熱機関と仕事|閉じた系と開いた系の仕事の計算

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自動車のレシプロエンジンや旅客機のターボジェットエンジンは、熱機関の一種であり、得た熱を仕事に変換することができます。

今回は熱機関の定義と、閉じた系と開いた系それぞれでの正味仕事の計算方法について解説します。

閉じた系の正味仕事

閉じた系が状態 $1$ と状態 $2$ の間をサイクルとして動作するとき、$1$ サイクルの間に系が周囲にした正味仕事 $L$ を次のように表せる。

\begin{split}
L=\oint p\,\diff V=\int_1^2p\,\diff V-\int_1^2p’\,\diff V \\
\,
\end{split}

開いた系の正味仕事

開いた系が単位時間当たりに周囲にする仕事 $\dot{L}$ は次のように表せる。

\begin{split}
\dot{L}=\dot{Q}-\dot{m}\left\{ (h_e-h_a)+\ff{1}{2}(w_e^2-w_a^2)+g(z_e-z_a) \right\} \\
\end{split}

ただし、$\dot{Q},\dot{m}$ を単位時間当たりに系に流入する熱量と質量、$h$ を単位質量当たりのエンタルピー、$w$ を流速、$z$ を基準位置からの高さとする。

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熱機関とは?

私達はガソリンや石炭を燃焼させて多量のエネルギーを得て、これによって作動流体を膨張させて仕事をする装置を利用しています。

この装置の代表例として、自動車のガソリンエンジンや旅客機のガスタービンなどがあります。

このように、熱エネルギーを仕事に変換する装置あるいはその仕組みを熱機関と呼びます。

熱機関とは?

熱機関:熱エネルギーを仕事に変換する装置あるいはその仕組みのこと

熱機関には、熱源が外にあってこれにより作動流体を加熱する外燃機関と、燃焼ガスそのものが作動流体になる内燃機関に分けられます。

内燃機関と外燃機関

可逆過程と非可逆過程

ところで、元の状態(=初期状態)に戻すことができる過程可逆過程と呼び、一方、可逆過程でない過程のことを非可逆過程、または不可逆過程と呼びます。

可逆過程と非可逆過程

可逆過程:周囲に対していかなる痕跡も残すことなく、元の状態に戻ることができる過程

非可逆過程(不可逆過程):可逆過程で無い過程のこと               

可逆過程を分かりやすい言葉で表現し直すと、系が初期状態に戻った時、周囲も初期状態に戻る過程のことを言います。

典型的な可逆過程として、摩擦の無い振り子の運動が挙げられます。振り子の運動では、振り子が初期位置に戻るまでに周囲にいかなる変化も与えません。

一方、こちらのように高圧ガスをシリンダ内で自由膨張させた場合では、系を初期状態に戻す過程で、系に対して仕事をしなければなりません。

このとき、周囲の持つエネルギーは減少していることから、この過程は非可逆過程であると言えます。

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熱機関と仕事

熱機関が周囲にする仕事について、具体的な計算方法について考えていきます。

閉じた系の仕事

例として、閉じた系が状態 $1$ と状態 $2$ の間を周期的に動作する様子を考えます。

今、状態 $1$ と状態 $2$ での圧力・体積をそれぞれ $(p_1,V_1),\,(p_2,V_2)$ とします。すると、このサイクルでの変化は下図のような $p-V$線図として表現できます。

