航空機等に使われているガスタービンは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンと同じような内燃機関の一種です。
ガスタービンの動作自体は吸気・圧縮・燃焼・排気というサイクルであり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンと共通しています。が、これらのエンジンはピストンの往復運動を回転運動に変換する必要があるのに対して、ガスタービンでは回転運動として直接取り出している点が異なります。
ガスタービンはレシプロエンジンに比べて小型軽量でありながら、高出力が得られるため、航空機や非常用発電機などに使用されています。
今回はガスタービンの動作と、その理論的なサイクルであるブレトンサイクルの熱効率の導出方法についても解説します。
ガスタービンの仕組みと動作
ガスタービンの構造は以下に示す断面図のように、コンプレッサー、燃焼室、排気系から構成されています。
ガスタービンは前段(図の左側)にて空気を取り込んで、中段のコンプレッサーに送り込み、徐々に圧縮していきます。コンプレッサーによる圧縮の過程で高温となった空気は、後方の燃焼室に送り込まれます。
燃焼室では燃料が送り込まれ、高温の空気と混合されます。その際、空気が十分高温となっていれば、混合気は自己発火します。燃焼してさらに高温となった混合気は、タービン後段に突入します。
後段に入った混合気は燃焼しながら膨張し、後方に流れていきます。その過程で混合気はタービンの動翼に当たり、シャフトを回転させます。
ガスタービンの動作をまとめると、以下の4つの過程に整理できます。
① 断熱圧縮:吸気した空気をコンプレッサーにより圧縮する
② 等圧加熱:加熱された空気に燃料を噴射し、自己発火させる
③ 断熱膨張:高温の混合気が断熱膨張しながら、タービンを回転させる
④ 排気:混合気を排気する
ブレトンサイクルの $p-V$ 線図
ガスタービンのサイクルは、熱力学的にはブレトンサイクルと呼ばれるサイクルに分類されます。
先程説明したガスタービンの動作から類推できるように、ブレトンサイクルの $p-V$ 線図は下図のように描くことができます。
過程 $1\to2$ では空気がコンプレッサーにより圧縮されます。このとき、周囲は断熱されているため断熱圧縮となります。
$2\to3$ の過程では空気が燃焼室に入り、ジェット燃料や軽油と混合されて燃焼します。燃焼の前後で混合気の圧力は一定のため、これは等圧加熱となります。
$3\to4$ の過程で混合気は排気されます。このとき、混合気は断熱されているため、断熱膨張となります。
最後に、排気された混合気は大気圧にて冷却されていくので、$4\to1$ の過程は等圧冷却となります。
ブレトンサイクルの $T-S$ 線図
なお、ブレトンサイクルの $T-S$ 線図は以下のようになります。
※ このような$T-S$線図となる理由は、オットーサイクルのT-S線図にて解説しています。
ブレトンサイクルの熱効率
では実際に、ブレトンサイクルの熱効率を求めていきましょう。まず、熱効率の定義よりブレトンサイクルの熱効率 $\eta$ は、
\begin{split}
\eta = \ff{W}{Q_{in}}
\end{split}
と表せます。$W$ については熱力学第一法則より、$W=Q_{in}-Q_{out}$ の関係にあると言えるので、熱効率を
\begin{split}
\eta = 1-\ff{Q_{out}}{Q_{in}}
\end{split}
と変形できます。今、$Q_{in},Q_{out}$ は等圧過程にて系に出入りする熱であるため、定圧比熱 $c_p$ を用いてそれぞれ、
$$
\left\{
\begin{split}
&Q_{in}=c_p(T_3-T_2) \EE
&Q_{out}=c_p(T_4-T_1)
\end{split}
\right.
$$
と表せます。
ここで、$1\to2,3\to4$ の過程は断熱過程であるため、ポアソンの関係式を用いて、
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{T_1}{p_L^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}=\ff{T_2}{p_U^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}} \EE
&\ff{T_3}{p_U^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}=\ff{T_4}{p_L^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}
\end{split}
\right.
$$
と言えます。これより
\begin{split}
Q_{out}=c_p(T_3-T_2)\left(\ff{p_L}{p_U} \right)^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}
\end{split}
と導けます。
ここで圧力比 $\gamma=\DL{\ff{p_U}{p_L}}$ を導入します。すると、熱効率を
\begin{split}
\eta &= 1-\ff{1}{\gamma^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}
\end{split}
と求めることができます。
混合気では $\kappa=1.3$ 程度です。ここで、ガスタービンの圧力比を $15$ とすると、このときの熱効率は $\eta\NEQ0.46$ となります。この熱効率は理想的なガスタービンの理論効率であり、実際のガスタービンの熱効率はこれ以下となることに注意が必要です。
ブレトンサイクルとオットーサイクルの比較
ガスタービンではガソリンエンジンやディーゼルエンジンのように決まった体積を圧縮する訳ではないため、圧力比を用いて熱効率を表示しました。
ここでは、ブレトンサイクルの熱効率をあえて圧縮比を用いて表示した場合、どうなるのかについて考えていきます。
再び、ポアソンの関係式を考えると、圧力と体積の関係は、
\begin{split}
p_LV_1^{\kappa}&=p_UV_2^{\kappa} \EE
\therefore\, \ff{p_U}{p_L}&=\left( \ff{V_2}{V_1} \right)^{\kappa}
\end{split}
と言えます。
したがって、圧力比と圧縮比の関係は $\DL{\gamma=\eps^{\kappa}}$ であることが分かります。これより、ブレトンサイクルの熱効率を
\begin{split}
\eta &= 1-\ff{1}{\gamma^{\ff{\kappa-1}{\kappa}}}=1-\ff{1}{\eps^{\kappa-1}}
\end{split}
と変形できます。
これより、ブレトンサイクルの熱効率はオットーサイクルの熱効率と一致することが分かります。