ディーゼルエンジンは燃料のガソリンと空気の混合気を圧縮し、点火・燃焼・膨張させるという行程を繰り返すことで、動力を取り出す内燃機関の一種です。
ディーゼルエンジンと似た内燃機関にガソリンエンジンがありますが、燃料の燃焼方式が異なります。
ガソリンエンジンと同様にディーゼルエンジンにも多くの種類がありますが、熱力学の立場から見ると、これらのエンジンは全て、ディーゼルサイクルと呼ばれるサイクルに分類されます。
今回はディーゼルサイクルの動作と、その熱効率の導出方法について解説します。
※ ガソリンエンジンの理論サイクル、オットーサイクルについてはこちらで解説しています。
ディーゼルエンジンの動作
まずはディーゼルエンジンの基本的な動作から確認します。
実際のディーゼルエンジンの構造はもっと複雑ですが、その構造を極限まで簡単にすると一本のピストンと見なすことができます。
このピストンの中で吸気・燃焼・排気が繰り返され、ディーゼルエンジンの一連のサイクルが形成されます。
ガソリンエンジンの動作と基本的には同じですが、点火プラグで発火させるのではなく、断熱圧縮により高温となった気体に燃料を投入して、自己発火させる点が異なります。
ディーゼルエンジンのピストンの中で起ているサイクルは、具体的には以下の6つのセクションから構成されます。
① 吸気:吸気弁を開き、ピストン内に空気を導入する。
② 断熱圧縮:吸気弁を閉じ空気を圧縮する。
③ 等圧加熱:シリンダ内に燃料を噴射する。このとき、高温の空気と触れて燃料が自己発火する。
④ 断熱膨張:燃焼ガスが膨張し、ピストンを押しやる。
⑤ 等積冷却:燃焼ガスを冷却する。
⑥ 排気:排気弁を開き、燃焼ガスを排気する。
この一連のサイクルを $p-V$ 線図上で表すと、このようになります。
次節にて、ディーゼルエンジンのサイクルについて理論的に考察していきます。
ディーゼルサイクルの $p-V$ 線図
ディーゼルエンジンでは空気を断熱圧縮することで高温とし、この空気に燃料を噴射します。このとき空気は乱流となっているため、速やかに燃料は空気と混合します。
この混合気の内で自己発火条件を満たした部分から燃焼が進行していきます。ガソリンエンジンに比べて燃焼スピードが緩やかなためにこの過程は等圧過程となります。
さて、ディーゼルエンジンのように点火プラグを用いずに自己発火によって燃焼を行うエンジンのことを、圧縮着火エンジンと呼びます。
圧縮着火エンジンはディーゼルサイクルと呼ばれる熱力学的サイクルに分類されます。
そして、ディーゼルサイクルを $p-V$ 線図上に描くと、以下のようなサイクルとなります。
上のサイクルから分かるように、先述のディーゼルエンジンの動作の内、①と⑥の過程を省いたものとなっていることが分かります。実際、①と⑥の過程を併せると正味の仕事が $0$ となるので、ディーゼルエンジンのサイクルは、熱力学的にディーゼルサイクルと等価であると言えます。
ディーゼルサイクルの $T-S$ 線図
また、ディーゼルサイクルの温度とエントロピーのグラフ、すなわち $T-S$ 線図を描くと以下のようになります。
※ このような$T-S$線図となる理由は、オットーサイクルのT-S線図にて解説しています。
ディーゼルサイクルの熱効率
では実際に、ディーゼルサイクルの熱効率を求めていきましょう。まず、熱効率の定義よりディーゼルサイクルの熱効率 $\eta$ は、
\begin{split}
\eta = \ff{W}{Q_{in}}
\end{split}
と表せます。$W$ については熱力学第一法則より、$W=Q_{in}-Q_{out}$ の関係にあると言えるので、上式を
\begin{split}
\eta = 1-\ff{Q_{out}}{Q_{in}}
\end{split}
と変形できます。今、$Q_{in},Q_{out}$ は等圧過程と等積過程にて系に出入りする熱なので、定積比熱 $c_v$ と定圧比熱 $c_p$ を用いてそれぞれ、
$$
\left\{
\begin{split}
&Q_{in}=c_p(T_3-T_2) \EE
&Q_{out}=c_v(T_4-T_1)
\end{split}
\right.
