ポリトロープ指数とは?|準静的過程における仕事の導出

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今回は、熱力学にて代表的な過程である、等温・等積・等圧・断熱過程における仕事の大きさと、その導出過程について解説します。

これらの過程に対して得られた結果は、後に続くカルノーサイクルの効率を導出する際に役立ちます。

加えて、より一般の過程であるポリトロープ過程と、ポリトロープ指数についても解説します。

ポリトロープ指数とは?

次の式で表される過程をポリトロープ過程と呼び、その指数 $n$ をポリトロープ指数と呼ぶ。

\begin{split}
pV^{n} = const.
\end{split}

ただし、$p,V$ を圧力、体積とする。

まずは、基本的な準静的過程である、等圧・等積・等温過程の仕事の導出方法について解説を始めます。

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等圧・等積・等温過程の仕事の導出

今後、熱機関のサイクルでの正味仕事を計算する場面が増えるため、いくつかの基本的な過程での仕事について導出します。

なお、準静的微小変化に対する熱力学第一法則の表現から分かるように、仕事は $pV$ の積となります。したがって、$p-V$ 線図に基づいて、各過程の仕事を導出することが基本戦略となります。

等圧過程の仕事

まずは、等圧過程における仕事について求めましょう。先述のように、等圧過程における $p-V$ 線図を描きます。

このときの $p-V$ 線図は以下のようになります。

等圧過程の模式図

等圧過程においては圧力が一定のため、これを $p$ を定数と考えることができます。

したがって、等圧過程において $V_1\to V_2$ に体積が変化したとすると、その仕事は次のように計算できます。

\begin{split}
W&=\int_1^2p\,\diff V \EE
&= p\int_1^2\diff V \EE
&= p(V_2-V_1)
\end{split}

定圧過程の仕事

\begin{split}
W&= p(V_2-V_1) \\
\,
\end{split}

また、系に流入(流出)する熱量は、定圧比熱 $c_p$ を用いて、

\begin{split}
Q&= c_p(T_2-T_1) \\
\end{split}

とできます。

等積過程の仕事

次に、等積過程の仕事について考えます。このときの $p-V$ 線図は以下のようになります。

等積過程の模式図

上図から分かるように、等積過程では体積の変化が無いため、$W=0$ となります。

等積過程の仕事

\begin{split}
W&= 0 \\
\,
\end{split}

また、系に流入(流出)する熱量は、定積比熱 $c_v$ を用いて、

\begin{split}
Q&= c_v(T_2-T_1) \\
\end{split}

とできます。

等温過程の仕事

難易度は上がりますが、今度は等温過程における仕事を考えます。

等温過程の模式図

ボイル・シャルルの法則に立ち戻ると、状態 $1$ と $2$ の間に次のような関係を見出すことができます。

\begin{split}
\ff{p_1V_1}{T_1}&=\ff{p_2V_2}{T_2}
\end{split}

今回は等温過程であるため、$T_1=T_2$ です。したがって、

\begin{split}
p_1V_1=p_2V_2
\end{split}

という関係が成立します。$1\to2$ への過程の途中においてもこの関係は成立するため

\begin{split}
p_1V_1&=pV \EE
\therefore\, p&=\ff{p_1V_1}{V}
\end{split}

できます。これより仕事が次のように求められます。

\begin{split}
W&=\int_1^2p\,\diff V \EE
&= p_1V_1\int_1^2\ff{\diff V}{V} \EE
&= p_1V_1\ln\ff{V_2}{V_1}
\end{split}

この結果は、気体の状態方程式 $pV=mRT$ と比較することで、

\begin{split}
W&= mRT_1\ln\ff{V_2}{V_1}
\end{split}

または、$\DL{mRT\ln\ff{p_1}{p_2}}$ ともできます。等温過程は重要な過程であるため、いくつかの等価な表現を用意しておきます。

等温過程の仕事

$p,V,T$ を圧力・体積・温度、$R$ を気体定数とする。このとき、等温過程の仕事は次のように表せる。

\begin{split}
W&= p_1V_1\ln\ff{V_2}{V_1}=mRT_1\ln\ff{V_2}{V_1}=mRT_1\ln\ff{p_1}{p_2}\\
\end{split}

気体が膨張する場合、$\DL{\ff{V_2}{V_1}}$ を膨張比と呼び、$r$ で表し、圧縮の場合はこれを圧縮比と呼び $\eps$ で表します。

等温過程では内部エネルギーが一定となるので、$\D U =0$ となります。ゆえに、熱力学第一法則より $Q=W$ となります。

これより、膨張の等温過程では得た熱を全て仕事に変えられる最も効率の良い過程であると言えます。(圧縮の等温過程では逆に、仕事の全て熱に変えて周囲に捨てます)

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ポアソンの関係式とは?

等温過程に引き続き、断熱過程の仕事についても求めていきましょう。

断熱過程の場合では、ボイル・シャルルの法則を適用できないため、断熱過程での圧力と体積の関係について導出することから始めます。

さて、準静的微小変化に対する熱力学第一法則をもう一度表示すると、

\begin{split}
\diff u &= \delta q-p\diff v \EE
\therefore\,\delta q&=\diff u+p\diff v
\end{split}

とでき、($u,q,v$ は単位質量当たりの内部エネルギー・熱量・体積とします)右辺第一項に定積比熱の定義 $\diff u=c_v\diff T$ を適用し、左辺については断熱過程であるため、$\delta q=0$ となり、

\begin{split}
0&=c_v\diff T+p\diff v
\end{split}

とでき、さらに $T=\DL{\ff{pv}{R}}$ から、$\diff T=\DL{\ff{1}{R}(p\diff v+v\diff p)}$ となるので、

\begin{split}
c_v(p\diff v+v\diff p)+Rp\diff v&=0 \EE
\therefore\,(c_v+R)p\,\diff v+c_vv\,\diff p&=0
\end{split}

