熱力学第一法則とは、熱力学でのエネルギー保存則に相当するものであり、次のように表されます。
熱力学第一法則を文章ではなく、数式で表すと次のようになります。
ただし、$\D U$ を内部エネルギーの増減を、$Q$ を系に流入・流出した熱、$W$ を系から周囲に作用した仕事とします。
今回は、熱力学の基本法則の一つである、熱力学第一法則について解説します。
熱とは?
そもそも、熱力学で言うところの『熱』とは何なのか?について説明します。ここでは熱を次のように定義します。
温度が高い物体と低い物体を接触させると、時間経過と共に両者の温度差が小さくなり、最終的に温度が一定となることを私達は経験的に知っています。
つまり、熱は温度の高い系から低い系に移動していく性質を持っていると言えます。
物理学的には、熱を伝熱により移動する内部エネルギーと言えます。以上のことより、『熱』のことを温度の高い系から、低い系に移動する性質を持つエネルギーであると定義できます。
なお、伝熱の形態には、熱伝導・熱伝達・輻射の3種類があり、熱の移動による温度変化については、伝熱工学にて詳しく解説しています。
熱力学第一法則とは?
いきなりですが、熱力学第一法則は次のように表現される法則のことです。
熱力学第一法則の表現から分かるように、これはエネルギー保存則そのものであり、熱力学に合わせて表現したものと言えます。
さて、熱力学第一法則は数式で表現でき、$Q$ を系に流入・流出した熱、$W$ を系から周囲に作用した仕事、系の内部エネルギーの増減 $\D U$ として次のようにできます。
工学的には習慣的に系に流入する熱量を正、系が周囲に対してした仕事を正とします。
そのため、ここでは熱力学第一法則の数式を上式のように表現することとします。
内部エネルギーとは?
内部エネルギーという言葉が新たに登場したため、ここで解説しておきます。
さて、物質は原子や分子といった微粒子から構成されています。このことは、目新しい事実ではありませんが、物理的な側面に焦点を当てると新たなことが見えてきます。
例えば、気体中の分子の運動の様子を眺めると、並進運動や回転運動、振動運動などの形態があることが見えてきます。また、金属のような個体では、原子の振動や自由電子の運動、そして原子と電子の相互作用が存在しています。
このように、マクロなスケールでは静止しているように見える物体でも、ミクロなスケールで考えると、物体内部で様々な運動形態があり、内部にエネルギーを隠し持っていることが見えてきます。
このように、熱力学では物質を構成する粒子の微視的エネルギーのことを内部エネルギーと呼びます。 言い換えると、人間には直接には感じられないミクロなエネルギーの総称が内部エネルギーと言えます。
通常、内部エネルギーは $U$ や $E$ の記号で表されます。
一方、体積や流速の変化などマクロな変化として表れるエネルギーは、仕事や運動エネルギーと呼ばれます。
単原子分子の場合の内部エネルギーについては、気体分子運動論にて論じているので、興味のある方はこちらを参照下さい。
熱力学的平衡・準静的過程とは?
熱力学の基本用語である、熱力学的平衡と準静的過程についても解説します。
まず、平衡という言葉の意味ですが、系の状態が釣り合っており周囲の環境が変化しない限り、状態が変化しないとき、系は平衡であると言います。
平衡にはいくつかの種類があり、熱平衡・力学平衡・化学平衡・相平衡などがあります。
まず、熱平衡とは、こちらで説明したように、温度平衡にある状態のことを言います。熱平衡にあるとき、系内部での熱移動はありません。
次に、力学平衡とは、系内外の力が釣り合い状態にある場合を言います。力学平衡の状態では、系はマクロ的には静止しています。
化学平衡とは、系の化学組成が変化せず安定な状態にある場合を言います。
相平衡とは、水蒸気と水の混合物のように、液体・気体などの異なる相が共存し、それぞれの相の割合が一定である系のことを言います。
これら全ての平衡が成立するとき、『系は熱力学的平衡である』と言います。
準静的過程とは?
ところで、系がある熱力学的平衡状態から他の熱力学的平衡状態に変化することを、熱力学では過程と呼びます。
基本的に熱力学が対象とするのは熱力学的平衡状態にある系のみであり、非平衡状態を扱うことはありません。
したがって、熱力学的平衡状態にある系には本来、温度や圧力などの変化が起きることは定義上許されません。しかしながら、過程が存在しないという矛盾が生じて熱力学が破綻してしまいます。
そこで、系が熱力学的平衡状態を保ったまま、微小量だけ系を『ゆっくり』と変化させる、仮想的な過程である、準静的過程という概念を導入することとします。
このように、準静定過程という概念を導入することにより、定義上の困難を回避しています。
また、今後扱う熱力学の諸問題では、準静的過程を保っていることを暗黙の前提として理論を組み立てていきます。
準静的過程と、現実での過程との差異については次の節にてより深く考えていきます。
準静的過程と非平衡過程
準静的過程の言うところの『ゆっくり』とは、系のマクロなエネルギーや状態量に不均一が生じないように、新たな熱力学的平衡な状態に到達するまでに十分な時間をかけて変化させるということです。
実在の過程は準静的過程ではありませんが、準静的過程と近似的に見なせる過程も多いため、十分な精度で熱力学の結果を現実の問題に適用することができます。
例えば、図のように二つの容器をバルブで繋げた系を考えましょう。
この系では、左側の体積 $V$ の容器に圧力 $p$ の気体を満たしており、右側の容器またはシリンダー内が真空であるとします。
ここで、バルブを開放すると、左図の方では気体が自由膨張するため、温度・圧力が不均一な流れが生じます。したがって、この過程は非平衡過程と言えます。
一方で、右図のようにシリンダーを置いている場合は、外力と気体の圧力が釣り合うようにゆっくりと動かすことで、系内の気体は近似的に熱力学的平衡状態を保つことができます。つまり、これは準静的過程であると言えます。