熱力学第一法則より内部エネルギー・エンタルピーという概念が、熱力学第二法則より、エントロピーやヘルムホルツの自由エネルギー、ギブスの自由エネルギーという概念が導かれました。
今までに導いたこれらのことは我々に、”系から仕事として取り出せるエネルギーは、系が保有するエネルギーの一部であり、また上限がある”ということを教えてくれます。
この事実から、実用上の観点では『系の保有するエネルギーの内、取り出せる理論上の最大の仕事量』を表す物理量を導入することが望ましいと言えます。
さて、熱力学では上記の物理量のことをエクセルギーと呼びます。今回は、エクセルギーについて解説していきます。
また、いくつかの過程についてのエクセルギーの大きさも紹介します。
エクセルギーとは?
私たちは日常的にエネルギーという言葉を使っています。そんなとき、『エネルギー切れ』であったり『エネルギーがみなぎっている』など、エネルギーが減る・増えるという文脈で使う場面があります。
しかし、環境中のエネルギーの総量は不変のため、この表現についてよくよく考えてみると物理的には誤った表現であると言えます。
とは言え、ガソリン切れで車が走れなくなるように、”エネルギーが減って枯渇する”ことを日常的に体験しています。
このような事例では、『ガソリンの持つ化学エネルギー+エンジンがした仕事+排熱されたエネルギー等』の総和が一定という原則論にこだわるのはあまり実用的とは言えないでしょう。
ところで、熱力学は熱機関の研究に起源を持つ学問のため、工学上の応用を重視します。したがって、我々の感覚に近い”消費され枯渇してしまうエネルギー”を定義すると有用であると言えます。
熱力学では、このようなエネルギーを利用する人間側の視点に立った「質としてのエネルギー」の概念をエクセルギーまたは、有効エネルギーと呼びます。
エクセルギーは次のように定義される物理量です。
エクセルギーと似た物理量として、ヘルムホルツの自由エネルギーやギブスの自由エネルギーがあります。詳しくはそちらを参照下さい。
種々のエクセルギーの大きさ
熱のエクセルギー
熱力学第二法則より、熱機関はカルノーサイクルのような可逆過程の場合にて、熱効率が最大となることが言えます。
そして、カルノーサイクルがする仕事 $W_c$ は高温源と低温源の温度を $T_H,T_L$ として、
\begin{split}
W_c=\left(1-\ff{T_L}{T_H}\right)Q_{in}
\end{split}
とできます。ただし、$Q_{in}$ をカルノーサイクルが受け取った熱量とします。
つまり、$W_c$ は二つの熱源から取り出せる最大の仕事量であると言えます。したがって、熱機関のエクセルギーの大きさは $W_c$ となることが言えます。このように $W_c$ は熱に関わるエクセルギーであるため、熱のエクセルギーと呼ばれます。
ところで、$\DL{\ff{Q_{in}T_L}{T_H}}$ は外界へ放出されたエネルギーであり、原理的に利用できないエネルギーです。このように原理的に利用できないエネルギーをアネルギーと呼ばれます。
圧力のエクセルギー
等温過程により、$p_0,V_0,T_0$ の理想気体が $p_1,V_1,T_0$ に変化したとします。
ことき、の気体が行った仕事は熱力学第一法則より、$W=Q$ と言えます。ゆえに、等温過程のエクセルギーは系に流入した熱と等しくなることが言えます。
さて、$p_1\ll p_0$ として、気体定数を $R$、モル数を $n$ とすると、$W$ を次のように表せます。
\begin{split}
W&=nRT_0\int_{p_0}^{p_1} \ff{\diff p}{p} \EE
&= nRT_0\ff{\diff p_1}{p_0}
\end{split}
また、変化前のエントロピーを $S_0$ とし、変化後のエントロピーを $S_1$ とすると、$Q=T_0(S_1-S_0)$ とも表せます。ゆえに、
\begin{split}
W&=T_0(S_1-S_0)
\end{split}
となります。これより、圧力によるエクセルギーは $T_0(S_1-S_0)$ と言えます。
体積変化のエクセルギー
等圧過程により、$p_0,V_0,T_0$ の理想気体が $p_0,V_1,T_1$ に変化したとします。このとき、外部に行う仕事は、
\begin{split}
W&=p_0(V_1-V_0)
\end{split}
となります。これより、体積変化のエクセルギーは $p_0(V_1-V_0)$ と言えます。
エクセルギー効率とは?
エクセルギーの考え方を知ると、これまで使ってきた熱効率を不便に感じるようになります。たとえば、カルノーサイクルの熱効率 $\eta_c$ は次のように表せますが、
\begin{split}
\eta_c=1-\ff{T_L}{T_H}
\end{split}
通常の熱機関の熱効率 $\eta$ は、原理的に $\eta_c$ となって $1$ 未満となります。熱機関の熱効率が $1$ 未満の数値となるのは、人間には取り出せないエネルギーが本質的に含まれているためです。
なお、このようなエネルギーの量に基づいた熱効率を第一法則的効率と呼びます。
このように、第一法則的効率は $0\leq\eta\leq\eta_c<1$ のような下限と上限を持ち、$1$ 未満の数値を取るため不便です。
これに対して、系の持つエクセルギー$E$ を効率の分母とし、実際に得られた仕事 $L$ との比で定義した、
\begin{split}
\eta=\ff{L}{E}
\end{split}
を新たな熱効率は、人間が利用できる最大の仕事量に対する割合であるため、直感的に理解しやすくなります。新たに定義した便利な熱効率を、エクセルギー効率(第二法則的効率、有効エネルギー効率とも言います)と呼ぶことにします。
エネルギー効率を計算することで、熱機器の効率の良さ、あるいは悪さを定量的に示すことができるようになります。