説します。
まずは、これらの変数について理解するためのキーワードである、状態変数から説明を始めます。
状態変数とは?
系が非平衡状態にあるときは、体積や温度・圧力などが時々刻々変化し、過去の状態の影響を受けます。このような場合では、ナビエ・ストークス方程式や熱伝導方程式により解析を行う必要があります。
一方、熱力学的平衡状態であれば話はかなり単純になり、現在の状態のみで定義された物理量を用いてその状態を記述できます。
このように、熱力学的平衡状態の系は、いくつかの独立変数のみで規定できることがポイントとなります。そして、熱力学ではこれらの独立変数を状態変数と呼びます。
※ 制御工学での状態変数とは異なることに注意して下さい。
通常は、状態変数として圧力・温度・体積・エントロピーなどから選ばれることが多いです。
例えば、気体の状態方程式では $2$ つの変数を決めてしまえば、自動的にもう一つの変数が定まることから、状態変数は $2$ となります。
このように、他の状態量は状態変数の関数で表せるので、状態関数あるいは熱力学関数とも呼ばれます。そして、状態変数を用いて表した方程式のことを、状態方程式と呼びます。
示量変数と示強変数
状態量には圧力や温度・体積などがあると紹介しました。基本的なことについて考察しているのは、熱力学のさらに奥深くに分け入っていく、強力な道具が得られるためです。
今後は、状態量を用いて熱力学の様々な公式を導出していくことになります。このとき、状態量がさらに分類できることを知っておくと、導出の際に大きな助けとなります。
この分類は、系の大きさが変化しても状態量が同じままであるか、変化していくか、の二種類での分類となります。
例えば、熱力学的平衡状態にある系を仕切りで二等分しても、温度や圧力は各部分で変化しません。一方、質量や体積は元の状態と比べて半分となります。
視点を変えると、質量や体積から系の分量が分かるとも言えます。このように、系の分量に比例して変化する状態変数のことを、示量変数と呼びます。
他方、系の分量を変えてもその強度が変わらない状態変数のことを示強変数と呼びます。示量変数と示強変数には以下のものがあります。
示量変数が系の分量を表すことから、単位体積当たりの数値が意味を持つようになります。熱力学では、単位体積当たりの示量変数には、『比』の接頭語を付けて、比体積、密度、比モル数、比内部エネルギー、比エントロピーと呼ばれます。
なお、これら単位体積当たりの物理量は小文字で表記することとします。
また、体積と圧力の積がエネルギーの次元となるように、示量変数と示強変数の組み合わせの中にはその積がエネルギーの次元を持つものがあり、このような組み合わせを共役な関係、あるいは双対な関係と呼びます。
示量変数と示強変数の見分け方
基本的な状態量については、それらが示量変数と示強変数のどちらに属するのかは覚えることができます。
問題となるのは、これらを割ったり掛けたりして誘導される物理量です。新たな物理量が示量変数か示強変数なのかを見分ける方法はあるのでしょうか?
この答えは示量変数のべきを調べることで分かります。つまり、誘導された物理量の示量変数についてのべきを調べ、それが $1$ であればその物理量は示量変数と言えます。例えば、
\begin{split}
\ff{\del U}{\del S}
\end{split}
は、分母と分子にそれぞれ示量変数を含んでいるため、$\DL{\ff{\del U}{\del S}}$ の示量変数のべきは $0$ となります。したがって、これは示強変数となります。一方で、
\begin{split}
\ff{\del V}{\del p}
\end{split}
について考えると、分母の示量変数のべきは $0$ であるのに対して、分子の示量変数のべきは $1$ であるため、この物理量全体での示量変数のべきは $1$ となります。これより、$\DL{\ff{\del V}{\del p}}$ は示量変数であると言えます。
※ 示量変数でも示強変数でも無い物理量も存在します。