閉じた系のサイクルの正味仕事

サイクルが準静的過程であるとすると、準静的微小変化における熱力学第一法則を適用できるため、状態 $1\to 2$ の過程では、

\begin{split}
U_2-U_1 = Q_{12}-\int_1^2p\,\diff V
\end{split}

と記述できます。ただし、$U_1,U_2$ を内部エネルギー、$Q_{12}$ を系に流入(流出)した熱量とします。

同様にして状態 $2\to 1$ の過程では、

\begin{split}
U_1-U_2 = Q_{21}-\int_2^1p’\,\diff V
\end{split}

と計算できます。以上、$2$ 式を足し合わせて整理すると、

\begin{split}
Q_{12}+Q_{21}=\int_1^2p\,\diff V-\int_1^2p’\,\diff V
\end{split}

となります。右辺の項が表すそれぞれの積分は、$p-V$線図での斜線部に対応していると言えます。

閉じた系の正味仕事

したがって、$\DL{\int_1^2p\,\diff V-\int_1^2p’\,\diff V}$ はサイクルの面積を表すことが分かります。

今、$1\to2$ の経路は周囲にした仕事、$2\to1$ の経路は周囲からされた仕事であるため、サイクルの面積は系が周囲にした、正味の仕事であるとも言えます。

このように、系がした正味の仕事はサイクルの面積に対応していることから、これに正味仕事という名前を付けて $L$ で表すことにします。

閉じた系の正味仕事

閉じた系が状態 $1$ と状態 $2$ の間をサイクルとして動作するとき、$1$ サイクルの間に系が周囲にした正味仕事 $L$ を次のように表せる。

\begin{split}
L=\int_1^2p\,\diff V-\int_1^2p’\,\diff V \\
\,
\end{split}

正味仕事の式から分かるように、$1\to2$ と $2\to1$ の経路が一致(=可逆過程)している場合、正味仕事が $0$ となることに注意が必要です。

言い換えると、非可逆過程でなければ正味仕事が得られないということです。この観点は今後重要になります。

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開いた系と仕事

先述のように、閉じた系の正味仕事は $p-V$線図から求められます。一方、開いた系では系の境界で物質の出入りがある関係で、その正味仕事は先述の式とは同じになりません。

今回は、開いた系の代表的な熱機関であるジェットタービンの正味仕事を導出することを目標にします。

ジェットエンジン

上のジェットタービンの図を簡略化したものが下図になります。

※ 単位時間当たりに、$\dot{m}_a$ で流入した空気がタービン内で $\dot{m}_f$ で燃料と混合され、燃焼して $\dot{m}_e$ で排気されているとします。

開いた系の仕事の模式図

まずは、系に流入するエネルギーから考えましょう。

今、流入した気体の体積を $V,$ 圧力を $p$ とします。すると、系の立場からはこの分の体積が押し込まれたとみることができるため、系は $pV$ の仕事をされたと言えます。

このことに注意すると、流入する全エネルギー $E_a$ は、気体の内部エネルギーを $U_a,$ 流速を $w_a,$ 質量を $m,$ 基準位置からの高さを $z_a$ として次のように表せます。

\begin{split}
E_a=U_a+pV+\ff{1}{2}mw_a^2+mgz_a
\end{split}

右辺第一項と第二項は、エンタルピーの定義より $H_a$ と書けるので、

\begin{split}
E_a=H_a+\ff{1}{2}mw_a^2+mgz_a
\end{split}

と整理できます。

※ エンタルピーをあえて使うのは、$U$ と $pV$ を簡単には測定できないという事情があるためです。

同様の議論より、系から流出するエネルギー $E_e$ は、

\begin{split}
E_e=H_e+\ff{1}{2}mw_e^2+mgz_e
\end{split}

とできます。

開いた系の仕事とエネルギー保存則

ここで、系に流入(流出)した熱量を $Q,$ 系が周囲にした正味仕事を $L$ とします。すると、エネルギー保存則より、以下の式が成立すると言えます。

\begin{split}
E_e-E_a=Q-L
\end{split}

この式は、開いた系での熱力学第一法則の表現とも見ることができます。

上式を単位質量当たりのエネルギー収支として書き直すと、

\begin{split}
q-l=\left( h_e+\ff{1}{2}w_e^2+gz_e \right)-\left( h_a+\ff{1}{2}w_a^2+gz_a \right)
\end{split}

となります。

ジェットタービンの正味仕事

前述の計算から、ジェットタービンの正味仕事を計算できます。

ところで、通常の機械に対しては、単位時間当たりの熱量や仕事についての方が興味の対象となるので、

\begin{split}
\dot{Q}-\dot{L}=\dot{m}_a\left( h_a+\ff{1}{2}w_a^2+gz_a \right)-\dot{m}_e\left( h_e+\ff{1}{2}w_e^2+gz_e \right)
\end{split}

とした方が都合が良いと言えます。

開いた系でも質量保存則は成立するため、$\dot{m}_a=\dot{m}_e$ となります。(化学反応であっても、核反応でない限り質量保存則は成立します)

これより、開いた系の正味仕事を次のように記述できます。

開いた系の正味仕事

開いた系が単位時間当たりに周囲にする仕事 $\dot{L}$ は次のように表せる。

\begin{split}
\dot{Q}-\dot{L}=\dot{m}\left\{ (h_e-h_a)+\ff{1}{2}(w_e^2-w_a^2)+g(z_e-z_a) \right\}
\end{split}

ただし、$\dot{Q},\dot{m}$ を単位時間当たりに系に流入する熱量と質量、$h$ を単位質量当たりのエンタルピー、$w$ を流速、$z$ を基準位置からの高さとする。

多くのタービンでは断熱過程のため、$\dot{Q}=0$ であり、さらに、$z_e=z_a$ であるので、

\begin{split}
\dot{L}=\dot{m}\left\{ (h_a-h_e)+\ff{1}{2}(w_e^2-w_a^2)\right\}
\end{split}

がジェットタービンの正味仕事であると言えます。

ジェットタービンの正味仕事

\begin{split}
\dot{L}=\dot{m}\left\{ (h_a-h_e)+\ff{1}{2}(w_e^2-w_a^2)\right\} \\
\,
\end{split}

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