冷蔵庫やエアコンなどの冷凍機の動作原理について今まで見てきました。
今回は、冷凍機の動作を抽象化してそのエッセンスだけを抜き出した、冷凍サイクルについて考えます。
そして、冷凍サイクルの性能を表す成績係数の計算方法についても解説します。
冷凍サイクルとは?
冷蔵庫の構造と仕組みについて解説した際、その構造が図のようであることを説明しました。(→ジュール・トムソン効果とは?)
図のままでは熱力学的な性質が分かりづらいため、そのエッセンスを抜き出して理解し易くすることを考えます。
このような試みをする場合は、$p-V$ 線図にて表現することが適切と言えます。実際に描いて見ると以下のようになります。
$p-V$ 線図から見て取れるように、このサイクルでは低温側から熱を受け取り、高温側に熱を捨てる構成となっています。
カルノーサイクルの例から分かるように、今まで紹介してきたサイクルは高温源から熱を得て低温源に熱を捨てるという構成をしていました。したがって、$p-V$線図上では時計回りのサイクルを描きます。
一方、上のサイクルでは $p-V$ 線図上のサイクルが反時計回りであることが分かります。
このようなサイクルは冷蔵庫やエアコン等に特有のサイクルであることから、冷凍サイクルと呼ばれます。
冷凍サイクルに対しても、熱機関と同様に効率を計算することができます。
次節にて冷凍サイクルの効率を表す成績係数について解説します。
ヒートポンプとは?
ところで、冷凍機と似た動作をする装置にヒートポンプと呼ばれるものがあります。
冷凍機とヒートポンプはその目的の違いで分類されます。
すなわち、冷凍機は低温源をさらに冷却することを目的とする一方、ヒートポンプは低温源から熱を得て高温源をさらに加熱することに違いがあります。
成績係数とは?
冷蔵庫やエアコンのような冷凍機械の性能を表す指標は、成績係数または $\RM{COP}$ と呼ばれます。
さて、冷凍機の成績係数は次のように定義されます。
これを具体的に計算する際は、$Q_{in}$ と $W$ を温度に関する式とすると便利です。
具体的には、温度とエントロピーのグラフ $T-S$ 線図を描くのが適切と言えます。
例えば、カルノーサイクルを逆向きに循環させた、逆カルノーサイクルは冷凍サイクルとなります。このときのサイクルは以下のように描けます。
グラフから分かるように、入熱量と放熱量は次の様に計算でき、
$$
\left\{
\begin{split}
&Q_{in}=T_L(S_2-S_1) \EE
&Q_{out}=T_H(S_2-S_1)
\end{split}
\right.
$$
サイクルが一巡したとき、内部エネルギーの変化は $0$ であるため、熱力学第一法則より $\D{Q}=W$ と言えます。したがって、コンプレッサーによる仕事 $W$ を
\begin{split}
W&=\D{Q}=Q_{out}-Q_{in}\EE
&=(T_H-T_L)(S_2-S_1)
\end{split}
と求められます。以上より、逆カルノーサイクルにおける成績係数は
\begin{split}
\eps_R=\ff{Q_{in}}{W}=\ff{T_L}{T_H-T_L}
\end{split}
となります。
逆カルノーサイクルにおける成績係数は、カルノーサイクル熱効率の逆数となっていることに注目してください。
また、成績係数は $1$ を超える可能性があることにも注意してください。
※ なお、熱機関の場合と同様、冷凍サイクルの成績係数は逆カルノーサイクルにて最大となります。(→カルノーサイクルの熱効率が最大となることの証明)
例えば、外気温を $35\,{}^{\circ}\RM{C}$、室温を $28\,{}^{\circ}\RM{C}$ としたいとき、その成績係数は、
\begin{split}
\eps_R&=\ff{T_L}{T_H-T_L} \EE
&= \ff{273+28}{(273+35)-(273+28)}=43
\end{split}
と計算されます。
仮に温度を $1\,{}^{\circ}\RM{C}$ 下げて $27\,{}^{\circ}\RM{C}$ としたときは、
\begin{split}
\eps_R&= \ff{273+27}{(273+35)-(273+27)}=37.5
\end{split}
となります。
これらの結果を比較すると、成績係数が $15\,\%$ 程度比較することが分かります。
成績係数の変化は、消費電力の大きさに直結します。したがって、この例ではエアコンの温度を $1\,{}^{\circ}\RM{C}$ 下げることで、消費電力が約 $15\,\%$ 増加することが言えます。
このように、エアコンの消費電力は根本的には、設定温度と外気温との関係で決まることが熱力学から理解できます。