$$
と表せ、これより熱効率は
\begin{split}
\eta &= 1-\ff{c_v(T_4-T_1)}{c_p(T_3-T_2)} \EE
&= 1-\ff{T_4-T_1}{\kappa(T_3-T_2)} \EE
&= 1-\ff{\DL{\ff{T_4}{T_2}-\ff{T_1}{T_2}} }{\kappa\DL{\left(\ff{T_3}{T_2}-1\right)}}
\end{split}
となります。ただし、$\kappa$ を比熱比とします。
ここで、$1\to2,3\to4$ の過程は断熱過程であるため、ポアソンの関係式を用いて、
$$
\left\{
\begin{split}
&T_1V_U^{\kappa-1}=T_2V_L^{\kappa-1} \EE
&T_3V_3^{\kappa-1}=T_4V_U^{\kappa-1}
\end{split}
\right.
$$
とでき、
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{T_1}{T_2}=\left(\ff{V_L}{V_U} \right)^{\kappa-1} \EE
&\ff{T_4}{T_2}=\ff{T_3}{T_1}\left(\ff{V_L}{V_U} \right)^{\kappa-1}\left(\ff{V_3}{V_U} \right)^{\kappa-1} \EE
\end{split}
\right.
$$
が言えます。
また、シャルルの法則より $\DL{\ff{V_L}{T_2}=\ff{V_3}{T_3}}$ のため、$\DL{\ff{T_3}{T_2}=\ff{V_3}{V_L}}$ となることも分かります。
ここで、$\DL{\eps=\ff{V_U}{V_L}}$ を圧縮比、$\sigma=\DL{\ff{V_3}{V_L}}$ を締切比($\RM{cut\,off\,ratio}$)と呼ぶことにします。
すると、
\begin{split}
\ff{T_3}{T_2}&=\sigma\EE
\ff{T_1}{T_2}&=\left(\ff{1}{\eps} \right)^{\kappa-1} \EE
\ff{T_4}{T_2}&=\ff{T_3}{T_1}\left(\ff{1}{\eps} \right)^{\kappa-1}\left(\ff{V_L}{V_3} \right)^{\kappa-1} \EE
&= \sigma \left(\ff{1}{\eps} \right)^{\kappa-1}\left(\ff{V_3}{V_L} \right)^{\kappa-1}\cdot\ff{T_2V_L^{\kappa-1}}{T_1V_U^{\kappa-1}} \EE
&= \sigma^{\kappa}\left(\ff{1}{\eps} \right)^{\kappa-1}
\end{split}
と整理できます。
以上の結果を適用すると、熱効率を
\begin{split}
\eta &= 1-\ff{1}{\eps^{\kappa-1}}\ff{\sigma^{\kappa}-1 }{\kappa(\sigma-1)}
\end{split}
と求められます。
これから分かるように、ディーゼルサイクルの熱効率は圧縮比と締切比により決まり、圧縮比を大きくし、締切比を $1$ に近づけるほど大きくなると言えます。
なお、ディーゼルサイクルの熱効率には $\DL{\ff{\sigma^{\kappa}-1 }{\kappa(\sigma-1)}}>1$ の項があるため、オットーサイクルの熱効率の方が高くできることも分かります。
ただし、ガソリンエンジンでは圧縮比を大きくするとノックと呼ばれる異常燃焼が生じるため、圧縮比には限界が存在します。
一方、ディーゼルエンジンではそのような現象が生じないので、ガソリンエンジンよりも大きな圧縮比とできます。このような事情があるため、場合によってはガソリンエンジンよりもディーゼルエンジンの熱効率を大きくすることが可能となります。