と変形できます。ここにマイヤーの関係式を適用すると、

\begin{split}
c_p\,p\diff v+c_vv\diff p&=0
\end{split}

というように、定積比熱と定圧比熱の関係として表すことができます。

比熱比として $\kappa=\DL{\ff{c_p}{c_v}}$ を導入すると、

\begin{split}
\kappa \ff{\diff v}{v}+\ff{\diff p}{p}&=0
\end{split}

この両辺を積分すると

\begin{split}
\kappa \ln v+\ln p&=const.
\end{split}

となります。

比熱比

定積比熱 $c_v$ と定圧比熱 $c_p$ の比を比熱比 $\kappa$(カッパ)と呼ぶ

\begin{split}
\kappa=\ff{c_p}{c_v} \\
\,
\end{split}

これを整理すると、断熱過程においては、

\begin{split}
pv^{\kappa} = const.
\end{split}

という関係式が成立することが分かります。断熱過程における圧力と体積の関係式をポアソンの関係式とも呼びます。

ポアソンの関係式は、また、$pv=RT$ より $Tv^{\kappa-1}=const.$ とも、$\DL{\ff{T}{p^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}}=const.$ ともできます。

ポアソンの関係式

断熱過程において以下のポアソンの関係式が成立する。

$$
\left\{
\begin{split}
&pV^{\kappa} = const. \EE
&TV^{\kappa-1} = const. \EE
&\ff{T}{p^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}=const.
\end{split}
\right.
$$

ただし、$\kappa$ を比熱比、$p,V,T$ を圧力・体積・温度とする。

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断熱過程の仕事の導出

ポアソンの関係式より、断熱過程の仕事を求めることができます。すなわち、$p=\DL{\ff{p_1V_1^{\kappa}}{V^{\kappa}}}$ を用いて、

\begin{split}
W&=\int_1^2p\,\diff V \EE
&= p_1V_1^{\kappa}\int_1^2\ff{\diff V}{V^{\kappa}} \EE
&= \ff{p_1V_1^{\kappa}}{1-\kappa}\left(\ff{1}{V_2^{\kappa-1}}-\ff{1}{V_1^{\kappa-1}} \right) \EE
\therefore\,W&=\ff{p_1V_1}{\kappa-1}\left\{ 1-\left(\ff{V_1}{V_2}\right)^{\kappa-1} \right\}
\end{split}

と計算できます。

ここに、ポアソンの関係式を用いると、$\DL{\left(\ff{V_1}{V_2}\right)^{\kappa-1}=\ff{T_2}{T_1}}$ ともできるため、

\begin{split}
W=\ff{mR}{\kappa-1}(T_1-T_2)
\end{split}

ともできます。

断熱過程の仕事

$p,V,T$ を圧力・体積・温度、$R$ を気体定数、$\kappa$ を比熱比とする。このとき、断熱過程の仕事は次のように表せる。

\begin{split}
W=\ff{p_1V_1}{\kappa-1}\left\{ 1-\left(\ff{V_1}{V_2}\right)^{\kappa-1} \right\}=\ff{mR}{\kappa-1}(T_1-T_2) \\
\,
\end{split}

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ポリトロープ指数とは?

実際の熱機関などで生じている気体の状態変化は、必ずしも今まで見てきたような過程とはなりません。

このような状況に対応するため、一般の過程はポアソンの関係式を一般化した次の式に従うと考えます。

\begin{split}
pV^{n} = const. \EE
\end{split}

この形で表される過程のことを、ポリトロープ過程と呼び、定数 $n$ をポリトロープ指数と呼びます。

ポリトロープ指数とは?

次の式で表される過程をポリトロープ過程と呼び、その指数 $n$ をポリトロープ指数と呼ぶ。

\begin{split}
pV^{n} = const. \\
\,
\end{split}

指数 $n$ が特定の値のとき、ポリトロープ過程は前述の各過程と対応します。

例えば、$n=0$ とすると、これは等圧変化、$n=1$ のとき等温変化、$n=\infty$ は等積変化に対応します。

※ $n=\kappa$ は断熱過程を表します。

ポリトロープ指数とpV線図の関係

ポリトロープ過程と仕事

ポリトロープ過程に対しても仕事を計算することができ、断熱過程の場合と同様に以下のように計算できます。

\begin{split}
W&=\int_1^2p\,\diff V \EE
&= p_1V_1^{n}\int_1^2\ff{\diff V}{V^{n}} \EE
&= \ff{p_1V_1^{n}}{1-n}\left(\ff{1}{V_2^{n-1}}-\ff{1}{V_1^{n-1}} \right) \EE
\therefore\,W&=\ff{p_1V_1}{n-1}\left\{ 1-\left(\ff{V_1}{V_2}\right)^{n-1} \right\}
\end{split}

$W$ は $\DL{\left(\ff{V_1}{V_2}\right)^{n-1}=\ff{T_2}{T_1}}$ と $p_1V_1=mRT_1$ の関係を用いて

\begin{split}
W&=\ff{mR}{n-1}(T_1-T_2)
\end{split}

とも整理できます。

ポリトロープ過程の仕事

$p,V,T,m$ を圧力・体積・温度・質量、$R$ を気体定数、$n$ をポリトロープ指数とする。このとき、ポリトロープ過程の仕事は次のように表せる。

\begin{split}
W=\ff{p_1V_1}{n-1}\left\{ 1-\left(\ff{p_2}{p_1}\right)^{\ff{n-1}{n}} \right\}=\ff{mR}{n-1}(T_1-T_2) \\
\,
\end{split}

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